「ワルい」だけがHIP HOPじゃない! 環ROYインタビュー

不良・麻薬・喧嘩、なにかと「ワルい」イメージがつきまとうHIP HOP。今回紹介する環ROYは、そんなHIP HOPを誰よりも愛し、それ故にHIP HOP界隈からは不当な評価を受けてしまっているラッパーかもしれない。そもそも、道なき道を行こうとする偉人ほど、評価してもらえる居所がないのだろう。フィッシュマンズの歌詞を全て暗記し、テクノ界の大御所「石野卓球」とクラブで共演し、曽我部恵一に認められ、フジロックにも出演する。こんなにも幅の広い「ラッパー」が、未だかつていただろうか。ラップという唯一の武器をとことんまで研ぎすませ、HIP HOPの可能性を開拓しようとする環ROYの軌跡を追った。

ラッパー「環ROY」の存在を知らしめたMCバトル

―ROYくんがHIP HOPに出会ったのはいつ頃のことなんですか?

環ROY:高校の時ですね。でも、その頃は聴いてるだけで、ただのファンっていう感じ。最初は国内のHIP HOPがメインで、BUDDHA BRANDとかですね。で、どんどん海外のものを聴くようになっていって。

―BUDDHA BRANDの『人間発電所』(1996年)は本当に衝撃的でしたね。

環ROY:そうそう、まさにその頃の話し。受験勉強中に石田純一のラジオを聞いてたら流れてきて。あの頃の国産HIP HOPって何か力があったし、その影響を受けてHIP HOPを始めた人は多かったでしょうね。あの頃は最先端だったんだろうなって思いますよ。

環ROYインタビュー

―その当時、HIP HOP以外にはどんな音楽を聴いていたんですか?

環ROY:他には何にも聴いてないです。若い頃は「好きになったジャンル以外だせぇ」って思ったりするじゃないですか。だから「HIP HOP以外は全部だせぇ」って。それくらいのめり込んで聴いてました。

―ラップをはじめたきっかけは?

環ROY:22歳頃からなんですけど、友達にトラックを作る人がいて、「やってみて」って言われて。そこからですね。でも、そいつはすぐにやめちゃって。

―ラップを始めたのにいきなりパートナーが…。その後はどんな活動をしていたんですか?

環ROY:ほんとたまーにライブしたりして、始めて1年目くらいでDMRっていうクルーに参加することになったんですね。もうメジャーデビューしちゃったけど、同期ではKEN THE 390やTARO SOUL、COMA-CHIがいて。

―おお、いきなり飛躍したんですね。

環ROY:いや本当にラッキーなだけです。ライブなんてまともにやったことないのにCDに参加させてもらって。それで、DMRに参加したりしながら地道に活動して、2006年にソロアルバムの『少年モンスター』をリリースして。そこから本格的にソロ活動をするようになりましたね。

―「地道な活動」って、たとえばどんなことをしていたんでしょうか?

環ROY:その頃って、HIP HOP界隈ではMCバトル(即興でラップを行い、その優劣を競うバトル)がムーヴメントになってたんですよ。勝ち続ければすぐ有名になれるから、「ラップが巧くなれば有名になれる」っていう発想で頑張っちゃって。

―YoutubeにもMCバトルの動画がアップされていますけど、「これ本当に即興なの!?」って思うくらいカッコ良くてビックリしました。ああいうのって、自然に言葉が出てくるんですか?

環ROY:完全に即興なんですけど、何かに取り憑かれているような、ものすごい集中力だったと思います。異常な状態っていうか。今はもうあんなテンションではないですけどね。

―最近はやらなくなっちゃったんですか?

環ROY:現実的な話をすると、フリースタイル(即興ラップ)がどんなに上手くても食べていけないんですよ。音楽家として、即興は神聖な行為だと思うけど。資本主義のシステムの中で成立させながら、自分のやりたいことをキープしつつ、社会と関わっていくとか家庭を作っていくっていう普遍的なことをするには、優れた音源を作らないとなぁ、と…思うようになりしました。

不良だったり麻薬やったり喧嘩したり。それがHIP HOP?

