“時をこえ” HYインタビュー

あなたはHYというバンドについてどんなイメージを持っているだろうか? 沖縄出身・ストリート発・売れてるバンド…もはや、そういったパブリック・イメージだけではとても語ることのできない場所に彼らはいる。結成10周年を迎え、彼らが現在チャレンジしているのは、沖縄民謡とゴスペルを混ぜ合わせるという大胆な発想で、命の尊さについて歌う“時をこえ”という楽曲を、全国各地へと届けること。約一年間で161本におよぶライブハウス・ツアーで見ることができるのは、毎晩2時間以上に及ぶステージを全力で続けるプロフェッショナルなパフォーマンス集団でありながら、いつまでもファンと一緒に成長していきたいという偉大なるアマチュアリズムを持ち合わせた、稀有なライブ・バンドの姿である。その活動の背景にある想いを、ボーカルの新里英之と、ギターの宮里悠平に聞いた。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

感謝の気持ちを込めて、みんなの街に自分たちから行こうっていうのが今回のツアーですね。

―現在は大規模なライブハウス・ツアーの真っ最中ですが、その49本目(7月21日現在)が終わった今、手応えはいかがですか?

新里:今のところホント順調で、アクシデントもなく、メンバーも体調を壊すことなく進んできてます。やっぱりいろんな土地を回るから、その土地その土地のものに触れる楽しみがあって、中だるみも全くないですね。

―ライブでは音楽はもちろん、トークも盛りだくさんですよね。

新里:自分たちはファンのみんなとの距離感をすごく大切にしてるんです。ストリート・ライブが自分たちの原点にあるんですけど、ストリート・ライブってみんなと目線が同じなんです。だから、(ホールに比べてライブハウスだと)みんなとの距離が近いっていうのがすごく楽しいんですよね。トークはみんなとの距離がさらに近くなるので、すごく大切にしてますね。

“時をこえ” HYインタビュー

―悠平さん、これまでのツアーはどうですか?

宮里:ライブハウスはひさしぶりだし、やっぱり行ったことのない土地に行くのがすごく新鮮ですね。「ホントにお客さん来るのかな?」って思うところもあったり(笑)。

―アリーナやホールでもプレイする一方で、こうやって全国のライブハウスをくまなく回るのは、お客さんとの距離感を大事にするHYならではですよね。では、そんなHYにとってお客さんとはどういう存在ですか?

新里:みんながいてくれたおかげで、今の自分がいるわけで、ホントになくてはならない存在ですね。みんながいて、聴いてもらって、それを仕事にして、生活できて、ご飯食べれてるっていうのは本当に感謝です。10周年を迎えられたのもホントにみんなのおかげだから、その感謝の気持ちを込めて、みんなの街に自分たちから行こうっていうのが今回のツアーですね。

―去年10周年記念で行われた沖縄でのストリート・ライブに2万人も集まったっていうのも、まさにお客さんとの信頼関係の表れですよね。

新里:あの人数はホントに驚きましたね。前回が5千人集まって、それにもびっくりしたんで、5千人より減らないかなってすごく心配してたんですね。そうしたら、倍以上も見に来てくれる方がいて本当に嬉しかったです。

―HYは「アーティストとお客さん」っていう関係性だけじゃなくて、お客さん同士の関係性も大事にしてますよね。先日のライブでも「隣の人同士、挨拶しましょう!」って言っていたり。

新里:そうですね。見に来てくれた方たち同士は初対面かもしれないけど、自分たちの曲で共感してくれたみんなだから、絶対心は通じ合うと思うんです。ライブハウスなんで、押し合いになったりすることもあるんですけど、男性の方が女性を押したりするのがちょっとでも目に入ると、とっても気になるっていうか、嫌なんですよね。だから、どうにか仲良くしてほしくて、トークでそういう風にしたり、何をすればいいかっていっぱい考えますね。

最初の<昔の話を聞いたのさ>ってフレーズがまず出てきて、でも途中から全く書けなくなって。

―そういうファンのこととか、音楽以外のことまで気にするようになったのはいつ頃から?

