ギョーカイ列伝 ―並べて、伝えて、つなげる。つながる。―(CINRA)

『ミリオンアーサー』のスクエニ岩野Pに訊く、ゲーム業界の実情

日本のエンターテイメント業界の最前線で戦い続ける人物に話を聞く連載『ギョーカイ列伝』。第8弾に登場するのは、1500万ダウンロードを突破したオンラインカードバトルRPG『乖離性ミリオンアーサー』のプロデューサーとして知られる、スクウェア・エニックスの岩野弘明。

旧来のシステムに固執することによって、「CDが売れない」「本が売れない」などと苦境に立つ音楽業界や出版業界に対し、現在のゲーム業界は、コンソール(家庭用ゲーム機)からソーシャルゲーム、スマホゲームへという変化にスピーディーに対応し、活況を呈している。ここには、あらゆるエンタメのヒントが詰まっていると言えるのではないだろうか。

ゲーム性や世界観の乏しかったソシャゲに対し、それらを重視することで新たな扉を開いた『ミリオンアーサー』シリーズ。その最新作として『叛逆性(はんぎゃくせい)ミリオンアーサー』を中国で配信することを発表したり、課金システムでの新たなチャレンジを試みる新作『ましろウィッチ』の発売を2017年中に予定するなど、新たな試みを次々に手掛ける岩野のアイデアの源泉とは? 取材当日に発売日が発表された『ドラゴンクエストXI』の話題も含め、幅広く話を聞いた。

ここ数年は、売れてるゲームの真似でもヒットを狙えたのですが、最近はそれが通用しなくなってきた。

―まずは現在のゲーム業界の市況について教えていただけますか?

岩野:ゲーム業界全体について言うと、つい6~7年前まで停滞気味の状態だったんです。僕は今の会社に入って12年目なんですけど、入社した当初は新しいプロジェクトを立ち上げること自体簡単ではなく、この先どうゲームを作っていけばいいのか、すごく悩んでいました。

でも、その後にまずGREEとかモバゲーとか、いわゆる「ソシャゲ(ソーシャルゲーム)」がガツンときて、さらにはガラケーがスマホ化したことによって、ゲームの幅が一気に広がったんです。僕たちの会社は老舗のゲーム屋さんなので、当時はソシャゲに対してネガティブな感情を持ってる人も多かったんですけど、誰も手を挙げないからこそチャンスでしたし、当時は低予算でモバイルゲームを作れた時期でしたので、「これだ!」と思ってモバイルゲームにチャレンジしました。

岩野弘明
岩野弘明

―言ってみれば、モバイルゲームは「チャレンジ枠」だったというか。

岩野:そうですね。当時コンソール(家庭用ゲーム機)のプロジェクトを立ち上げるには、数億円かかる時代だったんですけど、モバイルゲームのプロジェクトは数百万円規模からでもできたんですよ。で、ソシャゲバブルからスマホゲームバブルに移行していくわけですけど、そこには結果的にわりとスムーズに乗っかれました。理由は、スマホゲームの開発に、いち早く取り組んでいたからです。

その後、ゲーム業界全体がソシャゲバブルから一気に市場規模を広げて、『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』とか『モンスト(モンスターストライク)』のようなスマホゲームがヒットしたことで、世間的な認知度も一気に上がりました。今ではコンソールよりもスマホゲームのビジネスの方が、国内においては規模感的には大きくなってさえいますね。

―この数年で一気に市場規模が拡大したわけですね。

岩野:ただ、ずっと右肩上がりなわけではなくて。今はちょっと横ばいな感じで、レッドオーシャン化してる状態だと思います。極端に言うと、ここ数年は売れてるゲームの真似でも、そこそこのヒットは狙えたかもしれないんですけど、最近はそれが通用しなくなってきた。今はめちゃくちゃいろんな会社がアプリを出していて、手に取ってもらうこと自体難しくなっているので、最近はいわゆるIPが目立ちやすい状況です。

