布袋寅泰が語る、イギリスでギアを入れ直し初心に戻った今

「布袋寅泰」の名前を聞いたとき、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ロックバンドBOØWY、吉川晃司とのユニットCOMPLEX、ギタリストとしての新境地を開拓したGUITARHYTHM、『アトランタオリンピック』閉会式セレモニーでの名演、映画『キル・ビル』挿入曲の世界的ヒット、さらなる夢を追い求めてのイギリス移住など、たくさんのキーワードが脳裏に浮かぶことだろう。

日本のロックシーンの頂点に君臨し、世界へチャレンジを続ける布袋寅泰から、最新ロックチューン『202X』が届いた。往年のHOTEIヒットソングの系譜を感じる疾走感溢れる本作は、『北斗の拳』連載35周年を記念して書き下ろされた、8年ぶりに『北斗の拳』シリーズとコンビを組んだナンバーだ。

2018年は、The Brian Setzer Orchestraの25周年記念来日ライブや、イタリアの国民的英雄シンガー・ズッケロとの共演が続いた。10月からのヨーロッパツアー『Euro Tour 2018』や国内ツアー『HOTEI Live In Japan 2018 ~TONIGHT I'M YOURS TOUR~』も控え、ワールドワイドに自由度の高い活躍を続ける布袋に話を聞いてみた。

自分でチケットを買って、パブで1杯ビールを飲んでからライブを観に行きます。

—イギリスに移られて、もう6年目になりますね。イギリスでの生活は布袋さんにどんな影響を与えてくれますか?

布袋:イギリスに渡ったからって、ギターが急にうまくなるわけじゃないよね(笑)。ずっと東京のリズム、ビート感というか、時間の流れに30年以上浸っていたわけで。それに比べるとイギリスの時間の流れはとてもゆったりだし、時にイライラするぐらい何も起こらない。

そんな中で、いろんなものを見たり、自分自身を見つめ直したりする時間も豊かにあるし、東京と行き来をすることで、逆に仕事モードに切り替えて東京スタイルで仕事もできるし。自分にとっては、そのバランスがいいみたいだね。それこそ、僕が1番気に入ってる『Paradox』(2017年リリース、17thアルバム)は、長年描いていた理想に近いアルバムが作れたと思っているけど、イギリスへ移ってからの変化が反映されているんじゃないかな。

布袋寅泰

—テロ事件を描くなど、歌詞の世界観へ反映されていましたね。

布袋:そうだね。生々しく目の前で起きたことを書いていて。あと、コード進行が少なくなっているよね。日本語って説明的になってしまいやすいから、センテンスに合わせてコードを変えたくなっちゃうけど、海外はもうちょっと骨格っていうかずっしりと響く、そして踊れる大きな流れなんだよね。それがビートの根源だと思うし。そう考えるとモノ作りは変わってきたかもね。

—ロンドンではライブもいろいろ観られているようですね。

布袋:自分でチケットを買って、パブで1杯ビールを飲んでからライブを観に行きます。だいたい向こうはメインアクトが始まるのが21時とか22時だから。夜中超えてもやってますからね。イギリスには、そういうライフスタイルが残っていて。日本はやっぱり、僕のコンサートも早い時は17時開演とかでしょ。向こうはお酒を飲んで、それからライブで盛り上がるっていう大人が楽しめる文化がありますよね。

—最近観て印象的だったライブはありますか?

布袋:この間は、友達のsigue sigue sputnik(イギリスのロックバンド)のギタリスト、ニール・エックスに誘われて、グレン・マトロック(SexPistolsのベーシスト)のライブに行ったら、Glen Matlock Bandにデヴィッド・ボウイ作品に参加したアール・スリックと、クリス・スペディングがいるわけよ。

—ロック好きにとっては夢のようなすごいライブですね!