新里:わからないですね…、でも常にそれは気にしてるような…。なんか、気にすることが好きなんですよ。せっかくだからみんなで一緒に楽しもうっていう、そのきっかけとして、自分からまず先頭切って、こんなに楽しいんだよって教えてあげるっていうか。

“時をこえ” HYインタビュー

―元々のメンバーの人柄が反映されてるんですかね?

新里:どうですかね?

宮里:どうでしょうねえ…

新里:自分で言えないと思うから代わりに言うと、悠平はファンのみんなのことをすごく大事にしてて、優しい気持ちがライブにしても演奏にしても出てると思う。そんなメンバーをライブ中に自慢したいんです。メンバーのこと大好きだし、「俺の悠平見てみ?」みたいな。

宮里:(笑)。昔は自分のことでいっぱいいっぱいになってることが多かったんですけど、今は楽しみながら、メンバーを一人一人見ながらできてますね。

新里:また嬉しいのが、今回のツアーでHYを初めて見に来るっていうファンの方がすごく多いんですね。“366日”からファンになってくれた人が、「ボーカルは泉さんだけかと思ってました」とか(笑)。

―それこそ全国のライブハウスをくまなく回ることで、「ライブハウス初体験がHY」っていう人もいっぱいいるでしょうね。それって素晴らしいですよね。

新里:いいですね。ますます頑張らなきゃ(笑)。

“時をこえ” HYインタビュー

―そんな全国を回るツアーで、今回一番届けたい曲が新しいアルバム『Whistle』に入っている“時をこえ”だと思うんですね。おじいさんおばあさんの戦争体験を基にした曲ですが、改めて、まずは“時をこえ”がどうやってできたかを教えてください。

新里:曲は泉が作ったんですけど、こういう沖縄音階の曲を作りたいって思ってたみたいで。いつも曲を作るときは合宿に行くんですね。沖縄にいると「ウチナータイム」というものがありまして、なまけてしまうので(笑)。

泉は曲が思いつくと、「曲が降りてくる」って言うんですけど、“時をこえ”も降りてきたみたいなんです。最初の<昔の話を聞いたのさ>ってフレーズがまず出てきて、でも途中から全く書けなくなって。どうしようってずっと悩んでて、でも無理して書くものではないし、この曲は『Whistle』に入れなくても、次のアルバムでもいいって思ってたんです。

―そうだったんですね。

新里:その後に、泉から「こういう詞が出てきたんだけど、ひーで(新里)のおじぃは戦争体験してる?」って聞かれて。それで自分もおじぃから聞いた戦争体験を泉に教えて、泉がそれを噛み砕いて、自分のストーリーを作っていって。でも、どうしても納得がいかなかったらしいんですけど、合宿の最後に気分転換がてら、沖縄のことを思い出そうかって、『ナビィの恋』っていう沖縄の映画のDVDを見たら、一気に降りてきて、それで歌詞が出来上がったんです。

※“時をこえ”の歌詞全文はこちらから

雨のように火の粉が降る中、希望を捨てずにおじぃおばぁが一生懸命生き抜いてきて、それがあったからこそ自分たちの今の命に繋がってる。

―なるほど。

新里:曲の途中に沖縄の踊りのエイサーも入れて一度完成したんですけど、泉が「この曲にゴスペルを入れたい。英語の歌詞を入れたい」って言うんですよ。自分はちょっと拒んだんですね。沖縄の歌で、戦争のことを歌ってるのに、英語を入れるのはどうなんだろう? って。だから、どういう経緯で入れようと思ったのか聞いてみたら、「沖縄の歌に英語が混ざってないのは、争っていた同士だから、嫌がってるんじゃないか。でも、ホントの平和を願うんだったら、争っていた同士、一緒の気持ちで歌うっていうのがホントなんじゃないか。だからあえて英語の歌詞を入れたいんだ」って。その話を聞いて納得したんです。自分たちは戦争を経験してないから、経験した人には怒られるかもしれないって思ったんだけど、逆に戦争を経験してないからこそ、こういうことができるのかなって、それを信じてあえて入れようって。

―うん、それでこそ今の世代の沖縄の歌になるんだと思います。実際、上の世代からの反応はどうだったんですか?

