繋がって当然の世界、このままでいいの? 村松亮太郎×川村真司

「映像の世紀」と言われた20世紀を越え、現在では誰もがあらゆるシーンで映像表現に触れ、気軽に映像を作ることが可能な日々がやってきました。しかし、用意された環境に満足しない挑戦者たちは、この時代にも絶えることはありません。彼らの視線は今、どんな映像世界を見据えているのでしょうか?

映画、MV、CF制作から、3Dプロジェクションマッピングまで多彩な映像表現を手がけるNAKEDの村松亮太郎代表と、視覚表現の最前線で活躍するゲストとの対談シリーズの第3回は、ゲストにクリエイティブ・ラボPARTYを設立し、クリエイティブディレクターとして活躍する川村真司さんをお招きしました。エンターテイメントコンテンツと連動したインタラクティブなプロモーションビデオや、人や事物の協働性を連想させるユニークなプロジェクトで世界から注目を集める川村さんとの対談は、映像表現の最前線を経由して、より根源的なもの作りの原点へと向かいました。時代、経済、身体性……さまざまなキーワードから本当のクリエーションとは何かを探ります。

最近の映像業界で活躍している人は、気づいたらハイブリッドな顔ぶれになってますよね。(川村)

村松:この対談は「映像表現の未来」というテーマで連載をおこなっているのですが、これまでに登場していただいた真鍋大度さんも鈴木康広さんも、いわゆる映像とはちょっと違うところで活動している方なんですよね。

川村:面白い人選だなあって思ってました。外野とまでは言わないけど、ジャンルから少し片足を外へ出している人の方が、見えてくるものってありますよね。

村松:真鍋さんと話したときに「別に映像ディレクターじゃないんだけどなぁ……」とおっしゃってました。真鍋さんも「ライゾマティクス」もテクノロジーの人たちじゃないですか? でも、彼らが『映像作家100人』の巻頭ページを飾るような時代になってるんですよね。

村松亮太郎
村松亮太郎

川村:最近の映像業界で活躍している人は、気づいたらハイブリッドな顔ぶれになってますよね。真鍋さんは基本はプログラミングだし、VJ畑から出てきた人たちもたくさんいる。僕も若干外れた立ち位置ですからね。映像ディレクターに弟子入りしたわけじゃないし、美大も出てない。好きにやってきただけ(笑)。

村松:僕ももともとは役者をやっていて、今は勝手に映像を作ってるだけなんです(笑)。

川村:影響を受けたとするなら、佐藤雅彦先生。あの人はもともと広告プランナーをやっていたけれどそれを辞めて、ゲーム作ったりともかく広い範囲のモノ作りをやっています。「何かを表現すること」よりも、「いかに課題を解決するか?」ということを大事にしている人ですね。だから、僕自身も自己表現にそんなに興味がないんです。

村松:そういう意味では、僕と真逆のスタートですね。映像を作り始めた頃は、コミュニケーションの努力なんて皆無でしたから……。「俺が作った! 魂に響け!」みたいな(笑)。

川村:熱い!(笑)

村松:1997年に自分の拠点としてNAKEDを始めたのですが、その年はまさに時代の転換期で。コンピューターによる編集が可能になって、映像制作の流れが完全に変わった。映像、デザイン、テキスト、音楽、それらすべてがネットメディアに集まって、いろいろなものがボーダレスになったんです。

川村:97年って言うと、僕は高校生でしたね。サンフランシスコから日本に帰ってきて、環境の違いにとまどいつつ、毎日部活でボートを漕いで、麻雀したりしてました。ボート部ってけっこう過酷で、朝5時に起きて10km走って、学校行って寝て、学校が終わったら雀荘行って寝て、またボート漕いで寝るみたいな(笑)。

川村真司
川村真司

村松:ストイックですね!(笑)

川村:普通に大学受験するのもイヤだなあと思って、慶応義塾大学の湘南キャンパス(SFC)の環境情報学部を受けたら運良く受かって。そこで初めてプログラムに触れました。UNIXとかC+とかJAVAはひと通り触れるようになったんですけど、プログラムはあんまり向いてないことがわかり(笑)、デザインの方向へ興味が向いて行きました。そして出会ったのが佐藤先生。当時、本当に日本のことに疎くって、電通も「電気屋かな……?」と思ってたぐらいで、佐藤先生が有名なCMプランナーだったことも知らなかったんですけど。でも彼と出会って、デザインの面白さに目覚めていったんです。