―すでに出ている作品やキャラクターに関連した商品ということですね。

岩野:そうです。今のスマホゲーム業界には『ドラゴンボール』も『ワンピース』も『ラブライブ!』もあります。そういった、すでに人気があるタイトルのゲーム化とかが、お客様にとって手に取りやすく、結果的にヒットしやすい傾向にあると思います。

岩野弘明

正攻法だと、もう次のヒットは狙えない。その転換のひとつが『ミリオンアーサー』で起こった。

―岩野さんが手掛けられた代表作というと、『ミリオンアーサー』シリーズが挙げられるかと思います。ヒットの要因をご自身ではどのように分析されていますか?

岩野:『ミリオンアーサー』はスマホゲームですけど、まずソシャゲバブルのときに通例とされていたのが、「ゲーム性やストーリーは要らない」ということだったんです。そういったものよりも、数字的なアプローチで売り上げを上げられるっていう「KPI(重要業績評価指標)神話」があって、キャラクターは一枚絵があるだけ。その状況に対して、「そうじゃなくない?」っていう思いがあったんです。

世界観とかストーリーの面白さを突き詰めれば、もっと遊びの幅が広がるし、キャラクターへの思い入れも深まるから、そういう部分で勝負していこうと。つまりは、コンソール的なアプローチで勝負しようというのが、『ミリオンアーサー』の根本にあるコンセプトだったんです。

『乖離性ミリオンアーサー』
『乖離性ミリオンアーサー』(サイトを見る

―なるほど。

岩野:アニメって、ここ最近ですごく一般化されたじゃないですか? その前にはラノベが売れ始めて、ラノベがアニメ化されることで、アニメの本数が増えて、アニメを見る人の母数が増えた印象があるんですよね。なので、ゲームにもアニメのテイストを落とし込めば、今の人たちはすんなり受け入れてくれると思ったんです。

『ミリオンアーサー』は『アーサー王伝説』の話がもとになってるんですけど、これをライトノベルの第一線で活躍されている鎌池和馬さんに書いていただけたら、きっと面白いシナリオになると思ったし、当時のエンタメの最先端を楽しんでる人たちに響くんじゃないかと考えました。

―ゲームを大きなパイに向けるさせるために、シナリオ、キャラクターデザイン、キャラクターボイス、音楽と、様々なジャンルにおける「今」のクリエイターを集めたわけですね。

岩野:そうです。今一緒にプロジェクトを回している部長は、もともと別の会社でソシャゲを作ってた人なんですけど、当時、その会社の上層部では、「スマホゲームにオープニングアニメとか必要?」といった声が上がり、「これは絶対売れない」って話をしていたらしいんです。でも、むしろそこがお客様の興味を引いたのかと。

『ミリオンアーサー』以降、「これも売れるんだ」となって、コンソール的な豪華な演出のアニメテイストものが一気に増えました。それまで正攻法とされていたやり方だと、もう次のヒットは狙えない。その転換のひとつが『ミリオンアーサー』で起こったんじゃないかと思っています。

お客様に受けるポイントは、時代によってちょっとずつ変わってくるんです。

―スマホゲームのコアターゲット層は、どのあたりだと意識されているのでしょうか?

岩野:『ミリオンアーサー』でいうと、実際にお金を払っていただいているのは20代中盤から30代だと思うんですけど、アニメテイストを前に出すと、10代もプレイしてくれるんですよね。スマホゲームは正確な数字が計れないんですけど、ネットなどで反応を見てると、大学生とか高校生も非常に多いのかなと。課金している30代にしても、今ほどではないにしろ、深夜アニメが盛り上がり始めた世代だと思うので、そことも上手くフィットしたのかなと思います。

―『エヴァンゲリオン』や『魔法少女まどか☆マギカ』を見てる世代ですもんね。

岩野:一方では、『戦国IXA』とか、萌えが前面に出ていないようなゲームに関しては、より年齢が上の層な気もします。『戦国IXA』は、40代とか50代もやっている。そういう方たちは、人数的には多くなくても、ゲームをやり込んでくれている方が多い印象です。そこを狙おうとするなら、またやり方が変わってくるかもしれませんね。

岩野弘明

―岩野さんは、もともとラノベやアニメなどのカルチャーがお好きだったわけですか?

