クラブシーンから見た日本文化論 DEXPISTOLS × SHIGEO対談

「完全身内ノリのテキトーな音楽です」。本人たちに言わせると、どうやらDEXPISTOLSの最新ミックスCD『LESSON.08 / TOKYO CULT』はこんな感じらしい。この飄々としたユニットらしい回答だとは思いつつ、じゃあ、実際にその内容はどうなのかというと、海外のダンストラックはもちろんのこと、DEXPISTOLSおよび彼らの周辺にいる若い才能から提供されたトラックが同列に並び、そこにまた歌やラップが乗せられたりするなど、これがまた独自性とフックに満ちたミックスアルバムに仕上がっているのだ。つまり、ここで彼らがいう「完全身内ノリ」とは、一部の閉じられた界隈でしか共有されない音楽、という意味ではもちろんない。むしろ、DEXPISTOLSとその周辺にある国産ダンスミュージックは、今かなり刺激的で面白い時期を迎えている。そう捉えていいだろう。

2000年代の後半に全世界で巻き起こったエレクトロムーブメント。その日本における顔役として一躍名を馳せたこの二人は今、シーンの動向を見続けながら、次の大きなステップを踏もうとしているようだ。そこで今回はDEXPISTOLSのDJ MAARとDJ DARUMA、そして彼らとは同世代の盟友であり、『LESSON.08 / TOKYO CULT』にもゲストで参加しているSHIGEO(the SAMOS、ex.スケボーキング)をお招きし、彼らが今のクラブシーンをどう見ていて、そこでどんなアクションを起こそうとしているのかをたっぷりと語ってもらった。それぞれの軽妙な語り口から、彼らの野心と鋭い観察眼を読み取っていただける濃厚な内容になったと思う。

勘違いした時期はあったけど、ぜんぶ妄想だった(笑)。別に俺らはスーパーマンでもなんでもなくて、ただ面白いことをやってたいだけなんだよね。(MAAR)

―この『LESSON』シリーズって、他のアーティストが作るミックスCDとはちょっと趣向が違うなと思うんです。なので、今日はお二人がこれを出すことの狙いをまずは知りたくて。

MAAR:狙いかぁ。いきなり話は逸れるかもしれないけど、そもそもうちらのコンセプトは「身内の悪ふざけ」なんで(笑)。スタートはそこなんですよ。ただ、その後にエレクトロの動きが大きくなっていくなかで、いろんな変化はあって。というか、まわりが「お前ら、変われよ」みたいになった時期も一瞬あったから。

―それは、具体的にどう変われという意味だったんですか?

MAAR:変わった方がお金になるってことですね。もちろん自分もそれで勘違いした時期はあったけど、ぜんぶ妄想だった(笑)。別に俺らはスーパーマンでもなんでもなくて、ただ面白いことをやってたいだけなんだよね。

MAAR(DEXPISTOLS)
MAAR(DEXPISTOLS)

―いわゆるエレクトロのムーブメントが隆盛を迎えた頃って、時代から後押しされてる感覚もあったわけですよね?

MAAR:いや、むしろスキルがないわりに自分たちの影響力だけが強くなっちゃって、表現したいことはあるんだけど、表現力が追いつかないっていうストレスをすごく感じてた。でも、そこからふた回りくらいした結果、やっぱり俺たちが面白いと思うものって、結局はたかだか半径何メートルくらいにいる人たちが楽しんでくれるものなんだなと思って。

―今MAARさんがおっしゃってたような感覚って、DARUMAさんも共有しているものなんですか?

DARUMA:いや、そういうストレスは無かったかな。基本的に僕は好きなことしかやってないし、まわりに何か言われても自分には関係ないと思ってるので。とにかく楽しいのが一番。笑顔で物事ができなくなるのは絶対にイヤだから、そこでストレスを感じないように、いろんな表現をするだけ。そこはMAARも同じ考え方じゃないかな。

DARUMA(DEXPISTOLS)
DARUMA(DEXPISTOLS)

MAAR:それに、「売れたらあいつは変わった」ってよく言うけど、実は変わるのって本人じゃなくてまわりなんだよね。言い方は悪いけど、まわりが欲を出してくるから。

DARUMA:もちろん僕らも売れたいし、それでお金がたくさん稼げたらいいんですけど、そのために自分がかっこいいと思えないことも無理にやるという考え方は、音楽以前に基本的な人生のコンセプトとして僕にはないので……。ただ自分が許せないそのスレスレのラインの所まで近づいたりするときもありますが(笑)。

