言葉豊かな女性SSW エリーニョ インタビュー

クラシックからロック、ジャズ、はたまたプログレ的解釈まで、様々な音楽要素をポップソングとして昇華する女性シンガーソングライター「エリーニョ」が、アルバム『コンクリート下の水母について』をリリースする。物事の核心を突く言葉でドキッとさせるフレーズを随所に盛り込み、「恋愛とか、生活とか、些細なところから抜け出したかった」、「ワイドショーみたいな話ばかりじゃつまらない」と言う彼女が目指す音楽とは何なのか。少し変わった価値観で、うっすら毒のある言葉を発する彼女に、これまでの歩みと今作への想いを語ってもらった。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)

就職が決まらず、やけになってバンドを始めて(笑)。

―まずは音楽を始めたきっかけからお伺いしたいんですけど。

言葉豊かな女性SSW エリーニョ インタビュー
エリーニョ

エリーニョ:小さいときからクラシックピアノをやっていたんですけど、小学生まで親がポップミュージックを聴かせてくれなかったというか、テレビも見せてくれなかったんですよ。そのコンプレックスがあったので、中学生になってからラジオをずっと聴いていて、ようやくポップミュージックを知るようになったんです。それから大学でコピーバンドを4年間やったんですけど、就職が決まらず、やけになってバンドを始めて(笑)。後になって就職はできたんですけど、ドラムが何回も変わったり、バンド内でうまく活動ができなくなって、ソロになりました。

―ピアノはどのくらいやってたんですか?

エリーニョ:4歳から高3までですね。そんなに真面目にやってなかったんですけど、発表会とかがあると、やたら張り切って練習するようなタイプでした。印象派のラヴェルとかドビュッシーとかが好きで、そういう音の使い方はいまだに意識してますね。

―ポップソングに関しては、中学でラジオを聴くようになって影響を受けたんですか?

エリーニョ:影響を受けたというよりも、「こういうふうに作ってるんだ」っていう、ひとつの形式を知ったというか。でも、ラジオでは邦楽ばかり聴いていたので、洋楽とかは全然知らなかったんです。大学に入ってから、まわりの話に入っていくために友達が言ったバンド名やアーティストをかたっぱしから聴き始めて。「こういうのが流行ってるんだ」って。

―大学時代に好きだったアーティストとかは?

エリーニョ:周りの友達が好きなバンド名と曲を一致させるのに大変だったので、好きだったアーティストと言われると悩みます。まわりのみんなが「やる」って言った曲を耳コピしたりしていましたけど。あと、高校のときに弾き語りもやってたんですけど、そのときは原田知世さんとか、古内東子さんとか。

―なんか、あんまり音楽をガツガツやっていこうみたいな動機が見えてこないですね。

エリーニョ:ソロをやる前まではふわふわしてましたね。なんか、ある程度のところまで自分でやれば、そのうちどこかから声がかかるんじゃないかとか、そういう発想だったと思うんです。その当時は必死にやってたと思うんですけど、自分で何かやりたいとか、発信していきたいとか、そういうことはあんまり思ってなかった気がします。

自分が伸びてない感じとか、自分が殺されてる感じって、やっぱり自分でわかるんですよね。

―今回のアルバムは、資料に「原動力は嫉妬やコンプレックスから、もっと大きなものに変わっていきました」と書いてありましたよね。

エリーニョ:汐見さん(レーベルの担当)が作ったやつ(笑)。

汐見:エリーニョと関わって深い話をたくさん聞いていくうちに、表現に向けての根本にも学歴社会やら競争社会やらそういった中で味わってきたことからくる嫉妬やコンプレックスが大きく影響してるなととても感じていたんです。でもこの1年半くらいで、すごく顔がやわらかくなったように感じるんですよ。たぶん自分自身のことを大好きになれて、さらにそれが大好きな人を呼び寄せて、今その人たちに囲まれて活動できてるからなんだろうなって。

―そういう実感が?

エリーニョ:ありますね。バンド編成の曲も多いんですけど、ソロになる前はバンドメンバーに対して、「なんでこんなのも弾けないの?」とか思ってたんですよ(苦笑)。でも、「このメンバーだからこそ出来ること」というのを考えて作れるようになって、それから自分が想像もできないようなものができたりして。

―考えが変わるきっかけがあったんですか?