―それで音源を作りまくっているわけですが(この1年ちょっとでコラボレーションアルバムを5枚リリース)、一人でフットワーク軽く動き回っているのがすごいなぁって。

環ROY:活動の初期はDMRでまとまっていたけど、やってるうちにそれぞれ個性が確立していくじゃないですか。そうすると、周りのみんなとビジョンが違ってきちゃって。そしたらもう、自分一人で頑張るしかないなって。

―ROYくんのビジョンって、どういうものだったんですか?

環ROY:日本のHIP HOPって、広がりがないなぁと思ってる。外に向かってないんですよ。色んな音楽を聴いていると、色んな人を好きになるし、色んなことを試してみたくなる。

―それっていうのは、既存のHIP HOP・シーンに対する憤りみたいなもの?

環ROY:いわゆる「HIP HOP・シーン」みたいなところでやってても、正統に評価される気はしなかったですね。不良だったり麻薬やったり喧嘩したり、あるいは極端にアンダーグラウンドな表現だったり、そういうのが「HIP HOPであるべき」みたいな雰囲気がある。音楽表現というよりも、文脈として保守的だったり、黒人と張り合う行為になっている傾向が強いと思う。

―形だけを追いかけても仕方ないと。

環ROY:そうですね。たとえば、ZAZEN BOYSなんて完全に「日本人の音」じゃないですか。あの異様なテクニックと整理整頓されたグルーヴって、白人にも黒人にも作れない。そういうサウンドを確立しているのって、日本人のミュージシャンとして1つのあるべき姿だなと思うんですよね。ゆらゆら帝国もそうですけど。

―では、「日本人らしいHIP HOP」ってたとえばどういうものでしょう?

環ROY:言葉で答えるのは難しいけど、「完全に新しいもの」なんて無いと思うから、「ハイブリッドなもの」だと思う。その掛け合わせ具合の面白さなのかなって。

環ROYインタビュー

コラボアルバム5作品で表現された、環ROY流の「ハイブリッド」

―なるほど。それでROYくんは、これまでいくつもコラボレーション作をリリースしながら色んな形のHIP HOPにチャレンジしてたんですね。

環ROY:そうですね。色んなジャンルの人とやったけど、俺がラップすれば絶対にHIP HOPの要素が入ってくるじゃないですか。そういうハイブリッド感って、俺の考える日本人のあるべき姿かもしれないです。たらこパスタとか、タコライスみたいな。「おいしーね」みたいな。

―ミックスして、新しいものが出来るっていうね。一番最初のコラボ作、「環ROY × fragment」はどんなコンセプトだったんですか?

環ROY:fragmentとは、王道のHIP HOPをやろうと思ったら「ミュータントHIP HOP」になっちゃった。けどそれが面白くて。今の活動のきっかけになりました。その次にEccyと作ったのは、「イノセントなもの」をテーマに据えて、深いわけじゃないけど、分かりやすくて純粋な感じに取り組みました。HIP HOPの保守的な層には、「中身ねー」みたいな感じで反応薄かったみたいですけど。

―そうなんですか(笑)。「環ROY × Eccy」は、聴きやすさだけじゃなくて、クオリティーもすごい高くて大好きな作品でしたけど。

環ROY:その後DJ YUIと作ったのは、アメリカのサウス・HIP HOPとかM.I.Aなんかに代表される世界各地のヘンテコなダンスミュージックを、日本人が拡大解釈してやってみたらどうなのか? みたいな感じ。すげぇ変なHIP HOPを作りたくて。これは意外だったんですけどロック聴くような人から「凄くいいね」ってよく言われた。で、8月にリリースしたOlive Oilとやったやつは、完璧ノープラン。