岩野:そうですね。エンタメを作る人って、作ろうとしてるコンテンツのテイストにちゃんと理解のある人じゃないと無理だと思うんですよ。たとえば今のアニメって、女性向けの勢いがすごいので、そこをターゲットにしようという話が当然出てくるわけです。でも、じゃあ僕がそれを作れるかって言われると、作れない。やっぱり女性以上に女性向けコンテンツにキュンキュンしたり、理解度を深めるのは難しいわけです(笑)。

同じように、僕には40代、50代のお客様たちがグッとくるポイントはわからない。なので、同世代とか、同じ趣味の人たちに向けたものを作ることに徹底していて、それが今の時代に合ってたのは運がよかったなと思います。

―『ミリオンアーサー』は、ご自身の「好き」を詰め込んだ作品でもあると。

岩野:ただ、もともとアニメをすごく見るタイプだったかっていうと、そうではなくて。『ガンダム』とか『エヴァ』くらいだったんですよ。でも、勉強のためにラノベを読みだしたら、すごく面白いなと思って、徐々にハマっていったんです。大人になってからハマったので、その面白さを客観的に見れているっていうのはひとつポイントかなと思います。

コアなところを突き詰めるだけだと、一部の人しかついてこれない。でも、ビジネスなので、前提として売らないといけないですよね。特に、プロジェクトを回すプロデューサーという立場においては、そのバランス感が非常に大事になります。

―後天的な趣味だったからこそ、客観的に見れて、バランスが取れたと。

岩野:「プロデューサー」と一言で言っても十人十色だし、どのやり方が当たるのかは、時代によっても変わるし、運もあると思うんです。そんななかで、僕自身に関して言うと、テキスト、絵、音楽、全部に興味があって、それをひとつにパッケージングすることで、ヒットにつながった。そういう意味では、興味に対するバランスも大事だと思います。

―ラノベやアニメだけでなく、いろんなものに対する興味や知識が『ミリオンアーサー』のヒットに結びついたと言えそうですね。

岩野:自分の軸となる好みはあった方がいいと思うんですけど、お客様に受けるポイントって、時代によってちょっとずつ変わってくると思うんです。ライトノベルで言うと、学園ラブコメが流行って、異能力ものが流行って、さらには20年前くらいに一度流行ったファンタジーものがまた流行ったり、今だと異世界転生ものが流行っていたり。流行りを追いつつ、その魅力に触れることで理解し、自分の好みもアップデートしていかないといけないと思っていますね。

ただし、流行りを追いすぎても結局後追いになるので、そこを打破するためには、流行りの歴史を押さえておく必要もあると思います。ファッションや音楽もそうですが、あらゆるエンタメは形を変えながらも、一定周期で昔流行った要素がまた流行る傾向がある。なので、昔流行ったヒット作などにも触れつつ、今に合った形で提案することが大事なのかなと。

どれだけプロジェクトを経験しても、試行錯誤や作り直しの時間が必ず発生し、すなわちお金がかかります。

―『ミリオンアーサー』シリーズは、メディアミックスもヒットの大きな要因だったように思います。

岩野:アニメ化ってやっぱりすごく大きな価値を持ってるんですよね。「アニメ化した」というだけで、「そのコンテンツはすごくいいもの、人気があるもの」という認知につながるのかもしれません。当然、多くの方の目に触れる機会にもなるわけで、新しいお客様を獲得する意味でも、既存のお客様に対するファンサービスという意味でも、すごく価値があるんです。

ただ、昨今はアニメの本数が増えすぎて、制作してる人たちはかなり大変という話も聞きます。ちゃんと予算や期間を設けて作らないと、クオリティーが低くなって、そういうものを出しちゃうと、逆にネガティブな反応になりかねない。さらに言えば、ゲーム原作のアニメ化って難しいんですよ。だから、『ミリオンアーサー』では本格的なアニメをまだやってないんです。

