ドラマ漫画アニメの作品から紐解く、クリエイティブ業界の仕事の裏側 Part2

クリエイティブ業界を舞台にした「物語」から、それぞれで描かれている仕事内容や必要なスキルを考えるコラムの第二弾。前回に引き続き、4作品4職種をピックアップしました。漫画や映画の「物語」をきっかけに、知っているようで詳しくは知らない業界や職種の仕事を学べると同時に、喜びや面白さ、現場の空気感も教えてくれる教科書です。本記事を通して、クリエイティブな仕事に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

①漫画『忘却のサチコ』 職種:文芸誌編集者

文芸と作家への深い愛がいい作品をつくる秘訣

阿部潤『忘却のサチコ』(小学館)

『忘却のサチコ』の主人公は、大手出版社に勤める文芸誌編集者・佐々木幸子。結婚式の最中に婚約者に逃げられたショックから立ち直る方法として、「最高の食事への没入による記憶の忘却」という独自の方法を編み出し、仕事で出向くあちこちで美味しいご飯を食べまくるという物語です。グルメ漫画である本作の見どころはやはり食事シーンなのですが、文芸誌編集者に必要なエッセンスも散りばめられているため、「お仕事漫画」としても楽しめます。

文芸誌の編集者と聞いて、まず思い浮かべるのは作家から原稿を回収する姿ではないでしょうか? 締め切りを守らず、ときに逃走を図る作家を追いかけまわして期日内に原稿を受け取る……本作でも、サチコは締め切りギリギリになっても原稿を上げてこない作家の家に出向き、原稿が書き上がるまで正座で待つという技(?)で原稿を回収しています。雑誌を運営していくためには欠かせないスキルです。

しかし、文芸誌の編集者にとって最も大切なのは、やはり「面白い作品をつくる」こと。それには、新しい作家を見つけるアンテナや探究力が必須です。スーパー編集者と謳われる幸子は、作家の新しい才能をいくつも発掘します。その一人が、もともと官能小説家として活動をしていた美酒乱香先生。幸子は、「あの品のない下ネタやユーモアは、暗いイメージのある文芸誌に一筋の光を与えてくださる」という考えのもと、美酒乱先生を文芸誌にピックアップし、結果的に売れっ子作家にまで育て上げます。文芸の世界は間口が広く、美酒乱のように他分野で執筆活動をしていた人が転向したり、俳優や芸人、アーティストなど畑違いの人が参入したりすることも少なくありません。幸子のように新しい才能を見つけるためには、幅広いことに興味関心を持ち、探究することが鍵となりそうです。

また、幸子は作家一人ひとりを深く理解し、ときには作品に対してアドバイスをすることも。コミックス7巻では、大御所作家・有村忠雄の新作に「物足りなく感じた」とはっきり伝えます。デビュー前に同人誌に寄せた作品も読んでいるくらい有村作品を敬愛していること、そのうえで有村の真骨頂が新作では活かせてないことを指摘したのです。文章を書く、創作をする、というのは想像以上に大変な作業です。そんな大作業の末、生まれた作品に対し意見を言うには、作家への深い理解はもちろんのこと、さらには「もっと面白い作品を世に出したい」という信念と文芸への深い愛が必要不可欠です。『忘却のサチコ』では、仕事熱心で真面目な幸子の姿を通して、文芸誌編集者の「正しい在り方」を見せてくれます。

文芸誌編集者のお仕事のまとめ
①幅広い知識をインプットする好奇心
②作家を深く理解する気持ちと探究心は必須
③作品の面白さを判断する、自分なりの尺度を持つこと

②漫画『左ききのエレン』 職種:クリエイティブディレクター

自分の「才能」を見つけることが、CDへの第一歩

かっぴー『左ききのエレン』(集英社)

クリエイティブディレクター(CD)とは、広告業界において広告の企画立案から最終のクリエイティブまでを監督する責任者です。近年では、企業やブランドのコンセプト策定や広報戦略など、広告にとどまらない「ブランディング」を一気通貫して行うCDも登場しており、その仕事内容の幅は広がりつつあります。