環ROYインタビュー
環ROY×Olive Oil

―ノープラン!?(笑)

環ROY:正月の朝8時30分から1週間ずっとOlive Oilの家に泊まり込んで作ったんだけど、ビートニクみたいな本当に狂った暮らしをしてて。ほとんど何も決めないで、その場でセッッションしていくような感じで作った。彼と生活を共にしてラップもほとんどフリースタイル(即興ラップ)。俺の作品の中でも1番生々しいですね。

―その後に、先日リリースされたNEWDEALとのアルバムですね。

環ROY:ちょうど「テクノ作りてぇな」と思ってた時にNEWDEALと出会って。だからこのアルバムは、クラブでかかっても踊れるよう、機能的な音楽になってます。もちろんラップはしてるけど、直接的なメッセージはたいしてなくて、ただ「踊れ!」って煽ってるだけ。テクノでメッセージを言われてもウザもん。「踊らせてよ」って俺は思うし。で、HIP HOPの保守的な層には「中身がねぇ」とか言われるんでしょうけど、「あえて中身がないようにしてんだよ馬鹿」って感じ。

フィッシュマンズやゆらゆら帝国を愛する異色ラッパー

―やっぱり「HIP HOPの保守的な層」のこと、気になるんですね?(笑)

環ROY:だって俺、めちゃめちゃ日本のラップ好きなんですよ! 最近、“J-RAP”って曲を作っちゃったくらい。

―じゃあ今でもJ-RAPは追いかけてる?

環ROY:もちろん追っかけてます。 SEEDA君とかボーカルの作り方が断トツでうまいです。それをもっとわかりやすく、聴き取りやすくしてポップ・ミュージックまで持っていってるのがKREVA氏。あの人もボーカルを作るのが上手いし、歌詞も普遍的で素敵。ANARCHY君のバースは本当に衝動の塊、すごくかっこいい。般若さんはとてつもなく真摯だし、NORIKIYO君の2ndは最高でした。みんなすげえ尊敬しています。

―ROYくん、本気でHIP HOPが好きですね。

環ROY:うん。だから、HIP HOPシーンにいる人たちに、もうちょい認めてほしいなと思いますよ。よくHIP HOPの偉そうな人達が「HIP HOPの裾野を広げるために」みたいなことを言うけど、俺だって(曽我部)恵一さん主宰のROSE RECORDSのコンピに参加して、ageHaで(石野)卓球さんとかと一緒にテクノのイベントに出て、HIP HOPの裾野を広げることに貢献してんじゃん?って思うし。

環ROYインタビュー

―そんなラッパー、他にいないですからね。でも、ROYくんも最初は「HIP HOPの保守的な層」にいて、自ら変わっていったわけじゃないですか。HIP HOP以外で衝撃を受けたものがあったんですか?

環ROY:フィッシュマンズはめちゃくちゃ聴きましたね。歌詞も全部くらい覚えてるし。最初はあの人(佐藤伸治)のボーカルがレベルミュージック過ぎてよくわからなかったんだけど、ある時チャンネルがあってすごく好きになって。そこから価値観が変わったかもしれない。

―どういう風に変わったんですか?

環ROY:どうしようもないものも愛せるようになったというか。中原昌也のライブを見て「笑顔になれる!」みたいな。色んなことを、真に受けない方がいいんだなって。自由でいんだなって。

―それからリリックの内容も変わったりしたんですか?

環ROY:そうですね。HIP HOPの保守的な感覚に支配されていた頃から比べると、もっと普遍性を持った、日常に溶け込めるような歌詞を作りたいと思うようになった。

―それも含めて、既存のHIP HOPスタイルにとらわれない独自のスタイルを確立していますよね。いい意味で分かりやすさがあると思うんですが、それは意識しているんでしょうか?