岩野弘明

―その代わりというか、ウェブアニメの『弱酸性ミリオンアーサー』がありますね。

ゲームアプリ内で配信されている、「ちょぼらうにょぽみ」による4コマ漫画をウェブアニメ化した作品。累計再生回数は3300万回を突破している。

岩野:ウェブのエンタメとして考えると、突っ込みどころがあった方が広がりやすいと思ったので、本編ではなく、ギャグ漫画の方をアニメ化しようと。それで始めたのが『弱酸性ミリオンアーサー』のウェブアニメなんです。

―メディアとの親和性を意識してのものだったと。

岩野:予算や時間には制限があるものですが、それならば制限があるなりのやり方って、いくつもあると思うんです。とにかく、ゲームってめちゃくちゃお金がかかるんですよ。でも自分は、スマホゲーム黎明期に数百万から作り始めていたので、「どうすればもっと売れるか?」「どうすればもっと目立てるか?」を考えることに関しては鍛えられてきました。

―ちなみに、今はスマホゲームを1本作るのにいくらくらいかけてるんですか?

岩野:ちゃんと新作感を出すためには、数億円かかるんじゃないですかね。すでにコンソールの大きいものを作るくらいの規模感になっています。ネットワークの技術や運営のノウハウはもちろん、世界観の深みやグラフィックの質や量も求められてきて、やっぱりすごく大変なんです。

しかも、ゲーム業界って特殊な環境にあるというか。アニメ、漫画、音楽とかって、基本的にお皿はずっと変わってないし、少しずつデジタル化されてはいるものの、変化のスピードってゆっくりだと思うんです。でも、ゲームって、新しい機種とか遊び方がどんどん出てきて、進化の速度や変化の幅が尋常じゃないんです。コンソール、ソシャゲ、スマホゲームって、うどん、パスタ、ラーメンくらい違うもので(笑)、まるっきり頭を切り替えないといけないんですよね。なので、どれだけプロジェクトを経験しても、試行錯誤や作り直しの時間が必ず発生し、すなわちお金がかかります。

無課金ユーザーが減ると、ゲーム自体が盛り下がっていって、課金してる人たちもやめていってしまう。

―途中で「今はレッドオーシャン」という話がありましたが、そんななかで、岩野さんがプロデューサーを務められる『ましろウィッチ』の配信が、今年予定されています。この作品では、どのようなチャレンジをお考えなのでしょうか?

『ましろウィッチ』
『ましろウィッチ』(サイトを見る

岩野:今回はまず、マネタイズ、課金方法に明確な意図を持っています。課金をしなくても、要素のすべてを遊べるようにしようと思っているんです。なぜそれをするかというと、やっぱり、課金をしてくれるユーザーしかいない状態だと、タイトル自体が長く続かないから。

スマホゲームでは、実際に無課金でプレイしている人も多くいるので、その人たちが減ってしまうと、ゲーム自体が盛り下がっていって、課金をしてる人たちも「これ続くのか?」ってやめていってしまうんです。もちろん、課金しなくても遊べるものは前からありましたけど、より両方のユーザーに楽しんでもらえるものを目指しています。

―目先の利益よりも、長く遊んでもらえるものを目指していると。

岩野:それに対して、「課金することのモチベーションが下がるのでは?」って言う人もいるんですけどね。考え方としては、「時短」にのみ課金をしてもらうという形なんです。つまり、無課金でも時間をかければ強くなれるんですけど、「そんな時間ない」「早く強くなりたい」という人に、できる範囲で課金していただくという考え方です。それが上手くゲーム性にハマるかどうかで『ましろウィッチ』がヒットするかどうか決まると思っています。