村松:大学卒業後はCMプランナーとして博報堂に入られたんですよね。

川村:15秒、30秒のCMコンテばっかり描いてました。でも、はじめから「CM」だけという枠組みのある考え方があまり好きじゃなかったんですよ。自分で軽くプログラミングもできたからインタラクティブなアイデアもたくさんあったし、そういう手法を混ぜた方がコミュニケーションが広がりやすいと思って、CMプランナーの領分を越えて好き勝手にアイデアを出してました。でもやっぱりCMプランナーはCMを考えろ! という空気は当時はあって、それがちょっと窮屈で、3年で博報堂を辞めて、BBH(世界中に拠点を持つイギリスの広告代理店)に入ったんですよ。最初は日本オフィスの立ち上げに参加して、たまにロンドン本社へ行ったりとか。あとはもう放浪の旅で、3年ごとに会社と国を移りながら、そして今へ至ると。

広告においても、受け手とのコミュニケーションの道筋から創造することが必要だと思うんです。そこに関わることができなければ、今コミュニケーションに携わることに意味なんてない。(川村)

村松:自分の望む方向へ進んでいった結果、新しい道が切り拓かれたという話は、すごく納得できるし、共感できます。僕にとっては、川村さんが手がけたSOURの“映し鏡”がまさにその象徴で、今の時代、こうあるべきだよなと感じたPVでした。


川村:“映し鏡”はやっぱり特殊ですよね。今の自分でも、あの内容をいきなりメジャーレーベルやアーティストに売り込めるかって言われたらやっぱ自信がないですよ。SOURのメンバーって、実は高校の同級生で、予算がなくても「面白いもの作ろうぜ!」と思える信頼感があったからこそ実現できたんです。

村松:そうなんですね。今の時代、どんなに素晴らしい映像を作れたとしても、昔のような訴求力はないと思うんです。同世代のクリエイターが時代の空気感を共有していたからこそあそこまで盛り上がることができたんじゃないでしょうか。

川村:ただ一方で、あるコンテクストを知らなくても通じるような映像表現の強さも必要だと思っていて。単純に新しい技術を持ってきてデモンストレーションしただけでは、時代とともに風化しちゃう。“映し鏡”に関しては、今観ても、けっこう面白く観られるから、狙ったみたいにその強度はちゃんと保てたとは思うんですけど、なんでもネット、なんでもソーシャルっていうトレンドはちょっと心配ですよね。

村松:新しい技術に注目が集まるのは仕方ないことだとしても、やはり重要なのは演出ですよ。表現だと名乗る以上、映像の演出的な強さは絶対に必要だと思います。僕も、東京駅のプロジェクションマッピングを手がけたときに気をつけたのはそこで、例えばスピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』はCG技術の進歩を体感できたけれど、面白かった理由は演出の巧みさであり、スピルバーグの手腕じゃないですか。


川村:すごく分かります。よくPARTYのメンバーと話すのは、映画館に行っても、その映画をスマホから操作できるようにしたいとか思わないじゃないですか? 別に『ローマの休日』のエンディングをインタラクティブに変えたいとか思わない(笑)。

村松:今度10月に、東京国立博物館で特別展『京都―洛中洛外図と障壁画の美』っていう、400年前の京都に焦点を当てて、国宝、重要文化財の作品がズラッと並ぶような展覧会があるんですが、そこでプロジェクションマッピングの新作を発表するんです。今回の自分なりのテーマとして、ストーリーと演出を見てほしいというのがあって。

川村:と言うと?

村松:『京都〜』展の見どころの1つが、国宝・重要文化財に指定されている『洛中洛外図屏風』全7件が全部出展されることなんですけど、当時これらの屏風は相当アヴァンギャルドなものとして描かれたんだと思うんですね。だから僕もそのマインドを継承しつつ、その世界観を映像化しようと。

川村:映画的な見せ方になるのでしょうか?

村松:どちらかと言うと、ディズニーランドとかのアトラクションに近いかもしれません。屏風絵を描いたのが岩佐又兵衛という絵師なんですが、作品の中で又兵衛本人らしき人物が少年の姿として座っているんですよ。そこを起点にして、江戸時代と現代の京都を行き来する、時空を超えた又兵衛の旅を表現するんです。

川村:観てみたい。物語の着眼点が面白いですね。

村松:プロジェクションマッピングというと、目まぐるしく映像が変化してインパクトのある映像であればいいという風潮がありますけど、会場となる東京国立博物館は歴史のある建築物ですから、歴史の深みも同時に感じてほしいんです。