エリーニョ:私自身がサポートメンバーとしてキーボードを弾いたりしていたときに、音楽をやること自体が苦しくなったことがあって。そうなるのはお互いに嫌じゃないですか。自分が伸びてない感じとか、自分が殺されてる感じって、やっぱり自分でわかるんですよね。そういうのを感じてほしくないっていうのは、1番にありますね。一緒にやってるメンバーだから。

恋愛とか、生活とか、そういう些細なところから、一歩抜け出したかった。

―アルバムタイトルの『コンクリート下の水母(くらげ)について』にはどういう意味が?

エリーニョ:「コンクリート下」っていうのは、例えば会社でのいざこざとか、「あなたもう大人なんだからしっかりしなさい」とか、そういう世間体もわかりつつ、どうしたほうがいいとかもわかりつつ、うまい人との付き合い方とかもわかりつつ……、でも、その下にあるふらふらしてるもの。毒もあるクラゲというか。そういうことについてのアルバムになったと思ったので、このタイトルにしました。

―なんでそういうテーマのものを作ろうと?

エリーニョ:恋愛とか、生活とか、そういう些細なところから、一歩抜け出したかったというか。自分の意識のなかで、もうひとつ上の音楽を作っていきたいなと思ったんです。ただ、急にそこまでのものはできなかったので、まずは自分のこととか、自分の毒とか、そういうことについて知ろうと思って。

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―いただいた資料に、“ピクニック”は「自分の中の嫉妬という感情が、どうにかならないものか、と悩んでいた時」にできた曲と書かれていたと思うんですけど、もう少し詳しく説明してもらってもいいですか?

エリーニョ:やっぱり嫉妬って、どんどん深みにハマっていっちゃうものだと思うんですけど、それをなんとかしたかったんですよね。別になんとかする必要はないかもしれないですけど。でも、私はなんとかしたくて、(嫉妬という感情を)曲にすることで浄化されたというか。そんな気がしたので。

―この曲に答えがあるわけではない?

エリーニョ:はい。答えはないです。

―例えば聴いてる人たちに、「嫉妬って、こういうふうに処理したらいいよね」みたいな共感を得たい気持ちとかは?

エリーニョ:うーん、あんまり共感を得たいと思ってないというか。それがいいのか悪いのかわからないけど、例えば「彼氏が浮気して、すごいムカつくの、かわいそうだね、そんな男別れちゃいなよ」みたいなことを言ってもしょうがないじゃないですか。なんでもかんでもそんなワイドショーみたいに騒いでいるだけでもしょうがないじゃないというか。そんなの自分でどうするか決めないと。だから、もうちょっと深く考えたらいいんじゃないかな、っていうようなメッセージはあるのかもしれませんね。

―それはすごくわかります。ただ、何かを伝えたいから音楽をやるという人も多いと思うんですけど、エリーニョさんはそれとは違う次元でやってる感じがするんですよね。

エリーニョ:私の歌で、なんか楽になったりとか、楽しんでもらえたりとか、そう感じてもらえるなら、それはもちろん嬉しいですよ。でも、今回に関しては、そもそもそういう感じで作ってはいないので。

名言らしきものがあったほうが「そうだよね」と思えたりすると思うんですけど、私はそういうのがすごい嫌いで。

―エリーニョさんって、すごく自然体で曲を作ってる感じがするんですよ。いい悪いの話ではないんですけど、「誰かに届けたい!」みたいなのよりは、独り言を聴かせてるというか。

エリーニョ:なんか、今の人っていうのも変だけど、上からものを言われたり、名言らしきものがあったほうが、「そうだよね」と思えたりすると思うんですけど、私はそういうのがすごい嫌いで。「あんたに言われたくない」と思っちゃうんですよ(笑)。でも、自分が好きなアーティストに歌われると、同じ言葉でも違く聞こえちゃうんですけど。だって、好きなアーティストだから。まぁ、そういうところも私はあるので、あんまり押し付けがましい言葉は選ばないようにしてますね。

―そういう言葉選びはどこから影響を?

エリーニョ:私は本が好きで、昔のものを読みあさるというよりは、いま人気の直木賞作家とかを片っ端から読むタイプなんですけど、その影響はあるかもしれないですね。いまこの人はどういうことを言ってるのかなとか、この人の書く文章が好きだなとか。

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―小説が多いんですか?

