コンプレックス文化論 第八回「遅刻」

コンプレックス文化論 第八回「遅刻」其の三 ソラミミスト・安齋肇インタビュー「締め切りよりも、仲間を大切にしよう」

コンプレックス文化論
第八回「遅刻」

文:武田砂鉄 イラスト:なかおみちお 撮影:柏木ゆか

タモリさんは、「社会性のない人が出てること自体が面白いだろ?」と言ってくださった


―相当貯め込んでるからこそ聞きたいんですが、80年代、90年代、そして2000年代、徐々に遅刻しにくくなってませんか。つまり、昔は携帯なんてなかったし、それこそ今だったら遅刻して街歩いてたら、「おい、ラジオ出てるはずの安齋が、ファミマにいるぞ」なんてつぶやかれたりするわけですよね。

安齋:そう、こないだのラジオも生放送だったんで、メールがどんどん入ってきたらしいんですよ。「渋谷の宝くじの売り場に並んでました」「新橋の飲み屋にいました!」とか。ウソなんですけどね。絶対遅れてはいけない国営放送、皆さんのお金で成り立ってる放送に遅刻、これはもう国民の無駄遣いですよ。それを遊びの一つとして扱ってくれるなんて、すんごいユーモアのある、あったかい社会じゃないですか。でも、なによりあったかいのは『タモリ倶楽部』。なんたって僕、初っぱなから遅刻してますからね。

―やめようかと思ったけど、最初に遅れちゃったからやめられなかったって話は本当だったんですか。

安齋:本当です。出演交渉に来たディレクターを1時間待たせてしまいまして。「待たされた上に断るなんて事ありませんよね」って言われちゃって。

―でも、その日に遅れなかったら、今に至るまで続く長寿番組に名を連ねる事はなかったってことですね。

安齋:そうですね。『タモリ倶楽部』に遅れていって、代わりの人がやってくれたこともあるんですけど、僕が出来なかったっていう反省よりも、僕がいなくても番組が成立したってことが嬉しくって。

―出た人も「安齋さんのお陰で楽しかったですよ」って。

安齋:そう。「もう、ボクでいいよ。これからも、安齋さん遅刻してよ」って、マーティー(・フリードマン)に言われましたから。

―僕で出来るじゃん、僕がやるよって。(笑)

安齋:それなのに、あの番組は、午前中に行かなきゃいけなかったのに仕事で行けないかもって連絡すると、じゃあ午後にまわします、なんて調整してくれたりするんですよ。色んな方面から、「あんなに遅れる人を使うんだったら、ちゃんとした人にした方がいいんじゃないですか?」「うちのタレントでこんないいのがいますよー」ってアピールがあったらしいですから。

―うちのタレント、ちゃんと時間通り来ますよーって。

安齋:でも、そういう申し出を全て受けずに、「あの人でいいじゃねぇか、あんな社会性のない人が出てること自体が面白いだろ?」と言ってくださったのがタモリさんなんですよ。でも、タモリさんに聞いても、「言ってないよそんなこと」って認めないんですけどね。それは、タモリさんがそう言ったことを認めたら、「お前はもっと甘えるだろう」っていう事を分かってるからだと思うんです。

―よーし、タモリさんがああやって言ってるんだから僕はもうこれでいくら遅刻して大丈夫だって。

安齋肇

安齋:でも昔は今みたいに、稽古に来るとか来ないとか、契約書を盾にとって訴えるような世の中じゃなかったわけですよ。ならばそれをキャンセルして、他の芝居ぶち込みましょうとか、バンド呼んでフォークライブでもやりゃあいいんじゃないとか、そんな気持ちでやってたのに、今は少しでもなんかミスがあれば、それを金儲けにしようとしてるやつとか、入り込んで名を売ろうとか、もうギラギラしてるでしょ。

その内、取り締まられると思うよ、僕(笑)

―だからこそ、安齋さんがイラストレーター始めた頃の遅刻と、例えば今駆け出しのイラストレーターさんが「すみません一日遅れました」という遅刻では、全く扱いが違うんでしょうね。

安齋:絵の先生として学校が呼んでくれるんですけど、学生さんに言われましたよ。「締め切り間に合いませんでしたー、だなんてその時点でギャラ無くなりますよ」って。むしろ、締め切りよりも前に出すぐらいだって。

―そういう卵の人達を前にして安齋さんは何を訴えるんですか。

安齋:「守る事はいい事ですね、偉いね」ってまずは言う。で、「遅れたにもかかわらず許してくれた人には一生ついて行きなさい」って。あるいは、「遅れたからにはいい仕事を」と。

―ちょっと前にガンズ・アンド・ローゼズがZeppTokyoでライブをやった時に開場が1時間ぐらい遅れて、終わったのがやたら遅くなって帰れなくなるお客さんまで出たって事件があったんですけど、その場合も、ライブが素晴らしい限りにおいては許容されちゃうんですよ。これと同じことですか?