岩野弘明

―一方、世界観とかシナリオに関しては、『ミリオンアーサー』以上に作品性の高いものになっていそうですね。

岩野:そうですね。マネタイズ以外の面でいうと、一番のチャレンジはビジュアルで、今まで出たアニメテイストのゲームのなかでも、最高峰と言っていいんじゃないかというくらいの自信を持っています。ただ、だからと言って素材の量産が間に合わず、イベント実施のテンポ感が遅くなる、といったことにならないよう工夫もしています。

あと最初から目論んではいたものの、「ここまでウケるとは」って思ったのが、シナリオですね。まだ世に出してないのになに言ってんだって話なんですけど(笑)、実は役を演じてくれた声優さんの多くが、すごく面白いって言ってくださっていて。それってなかなかないことなんですよ。

―設定的にも、同じ魔法少女モノの『まどマギ』くらい濃いものになってそうですもんね。

岩野:「『まどマギ』っぽいよね」って話はもちろんよくされるんですけど、実はむしろシナリオ展開のノリとしては『BLEACH』や『NARUTO』のような、『週刊少年ジャンプ』の方向性なんです。魔法少女で、『ジャンプ』の熱血、スポ根をやりたいっていうのがコンセプトなので、テーマは「友情・努力・勝利」なんですよ(笑)。

僕、『まどマギ』が本当に大好きでして(笑)。あんな驚きの展開で楽しませてくれるアニメはなかなかないので、すごくハマりました。一方で、テレビシリーズでは最終的に実現されなかった「みんなで一緒に敵と戦う」というものも見てみたいと思って、なおかつ、それを熱血、スポ根のノリでやるのって面白いんじゃないかと思ったんです。

世界観やキャラクターの魅力を追求してきた弊社が、中国で勝負をしてみる価値は大いにあると思っています。

―進化のスピードが速いゲーム業界において、先行きを予測するのは難しいかと思いますが、市況的には横ばいになってきたというなかで、今後はどんな展開をお考えでしょうか?

岩野:先日『叛逆性ミリオンアーサー』を中国で配信することを発表したんですけど、今、中国のアニメテイストのゲームに対する盛り上がりって半端ないんです。向こうでは「二次元ジャンル」って言うんですけど、日本でウケてる要素が、そのまま中国で受け入れてもらえるんですよね。

これまでは、たとえば海外で銃を撃つゲームが主流になったときに、日本でもそれを作ろうと各社が目論んだんですけど、なかなか難しかった。その原因は、文化や感覚の違いだったと思うんです。ただ、今中国でアニメがウケているのって、僕らがハリウッド映画を楽しんでる感覚に近くて、「本場がやってきた」という感じになっているんですよ。

―かなりウェルカムな状況になっていると。

岩野:もちろん、中国の規制の関係もありますし、そう簡単にはいかないと思うんですけど、これから日本の人口が爆発的に増えるというのは考えられないですし、これまで積み上げてきたものをさらに展開させるためには、日本以外も含めて考えることが、非常に重要になってくると思います。

―中国のゲーム人口ってどれくらいなんですか?

岩野:すごいですよ。そもそも人口が13億人くらいいて、すでに中国は「ゲーム市場(PCゲームなども含む)」で見ると世界一と言われていますからね。本当にすごいですよね(笑)。とにかく、ポテンシャルがすごい。

アニメテイストのゲームも、売上ランキングのトップ10に入るくらいになってきているのですが、中国でなぜそこまでアニメテイストが人気なのかを考えると、やっぱり世界観とかキャラクターに対する思い入れだと思うんです。そもそも中国のゲーム文化は欧米の影響を強く受けていて、リアルテイストの世界観やキャラクターが定番だったので、新鮮さもあるのだと思います。加えてネットが発達して海外の文化に触れる機会も増えたことも大きいです。そういった状況のなかで、世界観やキャラクターの魅力を追求することに力を入れてやってきた弊社からすると、勝負をしてみる価値は大いにあると思っています。

岩野弘明

―言ってみれば、世界観やキャラクターの魅力の追求は、スクウェア・エニックスが『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』でずっとやってきたことだとも言えますよね。