エリーニョ:小説が多いですね。遠藤周作さんとか安部公房さんは昔から好きです。最近だと、帚木蓬生さん、貫井徳郎さん、辻村深月さんとか、ドラマになったりしていて有名ですが、東野圭吾さんとかおもしろいと思います。ミーハーな感じで読んでるんですけど、そういうのには影響を受けてるかもしれないです。

―どういう部分で影響を受けるんですか?

エリーニョ:さっきと矛盾する話なんですけど、本はエンターテインメントとして読んでいて。いろいろな言いたいこと、感情、名言だけをパンって書いたら、それだけで終わるじゃないですか。でも、あの人たちはそれを物語としてずっと書き続けてるわけで。そういうのがおもしろいなと思いますけど。

―エリーニョさんの言葉のチョイスは、文学的な匂いがあって、すごく素敵ですよね。さっき否定されてましたけど、名言的なものも満載だと思うんですよね。“隙間の嘘”の「小さな嘘が大きくなって」とか、“小さい大人”の「盗めるくらいの物など欲しくない」とか、“パノプティコン”の「僕が僕を見張っている」とか。

エリーニョ:そうなのかしら。でも、やっぱり言葉をいっぱい知っていないと、何も出てこないなっていうのはあると思うので、いろいろなものを読んでいたほうがいいのかなとは思います。

欲望とか、そういうのはどんどん消したいんですよね。それが消えたら、また違う世界が見えるような気がするから。

―知識として知っている分、表現の自由度が増してるというのはありますよね。さっき「この人が歌うからいい」みたいな話がありましたけど、エリーニョさんが自分が歌うべき歌詞みたいなものは考えたりしますか?

エリーニョ:この人が歌うからいいと思える場合って、嫌味じゃないんですよね。生き様なのかもしれないし。その人に言われたら、そうだなって。でも、同じ言葉でも、この人には言われたくないみたいなのもあるじゃないですか(笑)。そういうので、ちょっと背伸びしてるなと思う人とかはいますけど。

―エリーニョさん自体は?

エリーニョ:まだ「自分が歌うべき歌詞」みたいのは全然ないんです。自分がもうちょっと成長する努力をして、その過程で生まれてくる言葉ならいいのかなとは思うんですけど。

―僕的には、エリーニョさんは、うっすら毒のある歌詞が似合うんじゃないかなと思うんです。

エリーニョ:ほんとですか(苦笑)。そういう部分が自分の中にあるのはわかってるんですけど、欲望とか、そういうのはどんどん消したいんですよね。それが消えたら、また違う世界が見えるような気がするから。うらやましいとか、そういうのをなくしたい。

―違う世界?

エリーニョ:自分のそういうところを見てみたいんです。まったくうらやましくなくなったら、その次は何をするんだろうとか、どんな曲を作るんだろうとか。いま自分のなかにある意識を超えたいっていう想いが、そもそもあるから。それが成長というのかわからないけど、違うものを生みたいんです。

最初から最後まで聴いてもらって、そのうえで何か感想が欲しいんです。

―ちなみに今作は「真空パック水母パッケージ版」として、盤面のみを真空パッケージしたバージョンを半額の1,111円で売るそうですけど、なんでこういう試みを?

エリーニョ:私、CDを作るときは、全体像から先に考えるんですよ。1曲じゃなくて、1枚として。だから最初から最後まで聴いてほしいって思っていて、リード曲の“ピクニック”だけを聴くのと、アルバムのなかで“ピクニック”を聴くのでは違うというか。そういうことを考えたうえでの1枚だったから。

―アルバムとしてのストーリーがありますもんね。

エリーニョ:どうしても1枚通して聴いてほしかったので、汐見さん(レーベルの担当)に「アルバムという形で安く提供して、目を引く形で買ってもらう方法、なんかないですかね?」って言ったら、「クラゲだから真空パックに」「それ、いいっすね!」って(笑)。それで盤だけで売ってみようって。

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―配信で全曲買うよりも安いんですよね。

エリーニョ:はい。そういう作り方をしてなかったら、1曲単位でダウンロードでもいいと思うんですけど、私の場合はとにかく最初から最後まで聴いてもらって、そのうえで何か感想が欲しいんです。

―もちろん、パッケージそのものにもこだわりがあったりはするわけですよね?