SHIGEO:というか、客観的に今回のミックスCDを聴いて、これでお金を稼ごうと思ってたら大間違いだと思います(笑)。この二人がそういうものを度外視してる人たちだってことは、これを聴けばすぐにわかると思う。

MAAR:でも、そうは言ってもどこかでバランスはとってるからさ。この次にやりたいこともあるし、ちょっとは売れたいっていう欲だって、もちろんあるから(笑)。

―そのバランスがどういうものかを、もう少し詳しく教えてほしいです。つまりそれは、自分たちの好みと世間のトレンドをうまく噛み合わせるってことですか?

MAAR:それを具体的に言うのはすごく難しいんだけど、ひとつだけ言えるのは、俺はDEXPISTOLSそのものに対して常にバランスをとってるってことかな。つまり、俺が個人的にヤバいと思ってるトラックをDEXPISTOLSでチョイスしてるわけじゃなくて、DEXとしての活動と個人としての活動の、どちらでもアリになるゾーンに入ってくるものをここでは選んでる。まあ、これって細かく説明すると、つまりは乳首を出すか出さないかっていう話になるんだ。ギリギリ見えているかどうかわからない感じっていうか。

DARUMA:でも、今回に関しては乳首どころか、横乳すらほとんど見えてないと思うよ。けっこう隠し気味のものができた気がする。

SHIGEO:うん、見せてないね。モデルさんが長髪で隠している感じだよね(笑)。

DEXの場合はギリッギリで乳首が見えてないんです。もしくは一瞬ちらっと見えるくらいのサービスがある感じ(笑)。(DARUMA)

―すみません。なんかそのたとえ、僕にはわかるようでわからないです(笑)。

DARUMA:(笑)。僕らのなかでは「DJ=グラビアアイドル論」っていうものがあって。グラビアアイドルって、どこまで見せるかの美学があると思うんですよ。仮に乳首を見せたら、やっぱりヒット数は増えるし、そこで新しいファンがつくかもしれないけど、すぐに消費される危険性もある。また一方では、ギリギリ見えるかどうかの感じに「おっ!」となることもある。つまりそれって、マスに向けてどこまでわかりやすく表現するかってことなんですけど、その感じをDJに置き換えると、DEXの場合はギリッギリで乳首が見えてないんです。もしくは一瞬ちらっと見えるくらいのサービスがある感じ(笑)。

SHIGEO:「いやぁ、今日は見せてくれなかったねー」みたいな(笑)。

MAAR:でも、ジャンルによってはそうやって脱ぐ行為そのものを嫌う人だっているからさ。

右奥:SHIGEO
右奥:SHIGEO

―なるほど。どこまで露出するかは人によってそれぞれだけど、そこでしっかり本人のポリシーが貫かれていれば、全裸でもなんでもOKだということですね。

DARUMA:そういうことです。「全裸で何が悪い?」って確信犯的にそういう考えを持ってやっている人にはすごく好感が持てます。逆に脱いじゃってるのに脱いでないふり、もしくは脱げている事に気がついていないのは僕らの中では無しなんです。そういう話をよくHABANERO POSSEとするんですよね。HABANERO POSSEの場合、上は何か変なTシャツとか着てるんだけどDJブースに隠れている下はぜんぶ脱いでる、とかね(笑)。そういう意味でいうと、今回のミックスCDはいつもよりもちょっと隠している感じが俺はしていて。

SHIGEO:すごく納得(笑)。それでいうと、今回のミックスCDは貝殻水着なんじゃないかな。「え、水着じゃなくて? 貝?」みたいな。

DARUMA:たしかにそういう感じだね(笑)。

『01』から『04』までは、「今、世界でこんなに面白いことが起こってるんだ。これは僕らが伝えなきゃ」っていう使命感がすごくあった。(DARUMA)

―こういう訊き方もおかしいですけど、ここまで見せてないミックスCDって、DEXPISTOLSにとってはこれが初めてなんですか?

