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メジャー映画の限界を知り転機をつかんだ入江悠が前川知大と語る

メジャー映画の限界を知り転機をつかんだ入江悠が前川知大と語る

『太陽』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:西田香織 編集:野村由芽

久しぶりに「あ、これ、何かモノを作っているな」っていう実感がありました。(入江)

―前川さんは、実際に映画を見ていかがでしたか?

前川:原作者として「これじゃない」っていうのが全然なかったので、そこがすごいなって思ったし、率直に嬉しかったですね。実は僕が最初に書いた脚本では、登場人物たちがどんな家に住んでいて、どんな服を着てて……みたいなことは、ほとんど描写してないんです。舞台の美術もちょっと座れるベンチと鉄柱みたいなものがあるぐらいで、ものすごく抽象化していましたし。

『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会
『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会

―そうだったんですか。

前川:芝居というのは、俳優なり劇場なり、そのときどきの条件のなかで作っていくものですし、台詞や美術を糸口に、お客さんの頭のなかでディテールを想像してもらう表現形式でもあるので。ただ、僕のなかでこれが正解っていう漠然としたイメージはあるので、監督が実際に撮った映像を見るまで、不安なところもあったんですけど。

―お互いのイメージの擦り合わせみたいなことを、実際にされたのですか?

入江:細かいビジュアルというよりは、この物語の主軸である「ノクス」と「キュリオ」について相当話しました。神木(隆之介)くんや門脇(麦)さんが演じる旧人類の「キュリオ」のほうは、わりとすぐにイメージできたんですよ。僕らには、昭和期や戦前の記憶や記録があるから、「キュリオ」の生活の貧しさは、イメージできるんです。ただ、古川(雄輝)くんらが演じる「ノクス」という未来の人間については、参照するものがないんですよね。

『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会
『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会

前川:そもそも、人間以上の存在という設定なので、僕ら人間にはなかなか理解できない(笑)。ただ、「ノクス」というのは現在の僕たちの理想の反映だし、やろうと思ってもできないことをクリアしている存在なんですよね。そこから逆算して、今、僕らの前に、文明的、社会的にどんな壁があって、どうしてそれを超えられないのかを考えていった。「ノクス」について、監督と2時間ずっと話し続けたりもしましたよね(笑)。

入江:ずーっと話していましたね(笑)。でも、そうやって考える作業が、僕は非常に楽しかったというか、久しぶりに「あ、これ、何かモノを作っているな」っていう実感がありました。

前川:僕はこの戯曲の作者ですが、書いた時点では全てを理解しているわけではないんですよ。でも映画を作るうえで、入江監督といろいろ話し合ったり、自分で小説版を書くなかで、改めて理解を深めていきました。普段自分の作品を、ここまで耕すことってなかなかないですよ。

前川知大
前川知大

―一度作り終えた作品を映画化する作業のなかで、新しい発見があったりも?

前川:はい。この『太陽』という話は、もともとヴァンパイアものとしてスタートしたところがあって、やればやるほど「ノクス」という存在が、「死者」に近づいていく感じがあるんですよね。で、今回発見したのは、映画のなかで「キュリオ」の村と「ノクス」の町のあいだに川が流れていて、大きな橋が架かっていて。その川から湯気がバーッと立ち上るシーンを思い出しながら、これはそれこそ「三途の川」なんじゃないかと思ったんですよね。

―彼岸と此岸を分ける「三途の川」ですか?

前川:そうそう。彼岸と此岸の感じがすごく出ていて、そうするとますます「ノクス」の本質が、歳をとらないことも含めて、ある種「冥界」のイメージとも繋がるのかなって。

入江:なるほど。そう考えると、黒沢清監督の『岸辺の旅』とかにも、ちょっと近づいていきますよね。死者と生者が普通に一緒に生活できてしまう社会のあり方というか……。「ノクス」という存在を突き詰めると、まだまだ面白いことが浮かびそうだな。

あのクライマックスシーンの長回しは、映画ならではの演出ですよね。(前川)

―そもそもSFというもの自体が、ある特殊な状況を設定して、そのとき人間はどうなるか? という思考実験をおこなう表現形式でもありますもんね。ところで、前川さんの脚本には細かい演出が書かれていなかったということですが、ロケハン含め、映画のルックはどのように決めていったのですか?

