検索を制するネット界のコピーライター

プロフィール
長谷川 哲士

島根県出身で東大哲学科卒業後、リクルートに入社。その後フリーを経て面白法人カヤックコピー部にジョイン。フォロワー数11万人越えの人気Twitterアカウント「コピーライッター」の中の人。最近書いたコピー: 4月1日限定のウソ売ります。(カヤック) / 島耕作のスマホが見放題!!! / 絶対に手が離せないRPG(MEG)他多数

ユニークな社風や企画でネットを賑わせている面白法人カヤックで、コピーライターとして働いている長谷川哲士さん。教室でクラスメイトを笑わせることが好きだった子供時代、たった一言で空気を変えられる「言葉」の面白さに気づいた。「大御所コピーライターや大手広告代理店のコピーライターと同じやり方では、自分は生き残っていけない」という長谷川さんは、ネットを主戦場に従来のコピーライターとは違う視点でコピーライティングの仕事に取り組んでいる。「検索を制する」という信念を持つ長谷川さんの、ネット時代を生き残るコピーライティング術とは?

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言葉ひとつで空気を変える!

―言葉に興味を持つきっかけになったエピソードってありますか?

長谷川:僕は中学校まで島根県松江市の本庄という街で1学年18人くらいの小さな学校に通ってたんですが、当時はクラスで面白い人が人気者になる雰囲気がありました。僕も頑張って面白い人になろうとしていたんですけど、そう簡単にはなれなくて(笑)。子供の頃は、TwitterやFacebookもなかったですし、クラスの中が世の中の全て。だから何とかして1日に1回はクラスメイトを笑わせるんだっていうモチベーションで学校に通ってましたね。言葉ひとつで状況を打開できるんだってことは、小学校の教室でみんなが笑ってくれた時に気づいたような気がします。そこで言葉って面白いなあと。

―「面白法人カヤック」でコピーライターを務めるだけあって、昔から面白い少年だったんですね。

長谷川 哲士

長谷川:いえいえ、高校の頃などはどちらかというと「スベリキャラ」でした。今もですが(笑)。高校は1学年300人以上で、ちょっと都心部にあったので、みんな育ってきた環境やルールが違ったんです。だから、それまでのやり方だと全然ウケないんですね。でも、それは自分で受け止めて、「スベるけど頑張るやつ」っていうブランディングをしてやっていったら、徐々に学年全体で顔を知られるようになった気がします。

—すごく客観的に自分のことを分析してるんですね。

長谷川:それは今思い返して考えればという感じですが、子供の頃から目立ちたがり屋ではありました。中学の頃、僕は野球部でしたが、誰も出る人がいないので陸上大会の3000m走に出なければならなくなって。当然、一番ビリになるんですけど、ただ負けるだけじゃもったいない。何かしてやろうと思って途中から力を抜いて走って、最後の直線100mを全力疾走したんです。そしたらスタンド中が湧いて「あいつなんなんだ」ってすごく注目されて(笑)。1位の人より記憶に残る選手になれたかもしれません。

―記録より記憶に残したんですね(笑)。大学から東京に上京されたんですよね。事前にいただいたプロフィールでは東大哲学科に進学されたとのことですが、何故哲学科に?

長谷川:あ、一応言っておきますがそれ、東京大学じゃなくて東洋大学の略なんですよね(笑)。

―あ、てっきり……。

長谷川:哲学を選んだのは消去法でした。経済学部は経済について学ぶ、社会学部なら社会について学ぶんだろうとなんとなくわかった気になれますが、哲学の哲を学ぶってよくわかりませんでした。パンフレットには、哲学は学問の根源とか人生について考えるとか書いてあって、これだけはちょっとわかった気になれないなと。あと、自分の名前にも「哲」が入っているので、両親のつけてくれた名前で人生を決めるとか面白いんじゃないかなと思いました。

―自分の名前から専攻を決めるっていうのは初めて聞きました(笑)。

長谷川:ざっくり言いますと哲学は古代ギリシア時代に誕生して「人生について考える学問」だったんですが、20世紀になって人生について考えるときに用いる「言葉」というツールについてもっと考えようという流れになったんです。そのとき「人生」とか「言葉」について考えたのが、今に繋がってる部分もあるのかもしれません。大学4年の時に就職を意識するようになってから、コピーライターという仕事に興味を持つようになりました。横文字でかっこよかったのと「何の特殊スキルもいらない、日本語が使えれば誰でもなれる」という、コピーライターの仕事についてのコピーがあったんです。それが見事に刺さり、コピーライター養成講座に通うようになりました。

あれもこれも言うと、何も伝わらない

―では、就職活動もコピーライターの仕事を中心に?