DARUMA:どうなんだろう。『LESSON.04“APPLE”』(2008年作。DEXPISTOLS初のオフィシャルミックスCD)のときなんかは、そんなに計算もしてなくて。ただ『01』から『04』までは、伝えたいことがすごくあったんですよね。まだそれにエレクトロっていう名前すらついてない頃の、何か得体の知れないものがあることを知ったときに、「今、世界でこんなに面白いことが起こってるんだ。これは僕らが伝えなきゃ」っていう使命感がすごくあったので。

―エレクトロのムーブメントを日本で発信することは、自分たちの使命だと。

DARUMA:あのときはそうでした。世界中でMyspaceというツールを使って何かが起こってる。2manydjs(複数の曲を重ねてひとつの曲としてミックスする手法、マッシュアップのパイオニアとされるDJユニット)が出てきて、その少しあとにフランスを中心にハウスともテクノともロックとも違う文化が生まれてる。じゃあ、ここは僕らが手を挙げて、そこに注目しているやつが日本にもいると伝えなきゃダメだろうと。それに、当時は今ほどクイックに情報が伝わるような状況でもなかったし、それこそMyspaceやmixiを使っている人くらいがそういう情報を持てる感じだったから。

DARUMA(DEXPISTOLS)

―とにかく世界のタイムリーな状況を日本でも共有させたかったということですね。じゃあ、現在はどうなんでしょう。みなさんは今、どういう動きに興味があって、それにどう接しているのか。

DARUMA:今はそのエレクトロの時期と違って、DEXPISTOLSが始まった頃の感じに近いのかもしれない。僕らはずっと東京で遊んできたんですけど、MAARの場合はハウスミュージックを中心としたシーンに接してきて、一方の僕はダンサーとしてヒップホップのシーンで育ってきた。つまり、90年代初頭のクラブシーンが発展していく時期に、僕らはそれぞれ違う場所から、そのアツい流れを経験してきたんです。その二人がくっついて表現したら、何か面白いことができるんじゃないかと思って、そこで始めたのがDEXPISTOLSで。で、ここ最近はまたそのタイミングにきている気がする。

―なるほど。ではMAARさんは今どんなところに目を向けているのか、ぜひ教えてほしいです。

MAAR:最近かぁ。むしろ最近は無理して曲を掘らないようになってて。というのも、ネット上にたくさんの情報が溢れるようになってから、ソーシャルなツールを使ってる人たちがいわゆる情報強者で、それを使ってない、使いこなせてない人たちが情報弱者と見られるような流れになってきてるでしょ? でも、その情報過多なものをそのまま鵜呑みにして、それで右往左往されたり、まったくのデマが流れたりするのを見ていると、そこで無理に新しいものを掘ることが面白いとは思えなくて。あと、今は前よりいろんなパーティーに行くようになったかな。

―現場に足を運ぶことが増えたんですね。

MAAR:うん。そこで入ってくる情報とか、自分が信頼しているDJがかけたヤバいものをチョイスするような方向になってる。それに俺は今、モノを作る方が楽しいから。そこであんまり情報を入れすぎると、どうしたって作るモノが偏っちゃうんだよね。

―それはクリエイターとしての感覚とDJとしての感覚が違うってことですよね? 僕の先入観として、やっぱりDJって仕入れる情報の速度が生命線だっていう印象もあったから。

MAAR:確かにそれはあるよね。ただ、それよりも今は自分がどういうフィルターを身につけるのかが重要だと思ってるし、興味が湧くものの幅はすごく拡がったと思う。だって、音楽以外にも面白い世界はいっぱいあるからさ。そういうものを遠くから見てると、別に自分なんて大したことやってないなと思えるから、気も楽になるし(笑)。もちろん俺はDJが大好きだから、DJとしての視点を外したことはないよ。ただ、今はヘタクソな楽器の練習をしてる方が楽しくてさ(笑)。

今回のミックスCDって、創意工夫がホントたくさんあると思う。いろいろと制約があったなかで、ものすごいものを出してきたなって。(SHIGEO)

―では、SHIGEOさんの場合はどうですか。現行の音楽やムーブメントとはどう付き合ってるんでしょう。

SHIGEO:いやぁ、まだこうして自分が音楽で生活していられるだけありがたいって感じですね(笑)。だって、ホント今って持久戦になってきてるから。ただDEXの二人に関していうと、彼らって僕らよりちょっとあとに出てきた感じだったんですけど、あのときは「うわ、完全にいいな、この人たち」と思ってました。「あ、この流れはちょっと乗っかりたいな」って。

MAAR:(笑)。

SHIGEO:今回のミックスCDも、やっぱりすごくエッジがあるし、現在進行形のことをやってるなと思った。さっきのグラビアアイドル論じゃないけど、この人たちはこうやって見せたり見せなかったりしながら、ずっとやっていくんだなって。そういうバランス感覚が本当にいい人たちなんですよね。

MAAR:今回の、エッジーかなぁ?