エリーニョ:はい。全部手作りです。真空パックなので、パッケージがぐしゃぐしゃとしてるんですけど、その細かな調整とかがいっぱいあって。盤面も、もうちょっと文字を目立たせるようにとか、デザイナーさんにああだこうだ言って。販売価格は安いけど、実はけっこう手間がかかってるんですよ。もちろん、真空パッケージよりも、歌詞カードもついてるPケースのほうを買ってほしいんですけどね。

―でも、それよりもアルバムを通して聴いてもらえるほうが重要だったと。

エリーニョ:はい。

汐見:バイヤーさんの間でも意見が分かれてて。絶対に真空パックパッケージのほうが売れるって言う人もいるし、両方同じ数をオーダーしてくれる人もいるし。結局、やってみないとわかんないじゃんって。

―今回は実験的にやってみて、今後の参考にっていう感じですね。その結果は僕も気になるので、今度こっそり教えてください(笑)。ちなみに3月19日のレコ発ライブはプラネタリウムでやるんですよね?

エリーニョ:なんかおもしろいところでやりたいなっていうのがあって。ライブハウスって、やっぱり敷居が高い気もするし、ずっと立って見てるのも辛いから、座って見れる場所で、プラネタリウムとかもいいんじゃないかなと。実際に下見したんですけど、昔ながらのプラネタリウムで、すごくいい雰囲気ですよ。

―プラネタリウム用に企んでることも?

エリーニョ:それまでに新曲を5曲作りたいなと思ってて。ライブもアルバムと作り方が一緒で、先に全体的なものを決めちゃうんですよ。だから、この日のための曲もあったりします。

―プラネタリウムで聴くことを前提にした曲が聴けるということですね。会場演出も何か特別なことを?

エリーニョ:そうですね。曲に合わせて演出をしようと思ってます。でも、最初から星を出すと真っ暗にしないといけないので、その辺は考え中です。VJや照明の方も協力してくれることになったので、頭をフル回転させてがんばります(笑)。

イベント情報
エリーニョ 2nd Album『コンクリート下の水母について』リリース記念ワンマンinプラネタリウム
『クラゲ、大地を駆け巡り空を行く。』

2011年3月19日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 王子 北とぴあ “スペースゆう”プラネタリウムホール

出演:
エリーニョ&The sweetest friends
(エリーニョ(Vo,Key)、石川ユウイチ(Gt/ANIMA)、スガハラナオト(Ba/CONTACT)、ヨシカワタダシ(Dr/mokyow)、田中さと子(Fl)、谷崎航大(THEラブ人間/Vn)、谷崎舞(Vn)、志賀千恵子(Vc))
VJ:oku、yumiko、mari honma
照明:Gong Internantional

料金:前売3,000円 当日3,500円

リリース情報
エリーニョ
『コンクリート下の水母について』通常盤

2011年2月22日発売
価格:2,222円(税込)
TOTR-1101

1. 水上呼吸
2. 透明なアルコールとサイダー
3. 映る
4. ピクニック
5. free
6. 隙間の嘘
7. 小さい大人
8. シロトアサ
9. パノプティコン
10. jellyfish

エリーニョ
『コンクリート下の水母について』真空パック水母パッケージ盤

2011年2月22日発売
価格:1,111円(税込)
TOTR-1102

1. 水上呼吸
2. 透明なアルコールとサイダー
3. 映る
4. ピクニック
5. free
6. 隙間の嘘
7. 小さい大人
8. シロトアサ
9. パノプティコン
10. jellyfish

プロフィール
エリーニョ (vo,piano)

3月4日、東京生まれ。4歳よりクラシックピアノを始める。2004年よりピアノボーカルとしてバンド活動を開始。2009年にソロユニット「エリーニョ&The Sweetest friends」をスタートし、10月に1stアルバム『ヒヨコと猫の鳴いた、ココにある日常的。』をリリース。東京を中心とした国内での活動はもとより、韓国でもライブを行うなど活動範囲を広めている。ピアノ弾き語りのソロライブ、The Sweetest friendsを率いてのバンドライブ、完全アンプラグドでのThe Sweetest friends(道端バージョン)など、多彩なライブ形式をとり、個性的な歌声と、唄うピアノ、人間味溢れるライブ、そして多彩な要素を持つ楽曲で浮かび上がる歌の歌詞が共感を呼んでいる。



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