入江:今回、近藤龍人さんという同世代では最高峰の撮影監督にお願いして。ずっと一緒に仕事をしたかったんですけど、なぜかというと、近藤さんは自然を撮るのがすごくうまいんですよね。僕らは撮影中に、どうしても俳優さんの顔を中心に見てしまうけど、近藤さんの撮影って、「その環境のなかにいる人」を、ちゃんと捉えてくれるんです。どの映画を見ても、それがすごく際立っている。

『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会
『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会

―たしかに、最近の多くの話題作が、近藤さんの撮影によるものですよね。

入江:『そこのみにて光輝く』(2014年)もそうでしたし、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)でも学校という状況にいる人をちゃんと撮っている。近藤さんだったら、「キュリオ地区」というもののなかにいる人たちを、きっちり捉えてくれるんじゃないかと思ったんですよね。

―さらに撮り方についてもう一つお聞きしたいのですが、重要なシーンで長回しを使っているのにはどんな狙いがあったのでしょう?

入江:この物語って、ある状況で右往左往している人たちの話じゃないですか。だから、あんまり顔に寄るんじゃないだろうなとは思っていて。今回は主人公の鉄彦(神木隆之介)と結(門脇麦)が、おのおのの環境のなかで、いつのまにか変化していく様子をワンカットで見せることができないかなっていうのがあったんですよね。最後のクライマックスにしてもそうですけど、部屋に入ってきたときと出ていくときで、人生が変わってしまうという状況を時間的な継続のなかで見せたかった。

『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会
『太陽』 ©2015「太陽」製作委員会

―そうやって状況そのものを見せる感じも、ある意味演劇的なのかなって思いましたが。

入江:いや、お芝居はむしろ、クロースアップがあるんじゃないですか?

前川:ありますね。視線の誘導というか、そのための演出というか、今ここを見てくださいっていう誘導は、すごくするので。

入江:それって、演出できるものなんですか?

前川:別にスポットライトで抜かなくても(笑)、俳優の動きとか位置取りとかで、ある程度できますね。だからむしろ、入江さんが『太陽』でやってる長回しというのは、ここを見ろと主張するのではなく、覚めた視点で事実を映し続けるというような、無慈悲さを感じました。あのクライマックスシーンを演劇でやったら、結構なスペクタクルになるし、そこに自然とお客さんの気持ちが入っていくんですよね。だけど、映画の場合だと、見てる側としてはもうどうしようもできない感じというか、ものすごい無力感に襲われる。その違いが面白かったです。

左:入江悠

入江:わかります。映画は演劇より、もう一個遠くのイメージなんですよね。

前川:そう、遠いんです。演劇だと、そこに居合わせる「体験」になるんですけど、それとはまたちょっと違う。

入江:あのクライマックスシーンも、近藤さんの力が相当大きいと思います。運命の歯車が動き出したら、もう周りが何を言っても止まらない感じが、より強くなっているというか。そこは僕もまだ不思議なんですけど、カメラを通すとなぜかそういう感じになるんですよね。

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作品情報

『太陽』

2016年4月23日(土)から角川シネマほか全国公開
監督:入江悠
脚本:入江悠、前川知大
原作:前川知大『太陽』
出演:
神木隆之介
門脇麦
古川雄輝
綾田俊樹
水田航生
高橋和也
森口瑤子
村上淳
中村優子
鶴見辰吾
古舘寛治
配給:KADOKAWA

プロフィール

入江悠
入江悠(いりえ ゆう)

1979年生まれ。神奈川県出身、埼玉育ち。日本大学藝術学部映画学科在学中から映画祭で注目を集める。短編映画がゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門に2年連続入選し、2006年に初の長編映画『JAPONICA VIRUS』が全国劇場公開。埼玉でくすぶるヒップホップグループの青春をリアルに描いた『SR サイタマノラッパー』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門グランプリをはじめ数多くの賞を受賞。その後、『SR サイタマノラッパー』は続編が2作制作された。2010年に第50回日本映画監督協会新人賞を受賞。2011年には『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で高崎映画祭若手監督グランプリを受賞。オリジナル作品から大作まで手掛ける、日本映画界に欠かせない若手監督の一人。

前川知大
前川知大(まえかわ ともひろ)

劇作家・演出家。1974年生まれ。2003年に結成した、劇団イキウメを拠点に、脚本と演出を手がける。イキウメは、「日常に潜んでいる不思議なこと、その理屈や答えを舞台ででっち上げてみよう」、という会。SFやホラー、オカルトなど、市民生活の裏側にある異界を、超常的な世界観で描く演劇作品を作っている。読売演劇大賞、芸術選奨新人賞、紀伊國屋演劇賞など国内の演劇賞を多数受賞している。映画の脚本を手がけるのは今回が初。舞台「太陽」の脚本は第63回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞を受賞。脚本とは別に小説「太陽」を執筆、2016年2月KADOKAWA刊。

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