SHIGEO:単純に俺はすごく面白いと思ったよ。いわゆるミックスCDって、70分くらいでしっかりつなげてくるものじゃないですか。でもこれ、ぜんぜんつながってないし、BPMとかもシカトだからね(笑)。

MAAR:そのBPMでつないでいく作業って、PC上でやるとけっこう面倒くさいんだよね。しかも今回、BPM合わせてもそこまでかっこ良くならないと思っちゃったから、そのままいっちゃえって(笑)。

左奥:MAAR(DEXPISTOLS)、右手前:SHIGEO

SHIGEO:でも、曲ごとのしりとりはできているからね。

DARUMA:そうそう。グルーヴが死んでないと思う。それに、もともと僕はダンスチームの曲を作る担当だったから、こういうミックスCDの作り方って、ショータイムの構成を作るのにけっこう似てるんだよね。だから、ある意味スムーズな流れではあるはずで。

MAAR:なるほど。そういう感じなのか。

SHIGEO:今回のミックスCDって、創意工夫がホントたくさんあると思う。いろいろと制約があったなかで、ものすごいものを出してきたなって。今回のCDって、二人の周辺にいるトラックメイカーたちを多用してるわけじゃない? つまりそれって、二人のまわりにこんなにいい作り手たちがたくさんいるってことなんだから。

DARUMA:そうなんです。エレクトロのとき、僕らは日本でもトラック制作の活性化を目指したいと思って、それで「ROC TRAX」(DEXPISTOLS主宰レーベル)をやったんですけど、残念ながらフランスやオーストラリアみたいに数珠つなぎで面白いアーティスト出てくるようにはならなかった。でも、これがあのときに撒いた種なのかどうかはともかく、今回のミックスCDからは、今の日本にはトラックを作る能力がすごく高い人たちがたくさんいて、クラブミュージックの制作が前進しているっていうことをすごく実感できる。僕はそれがすごく嬉しくて。

ちょっと語弊があるかもしれないけど、クラブやレーベルの経営体制に関する問題はすごくあると思う。そういう意味で、今の日本って文化的な分かれ道に来ていると俺は思ってるのね。(MAAR)

―さっきSHIGEOさんは「今はまだこうして音楽で生活していられるだけありがたい」とおっしゃってましたが、たしかに今って音楽家にとってはなかなかシビアな時代でもあるんですよね。

SHIGEO:だって、俺なんて今さら脱げないからさ(笑)。でもさっき話したように、DEXの二人がいたエレクトロのムーブメントに自分も乗っかりたいと思ってた頃を考えると、当時はこうやって自分がフィーチャーしてもらえるような距離感ではなかったんです。DEXはまさにドン的な存在だった。その人たちとこうして絡めるようになったのは、単純にすごく嬉しいですね。

SHIGEO

MAAR:そもそも今回のミックスCDって、元々のコンセプトは「海外の曲にラップや歌を乗っけて、ブートレグ的なミックステープにリメイクする」ということだったんですけど、それが権利関係でできなくなって。でも、それが日本人の身内が作った曲なら話を通しやすいから、だったらSHIGEOくんにぜひ歌ってもらおうと。それに、いいトラックメイカーは増えてるし、良くも悪くも曲を作ることがスペシャルなことではなくなったしね。実際に俺がパーティーにたくさん行くようになったのも、日本にかっこいいDJがいっぱいいるからで。

―MAARさんが以前よりもパーティーに足を運ぶようになったのは、周囲のDJに触発された部分がけっこう大きいということですね。

MAAR:単純にまわりが面白いから、わざわざ自分から興味を向けなくても、面白いものが入ってくる。「今日は○○がDJをやってるよ」って連絡がきたら、「じゃあ行こう」ってなるし、今はすごく恵まれた状況になってると思う。

