停滞しているファッション広告に風穴を空ける、パルコとM/M(Paris)の強気な広告戦略

相変わらず強気な、「得体の知れない」世界観

パリのデザインユニット「M/M(Paris)」が制作したパルコのキャンペーン広告「PARCO 2015 AW」。そのビジュアルが、先月末に公開された。M/M(Paris)の起用は、昨年秋からの「PARCO 2014 AW」「PARCO 2015 SS」に続くもの。シーズンごとに印象をガラリと変えるファッション広告も多い中での続投は、彼らの作り出す世界観に対する、パルコの確信と自信の表れとも言えそうだ。

M/M(Paris)は、1992年結成の二人組。ヨウジヤマモトにカルバン・クライン、Bjorkにカニエ・ウェスト、『VOGUE Paris』など、数え上げればキリがない数々のブランドやアーティストと共同制作をしてきた、グラフィックデザイン界のトッププレイヤーだ。国内的には、先述の「2014 AW-2015SS」が朝日新聞社主催の『準朝日広告賞』を受賞。また今年の4月には、パルコミュージアムで「スゴロク」をテーマにした一筋縄ではいかないポスター展を開くなど、アートの世界とのつながりも深い。

そんなM/M(Paris)が手がけた今回のビジュアル。その印象を一言で言えば、「相変わらず強気だなぁ」というもの。言葉は悪いけれど、「高慢」と言ってもいい。それくらい、見る人間に対しての媚がない。先に触れた『準朝日広告賞』の選評で、アートディレクターのタナカノリユキが「得体の知れないビジュアルが記憶に残る」とコメントしているが、その姿勢は「2015 AW」にも変わらず貫かれている。


「等身大の共感」とはかけ離れたファッション広告の意図

今回のビジュアルのキーとなっているのは、ダイヤ、スペード、ハート、クラブという、トランプの4種のスート(マーク)だ。前回のリリー・マクメナミーに代わり、「2015 AW」のモデルを務めるのはアンナ・クリーブランド。その彼女が、各スートの「クイーン(女王)」となって、砂丘の上で笑顔もなく、意味深なポーズを取り続ける。

©2015 PARCO CO.,LTD.
©2015 PARCO CO.,LTD.

M/M(Paris)によれば、これはトランプの4種のスートと四季を対応させたもので、「季節を通じて人々が集まる特別な場所としてパルコが存在している」ことを表したものだという。前回と今回の違いを比較するのは楽しいし、両者のイメージに、コントラストの強い作風で連続性を与えた写真家ヴィヴィアン・サッセンの個性にも驚くが、やはり際立っているのはその抽象性だ。実際、先に触れたM/M(Paris)の意図を、発表された動画やポスターから明確に読み解ける人間がどれだけいるのか? 分かりやすい演出もメッセージも受け取れないまま、人はただ、目の前のイメージに引き込まれる。

©2015 PARCO CO.,LTD.
©2015 PARCO CO.,LTD.

彼らのビジュアルに感じる新鮮味の背景には、私たちが普段目にする、あまりに分かりやすい等身大のファッション広告の存在があるのかもしれない。そこでは、親しさを感じさせるモデルが、背伸びをすれば自分でも買えそうな服を着て、少しだけ「上」の夢を見せてくれる。しかしM/M(Paris)のビジュアルに、そんな等身大の共感性はない。それは見る者を突き離し、ある意味では閉じたイメージの世界を作り上げている。

「世界を変えるかもしれないというドキドキ感」にこそ、ファッションの魔術性は宿る

一方で驚きなのは、人を寄せ付けないほどの誇り高さを感じさせる今回のビジュアルが、よく見ればチープとも言える演出に生み出されている点だ。スペードやダイヤをかたどった凧は、ウェルメイドとは言い難い手仕事感の漂うものだし、アンナの「影」は、コントで使われるような全身タイツの人物で表される。先述のパルコミュージアムにおける展示に際してのインタビューで、M/M(Paris)の一人であるマティアス・オグスティニアックは、創作におけるハンドライティングの重要性を語ってくれた。決して新しくはない手法や身近な道具を使いながらも、それを高い象徴性を持つイメージにまとめ上げる彼らの手腕は、今回のイメージでも存分に発揮されているだろう。

そんな「2015 AW」を見ていて筆者が思い出したのは、ともに気鋭のファッションデザイナーである山縣良和と坂部三樹郎の著書『ファッションは魔法』だった。彼らはその中で、ファッションの魅力を「最大瞬間風速」に例える。つまり、「物理的な服」そのものではなく、ショーやビジュアルの中でわずか一瞬だけでも表れる「世界を変えるかもしれないというドキドキ感」にこそ、ファッションの魔術性は宿る、と。実際に彼らの服は、ときに着ることもできない大きさを持ち、「ボロい」素材で作られる。大切なものは、その物体の奥にある世界観だからだ。立場は違うが、広告から見えるM/M(Paris)のファッション観は、どこかこの山縣らの姿勢と近いものを感じさせる。

日常レベルの欲望を生ぬるく刺激するファッション広告が溢れ、人々の装いも判で押したように標準化していると言われる現代。見る者を呆然とさせるM/M(Paris)の「高慢」なビジュアルは、どのように受け取られるのだろうか。今後の展開も気になるが、まずはこの圧倒的に非等身大なビジュアルの登場への反応を、素直に楽しみたい。

プロフィール
M/M (Paris)(えむえむぱりす)

ミカエル・アムザラグとマティアス・オグスティニアックによって1992年に結成された、パリを拠点に活動するクリエイティブユニット。20年以上にわたりファッション、アート、音楽、デザインと多分野において活躍し、象徴的かつ影響力の強いデザイン&アートで世界中の人々を魅了させている。彼らの手掛ける多くの作品でオリジナルのタイポグラフィーを用いられることがあり、表現方法の一つとしてタイポグラフィーの重要性の高さが窺え、2003、2004、2012年度の東京TDC賞(タイポディレクターズクラブ)も受賞。また、ファッション、音楽関係の仕事が顕著で、これまでのコラボレーションワークとして、A.P.C.、Balenciaga、Calvin Klein、Dior Homme、Givenchy、Jil Sander、Loewe、Louis Vuitton、Missoni、Sonia Rykiel、Stella McCartney、Yohji Yamamoto、Yves Saint Laurentなどのビックメゾンやデザイナーが連なる。音楽の分野でも、2013年にグラミー賞の最優秀レコーディング・パッケージ賞を受賞したビョークの『Biophilia』を代表に、ヴァネッサ・パラディ、カニエ・ウェスト、マドンナといった著名アーティストのアルバムアートワークやミュージックビデオを手掛ける他、『Vogue Paris』、『Purple Fashion Magazine』、『Arena Homme+』、『Interview Magazine』等の雑誌のアートディレクションも手掛ける。また、2012年には、活動20周年記念として500ページを越える作品集を出版した。



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