安齋:そうそう。でも、よーく考えたら大損害なんだけどね。

―逆に最近、オジー・オズボーンは、すぐに眠くなっちゃうからなのか、開演時間よりも早く出て来ちゃった、ってのがあったそうですが(笑)。

安齋:それはいかん。だって15分前に新幹線発車したり飛行機飛んじゃったりするようなもんですから。そもそも70年代なんて、コンサートがオンタイムで始まるなんてことなかったもの。

―今度ちょうどOBANDOSでCD出されるそうですが、バンドの皆様はちゃんとオンタイムに来ますか。

安齋:僕より酷い人がいるの。

―あらま。

安齋:来ない人がいるの。

―それはまた遅刻と別ジャンルですね。

安齋:うん。京都にホテルとってたのに来なかったりとか。こないだ、奈良にも来なかったし。思うんですよ、もう「時間に縛られない」ってことを前提に集まればいいんじゃなかって。お金があるなしとかじゃなく、ものを作ろうっていうことを目的にしているのならば、それをいつやろうとか出そうとか決めずにやるって、最初に宣言しちゃえばいい。

―でも、「3月まででお願いします」とか「木曜までに」とか言われて、それに従わないと、この世界ではどうやらやっていけないっていう風紀は出来上がっちゃってるわけですよね。安齋さんの、そのポジティブ遅刻というか遅刻魂というか、何言われても遅刻するぞって考え方は、どうやったら保てるんでしょう。

安齋:それは絵の学校でもよく言ってるけど、仲間を作るってことですよ。もう、それに尽きます。お互いに認め合える仲間を作るってことでしょう。それはすごいよやっぱり。だってリリーさんなんて、あのみうらくんを待たせて、みうらくん、もう待ちすぎてベロベロになってるらしいから(笑)。でもそのリリーさんはちゃんと芝居で長ゼリフやってんじゃん。稽古にも遅れて行ってるだろうし色々大変だろうけど、それをやっぱり許容出来る人たちがそこにいるっていうことですよね。やっぱりそういう仲間だよね。仲間を作るのが大事。

安齋肇

―確かに締め切り守るよりも仲間を作るっていう方が長く自分のやりたい事が出来る道を作ってくるのかもしれないですけどねえ。

安齋:もう、絶対そう。それさえ出来れば、もう怖いもんなんてないですから。

―なるほど、わかりました。

安齋:まとまった?

―テキストとしてまとまると、理不尽な人に思われるかもしれませんけど(笑)。

安齋:理不尽、理不尽。だって僕が言ってるのは、要するに、犯罪者の言い訳じゃん。

―軽犯罪者の供述ですからね。

安齋:その内、取り締まられると思うよ、僕(笑)。


「さすがに今回こそは時間通り来るんじゃないか」と期待したら、やっぱり遅れてくる。そんな安齋さんに、編集者やテレビディレクターは仕事をお願いし続けてきた。遅刻は、人様に多大な迷惑をかけるが、最終的には人をものすごく笑顔にする、のかもしれない。其の一のタイトルを、インパクト重視で「遅刻はアーティストへの近道」としてみたけれど、安齋さんを前にすると、素直にそう思えたりする。還暦を迎えてもなお活動の幅を広げる安齋さんは、幅を広げすぎるあまり、今日も時間通りにはやってこない。こちらは、到着するのを待つしかないのだ。到着したら、どうせ、とっても面白いことが起こるのだ。

コンプレックス文化論が書籍化しました

 

安齋肇個展情報

『Hajime Anzai「My Loose Character」』

2013年12月20日(金)〜2014年1月7日(火)
会場:東京都 原宿 トーキョー カルチャート by ビームス
時間:11:00〜20:00(最終日は18:00まで)
休廊日:木曜、12月31日、1月1日

『HAPPY OUR -anzai hajime 60th anniversary 2013-2014』

2013年12月19日(木)〜2014年1月13日(月・祝)
会場:大阪府 西心斎橋 digmeout ART & DIENR
時間:11:30〜24:00、金、土曜11:30〜26:30
料金:無料

作品情報

 OBANDOS
『工作星人襲来』(CD)

2013年12月21日発売
価格:2,100円(税込)
DONBURI DISK / DON-10

1. オナカイッパイ
2. 東高円寺の調べ
3. イースト・ハイ・サークル・テンプル
4. ねこちゃん
5. わんちゃん
6. ことりちゃん
7. 雨あがりのワルツ
8. OBANDOSのテーマ

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武田砂鉄

締め切りを守るフリーライター。

武田砂鉄


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