―なるほど。クラブにまつわる話題ってネガティヴなものも少なくないですけど、こうしてお話を伺うと、シーンの状況はすごく充実しているんですね。

MAAR:ただ、これちょっと語弊があるかもしれないけど、クラブやレーベルの経営体制に関する問題はすごくあると思う。そういう意味で、今の日本って文化的な分かれ道に来ていると俺は思ってるのね。この充実した感じがシーンとして定着する可能性はこれから十分にあると思う一方で、逆に今ここで乗っかれないと、本当に日本からアンダーグラウンドのダンスミュージックってなくなると思う。そこに関しては危機的な状況でもあるんだ。しかも、その影響ってダンスミュージックだけじゃなくて、いろんな音楽にも絶対に出てくるから。

MAAR(DEXPISTOLS)

―では、そこでMAARさんは自分の立場からどう動くべきだと思っていますか。

MAAR:俺、今けっこう本気でクラブが作りたくて。だから、誰かそこにお金を出してください(笑)。DJブースや照明の位置、料金システムやバーのことまで、こうやったらうまく回せるっていうアイデアはすごくたくさんあるんだ。しかも、それを成功させているクラブが韓国にはあるから。

―そうなんですか! その韓国のクラブ、名前は教えてもらえますか?

MAAR:「B1」と、もうひとつ同じ系列の「Cake Shop」だね。「B1」は4つ打ちのすごくディープなものをやってるんだけど、内装は完全にディスコなの。で、「Cake Shop」はちょっとアンダーグラウンドなトラップとかをやってるんだけど、そっちも若者たちがたくさん集まってて。みんなオシャレだし、何より音がいい。スピーカーのチューニングの仕方が今の日本のシーンよりも先に進んでいる。今の日本は「クラブってこういうもの」って思考に縛られ過ぎてる気がしてさ。韓国はディスコとクラブの違いなんてなくて、あくまでもそこで何をかけるかで勝負をしているから。

―それぞれのハコにカラーもあると。

MAAR:そうそう。そういうスタイル勝負って、東京にはなくなっちゃったんだよね。昔は人と同じものをやることなんて一番カッコ悪いことだと思ってたし、そういう考え方が新しいものを生んでたような気がするんだけど、今はネットの影響もあって良くも悪くもみんなが「右へ倣え」になってる。だから、ここはもう一回スタイル勝負でやるべきなんじゃないかな。

ゆとり世代の子なんてホント面白いじゃん。海外がすべてだとも、日本がすべてだとも思ってない。そういうフラットな感覚が今は重要なのかなと思う。(MAAR)

―そうなると、個人が何を面白いと思うかの物差しが、やっぱり大事だってことですよね。

MAAR:ホントそう思う。情報をたくさん持ってるから強いのかっていうと、別にそういうわけでもないじゃん? 自分がそこで何をチョイスできるかが大事でさ。だって、「ここのパーティーがヤバい!」っていう情報を仕入れて行ってみたら、実際は3人くらいしか踊ってなくて、みんなiPhoneいじってたりさ(笑)。

―そこはホント難しい話ですよね。なぜみんながiPhoneを見ちゃうのかというと、目の前で起こっているよりもiPhoneの画面の方が魅力的だからっていう考え方もできるわけだし。

MAAR:そっちの方が手軽だし、そのわりに個人の発言権も強かったりするからね。でもリア充になればなるほど、ネットから離れるでしょ。ベルリンなんてまさにそうで、あそこはネットどころか、むしろポスターを貼った方が人は集まるからさ。それこそバランスだよ。どこに基準をおくのかってことだと思う。

―じゃあ、日本の場合はどこに基準があるんでしょう。

MAAR:それこそ、ゆとり世代の子なんてホント面白いじゃん。海外がすべてだとも、日本がすべてだとも思ってない。アニメ大好きなラッパーが出てきたりさ(笑)。そういうフラットな感覚が今は重要なのかなと思う。フラットにモノを生み出すのって、実は一番大変な気もするんだけどね。