新里:去年の沖縄でのストリート・ライブでこの曲を初披露したんですね。歌う前に戦闘機が飛んでったりして、戦争はまだ続いてる、まだ基地があるっていう雰囲気も味わいながら。その日に泉のおばぁが見に来てて、後から泉が「どうだった?」って聞いたら、「とってもいい曲だね」って言ってくれたって。泉は聞くのが怖かったらしいんだけど、そう言ってもらって自信になったって。

―よかった。

新里:雨のように火の粉が降る中、希望を捨てずにおじぃおばぁが一生懸命生き抜いてきて、それがあったからこそ自分たちの今の命に繋がってるわけだから、(命を)大切にいしないといけないって、この曲を通してみんなと一緒に気づいていけたらいいなって思います。

“時をこえ” HYインタビュー

ちょっと寂しいですけど、沖縄と県外での反応はちょっと差があります。

―沖縄以外の場所で演奏したときの反応はどうですか?

新里:ちょっと寂しいですけど、沖縄と県外での反応はちょっと差がありますね。もちろん、沖縄で起こったことは沖縄の人にとって身近だけど、県外の人が自分のことのように思うのって難しいと思うんです。沖縄のピースフルラブ・ロックフェスティバルで“時をこえ”をやったときは、トークの途中途中で拍手が起こったりもしたんですけど、県外ではそういったことはまだないですね。でも沖縄で拍手が起こったから、県外でも起こるように自分の話し方を変えればいいんだって心がけて、みんなに理解してもらえるように頑張らなきゃなって。それにはとても長い時間がかかるかもしれないけど、ゆっくり気づいていければと思っています。

―うん、そのためにもこうやってライブハウスをくまなく回って、一つ一つを大事に演奏しているわけですもんね。

新里:この曲を作ったときと今とでは思い入れも違うし、この曲によっていろんな経験をしてるんですね。こういう歌を作ったからには、沖縄で起こったことをもっと学ばなければって気にもなったし、もっと責任を持たないといけないとも思ったし。この歌で自分たちもいっぱい成長させてもらってますね。

いろんなチャレンジをして、みんながそれに反応して「よかったよ」って言ってくれるから、じゃあ次はもっと違ったことをやってみようって向上心がどんどん出てくるんです。

―では、なぜ今こういう曲が生まれたんでしょう?

新里:HYとして十年を経て、いろんな経験を積み重ねてきて、ようやくこういったことを言葉にできる、歌にできる自信が身についたから、この歌ができたんだと思います。この歌が生まれるには、今までの経験が何一つ欠けてもできなかったと思うんですね。“そこにあるべきではないもの”(『TRUNK』(04)に収録)という沖縄のゴミ問題の歌ができて、そこから子供たちに対する歌を作ったり、沖縄で小学生とビーチクリーン活動をしたり、地球を大切にしようって事に取り組んできて、そういうことがどんどん積み重なって、ここに繋がったんだと思う。

―戦争とか環境問題とか、大きなテーマを歌うことってすごくリスキーでもあって、相当の覚悟が必要だと思うんですね。未だ20代半ばのバンドであるHYがそれをできてるのはなぜなんでしょう?

新里:それに共感してくれてるみんながいるからですかね。ファンのみんながいるから自分が成り立って、自分をさらけ出せる。いろんなチャレンジをして、みんながそれに反応して「よかったよ」って言ってくれるから、じゃあ次はもっと違ったことをやってみようって向上心がどんどん出てくるんです。自分を信じてくれてるみんながいるから、チャレンジできるんだと思います。

宮里:僕たちの曲がキッカケになって、いつもとは違う気持ちを持ってくれるのって、すごく嬉しいんです。それにお客さんからの反応をみてると、人それぞれの捉え方があって面白くて。それを手紙やメッセージで僕たちに教えてくれたりして、今まで気づかなかったことを、お互いに気づき合えたりするんですよね。そうやってまた、自分たちも成長できるんだと思います。

“時をこえ” HYインタビュー

―やっぱりHYの根底にあるのはお客さん、ファンとの関係性なんですね。そもそもHYが、環境問題も含めて、大きなテーマを扱うようになったキッカケを教えていただけますか?

