謎の仮面を被るピノキオピー、ネットから飛び出し何を企んでる?

フォークとクラブミュージックを織り交ぜたキャッチーな楽曲制作から、キャラクターデザイン、商品プロデュースに至るまで、多彩な才能を発揮するマスク姿のボカロP・ピノキオピーが、昨年から本格的に始動したライブ活動の集大成として、10月に渋谷のclub asiaでワンマンライブを開催。その日の模様を収録したライブ盤『祭りだヘイカモン』を発表する(初回限定盤はDVD付き)。

ニコニコ動画での活動を経て、ボカロPが表に出てライブ活動をすることはもはや珍しくないが、ボカロと肉声を混ぜ合わせ、リアルタイムでサンプラーやエフェクトを用いるスタイルは珍しく、その電気グルーヴのようであり、THE CHEMICAL BROTHERSのようでもあるパフォーマンスからは、今後より大きなステージでの活躍が期待される。この日はライブでのサポートを務める相方・MK-2(マーク・ツー)にも同席してもらい、いかにして現在のスタイルへとたどり着いたのかをじっくりと語ってもらった。

―新作をライブ盤で出すという発想はどのようにして生まれたのでしょうか?

ピノキオピー:去年の末に「2015年はライブをやっていこう」という話をスタッフとしていて、実際今年はライブをたくさんやってきたんです。そういう中で、ボカロPでライブ盤を出してる人ってあんまりいないので、やってみようと思いました。家で作品を作って、ニコニコ動画(以下、ニコ動)で発表してるだけだと、活動がちゃんと伝わらない気がするんですよね。今回もトレーラー映像をあげたら、「ライブやってたんだ」ってコメントが付いたりしていて。僕がライブをやってることを知らない人もまだまだ多いので、作品としてリリースすることで、自分が外に出始めてることをもっとアピールしたいとも思いました。

―ピノさんはボカロを始める前は部屋でアコギを弾いて曲を作っていたそうですが、ライブはやっていたんですか?

ピノキオピー:いや、人前に立って何かをしたことはなくて。中学校のときに友達が生徒会長に立候補して、その推薦役でしゃべったくらい(笑)。高校のときは軽音部に入ってたんですけど、先輩が怖すぎて部室に行けず、バンドがやりたくてもできなかったんです。

―じゃあ、ライブを観に行ったりはどうですか?

ピノキオピー:ホントに好きなアーティストを2~3回観に行ったことがあるくらいですね。でも、今回パッケージにしたことにもつながる話なんですけど、家でTHE CHEMICAL BROTHERSとかいろんなライブDVDを何度も見て楽しんでいました。

―ライブを観ることは好きだけど、人がたくさんいる場所が苦手なタイプだった?

ピノキオピー:そうですね。ライブ会場に行ってみても、乗り切れない自分に対して、周りにはすごく乗ってる人たちがいて、疎外感とか温度差を感じることが度々あったんです。そんなときは声を出したり動いたりして、無理やり精神を持っていって楽しもうとはするんですけど。

ピノキオピー"
ピノキオピー

―そんなピノさんからすると、自分がライブを始めるのはハードルの高いことだったと思うんですけど、何がきっかけでライブをしようと思ったんですか?

ピノキオピー:GINGAの曽根原さん(ピノキオピーの所属レーベルのスタッフ)がイベントをやっていて、そこにちょくちょく呼んでもらっていたんです。「何をやってもいい、失敗しても構わない」って言ってもらって、そこに何回か出ることで、人前に立つのはそんなに怖いことではないと思うようになりました。最初の頃は酒を入れないと出れなかったんですけど(笑)。

―実際にライブをするようになって、どんな発見がありましたか?

ピノキオピー:思ったよりみんな乗ってくれるなって(笑)。自分が何か言ってリアクションが返ってくるなんて、まあ信じられなかったんですよ。ネットで活動してるときでも、コメントは流れるし、再生回数は増えるけど、向こう側に人がいる感覚はあんまりなくて。実際にライブの会場にいっぱい人が集まって、ちゃんと反応してくれることに、最初はすごくびっくりしました。

電気グルーヴの影響は確実にあると思うんですけど、だからこそ「自分たちらしさはどうやったら出せるのか?」ということばかり考えていました。(ピノキオピー)

―MK-2が隣にいて、ピノさん自身が歌ったり、リアルタイムでサンプラーやエフェクトなどを使う今のライブスタイルはどのように構築されていったのでしょう?