布袋:そのときは、いちロック少年に戻ったよね。その後に、その模様をInstagramにポストしたら、グレン・マトロックから逆にフォローしてもらっちゃて。「わ、ピストルズからフォローされちゃったよ」なんて(笑)。

—すごいことです。

布袋:僕が10代、20代のころに影響を受けた1980年代や1990年代のニューウェーブ、パンク、モダンポップ、アートロックの人たちがいまだに向こうでは精力的にやってるんです。先日は、Echo&the Bunnymenや、The Theとかを観ました。Royal Albert Hall(1871年からあるイギリスの演劇場。キャパは8000人程度)がいっぱいに埋まるんですよ。

—なるほどです。最近のバンドで気になったアーティストはいました?

布袋:Saint Agnesっていうゴスブルースなバンドは良かったな。やっぱり、向こうのバンドは力あるね。悔しいけど。観に行くと、それなりに発見はあるし楽しいですよ。

—音楽を聴く環境は変わりましたか?

布袋:最近また、ヴァイナル(レコード)を買ったりして、懐かしいやつを聴き直したりしてます。テクノやドラムンベースを扱うDJ専門のレコードショップに行ったりして。昔は、新宿レコードに通ったりしていたレコードマニアだったんだけど、この間、ジャケ買いどころか触ったものを2~3枚買ったりして、楽しかったよ。今はSpotifyで全部聴ける時代だけど、レコードは楽しみ方がいろいろあるからいいよね。

—今、若い世代の間でもレコード文化が見直されていますもんね。

布袋:イギリスでも日本でも、それは起きているみたいだね。

行き詰まった未来の中では、ただうなだれるんじゃなく、愛と勇気が大事なんだよね。

—最新シングル『202X』を聴かせていただきましたが、布袋さんらしいアッパーなロックチューンですね。タイトルもですが、『北斗の拳』からのインスパイアが大きかったのでしょうか?

布袋:そうだね。前作のアルバム『Paradox』で、ようやく深みが出て円熟できた感じがありました。デヴィッド・ボウイの遺作となったアルバム『Blackstar』(2016年リリース)を聴いたときに衝撃を受けて、アルバムっていうものの大切さ、今を生きている証を感じたんだよね。だから、たとえ、これが最期のアルバムになっても誇れるような作品を作りたいって思ったんですよ。

「ザ・HOTEIリフサウンド」は、これまでいっぱいやってきたからしばらくは出さないでいたんだけど、『北斗の拳』という特別なコラボレーションのお誘いとなると、久しぶりにラオウとケンシロウに会えるものだから、封印していたサウンドに火がついたんですよ。思う存分、HOTEIリフが出てきたという意味では、ファンからするとウェルカムなのかもしれないね。

—限定盤には、ARマーカーピックが封入されていて、スマートフォンの専用アプリをかざすと、布袋さんとメンバーのバーチャル3Dフィギュアが出現するんですよね。まさか布袋さんがラオウとケンシロウとバーチャルバンドを結成したMVや、スマホでのAR施策をやるなんて。面白かったです。

布袋寅泰と『北斗の拳』のケンシロウ、ラオウの3人によるバーチャルスーパーバンドが出現する

布袋:名作と呼ばれた20世紀のSF映画が描いた未来を、2018年に生きる僕たちは超えているわけじゃない? そこではAIがあったり、VRやARなどのテクノロジーと共存しながら生きていて。その上で、新たにSFコミックのマスターピースである『北斗の拳』と向き合うのは意義あることだと思います。いろんなクリエイターが集結した面白いプロジェクトですよ。

—“202X”では、歌詞にラオウの決めフレーズである「我が生涯に一片の悔い無し」をキーワード的に取り入れられていますよね。作詞を担当した森雪之丞さんとは、どんなお話をされましたか?

布袋:2018年という、未来の中に我々はいるわけで。これから20年先なんて読めないじゃない? いいこともありそうだけど、そうじゃないことの嫌な予感の方が大きくて。そんな行き詰まった未来の中では、ただうなだれるんじゃなく、愛と勇気が大事なんだよね。

だから、ラオウの名セリフからインスパイアされた歌詞を取り入れました。誰もが思う、悔いのない生き方をしたいという思いは、自分自身がイギリスで暮らし、チャレンジしていることと重なる部分もある。森さんはラオウ目線だけど、俺の背中を描いてくれたと思うんですよね。もちろん『北斗の拳』のテーマソングなんだけど、今を生きる、今を闘う人間のテーマソングに仕上がったと思います。

—若い世代へのエールのようにも感じますね。

布袋:そう感じてもらえたら嬉しいよね。

向こうは夏休みになると誰も仕事をしないから(笑)。日本はお盆でも働くじゃん?