新里:『HeartY』(08年)辺りからですよね。“この子達のために”と“青い地球”。

宮里:そうだね。

新里:『それでも生きる子供たちへ』という映画に心を打たれたのが大きかったですね。貧困だったり、親がいなかったり。世界にはいろんな状況があるってことを知って衝撃を受けたから、それを自分の中でとめて置くんじゃなくて、みんなに知ってもらいたいと思って作ったのが“青い地球”で。

―“この子達のために”は?

新里:子ども同士で殺し合ったりナイフを使ったり、ゲームの世界に入り込んで「自分は一度死んでも生き返れるんだ」と思ったり、テレビで子どもに対するいろんな報道があったから、「どうなんだろう? どうしたらいいのかな?」って考え始めたのがキッカケでした。そういう「時代」があったから、考えるようになったのかもしれない。

宮里:それからみんなで音楽以外の色んな活動をやったり、自分たちから行動を起こすようになりましたね。

まずは沖縄っていう素晴らしいところにみんなを呼んで、「こんなにもいい所があるんだよ」って教えたい気持ちです。

―では最後にもうひとつ、これもHYにとって根底にあることだと思うんですけど、今も沖縄に住み続けている理由を教えてください。

新里:落ち着くんですよね。生まれた場所で、自然もあって。ちっちゃい頃は海に行ってはカニとかを捕まえて、それを戦わせてかたっぽが死んだり、自分も手を挟まれて血を出したり、そういうことでちっちゃいながらも命を感じたり。自分を育ててくれた、お母さんみたいなところがあるんで。地元の子供に会ったら、同じ遊びをさせたいですけど、今は地元の海も汚れてきてますね。

―沖縄でもそうなんですね。

新里:埋め立てもすごくて、その埋め立てる土をどこから持ってくるかって言ったら、山を切り崩して持ってくるわけだから、また山も壊されるし、そこに雨が降ると赤土が海に流れて、珊瑚も死んでいくっていう。

―そういう状況に対して、どう向き合おうと考えていますか?

新里:守っていきたいっていう気持ちはもちろん強いんですけど、今の自分の気持ちとしては、まずは沖縄っていう素晴らしいところにみんなを呼んで、「こんなにもいい所があるんだよ」って教えたい気持ちです。沖縄の自然の美しさは沖縄の人たちだけのものではないし、海は世界中に繋がってる。自然っていうのはみんなのものだから、そういう素晴らしいものはみんなで共有しなくちゃって。ぜひ、沖縄の素晴らしい自然に触れてほしいですね。

HY密着ドキュメンタリー放送決定

NHK総合『沖縄の「魂」を歌う“カリスマロックバンド”HY』
2010年8月15日(日)総合 23:15〜0:00放送

リリース情報
HY
『ACHI SOUND 〜HY LOVE SUMMER〜』

2010年8月11日発売
価格:2,300円(税込)
HYCK-50001

1.
2. Street Story
3. そこにあるべきではないもの
4.
5. Ocean
6. HY(ラブ)SUMMER
7. ホワイトビーチ
8.
9. 時をこえ
10.
11. サヨナラ彼女(ボーナストラック)
12. たった一言(ボーナストラック)

プロフィール
HY

沖縄在住の5人組インディーズアーティスト。結成10周年を迎えリリースした最新アルバム『Whistle』は、インディーズとして最多となる4作目のオリコン1位を獲得する記録を更新しながらも、現在、全都道府県161本のライブハウスツアー“HY MACHIKANTY SO-TANDOH TOUR 2010-2011”で、彼らの原点でもあるストリート・ライブと変わらぬ“感謝の気持ちを直接伝えたい”という想いを全国に丁寧に届けている。



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