『音楽を、やめた人と続けた人』

『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第5話:ターニングポイント

音楽を、やめた人と続けた人 第5話:ターニングポイント

連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第5話:ターニングポイントをdel.icio.usに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加 連載『音楽を、やめた人と続けた人』  〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第5話:ターニングポイントをlivedoorクリップに追加 (2011/01/11)

第2話で書いた通り、メジャーレーベルとの契約話が白紙になり意気消沈していたPBLを奮い立たせ、因縁のセカンドアルバムへ再び目を向かせた加藤だったが、すぐにアルバム制作を始めるわけではなかった。虎視眈々とPBL再起のシナリオを描き、新しいPBLを打ち出すための楽曲制作期間を設けたのだ。

加藤孝朗

その際、「PBLのサウンドをよりダンスミュージックに近づける」という提案をバンドに行ったのも加藤だった。それまで恒松のキーボードとナカノのギターで構築されていたPBLのサウンドアレンジに変化を加え、ナカノを極力歌に専念させると共に、恒松がその才能をより発揮しやすいよう、ギターの音数を減らして隙間を用意した。それに対し恒松は、水を得た魚のように隙間のできた空間を自由自在に泳ぎ回っては、これまでにない斬新なアレンジを生み出していく。その頃からPBLはライブにシンク(事前に作っておいたカラオケのこと。これに合わせてバンドが生演奏を重ねていく)を導入し、最初は難色を示したドラムの伊藤も、何度かライブを重ねるうちに、シンクとの相性の良さに気づいていった。

2010年2月、PBLは自主企画『MEKON!』でこの新しいライブスタイルを本格的にスタートさせ、冒頭に書いた7月の10周年記念ライブではすでに形になりつつあった。これによって、ナカノの歌に恒松のキーボードというPBL独自の個性が際立ち、加藤の描いたシナリオの下準備が整った。

そして加藤は、2011年1月にセカンドアルバムをリリースすることを決め、その事前プロモーションを兼ねた『イチから出直しツアー』を10月から11月に行うための仕込みも完了させる。だが、それにも関わらず、加藤は8月に入ってからそのシナリオを大幅に書き換えたのだ。新たなシナリオで、空白の5年間に作りためた楽曲でセカンドアルバム『Lost & Found 〜2006-2010〜』を作り、10月からのツアーで手売り販売することが決まり、そしてさらに、新機軸の楽曲をまとめたサードアルバムを、当初予定していた1月にリリースすることが決まった。

PaperBagLunchbox

しかしこれは、無謀なシナリオだと言わざるを得なかった。どう考えても、スケジュールのつじつまが合わない。シナリオ変更を決定した時点で、セカンドのレコーディングをスタートさせてから、ツアーが始まるまで、すでに残り1ヶ月しか時間がない。CDプレス期間を考えると、2週間ほどでアルバムのレコーディングからミキシング、マスタリングの全行程を行わなければならないのだが、これは普通、どんなに急いでも1ヶ月はかかる作業行程だ。しかも、一度は作ろうとして挫折した因縁のセカンドアルバムを、そんな急ピッチで仕上げられるとは思えない。そして、もしそれが作れたとしても、今度はツアーをしながらサードアルバムを作らなければならないのだ。ツアーのためのリハーサルをする時間もない。

そして肝心のサードアルバム。事前プロモーションを行うために、完成した作品をメディアやお店に配る必要があるため、これもやはり1ヶ月前後という短期間で作り上げる計算になる。それなのにサードアルバムは、どの曲を収録するか決まってもいないのだ。最終的にはアルバムのタイトル曲でオープニング曲になった"Ground Disco"も、加藤はアルバムには入れないつもりでいたくらい、何にも決まっていない。そんなスケジュールで、ツアーをしながらアルバムを作るなど、端からみれば無謀というか、自殺行為にしか思えないシナリオだった。

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