空前のヒップホップブームのなか、バンド音楽の魅力を改めて考察

SuchmosとCHAIが1位、2位を独占したCINRA.NETの年間ランキングから見えるものは?

去年の暮れにCINRA.NETで発表された、読者選考による2017年の各ジャンル年間ランキングを見ていて興味深かったのは、音楽部門の1位と2位を、SuchmosとCHAIという国内のバンドミュージックが独占していたこと。以下、3位~10位に名前が挙がったアーティストを上位から順に列挙すると、PUNPEE、The xx、DÉ DÉ MOUSE、tofubeats、Beck、椎名林檎、Cornelius、Bjorkと、他にバンドものはイギリスのThe xxだけ。

世界規模で考えると、2017年はケンドリック・ラマーやFuture、Migos、Lil Uzi Vertといったヒップホップアーティストたちがセールス的にも評価的にも大きなものを獲得した年だった(参考記事:田中宗一郎×宇野維正×柴那典 2017年を振り返る音楽トーク)。そんな状況を反映してか、アメリカの大型野外フェス『Coachella 2018』のヘッドライナー枠から初めてロックバンドの姿が消えたことも話題に(『Coachella 2018』のヘッドライナーはBeyonce、Eminem、The Weeknd)。グローバルな視点から見たとき、今はヒップホップやR&Bが圧倒的に強い時代なのだ。

Kendrick Lamar『DAMN.』(2017年)収録曲

Migos『Culture』(2017年)収録曲

だからこそ、あくまでも「リスナー視点」がリアルに反映されたCINRA.NETの読者ランキングは興味深かった。ベテランソロアーティストやヒップホップ、エレクトロ系が多く名を連ねながらも、それらを抑え、1位と2位をSuchmosとCHAIという若いバンドが独占したこのランキングが示すのは、もしかしたら、グローバルな視点からは見えない、ローカルな視点から見えてくる「バンドミュージックの復権」でもあるのではないか?――そう思ったからだ。

Suchmos『THE KIDS』(2017年)収録曲

CHAI『PINK』(2017年)収録曲

「バンドミュージック」から今の私たちが学びとれる価値観

筆者の個人的なリスナーとしての感覚からいっても、2017年は「ヒップホップ漬け」の1年であったと同時に、「バンド愛」が高まった1年であった。ケンドリック・ラマーやFuture、Young Thug、Vince Staplesといったアメリカのラッパーたちが生み出した傑作群を聴きまくると同時に、Suchmos『THE KIDS』やCHAI『PINK』はもちろん、ドミコ『hey hey, my my?』やKing Gnu『Tokyo Rendez-Vous』といった国内バンドの素晴らしい作品たちを喜びと興奮を持って迎えた。

ドミコ『hey hey, my my ?』(2017年)収録曲

King Gnu『Tokyo Rendez-Vous』(2017年)収録曲

もちろん、国内のバンドばかりではない。イギリスのMoonlandingzやオーストラリアのKing Gizzard & The Lizard Wizardといった、新世代のサイケデリックロックを鳴らすバンドの作品たちも素晴らしかった。

King Gizzard & The Lizard Wizard『Flying Microtonal Banana』(2017年)収録曲

バンドミュージックのよさとは、仲間たちが集まることで子どもたちが公園で砂の城を作り上げるように、音楽によって自分たちだけのサンクチュアリを築き上げる……そんな親密な幸福感にある。声高に何かを主張する必要はないし、世界がどうとか社会がどうとか、そんなことも関係ない。最高の仲間たちと、最高のアイデアと、最高の音楽があればいい。

「正しさ」よりも、身近な人たちとわかち合う「楽しさ」を。バンドミュージックがもたらす、そんな無邪気な喜びは、様々な価値観が分断し、「正しさ」と「正しさ」が争うことで溝が深まっていく今の世界だからこそ、もう一度私たちが立ち返るべきもののようにも思えてくる。

情報と多様な価値観が行き交う世界で、INNOSENT in FORMALというバンドが描くものとは?