環ROY:してますよ。親に聴かせられるものを作りたいと思ってるし。でも、まだ27歳なので、尖っている部分も残しておきたいとは思ってて。だから次のアルバムは、半々くらいのバランスで考えてますね。

―やっぱり、しっかり計算してますね(笑)。

環ROY:考え過ぎなのかもしれないですけどね。でもその分、長く活動できると思いますよ。

環ROYインタビュー

―「長く活動する」というのが、重要なポイントになる?

環ROY:長く活動しないと得られない空気感っていうのに、俺はすごく憧れてて。さっき言ったゆらゆら帝国なんて、結成してからメジャーデビューするまで9年も引っ張ってるじゃないですか。どんだけタフにやってたんだ!?っていう。でも、そうやって地道にファンを増やして土壌を作ってきたから、メジャーにいっても自分たちの好きなことをやり続けていられるんだと思う。そういうやり方が自分にとって理想なのかなぁって、すごく尊敬しています。

―さっきから、HIP HOP以外の音楽の話しがポンポン出てきて驚きます(笑)。本物のミュージックラバーだし、その上でHIP HOPが大好きなのがまた、すごく素敵だと思いました。

環ROY:でもね、普通に歌とか歌ってみたい。さっきラップ超好きって言いましたけど、別にずっとラップである必要もないので。

―あれ!?(笑)

環ROY:夢が沢山あるんですよ。カバーアルバムも作りたいし、ASA-CHANG & 巡礼に俺の声を使って欲しいし、あと、だれか俳優とかやらせてくんないですかね。

―俳優まで!?

環ROY:別に普通の仕事だって出来るっちゃ出来るんですけど、必ず周りから浮いちゃうんですよね。だったらもう、個性を活かして暮らしていきたいっす。

―なるほど。

環ROY:「大人計画」とか雇ってくれないですかね。適当言い過ぎで怒られそうだけど…

―いやいや、ラッパーで頑張ってください!

環ROY:とにかく今は、2枚目のソロ・アルバムを作っているので、それをいい作品にしたいと思います。このところコンセプチャルな作品が続いたから、次はもっと心の芯から出てくるものを大事にしようと思っているので、楽しみにしててください。

HMV onlineでは、本人による作品解説を掲載中!

リリース情報
環ROY×NEWDEAL
『the klash』

2009年9月2日発売
価格:2,100円(税込)
THCR-001

1.check/check
2.hello!!
3.wowwow
4.keep it
5.C'mon C'mon
6.drive
7.フリーケンシー
8.プライマルスクリーム
9.bank.
10.drive (agraph Remix)
11.フリーケンシー (MYSS Remix)
12.hello!! (fragment Remix)

環ROY×OLIVE OIL
『weekly session』

2009年8月8日発売
価格:2,800円(税込)
OILRECCD-001
文庫本型デジトレイ仕様

01.Enjoy Pretty Bomb
02.Fine Musician
03.Loft Power
04.Extra Po
05.Ore No Gengo
06.830Morning 
07.Go Tenjin
08.Rei Volution
09.Roy feat.DJ SHOE
10.Run A Way
11.Def Na Story
12.Blue Lights Tenjin
13.E Star
14.Elegance
15.Last Gimmick
16.Weather Sensei
17.Roy Outro
18.Weekly Session

プロフィール
環ROY

環ROY(タマキロイ)/音楽家/ラッパー/MC。2006年、1stアルバム「少年モンスター」でソロデビュー後、鎮座DOPENESSやOLIVE OIL、□□□、fragment、Eccy、NEWDEAL、DJ YUIなどのアーティストとコラボレートした作品を発表。Fuji Rock Festival'09をはじめ、様々な大型音楽フェスティバルに出演するほか、曽我部恵一が主宰するRose Recordsのコンピレーションアルバム「Perfect!」に参加するなど、ジャンルを限定しないユニークな活動が大きな注目を集めている。ポップな声質や日本人離れしたタイム感、型に捉われない自由な感性で国産ヒップホップのあり方を提示している。



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