ピノキオピー:このスタイルで初めてやったのは、去年の12月に2.5Dでやった『しぼう』(2014年12月リリースの2ndアルバム)のリリースパーティーですね。

MK-2:ピノさんが「俺が歌った方がいいな」って言い始めて、でも歌いながらだとミキサーをいじったりするのが難しいから、誰かいた方がいいよねって言ってたときに……。

ピノキオピー:すぐ近くにMK-2がいたんです。それで同じマスクをつけてステージに立ってみたら、客観的に見て佇まいがいいなと思って、それからずっとこのままやってきました。

ピノキオピーとMK-2"
ピノキオピーとMK-2

―自分で歌った方がいいと思ったのはなぜだったんですか?

ピノキオピー:最初は録音されたボカロの声だけを流してやってたんですけど、それだとあんまりライブ感が出なくて。それでボカロの上に自分の声を乗せてみたんですけど、それだけだとグルーヴが出ないから、ボカロを外して僕だけ歌うパートを作って、掛け合いにしてみたり。ボカロで好きになってくれた人からすると、僕が出しゃばってる感が出ちゃうかなとも思うんですけど、やっぱりライブ感が重要だと思ったんです。

―ライブのあり方に関して、誰か参考にした人はいますか?

ピノキオピー:僕はやっぱり電気グルーヴ(以下、電気)が好きなので、その影響は確実にあると思うんですけど、参考にするというよりは、「電気がすでにやってるからできないな」って思うことの方が多いですね。電気と被らないように、「自分たちらしさはどうやったら出せるのか?」ということばかり考えていました。

MK-2:ピノさんはラジオとかから電気の精神性にものすごく影響を受けてるんです。僕はどっちかというと物理的な部分で影響を受けていて。わかりやすく言うと、馬の格好をして出て行ったら面白いとか、ものを投げたら面白いとか、表面的な感じ。でも、ピノさんはリスペクトが強すぎて、電気と同じことをするのはおこがましいと思っちゃってるんですよね。

ピノキオピーのライブ風景"
ピノキオピーのライブ風景

ピノキオピー:ホントに怖いんですよ。二人でステージに立ってるというだけでも被ってるんじゃないかと思っちゃうぐらい。ただ、結局電気みたいにはなれないというか、僕は前に出られない側の人間として憧れの眼差しで電気を見ていて、出られない側のまま今に至ってるんです。その微妙に吹っ切れない部分が、自分らしさなのかなって。ライブを始めた頃に比べれば、少しは堂々としてきたと思うんですけど。でも、そういう自分だからこそできる面白いやり方があるんじゃないかと思ってるんですよね。

ボカロって人の温度がないからこそ好きだっていう人もいるけど、僕はボカロを引き連れた状態で歌っていることに意味があると思ってます。(ピノキオピー)

―今年1年間積極的にライブをやってきて、特に印象に残ってるライブはありますか?

ピノキオピー:今年の春の『ニコニコ超会議』は印象深いですね。その頃はまだ恐る恐るライブをやっていたんですけど、あの日でだいぶ方向性が固まったと思います。大勢のお客さんの前でやる気持ちよさも初めて味わいました。

MK-2:前ノリして、「明日どうする?」って酒を飲みながら話をして、次の日を迎えるっていう、バンドマンがするような一連の流れを経験したのはあれがほぼ初めてだったよね。

ピノキオピー:細かく段取りの話をするようになったのはその頃からですね。「マスク洗う?」とか(笑)。目の周りを黒く塗るための色落ちしにくいインクを、東急ハンズに買いに行ったら、重鎮みたいな人が「これがいいですよ」って薦めてくれて、実際それで塗ったマスクを洗濯機にかけても落ちなかった(笑)。

―アルバムに収録されているclub asiaでのライブ『祭りだヘイカモン』に関しては、何かコンセプトやテーマがあったのでしょうか?

ピノキオピー:やっぱり「祭り」なので、ドンチャン騒ぎをしたいし、かっこつけるよりも楽しいことをやりたいなって。今年ずっと続けてきたことの集大成が見せられればと思って、実際それはできたと思います。

―昔は人がたくさん集まる場所が苦手という話でしたが、ライブを繰り返していく中で、今はそういう場所を自分で作りたいと考えるようになったわけですか?