川村:僕自身、広告会社がバックグラウンドとしてあるんですけど、やっぱり僕らが作るべきものは広告じゃなくて、エンターテインメントや、サービスや、プロダクトなんですよ。ひと昔前の広告なら、ある種ストーカーみたいに「好きだ好きだ好きだ」って叫び続けてもそれなりに成立していた。そんな告白が好きな人も多かったし、そういうモノだって思ってる人も多かったから。でも、今は人の好みもライフスタイルも多様になって、花束を送られて嬉しい人もいれば、LINEの変なスタンプから気になり始める人もいますよね。だから、エンターテインメントコンテンツの土台部分から考えていって、広告においても、何をどうやってコミュニケーションするかの道筋から創造することが必要だと思うんです。もちろん、商品を考えたりするのはクライアントの仕事で、「聖域に踏み込むんじゃない」みたいに言われることもあると思う。でも、僕らからしてみたらそこが解決しなくてはいけない問題の一番のコアだったりする。そこに関わることができなければ、今コミュニケーション作りに携わることに意味なんてない。

川村真司

村松:僕のルートと真逆なのが面白いですね。僕は自主映画から始まっているので、自分でゼロから作ってきたタイプです。ただ、だんだんと仕事の内容が広がっていって、それまで「知ったこっちゃねえよ」と自分中心でやってこれたのが、組織やスタッフのことを考えないといけなくなってきていて。

川村:もの作りの本当の理想ってそのちょうど真ん中じゃないですか? 好き勝手やっててもダメだし、表現的に面白くない、ただ伝えるだけのものを量産してもダメ。実験的なことにチャレンジしつつ、感性の鋭い層にも刺さることができて、そこにちゃんとクライアントがお金を出せるという環境を作りたい。

村松:そのバランスがよかったのが“映し鏡”ですよ。映像が三者の接点になっている。

川村:そうかもしれないですが、あれは予算がない状態からスタートしてますから、奇跡みたいなものかも……(笑)。やはり、僕にとってこれからの課題はマネタイズです。PARTYという会社で、自分たちが作っているような表現できちんとお金を発生させられるような仕組みをもっと業界全体で築いていかないと続かなくなっちゃう。悲しいかな、アイデアやデザインをタダだと思っている人たちって少なくないんですよ。才能のある映像作家やクリエイターが食えなくなっちゃう環境はなんとかしないといけない……とか言いながら、僕もいまだに数十万のビデオとか受けちゃったりするんですけどね。面白そうなプロジェクトを聞くと、いてもたってもいられなくなる(笑)。

村松:両方ともすごくわかる話です。クリエーションへの欲求と、マネタイズ。全ての理想を成立させることって、やってみると本当に難しいです。

アナログとデジタルの果てに、身体性を見出していくような可能性を探っていきたいですね。(村松)

川村:今、ちょうどSOURの新曲“Life is Music”のPVを作っているのですが、それもクラウドファンディングを活用しています。ちょっとした作り方の実験ですね。“映し鏡”のときは、ニューヨークにいたのでKickstarter(アメリカのクラウドファンディング)を使ってたのですが、今回は日本のサービスを活用しつつ、反応を見てみたい。


村松:お金の問題に関しては、僕はベテランかもしれない。何しろ、いきなり会社作っちゃったから(笑)。プリンターのインクを買うために会議を開かなきゃいけなかったし、明日食べるものがなかったらどうしよう……と最初の頃は不安で仕方なかったですから。そういう意味でも、川村さんとは違うルートを歩んできたと思うのですが、理想とするところは一緒なんですね。

川村:そうなんですよ。目指しているところはみんな同じなんですよね。真鍋さんも全然違うジャンルから入ってきた人だけど、辿り着きたい場所はたぶん同じで。

村松:最初に映像作家がハイブリッドになってきているという話がありましたけど、川村さんなりにその理由の分析はできますか?

川村:いろいろ理由はあると思いますが、DIYが容易になったのは絶対に影響してますよね。それからYouTubeみたいな個人発表を前提としたプラットフォームの存在も大きい。昨日までごく普通のアイドル好きで個人でCGを作っていた人が、一瞬で注目を集めて人気CGクリエイターになったり、個人の「好き」という衝動と技術が組み合わせやすい環境が整い始めているのだと思います。広告会社に在籍していた時は、プロダクションに所属しているディレクターの中から選ぶようなオプションしかなかったけれど、今だったらVimeoで作品を偶然見て直接コンタクトをとってお仕事をお願いしたりとか普通にしますし。そういうハイブリッドな環境を体験してしまったら、プロフェッショナルな組織の大きさが逆に窮屈に感じる。そういう実感が、映像の世界全体にある気がしますね。