—カップリング曲の“BOMBASTIC”は、インスト曲であることなど、海外でのライブ経験から生まれたナンバーなのかなと思います。

布袋:インスト曲というのは、ギタリストにとって勝負でもあって。僕は、コードのテンションでじっくり聴かせるタイプじゃないし、ブルースのギタリストでもないし、ジェフ・ベックは好きだけど、ジェフ・ベックでもない。僕の特徴は、やっぱりリフなんだよね。ダンスしながら演奏するのが僕のスタイルだと思うし。それを大げさに増幅させた形が“BOMBASTIC”なんです。

この曲は大胆にブラスも入れて、ロンドン公演はブラスセクションも入ります。今回だけじゃなく、今作っているワールドワイドに向けたアルバムは、こういったスタイルも1つのカラーにしていこうと思ってます。理屈抜きに楽しいしね。

—早くも、アルバムの制作に取りかかられているのですね。

布袋:3~4月ぐらいからちょっとずつスタジオに入って、断片作りを始めたけど、そのころにブライアン・セッツァーやズッケロとのセッションがあって、いろんなインスパイアを受けたんですよ。

次の作品は、描きたい世界が見えるまで時間がかかりましたね。というのは、脱『Paradox』したいっていうのがあって。『Paradox』が満足度高かったので、少しプレッシャーを感じることもあったんです。本当は今回のツアーにアルバムを間に合わせたかったんだけど、急ぐものでもないしね。

なので、じっくり時間をかけて来年のしかるべきリリースに向けて作っています。これはワールドワイドへの勝負作になると思う。いろんなプロデューサーと意見交換しながら、ちょっとずつ進めてますが、向こうは夏休みになると誰も仕事をしないから(笑)。日本はお盆でも働くじゃん? 向こうはお盆ないけどさ(笑)。

—ははは(笑)。

布袋:とにかく、向こうは休みが多いんですよ。例えば、今日話した依頼が2か月後、みたいなことが当たり前だから。なかなか思い通りに行かないよね。でも、逆に言えばその時間の中で、作ったものとしっかり向き合うことができるんですよ。俯瞰で確かめながらシンプルに削ぎ落とすっていう、日本ではできなかった作り方ができるようになったんで。まだ時間はかかるけど、いい作品になると思います。

スリルがあってロマンチックで楽しくて元気が出て泣ける、そんなロックでありギターの1番カッコいいところをばら撒きたい。

—10月からヨーロッパツアーに続いて、国内ツアーが始まりますが、今年は珍しくアルバムのリリースに縛られないツアーであるというのが楽しみですね。

布袋:自由だから、ファンのみんなには懐かしい『TONIGHT I'M YOURS』というタイトルにしてみました。1999年の『GREATEST HITS 1990-1999』というベストアルバムの時の最終公演のツアータイトルです。

その名の通り、「今夜の俺はお前のものさ」っていう、「君の聴きたい布袋を届けよう」って思いが強くて。ありがたいことに35周年を経て、BOØWY時代からのファンも足を運んでくれるし、10代のギター少年少女や新しいファンの方も来てくださっている。ひとつの世界観じゃない、スリルがあってロマンチックで楽しくて元気が出て泣ける、そんなロックでありギターの1番カッコいいところをばら撒きたいなと思っています。ここ数年は、いろんな舞台で自分を磨いてきたから、とにかくパフォーマンスに対して自信があります。あまり迷うことはなくなりましたね。

—布袋さん自身も楽しまれる、素晴らしいツアーになりそうですね。

布袋:今は、「自分が楽しめればいんじゃないの」って思うところもあって。実際、韓国のBTS(防弾少年団)のように、英詞で歌わなきゃ伝わらないという時代じゃなくなってきたしね。やっぱ、僕自身がオーディエンスに気を使っちゃだめだよね。