たとえば、現在(2021年4月時点)、国立東京新美術館で個展を開催している日本を代表するCDのひとり、佐藤可士和氏は、ブランドのコンセプト策定やロゴ制作はもちろんのこと、必要であれば店舗の内装や、メニューまで提案するというから驚きです。そんな、クライアントの要望や個人の能力によって仕事内容が大きく変わるCDという仕事の一端を知りたいときにおすすめなのが『左ききのエレン』です。原作者・かっぴーが広告代理店に勤務していたときの経験をもとに描かれた本作は、CDをはじめとしたクリエイティブに関わる人々の仕事内容が具体的に描写されているのはもちろん、CDに必要な「才能」についても見せてくれます。

たとえば、広告代理店にデザイナーとして入社した主人公・朝倉光一の上司、神谷雄介はカリスマCDとして描かれます。著名なデザイナーを父に持つ神谷は、「本物」を見て育ったゆえの審美眼を持っていることに加えて、幼い頃からデザイナーを目指し鍛え続けた圧倒的デザイン力で、30代前半でCDになったスター的存在です。

一方、神谷の大学の先輩で同じく人気CDとして活躍する八坂巧は、デザインの個人技では神谷に劣るものの、企画力とチームの力を最大化する統率力に秀でたキャラクターとして描かれます。彼らのほかにも、クライアントの無理・無茶・無謀に対してスマートに対応する職人気質のCDや、唯我独尊でクライアントやスタッフからクレームがくることがある一方でデザイン力は高いCDなど、さまざまなタイプが登場し、読者にあらゆる「才能」のサンプルを見せてくれるのです。

先にも言ったように、CDの仕事の幅は広く「これができればなれる」という仕事ではありません。また、「天才」と謳われる人が数多くいる職種でもあります。そんな群雄割拠のなかで生き残り食べていくためには、幅広いスキルがあるのはもちろんのこと、自分の「才能」=「強み」を知り伸ばすことが重要になりそうです。『左ききのエレン』を通して、自分のタイプを分析してみてはいかがでしょうか?

クリエイティブディレクターのお仕事まとめ
①制作現場における幅広い能力を持つ
②自分の強みを押し出し、ポジショニングすること
③どんな状況でも「ものづくり」におけるこだわりは忘れずに

③漫画『リクエストをよろしく』 職種:ラジオディレクター

番組の一番の理解者であり、最高のファン

河内遙『リクエストをよろしく』(祥伝社)

人の「お金」ではなく「時間」を奪い合う時代と言われている昨今。視覚を使わず、何かをしながら情報を得ることができる音声コンテンツは、メディアとして注目を集めています。そんな音声コンテンツの古参・ラジオの制作現場を知ることができるのが『リクエストをよろしく』です。

主人公の朝日屋颯太は鳴かず飛ばずのお笑い芸人。「コールタール」というコンビを組んでいたが、ついに相方から解散を申し込まれてピン芸人に。そんなお先真っ暗状態の朝日屋を、「コールタール」のファンだったラジオディレクター・雪室ハジメが、ラジオの世界に誘いこむところから物語ははじまります。

とはいえ、朝日屋には、ラジオ出演経験はもちろんないし、かなりの天然で、練習のときですら台本通りに進行できない。しかも本番じゃないと伝えているにもかかわらず、マイクの前で喋らせようとするだけで、緊張ゆえに持ち味の天真爛漫なトークさえも失われてしまう。一体どうすればいいのか……雪室と、朝日屋の元相方でコンビ解消後は放送作家に転身した水無月は、ふたりで朝日屋の活かし方を考えます。

そして思いついたのが、「街頭ロケ」。人の懐に入るのが上手く、底抜けに明るいがゆえに物おじしない朝日屋なら、台本なしでも企画が成立するロケで活きると踏んだのです。結果的に、朝日屋はこのロケの収録をきっかけに、活躍の場を徐々に広げていくことになります。