―そうですね。フラットな視点を保つのって、それこそキャリアを重ねている人ほど難しかったりもするし、個人の好みって少しずつ定まってきちゃうから。

MAAR:でも、俺はどんどんそこが定まらなくなってきてるんだけどね(笑)。

―それはかなり特殊な例ですよ(笑)。

MAAR:でもホント、ゆとり世代のフラット感はモノ作りに対する伸び代がすごくあると思う。俺、正月に原宿の「Ucess The Lounge」で4日連続パーティーをやったんだけど、ASOBISYSTEM(きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカが所属しているマネージメント事務所)にお昼のパーティーを任せたの。そしたら、最初に出てきたDJが読モかなんかの2人組で、前半は中田くんとかm-floをかけてて、「まあ、こんな感じだよね」と思ってたんだけど、途中からレン・ファキ(ベルリンのテクノシーンで人気を集めるDJ)とか固めのテクノをかけ始めて、最終的にはちょっとDJ NOBUくんみたいなインダストリアルテイストになって、気づいたらまわりの大人たちが踊り出してるんだよ(笑)。で、「この曲なんだろ?」と思って見に行ったら、CDにひらがなで「てくの」って書いてあるの。

一同:(爆笑)。

MAAR:その横には「はうす」って書いてあるやつもあって(笑)。

SHIGEO:アッツいなー、それ(笑)。

MAAR:やっぱり女の子の方が面白いことをやるよね。どっちかというと男の子はまとまってて、このジャンルのここを目指すって感じでしょ? 女の子は本気でフリーダムだから、平気で枠を壊しちゃうんだよね。

―男子よりも女子の方がずっと感覚的にやれちゃいますからね。

MAAR:そういうのを見てると、日本は文化的にもっと面白くなると思うから、自分としてはそこでひとつきちっとしたシステムを作ってあげたいと思うんです。それに、もちろん風営法もあるから、そこもなんとなく気にはしていて。

僕はもっと自分の編集能力を発揮していきたいんですよね。つまり、モノとモノや、人と人をくっつけたりすることでシーンに貢献していきたくて。(DARUMA)

―すごく面白い話ですね。でも、それってDARUMAさんが思っている事はまた違ったりするのかな。

DARUMA:どうだろう。僕はもっと自分の編集能力を発揮していきたいんですよね。つまり、モノとモノや、人と人をくっつけたりすることでシーンに貢献していきたくて。で、実は僕、DJ DARUMAとして今年の1月1日からLDH(EXILEのHIROが代表取締役社長を務めている芸能事務所)とサインしたんです。

―おお!

DARUMA:LDHの所属アーティストって、オリコンにたくさんの曲を送り込んでいる一方で、今のクラブでその曲がかかっているかと言ったら、そうじゃなかったりしますよね。でも、LDHの幹部の方々ってクラブやディスコの素晴らしさに理解のある人達ばかりだから、クラブシーンに対するリスペクトがすごくあるんですよ。そこで僕は何ができるかというと、それこそ今まわりにいるアンダーグラウンドのトラックメイカーたちとLDHのアーティストを結びつけて何か事を起こすことなんじゃないかなって。そこで本当にクラブで流れるものが作れたら、もしかするとオリコンに入るものが変わる可能性も孕んでいるかもしれないし。そうしたら、もちろんこの二人にもやってほしいことがあって。

―それはまたスケールの大きな話ですね。

MAAR:でも、本当テキトーにやってるんですけどね(笑)。

左から:DARUMA(DEXPISTOLS)、MAAR(DEXPISTOLS)、SHIGEO

―MAARさんはさっきからそうおっしゃってますけど、お二人ともそれぞれに大きな展望を持ってるし、それを実現させようとしてるじゃないですか。

DARUMA:だって、みんな楽しんでやってるからね。そこがすごく重要なんですよ。みんなが苦労しているのは当たり前なんだけど、それと同じくらいに楽しんで作ってる音楽を僕は聴きたいから。

MAAR:これだけ音楽産業やクラブがやばくなってるなかでも、トラックを作ったりDJをやりたがってるやつはまだまだいるしね。それに今の若い世代は、これからってときに震災を食らってたりするわけで、ただでさえ毎日とんでもないニュースが入ってくるんだから、いいんですよ。テキトーに好きなことやっちゃって。

―とにかく作りたい人は細かいことを気にせず、どんどん作っちゃえってことですね。

MAAR:そうそう。あと、ひとつ面白かったことがあってさ。ベルリンでものすごくオシャレなホテルに泊まったことがあって。そこの朝食を食べてるとき、すっごいオシャレなディスコダブがかかってて、「わー、かっこいいなー」とか思ってたら、その流れで浜崎あゆみのバラードがかかってさ。しかも、それがドンズバでハマってるんだよ。

SHIGEO:へぇー! それ、誰が選曲しているの?