ピノキオピー:そうです、そこは変わりましたね。ボカロって人の温度がないからこそ好きだっていう人もいるけど、僕はすべてをかなぐり捨てるわけじゃないというか、ボカロを引き連れた状態で歌っていることに意味があると思ってるんです。さっき「吹っ切れないのが自分のよさ」って言いましたけど、ライブは全部人じゃないといけないわけではなくて、ネットでやってきたことも残せたらいいかなって思ったりもして。

ピノキオピーとMK-2"

―ピノさんと同じようにボカロPとして出てきた米津玄師さんは自分の声で歌唱することを選んで、ヒトリエのwowakaさんはバンドというスタイルを選んだわけですが、自分がやるのはそうではないと。

ピノキオピー:みんなホントかっこいいですよね(笑)。でも、自分がああいう風にできるかというとできないと思うし、もうやってる人がいることをやるよりも、まだ誰もやってないことをやりたい。それで今の形になったのかなって思います。

僕は過去の自分や、自分に似た境遇にいる人に向けて曲を作ってることが多いので、自分と似たような人が来てくれたのかな。(ピノキオピー)

―マスクをつけたままライブに出ていくというのも、ある意味ネットと地続きな部分ですよね。

ピノキオピー:そこに関しては迷った結果、やっぱりこれがしっくりくるんです。別に顔を出したくないわけでもないんですけど、他のボカロPはみんなが顔を出し始めてるから、それに便乗して顔を出すのも何か違うなと。まあ、すごい周りを見ちゃってるってことなのかもしれないですけど。

ピノキオピーとMK-2"

ピノキオピーとMK-2"

―ピノさんの歌詞は主観で貫かれているわけではなく、1曲の中にいろんな視点が含まれているわけで、その意味でもボカロを残すことや、匿名性を維持することの意味は大きいように思います。

ピノキオピー:僕はもともと漫画も描いていたので、自分の考えをそのまま自分が発信するというよりは、何かに代弁させて出したいんですよね。だからボカロを使っているし、マスクを被ることで自分をキャラクター化しているところもある気がします。「自分じゃない人がやってる」という、そこは自分の作風と結びついてるのかもしれないですね。

―そのキャラクターが、ライブだと一人増殖すると(笑)。当日のライブに対する手応えはいかがでしたか?

ピノキオピー:「これ映像化されるんだよな」って思いながらやってたんで、慎重でした(笑)。もちろん楽しかったんですけど、満足したというよりは、まだ発展途上だなと思っています。それにしても、平日なのによくみんな来てくれましたよね。女性よりも男性の方が多かったのも興味深かったです。ニコニコ生放送をやっているときにアンケートをとると、大体男女比率が半々なんですけど。

―それって自己分析すると何が理由だと思いますか?

ピノキオピー:僕は過去の自分や、自分に似た境遇にいる人に向けて曲を作ってることが多いので、自分と似たような人が来てくれたのかなと。まあ、そこに男女は関係ないかなとも思うんですけど。

―でも、きっとそうですよね。普段ライブに行くのは躊躇してたけど、ピノさんのライブだから来てみたっていう人もいたんじゃないかなって。

MK-2:ライブ中にいきなりお客さんとハイタッチし始めたんですよ。予定になかったから、後ろから見てて「俺が機材いじらなくちゃ」って(笑)。

ピノキオピー:“ラブソングを殺さないで”という曲でやったんですけど、あの曲は歌謡曲っぽいんで、「イェー!」っていうハイタッチではなくて、ディナーショーでやる「ありがとうございます」っていう感じなんですけどね(笑)。

ピノキオピーのライブ風景"

MK-2:でも、“頓珍漢の宴”でもやってたよね?

ピノキオピー:あ、やってた……高ぶってたんでしょうね、珍しく。あのときは冷静じゃなく、感覚的にやってました。あとから見たら恥ずかしいなって思うんですけど(笑)。

まずは『フジロック』に出たくて、その先の目標は『紅白(歌合戦)』。ニッチな方向に行きたいとは思ってないんです。(ピノキオピー)

―来年以降も積極的にライブ活動を行っていく予定ですか?