村松:川村さん自ら直接電話するんですね! そういう意味では、ネットがあって関係性が希薄になったなんて言われるけれど、ますますリアルが重要という感じですね。実は今、映像制作以外にも関心が向かっていて。定期的に開催しているワークショップをもっと盛んにしたり、あとは山梨県の勝沼でぶどう栽培をしようかと思っていて。うちはクリエイティブだったら何でもありなので(笑)。

川村:それいいですね! 楽しそうです。

村松:プロジェクションマッピングからぶどう栽培まで(笑)。でも、僕の中では同じなんですよ。ぶどうの栽培を勉強して、オリジナルのワインを作るのもクリエイティブじゃないですか? さらに、それを自分らの作ったデリで味わってもらうという。リアルな体験としてすごく豊かだと思うんです。

川村:オフィスでデリもやられるんですか?

村松:計画中です。新しい事務所に引っ越したばかりなんですけど、1階をデリにしちゃって、その中でプロジェクションマッピングをして遊んでみるとか。うちは映画美術もやってるので、空間も作れるんです。

川村:場ってある意味メディアですから、そういう環境が作れるのは強いですよね。大勢の人が集まるし、そこで自分の作っているもののデモンストレーションもできる。まさに理想的な表現の場じゃないですか。

村松:あとは体感ですよね。リアルな体験、リアルな身体性を感じられる場を作りたくて。

川村:面白いです。やっぱり、全てのものは体験に返ってくるんですよね。僕らもデジタルなことをやっているけど、最終的にはスクリーンの外で表現をしたい。ビデオチャットとかで世界中繋がれるようにはなったけど、やっぱり限界も感じるというか。ネットが普及して世界中どこにいても一瞬で繋がれるようになったけど、触れられない、嗅げない、体温が伝わらない、空気の振動が伝わらないっていうのは、デジタルでは超えられない壁で、だけど人は本当はそれを求めてるし、それだけはいつの時代も変わらない価値だったり。

村松:現状の「世界中、いつでもどこでも繋がってる、万歳!」って、よくよく考えたら何が面白いんだって話ですよね。

川村:その先が見たいですよね。繋がっているのが前提の世界になったけど、そこで何ができるのかがまだ提示しきれてないというか。

村松:昔の映画って、携帯電話やインターネットがなかったからこそ成立する物語がたくさんありましたよね。会えるか会えないかわからないからこそ起こるドラマがあって、それが物語を牽引していった。

川村:技術によって余白がなくなっちゃうことで、コミュニケーションの重みが減ってるのかもしれないですね。僕は海外にいたから、遠くの人と繋がれて便利という恩恵を享受しているけれど、だからこそその恩恵を糧にして、次に進みたいと思う。

村松:アナログとデジタルの果てに、身体性を見出していくような可能性を探っていきたいですね。

川村真司関連イベント情報
第325回企画展
『PARTY そこにいない。展』

2013年9月4日(水)〜9月28日(土)
会場:東京都 銀座 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
時間:11:00〜19:00(土曜は18:00まで)
休館日:日曜、祝日
料金:無料

プロフィール
村松亮太郎(むらまつ りょうたろう)

映画監督、映像クリエイター。クリエイティブカンパニーNAKED inc.代表。TV、広告、MVなどジャンルを問わず活動を続ける。2006年から立て続けに長編映画4作品を劇場公開した。自身の作品がワールドフェストヒューストングランプリ受賞など、国際映画祭で48ノミネート&受賞中。近年は3Dプロジェクションマッピングに着目し、昨年末話題となった東京駅の3Dプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』の演出を手掛けた。

川村真司(かわむら まさし)

1979年東京生まれ、サンフランシスコ育ち。博報堂、BBH Japan、180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった広告代理店を経て、現在東京とニューヨークを拠点とするクリエイティブ・ラボPARTYを設立し、クリエイティブディレクターとして在籍。ToyotaやGoogleといったブランドのグローバルキャンペーンを手がけつつ、「Rainbow in your hand」のようなプロダクト・デザイン、SOUR「日々の音色」やandrop「Bright Siren」ミュージックビデオのディレクションなど活動は多岐に渡る。主な受賞歴に、カンヌ国際広告祭、文化庁メディア芸術祭、アヌシー国際アニメーションフェスティバル、NY ADC、One Show、等。2011年Creativity誌によって「世界のクリエイター50人」そして2012年Fast Company誌「100 most creative people in business」に選ばれた。



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