MAAR:わかんない(笑)。でも、多分あっちの人からすると、ああいう繊細なコード感ってあまりないんだろうね。だから、いま韓国はトレンドに乗ったかっこいいことをやってるけど、日本は元々の土壌があるわけだから、もはや次はトレンドを作る側にいけるんじゃないかなと思ってて。これは日本人のエゴかもしれないけどね。で、その駒に自分たちも入れたらなとは思う。

DARUMA:そういえば、ジブさん(ZEEBRA)がトラックメイカーをどうやってチョイスするのかインタビューで話してて。それを読んで「なるほど」と思ったのが、若い人って制作環境は整ってないから音質に弱点はあるけど、トラックから感じられるパッションは生もうと思って生めるものじゃない。そういうエネルギーがほしいから、自分は若いトラックメイカーとやりたいんだって言ってて。で、今回のミックスCDに使わせてもらった子たちの環境も、けっこう酷かったりするんですよ。でも、そういう大変な状況で作ってる音って、たしかにそんなエネルギーがあるんですよね。

MAAR:制作環境が良くなった途端にトラックがイマイチになることもあるしね(笑)。だから、初期衝動に勝る者はなし! ものは言い様だけどね(笑)。

―そこで経験のある人がちゃんと見てあげられるかは重要ですよね。もはやみなさんはその才能を見ていく立場でもあるわけで。

SHIGEO:気がつけばすっかり大人だしね。もう、朝のクラブとかホントきつくなってるもん(笑)。ニューバランス履いてかないと、すぐに疲れて「もう帰りてー!」ってなっちゃうからさ(笑)。

MAAR:そっか。俺は逆だよ。帰りたがらない症候群に陥ってる(笑)。

リリース情報
DEXPISTOLS
『LESSON.8 TOKYO CULT』(CD)

2014年3月26日(水)発売
価格:2,940円(税込)
tearbridge records / avex group / NFCD-27355

1. Fake Eyes Production / Takeitall
2. Girl Unit / Club Rez
3. Taar / Wander Day(Dexpistols Lazy Rework feat. Ohli-Day, Jon-E & Kicc)
4. Franko / Purple Slacks(Original Mix)
5. Dexpistols / Do It Like This feat.Kohh(Demo Ver.)
6. Worthy / Lost Dog (Lucid Remix)
7. DJ Snake & Yellow Claw & Spanker / Slow Down
8. Dirtcaps / Hands Up(Yellow Claw Remix)
9. Anti Noise / Space F
10. Watapachi / CCC300
11. Maelstrom / House Music(DJ Dodger Stadium Remix)
12. Habanero Posse / Snake Cube
13. Sam Tiba / Dem Thirsty(Original Mix)
14. Ashra / The Man Need These Sometimes(Dexpistols Lazy Rework feat.K.A.N.T.A)
15. DJ Venum / N.O.W. Party Break
16. DJRS / 727
17. Dexpistols / H to T feat.DABO(Demo Ver.)
18. Victor Niglio / Jiggy feat. Mr. Man
19. Surkin / Stronger ft. Canblaster
20. Club Cheval / Decisions(Original Mix)
21. Mele / Stage 2(Original Mix)
22. Taar / Let Me Feel(Dexpistols Lazy Rework feat. ShigeoJD)
23. Todd Terry / Deejay(Original Mix)

プロフィール
DEXPISTOLS(でっくすぴすとるず)

DJ MAARとDJ DARUMAからなるDJユニット。2000年代後半に世界中で巻き起こったエレクトロムーブメントの波に乗りシーンの一線に躍り出る。結成当初よりLESSONシリーズとして様々な音楽作品を発表。2014年3月26日、最新作となる『LESSON.08 TOKYO CULT』をリリース。

SHIGEO(しげお)

The SAMOS, mold, ATOM ON SPHERE。プロデューサー ・サウンドクリエイター。作詞、作曲だけではなく、アートワークやPVのディレクションなどクリエィティブ全般をプロデュースする。バンド活動以外でも、リミックスワークや様々なアーティストへの楽曲提供、ファッションショー、アートインスタレーション、企業CMの楽曲制作など幅広い音楽活動を展開している。



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