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『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

『映画の未来へ』北野武×山根貞男(映画評論家)

テキスト
須藤健太郎
撮影:小林宏彰

大杉漣さんは『ソナチネ』が最後のつもりだったみたい

山根:先ほどの一般のお客さんからの質問なんですが、こういう質問もきています。北野監督の映画には、これまで若手からベテラン、個性派と、いろいろな俳優さんが出ていらっしゃいますが、キャスティングをするうえで、何かこだわりはありますか?

北野:いままでは、「北野組」っていうか、大杉漣さんとか寺島(進)くんとか、同じ人がずっと出てたんですけど、いま撮っているのは、やったことない人ばかり。だから、キャスティングにはそこまでこだわっていないんですよ。ただ、嫌いなのはあるけどね。「監督、これはこう撮った方がいい」とか言ってくるヤツがいるんですよ。すると、もう二度と使わない(笑)。「うるさい。バカヤロー!」って言って。

山根:これまでに、キャスティングで失敗したことってありますか?

北野:ある。「失敗だったな」っていうことは何度もあって、最後のエンドロールで名前が流れるけど、全然出ていなかったり(笑)。編集でその人のシーンを全部外しちゃって。一番最初の試写でその人が来てるんだけど、「困ったなあ」と思ってたら、最後のエンドロールが出るまでその人座ったままだったんで、さっと逃げちゃった(笑)。

山根:(笑)。では、今度は「これは正解だった」と思ったことは?

北野:大杉漣さんかなあ…。大杉さんは『ソナチネ』を最後の作品にして、役者を辞めてサラリーマンやるって言ってたんですよ。だから、最初はそんなに出番もなかったんですけど、撮ってるうちに「この人いいな」って思って、「漣さん、悪いけど、もうちょっと出て」って言って(笑)。沖縄で撮るとなれば、「連さん、沖縄に行こう」って。そうしたら、結局、連さんが最後までずっと出ることになったんですよ。そうしたら、あの人も仕事がどんどん来るようになったみたいで…。

山根:そうでしょう。相当増えたんじゃないでしょうか。

北野:あれが最後のつもりだったらしいんだけどね…。それから、寺島くんは最初の『その男、凶暴につき』で一生懸命やってくれて、この人は映画がすごく好きなんだなと思ったんですよ。だから、ちょい役でもいいからとにかく出そうと思っていて、『BROTHER』(2001年)でけっこう重要な役をやってもらった。

山根:監督がいいと思われたのは、どういう部分なんでしょうか?

北野:なんだろうなぁ。

山根:「北野映画に向いている」というだけなら、お二人ともこれほどの人気俳優にはなっていないでしょう?

北野:う〜ん…。いまね、川谷(拓三)さんの倅が気に入って、よく出してるんですけど…。

山根:仁科貴さんですね。

北野:そう。基本的に、楽屋とか撮影現場を見てて、映画の取り組み方をよく観察しているヤツがいいね。一番嫌いなのは、いろんなスタッフと笑いながら話してるヤツ。これから撮るっていうのに、うるさい。現場では静かに撮影を見てくれる人がいい。そういう人は大抵、カメラを回すとよく映っている。

照れ屋の方がいい。でも自分で照れ屋だっていうヤツは、照れ屋じゃないね(笑)

山根:もうひとつ、最後にお客さんからの質問です。映画監督を目指している学生さんの質問ですね。作品をつくっていても、必要以上の恥ずかしさが出てしまい、本来の自分がなかなか表現できない。北野監督も、テレビや映画を拝見するに、照れの感覚をお持ちのようですが、それをどのようにして克服してこられたのでしょうか? あるいは、逆に、そういう照れの感覚が表現に役立ったことはありますか?

北野:オレ、本当はお笑いの世界に入るつもりはなかったんですよ。うちのお袋もそういう仕事なんかバカにしてるし、「人前でくだらないことやって」って怒られるから。でも浅草のフランス座に入っちゃったからやらざるをえない。でもおれは人一倍恥ずかしかった。当時は相方の(ビート)きよしさんもいたけど、なんでこんなバカバカしいことが、こいつは平気な顔してできるんだろうって思っていました。いまお笑いの世界を見てても、人前でお笑いやるの好きなヤツって、下品な芸であんまりおもしろくない。「センスあるな」ってヤツはだいたい恥ずかしがり屋。照れ屋は、人よりも読みが深いんじゃないかと思う。言う前に、いちいち考えちゃうでしょ? 女の子の前でも自分をよく見せようとするあまり、うまくしゃべれない。でも、そういうのは全部、欲望の裏返しだから。もう徹底的に恥ずかしくなって、それを圧縮させて、バッと爆発させるといいんじゃないかと思う。ただ、自分で照れ屋だって人に言ってる時点で、照れ屋じゃないけどね(笑)。最近よくいるじゃん。「私、鬱なんです」とか言って、頭よく見せようと思ってさ。でも、そう言ってる時点で大丈夫だよね(笑)。



『東京フィルメックス』シンポジウムレポート第2弾も近日公開予定です!

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『東京フィルメックス』とは
2000年より始まった、東京で毎年秋に開催される国際映画祭。「作家主義」を標榜し、アジアを中心とした各国の独創的な作品を上映する。映画祭は、審査員によって最優秀作品賞が選ばれる「コンペティション作品」、世界各国の実力派監督の作品を上映する「特別招待作品」、映画人や特定の国などの関係作品を集めて回顧上映を実施する「特集上映作品」の三部構成から成る。作品の選定眼には定評があり、東京のシネフィルを唸らせている。

プロフィール

北野武

1947年生まれ。東京都足立区出身のタレント、映画監督。明治大学工学部入学後、ジャズに熱中。次いで浅草のストリップ劇場・浅草フランス座でエレベーターボーイをはじめ、先輩の兼子二郎とツービートを結成。やがて漫才師としてブレイクした。その後、映画監督としても頭角を現し、『HANA-BI』(1998年)で第54回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『座頭市』(2003年)で第60回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど、国際的な名声を獲得した。また2005年4月、東京藝術大学で新設された大学院映像研究科の教授および映画専攻長に就任、学生の育成にも力を注いでいる。

山根貞男

1939年生まれ。大阪府出身の映画評論家。映画批評誌『シネマ』の編集・発行に携わり、映画関係者へのインタビュー、聞き書き、対談の仕事も多数。同じく映画評論家の蓮實重彦や山田宏一との共著もある。主な著書に『映画の貌』(みすず書房)、『日本映画時評』シリーズ(筑摩書房)などがある。

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