ピノキオピー:喜ばれる幅が広がるのであればやりたいなと思います。

―つまり、ニコ動のファンだけじゃなくて、より広い層に届けたいと。

ピノキオピー:そうですね。ネットに作品があがってても、作品そのものでしかないというか、誰が作ってるかは、結構みんなどうでもよかったりすると思うんです。今はその中の一部が僕のことに興味を持ってくれてると思うんですけど、そういう人をもっと増やしたいなと思っています。

―そのための手段が、ライブだと。

ピノキオピー:ネットにあるものって、勝手に生まれて勝手に消えていくイメージなんで、人がそこにいないような感じがするんですよね。でも、ライブならばそこに人がいるので、「俺いるよ」とか「俺が作ってるよ」って、ちゃんと伝えられる。

―途中で名前を出した米津さんやwowakaさんも、きっとその想いは一緒でしょうね。ただ、彼らは自分が歌うことによって、ボカロファン以外の層にもアピールできたと言えると思うのですが、ピノさんはボカロも使いつつ、どのようにより広い層にアピールしようとお考えですか?

ピノキオピー:ボカロの声がある時点で、イロモノ感はあるだろうなって思うんです。なので、自分のボーカルの分量をもう少し増やして、半々ぐらいでもいいのかなと思っています。それこそ、BUMP OF CHICKENとか安室奈美恵さんも、自分の声と初音ミクの半々でやったじゃないですか? なんでボカロシーンの人がそれをやらないで、外部の人がやってるのかなと思ったりもするので、僕がああやってやるのもありなんじゃないかなって。

ピノキオピーのライブ風景"

―ライブに関して、何か目標はありますか?

ピノキオピー:まずは『フジロック』に出たくて、その先の目標は『紅白(歌合戦)』に出ることですね(笑)。

―あ、“祭りだヘイカモン”だから、北島三郎さんとコラボできますよ!(笑)

ピノキオピー:ニッチな方向に行きたいとは思ってないんですよね。自分が面白いと思うことが、いろんな人に伝わってほしいと思うので、『紅白』にもぜひとも出たいですね。国民的に愛されることが目標です!

リリース情報
ピノキオピー
『祭りだヘイカモン』初回限定盤(CD+DVD)

2015年12月9日(水)発売
価格:3,996円(税込)
UMA-9070/1

[CD]
1. 敵か味方かピノキオピーか
2. ありふれたせかいせいふく
3. 空想しょうもない日々
4. アイマイナ
5. ぼくも屑だから
6. 昨日、パンを食べました
7. 頓珍漢の宴
8. 腐れ外道とチョコレゐト
9. Last Continue
10. 祭りだヘイカモン
11. マッシュルームマザー
12. ラブソングを殺さないで
13. すろぉもぉしょん
14. こあ
15. どうしてちゃんのテーマ
[DVD]
1. 敵か味方かピノキオピーか
2. ありふれたせかいせいふく
3. 空想しょうもない日々
4. アイマイナ
5. ぼくも屑だから
6. 昨日、パンを食べました
7. 頓珍漢の宴
8. 腐れ外道とチョコレゐト
9. Last Continue
10. 祭りだヘイカモン
11. マッシュルームマザー
12. ラブソングを殺さないで
13. すろぉもぉしょん
14. こあ
15. どうしてちゃんのテーマ

ピノキオピー
『祭りだヘイカモン』通常盤(CD)

2015年12月9日(水)発売
価格:2,160円(税込)
UMA-1070

1. 敵か味方かピノキオピーか
2. ありふれたせかいせいふく
3. 空想しょうもない日々
4. アイマイナ
5. ぼくも屑だから
6. 昨日、パンを食べました
7. 頓珍漢の宴
8. 腐れ外道とチョコレゐト
9. Last Continue
10. 祭りだヘイカモン
11. マッシュルームマザー
12. ラブソングを殺さないで
13. すろぉもぉしょん
14. こあ
15. どうしてちゃんのテーマ

プロフィール
ピノキオピー
ピノキオピー

2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表をはじめ、ピノキオピーとして活動開始。作曲活動のみならず 動画内のイラストや漫画の執筆、様々な商品プロデュースワーク等のクリエイティブワークも行う。2013年には携帯電話「Xperia feat. HATSUNE MIKU」連動コンセプトCD『ミクスペリエンス e.p.』に楽曲提供を行い、2014年にはぺんてる「i+ × 初音ミク」コラボレーションや「ファミマ×初音ミク 秋キャンペーン」のテーマソングを担当するなど、社会的活動にも活動の場を広げている。作風は、お祭りどんちゃん盆踊り型ダンスミュージックから、しっぽりノスタルジックフォークトロニカ、屈折したセンセーショナル青色ロックまでと、幅広いサウンドを発信する。現在、全国ライブツアーを計画中。



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