長谷川:実は養成講座まで受けていたのに、就職活動はしなかったんですよ(笑)。それは僕なりの反抗期だったと言いますか……。それまで、高校受験や大学受験って「いい高校・大学に入るために」って未来のために頑張らされていた感覚があって。周りの友人が就職活動を始めた時期に「今度はいい会社に入るために」頑張るのかと思いました。そして「いつまで未来のために、奴隷になって生きるのだろう?」と思って、就職活動をしなかったんです。

―なるほど。でも、就職先が決まらないまま卒業を迎えることに、不安はなかったんですか?

長谷川:自分で決めたことなので不安はありませんでした、卒業するまでは(笑)。4月1日になった途端、「今、自分が犯罪を犯してニュースに出たら、肩書きが『無職』なんだ……」と思ったら、急に焦りが出てきたんです。それで必死に就職先を探して、リクルートで求人広告のディレクターとして働くことに。幸いコピーも自分で考えることができる仕事でした。

―念願のコピーライターに近い職ですね?

長谷川 哲士

長谷川:そうですね。求人広告の場合だと、人が足りないからとにかくバイトが欲しいとか、こんな人が欲しいとか、色んなオーダーがあります。そのためのコピーを作るわけですが、最初はもっと自由に好き勝手できるイメージでしたけど、ちゃんと課題があってそれをクリアするための言葉だったり、企業が欲しい人に応募してもらう言葉になってないとダメなんだということを学びましたね。コピーは普通の言葉と違って、役目を背負っている、と気づいて。

―役目、ですか。

長谷川:たとえば、「妻は10円でも安い食材を買うために、隣町のスーパーに行く」ってコピー。これは仕事を探してるけどなかなか見つからなくて、奥さんにも苦労をかけてるな……っていう男性が見たらグッとくるんじゃないかなって。この求人を出している会社で活躍しているのが、家族のために働いている人たちだったので、こういうコピーをつくってみたり。

―なるほど。コピーを書く難しさはどんなところにあるんでしょう?

長谷川:コピーの価値って、正しく言葉に表現できない人の方が圧倒的に多いと思うんです。お客さんは、僕が3時間考えて書いた1行のコピーよりも、フォトショップで合成した写真のほうに価値を感じていることのほうが多かったですし。合成写真は自分では作れないので、そちらに価値を感じるようです。言葉は誰でも書けるので、お客さんが簡単に修正してくることもあります。でも、その言葉じゃ目的は達成できないんだ、と説明するのがけっこう大変でしたね。

―お客さんの視点からでは書けないものを作るのが役目ですものね。

長谷川:求人を出すお客さんにしたら、うちは時給も高くて待遇もよくて社員同士の仲も良いですって、全部言いたいじゃないですか。でもあれこれ言うと、逆に何も伝わらないんですよ。たとえば、幕の内弁当と言うと印象に残らないけど、からあげ弁当と言えば「からあげ」のことだけは少なくとも頭に浮かびます。一つだけを強調して言ったほうが、結局は伝わると思うんです。

―その後、リクルートを辞めてフリーになったと聞きました。

長谷川:リクルートには2年半くらい勤めたんですけど、リーマンショックの影響で部署そのものが潰れて、辞めるしかなくなっちゃったんです。部署がなくなることがわかってからは、リクルートの名刺の裏に「タウンワークを作る人から、ハローワークに通う人になりました」とかいくつかコピーを印刷して、自分の求人広告にしてましたね(笑)。その求人名刺がきっかけで仲良くなった人が、フリーになってから仕事をくれたりもしました。

―言葉の力で仕事を穫る、まさにコピーライターの仕事ですね(笑)。

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「コトバが、ネットを制する」

「コトバが、ネットを制する」

—フリー時代を経て、再就職先としてカヤックを選んだのは何故ですか?

長谷川:フリーのコピーライターを2年ほど続けていたんですが、毎月固定で仕事をくれる会社の代表が病気になり、そこの仕事がなくなってしまい……。そのタイミングでちょうど、以前から気になっていたカヤックが「コピー部発足!」っていう求人広告を出しているのを見つけたんです。「会社はもっと面白くてもいいんだ」という考えは、リクルートにいた頃からかっこいいと思っていたので応募しました。

—もともと気になっていた会社が、まさにコピーライターを募集していた、と。

長谷川:その求人広告に「コトバが、ネットを制する」って書いてあったんですけど、それって「検索を制する」ってことだと思ったんです。カヤックは「経営理念」で検索した時に、他の大企業を抑えて面白法人カヤックのページが一番トップに表示されるのを一つの売りにしているんですが、そういうところにも惹かれていましたね。

—コピーそれ自体だけでなく、検索で上位に表示されることも重要だと。

長谷川 哲士

長谷川:糸井重里さんみたいな大御所や大手広告代理店から独立したような優秀な方はそれだけで仕事がもらえますけど、僕はそうじゃない。だから、ただコピーを書き続けるだけではなく「コピーライター」として生き残る術を考えなければならないんです。ネットの影響力はまだまだ大きくなっていきますし、その中心にあるのは「検索」です。だから、「コピーライター」で検索して「長谷川哲士」が上位にくるというのは大きなメリットになると思うんですね。

—具体的に自分の名前を検索上位にするためにやっていることはあるんですか?

