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音楽を、やめた人と続けた人

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(2014/09/05)

正しい道はどちらなのか?どちらも正しいとき、何を選び取るべきなのか?
―では、これからは現実的な成功を求めた活動をしていく? しかしそうなると、PBLのときと同様、苦しい状況に陥る可能性も高くなっていく。これをどう乗り越えていくのか、ですよね。

ナカノ:CDも出すし、もちろん大きなステージでライブをしたいって、みんな思っていると思います。だからその過程で、いろんな問題が起きると思うし、「楽しい」だけでは済まなくなるときがくる。でもEmeraldのメンバーって、みんな本当に人間的に大人だから、話し合えばちゃんと解決できるんです。そこが彼らの本当にすごいところで、これができなくて解散していくバンドが多いと思うんですよ。
―確かにそれは、思い当たる節もあります。問題が深刻になるまで話し合うことを先送りしてしまって、気がついたら手遅れだったり。

ナカノ:Emeraldは、誰かの人生に付き合ってるとか、手伝ってるっていう甘い気持ちは誰にもない。自分のマターで、自分の案件として、みんな自分の意識で参加しているから、相手の立場を理解し、思いやりは持ちつつも、ユーモアや笑いを混ぜつつちゃんと意見を言い合える。そして決められる。それができればバンドは続けられるんじゃないかと思うんですよ。

磯野:まあ実際、ヨウスケさんが入ったことで、僕らの活動もかなり変化して、2012年は自主制作でCDをリリースするためにレコーディングをしたり、そのCDを流通させたり、ツアーに出たり、とにかく初めてのことばかり。その変化にメンバーがついていけなくなったこともあって、結構話し合いましたね。

磯野好孝(Gt)
磯野好孝(Gt)

ナカノ:なんかその頃って、みんなで曲を作る楽しみとかが無くなってしまって、ただただライブをやるためにスタジオに入ってるような感じになってしまって。そこでちゃんと、「これはなんか違くない?」っていう話し合いができたんですよ。

藤井:それで、スタジオで曲を作るのが楽しかった最初のころに、一回帰ろうよっていう話にまとまったんです。本来だったら、どんどん動きを活性化させて、矢継ぎ早にCDを出さないといけない状態だと思うんですけど、止めたんですよね。
磯野:もちろんこの結論に至るまでに、バンド内で意見の対立も結構あって。ライブ活動してるっていうのを、どんどん見せてきたいって言う人と、僕とか中村は結構引きこもり体質なんで(笑)、どうしてもライブより曲を作りたいっていうフラストレーションが徐々に溜まってて。

ナカノ:多分PBLのときは、そういう話し合いをすることもできず、話し合いのやりかたもわからず、納得できてないことがうまく表現できないまま溜まってしまって、一気に崩れてしまったと思うんです。それでいろんなところに無理が生じて、結局解散の危機を迎えるっていう流れですよね。

―同じ失敗はしないぞ、と。

ナカノ:後悔もしてたし、その危険性をよく知ってたから、みんなの言う通りだなって、ホントそうだなって思いました。あと、今回のアルバムをリリースするレーベルオーナーの岩崎淳との出会いも大きくて。

藤井:そうそう。ライブ活動なのか音楽制作なのかっていう意見の対立があって、どちらかが子供みたいなことを言ってるんだったら話は早いけど、両方とも正しいんですよね。だからぶつかっちゃう。それを1つの答えにまとめることが、当時の僕らには難しかったことで。

磯野:そこで岩崎さんが間に入ってくれて、交通整理がスムーズにできたんです。

Emerald
Emeraldの今を刻み付けたアルバム『Nostalgical Parade』
信頼できる仲間が集まって、生き様から大きく変わったナカノヨウスケ。その変化は、彼の歌やステージパフォーマンスにも影響を与えている。悲しみや苦しみなど「陰」のパワーを爆発させていたのがPBLのナカノだとするならば、Emeraldのナカノはまさに「陽」だと言えるだろう。別に歌のスタイルが大きく変わったわけではないのだから、不思議といえば不思議な変化ではあるが、そこに至ったナカノの精神変化についてはきっと、ここまでのテキストから感じとっていただけたのではないだろうか。
そしてもう1つ、ナカノの歌に大きな影響を及ぼしたのは、Emeraldというブラックミュージックを志向するバンドが生み出す素晴らしい「グルーヴ」にある。申し分の無い演奏技術をもったメンバーが揃っているこのバンド、しかし単に上手いから良いグルーヴが生まれるとは限らない。バンドサウンドが人と人との合奏で生まれる以上、人と人との相性が音楽のグルーヴに反映されることもまた、様々な音楽が証明してきた事実であり、Emeraldというバンドが如何に「人」で成り立っているのか、サウンドからも明確に伝わってくるものがある。

