アートなんて解んない
文:柏井万作(CINRA MAGAZINE編集長)
忘れもしない小学校一年生の夏。同い年の幼なじみが、ビートルズを聴きながら英語でメロディーを口ずさんでいるのを目の当たりにして、こいつカッコいいな、と羨ましく思ったのでした。でもそいつに「なに万作、ビートルズ知らないの?」と言われると、どうにかして「知っている」ことにしたくなる。たかだが生まれて6〜7年の知識と記憶を総動員した挙げ句、「ビートルズって昔の人でしょ? 兄ちゃんはチェッカーズの方がいいって言ってたよ」なんて恥ずかしいセリフを吐いた記憶が、今でも生々しく刻み込まれている。
罪悪感を感じながらも知ったかぶっちゃうのは、自分も「知ってる側」という上位に属したい意識があったからなのだろう。だけれども、その「知ってる側」の態度が頑固で仲間に入れてくれないとなると、こちらも罪悪感を抱きながら食らいついていくのは苦しいので、もう分りませんのでサヨウナラということになる。ぼくにとってその代表的なものが、美術やアートと言われる作品群だった。作品を買う人が限られている分野でもあるので、その業界の中、つまり「知っている側」の中で「スゴイ」と言われるものが、そのまま価値のあるものとされる。誰でも気軽に楽しめる音楽などと比べると、圧倒的に敷居が高いのだ。