岩野:そうですね。今いる社員はそういったゲームに憧れて入ってきた人が大半なので、やっぱりみんなそういうものを作りたいと思っているはずなんです。僕の場合はそれがアニメ方向にいったわけですけど、引き続き『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』を盛り上げていこうとしてる人もいれば、また別の方向性を模索してる人もいたり。

―今日ちょうど『ドラゴンクエストXI』の発売日が発表されましたね。

岩野:あれも試みとしてはとんでもなくて。PS4と3DSで仕様を変えて出すって、2本同時に作るようなものだから、「嘘だろ!?」って話なんですよ。社内から見ても、あれは『ドラクエ』ならではのやり方だなと思います。

これまでも『ドラクエ』のコンセプトって、「一番多くのお客様に遊んでいただける環境で出す」ということだと思うので、その意味では、今回の「PS4でも3DSでも出す」というのは、『ドラクエ』の理にかなっていると思うんです。でも、それはやろうと思ってできることではないので、本当にすごいなと。

どのタイミングで入ったとしても、面白いもの作りをできるのがゲーム業界なんです。

―この連載記事はCINRA.NETとCAMPFIREの合同企画なのですが、岩野さんはクラウドファンディングについて、どのような印象をお持ちですか?

岩野:「面白い」を一番形にしやすい方法だと思います。というのも、会社って「面白い」だけだと動かないですよね。大きな会社になればなるほど、「それって売れるの?」という話になるし、方針を決める人が「俺はそれ売れないと思う」ってなると、そのアイデアは蹴られちゃう。

でもクラウドファンディングは、「俺は面白いと思う」という意見が可視化されるから、安心してそこに突っ込めますよね。それをちゃんと完成させられるかどうかはその人次第ですけど、少なくとも、「面白そう」と期待を受けた状態でものが作れるというのは、闇雲に突っ込むよりもはるかに歩んでいきやすい。なので、「面白い」を形にするという意味では、一番やりやすい方法だと思います。

岩野弘明

―では最後に、ゲーム業界を志している若い人に向けて、なにかメッセージをいただけますか?

岩野:変化の速い業界だという話をしましたけど、それに対応するためには、自分のなかにアイデアのストックを持っておく必要があると思います。そのストックはゲームだけではなくて、アニメ、小説、映画、あるいは旅行とかスポーツとか、いろんなエンタメから得ることができる。なので、ひとつのものに縛られずに、いろんなことに手を出して、幅のある経験を培っていくことが大事だと思いますね。

―逆に言えば、そういうストックを身につけておけば、大きな可能性が広がっている業界だと言えそうですよね。

岩野:面白い業界だと思いますよ。一番の理由は、やっぱり進化のスピードや変化の幅です。自分がスマホゲームを作ることになるなんて、思ってもいませんでしたから(笑)。

ファミコンやスーパーファミコンの時代が、ビデオゲームというものを爆発的に普及させた時代だと思うのですが、それだけに、当時はビデオゲームというエンタメに対する注目度やお客様のモチベーションはすごく高くて売りやすい状況だったと思います。そこから市場が成熟し、さらにネットの普及により様々なエンタメに触れやすい状況が訪れたこともあって、ゲーム業界自体の勢いが徐々に鈍化していったけれど、あのファミコン黎明期のような状態がスマホによってまた訪れた。

こういう機会というものはなかなか訪れるものではないですが、ただとにかく進化の速度が速いので、すでにスマホゲームもまた次の段階に差し掛かってるし、また次のプラットフォームやお皿が何年か後に出てくるかもしれない。つまり、どのタイミングで入ったとしても、面白いもの作りをできるのがゲーム業界なんです。

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リリース情報
『乖離性ミリオンアーサー』
『ましろウィッチ』
プロフィール
岩野弘明 (いわの ひろあき)

スクウェア・エニックス 第10ビジネス・ディビジョン プロデューサー。『ミリオンアーサーシリーズ』『ましろウィッチ』『アリスオーダー』などを手がける。



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