そして、ここに紹介するロックバンド「INNOSENT in FORMAL」もまた、注目すべきバンドのひとつ。04 Limited Sazabysを擁するレーベル「No Big Deal Records」に所属する彼らだが、現在、その素性は一切不明。「21XX年のNEO TOKYOを舞台に、映画のスクリーンから飛び出してきた架空のカートゥーン・バンド」という設定で、アーティスト写真でもミュージックビデオでも、その素顔は露出させていない。

「カートゥーンバンド」という点はGorillazを想起させるが、INNOSENT in FORMALのコンセプチュアルな設定がこの先どう展開していくのかは定かではない。ただ、このINNOSENT in FORMALというバンドを語るうえで重要なのは、その楽曲のクオリティーの高さだ。

サウンドの基調となるのは、ヒップホップを昇華したバンドサウンド。そのなかには、Arctic Monkeysが傑作アルバム『AM』(2013年)で展開し、Suchmosが『THE KIDS』で受け継いだと言える、ブラックミュージック由来の広大なグルーヴ感とヘヴィなギターリフを組み合わせたバンドサウンドの意志を継ぐものもあれば、よりシンプルでブルージーなものや、爽やかなポップネスを持ったものまで、現状、彼らのレパートリーの幅は広い。その音楽性においても、この先どのように展開していくのか、非常に楽しみなバンドだ。

INNOSENT in FORMALアーティスト写真
INNOSENT in FORMALアーティスト写真(オフィシャルInstagramを見る

1月24日にはタワーレコードとヴィレッジヴァンガード限定で1stシングル『One for you』がリリースされる。表題曲“One for you”は、ぼくのりりっくのぼうよみへの楽曲提供でも知られるササノマリイがアレンジを担当し、韻踏合組合など多くのアーティストにトラックを提供しているNAOtheLAIZAがリミキサーとして参加。メロディアスに、かつグルーヴィーに展開していく楽曲のなかでは、<この時代の賛成票じゃなく いつ聴いても ふと 君が笑う 生涯聴ける音楽にこだわる>と、強く真摯な想いがラップされる。

INNOSENT in FORMAL『One for you』(2018年)収録曲

サビでは、<溢れている街 何か足りない 様々な価値 何か足りない 俺にしかない 言葉のかたち One for you>というフレーズのリフレイン。情報と多様な価値観が行き交うこの世界で、ただ「あなた」に1対1で向き合う「自分」であろうとする――それが、INNOSENT in FORMALなのだ。ここにバンドミュージックのひとつの未来があると、信じてみてもいいかもしれない。

INNOSENT in FORMAL『One for you』ジャケット
INNOSENT in FORMAL『One for you』ジャケット(タワーレコードオンラインで見る

リリース情報
INNOSENT in FORMAL
『One for you』(CD)

2018年1月24日(水)からタワーレコード、ヴィレッジヴァンガード限定販売
価格:1,080円(税込)
NBPC-0048

1. One for you
2. Love me, Love me
3. One for you Remix
4. One for you Inst.

イベント情報
『make a fist』

2018年1月15日(月)
会場:東京都 代官山LOOP
出演:
INNOSENT in FORMAL
The Applepie
REVSONICS
STEPHENSMITH Camping Trailer
and more

『THEY LIVE 4』

2018年1月18日(木)
会場:東京都 新代田FEVER
出演:
INNOSENT in FORMAL
sui sui duck
死んじゃうじゃんか
and more

『DEER Connection ~INNOSENT in FORMAL 1st Single Release Bash!!~』

2018年1月28日(日)
会場:東京都 新代田FEVER
出演:
INNOSENT in FORMAL
MIDICRONICA
Pablo
The Novelestilo
NU minor
manman
GAINTARO feat. M-OTO Funky Boombox and DJs

『でらロックフェスティバル2018』

会場:愛知県 名古屋エリア複数会場

『15th Anniversary Live「FLOW THE PARTY 2018」』

2018年2月22日(木)
出演:
FLOW
ROTTENGRAFFTY
INNOSENT in FORMAL

プロフィール
INNOSENT in FORMAL
INNOSENT in FORMAL (いのせんと いん ふぉーまる)

21XX年 In NEO TOKYO。この物語は、閉館前夜の古びた映画館から始まった。映画館の支配人である老人が地下室で偶然見つけた「謎のフィルム缶」それに運命を感じた老人が、旧式の映写機にフィルムをセットすると映写幕には、かつて一世を風靡したサーカス小屋出身のバンドが旅をしていくアニメーション映画が投影された。老人が初めて観るその映画に夢中になっていると突如として映画の中から霊魂のようなものが勢いよく飛び出し、瞬く間に眩い光が館内を包み込んだのだった。光に視界を奪われた老人の目が慣れてくると映写幕の前にいるはずのない4人の怪しい男達が立っていた。何を隠そう彼らこそが先程の映画の中のバンドでありこの物語の主人公「INNOSENT in FORMAL」なのだ! 久しぶりに上映されたにも関わらず観客が老人ただ一人だったことに怒りを覚えたことによって飛び出してきてしまったのだ。彼らは、昔のように大勢の人々に自分たちのことを知ってもらう為に全国をLIVEして周ることに決めたのだった。「INNOSENT in FORMAL」彼らの物語は、まだ始まったばかりである…。



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