長谷川:たとえばNAVERまとめって検索で上位に来やすいんですけど、NAVERまとめでポートフォリオを作っているコピーライターは誰もいなかったので、僕が最初にやりました。タイトルの頭を「コピーライター長谷川哲士」にしてるのがポイントで、NAVERまとめでは検索ワードが頭にあるタイトルのまとめを優先して表示するんです。「長谷川哲士(コピーライター)」とかだと、「コピーライター」って検索した時に頭にコピーライターがあるものより、上位になりにくいんです。

—そんなルールがあったんですね。自分の仕事を自分でアーカイブするっていいですね(笑)。

長谷川:誰もが見れるアーカイブって、ネットならではですよね。ネットやGoogleなどの検索エンジンは僕よりも長生きすると思っているので、自分が書いたコピーは、ネット上で遺作としてずっと残るような感覚を持ってます。自分が死んだ後も自分が書いたコピーはネット上に残っていて、誰かが見つけた時に「これ考えたやつ面白いな」と思ってくれるのが理想です。いつもインターネットっていう膨大な空間に、言葉を吐き出すイメージでコピーを書いています。

—お話を聞いていると、長谷川さんはアーティストに近い感覚でお仕事をされているような気がします。

長谷川:「広告はアートじゃない」とよく言われますが、コピーは営業と同じように売り上げを上げるための仕事なので、実際に世の中を動かしたという結果が大切です。だから僕が今考えてヒットしなかったコピーと同じコピーが、10年後にヒットしたとしても、それは僕に先見の明があったということにはなりません。その時代の空気やトレンドを読み取って広告として機能しないと意味がないので、コピーライターは、死後に評価されることを期待する必要はないんですよね。

—シビアな考え方ですね。

長谷川:でもそういう想いとは別に、広告コピーには「作品」としての側面も少なからずあると思うんです。それを僕の文化的な遺伝子じゃないですけど、インターネットの中に残していきたいという気持ちもあります。

自分がやる仕事は、全てが「コピー」

—カヤックで印象に残っている仕事には、どんなものがありますか?

長谷川:直近ですと、アイドルグループのBiSにコシノジュンコさんが正式加入するっていう企画ですね。ただのキャンペーンではなく本当にコシノさんがBiSに加入したんだと思ってもらうことが重要でした。だから本格的なアーティスト写真を撮影したり、プロの作曲家に新曲を作ってもらったりと色々工夫しました。僕も作詞も担当して、メンバー全員の名前をさりげなく歌詞に入れたり、縦読みできたり、普通の作詞家さんが考えないところで工夫したら反応ももらえたので、印象に残っています。

—作詞も手がけるコピーライター! かなり幅広く活動してるんですね。

長谷川 哲士

長谷川:CMの曲ってアーティストが作った曲を後から使用するって形が普通だと思います。でも最近は、中田ヤスタカさんが企業のために曲を作ったりして、きゃりーぱみゅぱみゅが企業の商品名が入った曲を歌ったりするじゃないですか。しかも、ライブではそれをみんなが口ずさんだりする。きゃりーのライブがあるたびに、宣伝してくれるのは、新しい試みですよね。

—既に音楽という分野に踏み出した長谷川さんですが、他に挑戦してみたい活動はありますか?

長谷川:あ、実は「R-1ぐらんぷり」に出ようと思ってるんですよ(笑)。芸人として生きていくのはもちろん無理ですが、「コピーライター長谷川哲士」って名前でもしテレビに出れたら、みんな検索してくれるじゃないですか。テレビと検索の連動って、リアルタイムで大きく関係し合っていますし。そうすれば「コピーライター」で検索した時に長谷川哲士が上位にくるようになって、知名度を上げられるんじゃないかと(笑)。実は前にも一度予選に出たことはあるんですが、その時は途中で噛んでしまい苦い思い出になったので、またリベンジしたいですね。

—検索サイトで上位になりたいから「R-1」に出るって発想はなかったです(笑)。長谷川さんは、時代に合わせて変わっていくようなコピーライターの道を常に探しているんですね。

長谷川:カヤックには半期前の自分とどれだけ変わったかを評価する「変態診断」というのがあって、会社自体が変わることに対して評価するという考え方なんですね。僕も他の人がやらない戦略で戦っていかないと勝てないと思っていて、コピーライターの仕事とはコレ、というような定義は持っていません。コピーといったら、ポスターや新聞広告で書くものというイメージを持つ人は今でも多い気がしますが、僕は自分がやることは全部がコピーの仕事だと思っていて。物事を色んな視点で見つめることが、コピーライターの職能だと思っていますし、コピーライターの仕事自体も色んな角度で見つめていたいです。そうして、他のコピーライターが目をつけてない土俵で、戦っていけたらなと思います。せこい考えですが(笑)、それが自分の戦い方なのかな、って思っています。



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