—母国語で歌うと、海外進出の際にいい意味で差別化ができますね。

布袋:そうだね。インタビューで「これだけキャリアがあって日本にファンがいたら、日本で活動しなくても十分なんじゃないですか?」なんて言ってくれる人もいるんだけど、そんな甘いもんじゃないよね。自分のやりたいことで生きていくのは、そう簡単なことじゃない。

だから、イギリスに渡ってギアを入れ直して、初心に戻って自分のやるべきことと向き合えたことは、絶対的に正解だったと思っています。答えはまだ出てないけどね。

—布袋さんは、ずっとブレない方なんだってことがよくわかりました。

布袋:自分で選んだ道だからね。辞めたら支えてくれる家族に申し訳ないし、ファンに合わせる顔がないよ。自分っていうギタリスト、人間が自分らしく進んでいったらどこまで行けるだろう? っていう、旅みたいなものだね。だから、地位や名誉みたいな結果はあまり気にしてない。だけど、勝負するときはスイッチを入れるから、来年はやるべき時がきたなって、スイッチ入れて頑張りたいね。

リリース情報
布袋寅泰
『202X』完全数量限定盤(CD+DVD)

2018年9月19日(水)発売
価格:3,240円(税込)
TYCT-39087

1. 202X 『北斗の拳』202Xテーマソング
2. Bombastic

※『202X』バーチャル3Dフィギュア(ARマーカーピック3枚セット)付き

完全数量限定盤付属のARマーカーピックに専用アプリを起動してスマートフォンをかざすと、布袋寅泰とメンバー2名がバーチャル3Dフィギュアになってスマートフォンの画面内に出現。ニューシングル「202X」の演奏を楽しむことができる。

※バーチャル3Dフィギュアを楽しむためには、ARマーカーピックと専用無料アプリ「ひかりTV-VF」アプリが必要です。

布袋寅泰
『202X』通常盤(CD)

2018年9月19日(水)発売
価格:1,080円
TYCT-30079

1. 202X 『北斗の拳』202Xテーマソング
2. Bombastic

イベント情報
『HOTEI Live In Japan 2018 ~TONIGHT I'M YOURS TOUR~ supported by ひかりTV』

2018年11月10日(土)
会場:兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール

2018年11月16日(金)
会場:宮崎県 延岡総合文化センター

2018年11月18日(日)
会場:佐賀県 佐賀市文化会館

2018年11月22日(木)
会場:北海道 わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)

2018年11月23日(金・祝)
会場:北海道 帯広市民文化ホール

2018年11月25日(日)
会場:新潟県 長岡市立劇場

2018年11月26日(月)
会場:東京都 NHKホール

2018年11月29日(木)
会場:富山県 砺波市文化会館

2018年11月30日(金)
会場:愛知県 日本特殊陶業市民会館フォレストホール

2018年12月2日(日)
会場:静岡県 静岡市民文化会館

2018年12月6日(木)
会場:神奈川県 神奈川県民ホール

2018年12月8日(土)
会場:広島県 福山リーデンローズ

2018年12月9日(日)
会場:福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール

2018年12月12日(水)
会場:埼玉県 羽生市産業文化ホール

2018年12月14日(金)
会場:千葉県 市川市文化会館

2018年12月15日(土)
会場:群馬県 ベイシア文化ホール(群馬県民会館)

2018年12月24日(月・休)
会場:宮城県 仙台サンプラザホール

2018年12月29日(土)
会場:大阪府 オリックス劇場

2018年12月30日(日)
会場:大阪府 オリックス劇場

プロフィール
布袋寅泰 (ほてい ともやす)

日本を代表するギタリスト。日本のロックシーンへ大きな影響を与えた伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。2012年よりイギリスへ移住し、三度のロンドン公演を成功させる。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、2015年海外レーベルSpinefarm Recordsと契約。その年の10月にインターナショナルアルバム「Strangers」がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。日本ではNew Album「Paradox」を10月にリリースした。2018年10月にはロンドン公演、11月からの日本ツアーも発表されており、精力的な活動が続いている。



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