そんな彼らの音楽が遂に1つのかたちとなり、9月3日にファーストアルバム『Nostalgical Parade』としてリリースされる。僕がこのアルバムを「素晴らしい!!!!!」と評したところで、「そりゃここまでの思い入れがあるからだ」というご指摘を受けるかもしれないが、そうではない。このアルバム、嬉しいことに、タワーレコードのバイヤーたちによる名物リコメンド企画『タワレコメン』に選ばれるなど、世の中からもかなり高い評価を得ているのだ。演奏やナカノの歌がいいのは言わずもがなだが、音源としての作り込みや、アレンジのこだわりが行き届いた、音楽的発見の多い作品になっている。まずはぜひ、PVをご覧いただきたい。
―音源としての作り込みも相当丁寧で、ファーストアルバムとは思えないクオリティーになってますね。

磯野:ライブでやってる内容をそのまま録っても面白くないので、ライブとは全く違う楽しみが出来るようなものを作りたいと思ったんです。そのためにしっかりプリプロ(本番のレコーディング前に、仮の音源を作って方向性を詰める作業)をして、PAの山下さんにもエンジニアとして手伝ってもらいつつ、まずは僕と中村で打ち込みをしまくって。その過程でガラッとリアレンジしたり、構成ごと変えた曲もありますね。

―リード曲の“Summer Youth”は、どんなふうに出来ていったんですか?

ナカノ:もともと磯野が作ったデモがあって、それをもとにスタジオで作っていったんです。「テーマは夏だね」って話して、言葉とメロディーをのせていったんですけど、何も考えずにスラスラ書けた歌詞なんです。初期のPBLの作り方に近くて、「幸せだけど悲しい」「悲しいのが幸せ」みたいな、そういう自分の原点みたいな詩になって、すごく大事な曲になりました。

―サビの<大人になることは 忘れてゆくこと それでも心に 残っていること>というライン、これまでこの連載で描いてきたナカノくんの色んな想いが想像できて、すごく響きました。でもその次にくる<優しくなれるほどに 冷たくなっていけるよ>っていうラインは、どういう意図があるんでしょう?

ナカノ:人に優しくなれるっていうことは、人当たりが良くなるし、そうやってみんなと平等に接していけるようになればなるほど、相手に対してどこかすごい冷めてる、冷静な自分がいて。よほどのことがないと、熱くならなかったり、驚かなくなっちゃったんです。でもそうなれたからこそ、落ち着いて今の現状を楽しんだり、優しくできたりするようになるんだよっていう歌ですね。寂しくもあるけど、嬉しいことでもあるんだっていう。

―そういう「変化」っていうのは、歌詞や歌にもかなり反映されていますよね。もちろんナカノくんのテーマとして、悲しみとか後悔とかを歌うこともあるけど、PBLのときに比べたらもっと心地良く、前向きで明るく歌えていますよね。

ナカノ:PBL末期の頃は「悲しい」って歌うと、ほんとに悲しく伝わるんですよね。さらに笑いながら歌うと、もっと悲しく見えてしまう。でもそれがEmeraldだと、ここで歌える喜びがぶわーと出てきちゃって、幸せになっちゃう自分がいるんです。だから、1曲目の“Nostalgical Parade”も、過去を振り返ってばかりなのはさみしいって、過去を背負いながらも、前を向いて歩いていくイメージで歌えて。自分でもその変化は明らかに感じてます。歌詞に関しても、無理して悲しみのニュアンスを捻り出さなくても、自分が背負ってるものとして歌に込められるものがあると思ったので、そこは大きく変わりました。

―そうだね。悲しさや寂しさも、もちろんなくなったわけではなくて、にじんでくるものがあると思いました。だからきっと、PBLのファンが聴いても、喜んでくれるんじゃないかな。

ナカノ:そうだと嬉しいですね。PBLのころから、ナカノヨウスケの歌が好きって言ってくれる人も少なからずいて、そういう人たちに「帰ってきたね。おかえり」って素直に言ってもらえるような、そういう歌い出しになったんじゃないかと思ってます。

 

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