ラジオディレクター・雪室の仕事ぶりを見るに、ことバラエティー番組においては、喋り手の魅了をどう引き出すかが非常に重要なスキルであるようです。また、番組内で紹介するリスナー投稿を選ぶのもラジオディレクターの重要な仕事の一つ。ほかのメディアと比べ、ユーザーとの距離が近いラジオは、投稿内容や投稿者とパーソナリティーの絡みがダイレクトに番組のカラーとなることも少なくありません。作中では、超天然で少しずれている朝日屋にリスナーが投稿でツッコミを入れる、というスタイルが定着している様子が描かれます。

本作ではほかにも、一人じゃ番組を回せない朝日屋と化学反応を起こしそうな相方を見つけたり、SNSでリアルタイムに寄せられるコメントから番組を分析したりと、ラジオディレクターの仕事を知ることができます。でも、それ以上に、ラジオ特有のリスナーたちとのグルーヴ感や、つくり手たちが誰よりも番組を面白がっていることなど、ラジオ制作ならではの喜びを教えてくれる作品です。読んだあとは無性にラジオが聴きたくなるので、ご準備を。

ラジオディレクターのお仕事のまとめ
①面白い人を見つける嗅覚を持つ
②人を活かす企画力が求められる
③誰よりも番組を楽しむこと

③小説『騙し絵の牙』 職種:雑誌編集長

生き残るために、誰よりもしたたかであれ

塩田武士『騙し絵の牙』(KADOKAWA)

作者の塩田武士が、出版業界へ綿密な取材をして描かれた本作は、老舗出版社・薫風堂が舞台。主人公は、その出版社で働くカルチャー紙「トリニティ」の編集長・速水輝也(俳優の大泉洋に当て書きして書かれたことから映画化では彼を抜擢)。出版不況と言われて久しい昨今、とくに売り上げが全盛期から半減した雑誌への風当たりは厳しく「トリニティ」にも「あと半年で黒字にできなければ休刊」という厳しい条件が突きつけられます。

そもそも、インターネットで情報がタダで手に入る時代に、雑誌を売るのは至難の業。数年前、女性誌が付録やバッグに入る縮小サイズ版などが打開策として発売され注目を集めたけれど、根本的な解決には至っていません。では雑誌はこれからどうすれば生き残れるのか? この一つの対応策として、速水はコンテンツの二次利用を推進します。コンテンツの二次利用とは、雑誌に連載している小説や漫画を書籍化すること。速水はもともと小説への思い入れが強く、また文芸誌編集部に在籍していたこともあり、「トリニティ」でも積極的に連載小説を掲載していました。そのため、二次利用商品を生み出しやすい構造になっていたと言えるのです。企画力や質の向上だけでは雑誌の売り上げを見込めない現代において、編集長にはコンテンツの質だけではなく、継続的に売り上げを立てるようなシステムの構築や戦略が求められます。

また、政治力も編集長に必要不可欠な能力です。超大御所作家のお気に入り編集者である速水は、テレビプロデューサーや上司から、その作家への橋渡し役を頼まれます。その代わりに、小説のドラマ化などこちらの希望を通すのです。速水の立ち回りを見ていると、編集者はコンテンツをつくるクリエイターであると同時に、作家などとの繋がりを持ったコンテンツビジネスのプレーヤーなのだと実感させられます。ものづくりへの情熱と、自分の持っている利権を駆使する狡猾さ、どちらもなければ編集長は務まらないお仕事です。

『騙し絵の牙』は、タイトルの通り、騙し騙されのヒリヒリした展開が続く物語です。次から次へと速水にのしかかる困難に、読んでいるこちらの胃が痛くなるほどですが、彼は持ち前のコミュニケーション能力で突破していきます。その能力もさることながら、耐え続けられる精神力も人並み以上です。編集者としての能力、ビジネススキル、そして強靭な精神力、すべて持ち合わせた人が編集長になれるのかもしれません。

雑誌編集長のお仕事のまとめ
①コンテンツの質と売り上げのバランスを図る
②売り上げを立てる仕組みを考案する
③人並み以上の精神力を持つ

▼Part1の記事はこちら
「ドラマ漫画アニメの作品から紐解く、クリエイティブ業界の仕事の裏側」

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