格好つけてこそ男です。『LEON』編集者が語る、かっこいいオヤジ像

プロフィール
市村 広平

1985年生まれ。明治大学商学部卒業。2010年より男性ライフスタイル誌『LEON』の編集を中心に、航空機内誌や紳士服ブランドWEBメディア、ゴルフ誌や通販カタログの制作などをこなす。

2005年に新語・流行語大賞トップ10に選ばれるなど一斉を風靡した「ちょい不良(ワル)」という言葉。今でこそ当たり前のように世間に浸透したこの言葉ですが、雑誌『LEON』が理想の中年男性のスタイルを示す言葉・価値観として提唱したことで、ブームに火がつきました。そんな時代を切り開いた『LEON』編集部に24歳から7年在籍しているのが市村広平さん。その実「ちょい不良(ワル)」ファッションの世界に憧れて『LEON』編集部に在籍していたのかと思いきや、はじめは必ずしもそうではなかったと語ります。今、『LEON』を通じて提唱したい価値観とは?

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ファーストキャリアは「役者」!?

ー編集者になる前はどのようなことをしていたんですか?

市村:学生時代、偶然新宿で芸能事務所にスカウトされたのがきっかけで、役者をしていました。自分はミーハーなところがあって、特に役者を目指していたわけではないのですが「モテたかったから」と軽い気持ちで所属したんです。でも蓋を開けてみたら、いくらオーディションに行っても全然ダメで(笑)。何もないところで、いきなり踊りだしたり泣き始めたりしないといけないんですが、基本的に僕は恥じらいを捨てきれなくて……。

ーオーディションではどんな人が合格していたんですか?

市村:いい意味で頭のネジを外すことができる人、常識にとらわれずリミッターを解除できる人ですね。そうじゃないと芸の世界では通用しないというのをまざまざと見せつけられました。でも、プレゼン能力や人前で話す度胸、物怖じしない態度は身についたと思います。大学卒業してからも1年間ほど事務所に所属していたのですが、まったく仕事がなくて。大学卒業してからも定職につかずフラフラしている風に思えていたようで、実家の家族にも心配されていました。

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ー編集者志望というわけではなかったんですね。

市村:漠然とした憧れはありました。学生の頃からなんとなく9時〜5時の仕事はしたくない、忙しくても刺激のあるところで働いていたいと思っていたんです。大卒文系でそういう願いが叶えられる世界は編集職だろうなと考えていたので。ただ、ファッションの世界への憧れはそこまでありませんでした。役者を辞めていろんな雑誌の編集部に応募はしたんですが、基本的に編集者の募集は即戦力が最低条件であることが多いんです。僕は未経験だったし、全然受からなくて。

ーでは『LEON』の編集者というポジションは、どうやって手にしたんですか?

市村: 地元のファッションに詳しい知人がたまたま『LEON』を愛読書にしていて、「『LEON』がちょうど募集しているから試しに受けてみたら?」とアドバイスされて。ダメ元で応募したのが始まりでした。どういうわけか僕みたいなズブの素人を選んでもらえて、入ることができたんです。

どこの世界にも染まっていなかったから、未経験でも編集者になれた

ー編集者ともなると、何かしら光るものがないと採用されない印象です。市村さん採用の決め手はどんなところにあったんでしょう?

市村:後になって編集長に聞いてみると、「役者でコケて、失うものが何もないことと、まだどこの世界にも染まっていないこと」が評価されたみたいなんですけど(笑)。自分がまったく白紙の状態だったからこそ、ここでファッションや編集の「いろは」を叩き込んでもらえたのかなと思います。

ーまったくの未経験から編集の世界に足を踏み入れて、最初はどんなお仕事を?

市村:カメラマンやスタイリスト、モデル、ロケ場所の手配をして、時間調整するといったアシスタント業務で手一杯でした。現場でディレクションをするのはもちろん先輩。どこも最初はそうだと思いますが、自分はそれをただ見て学んで、なにが格好いい写真で、どう撮れば読者に響くのかをひたすら盗みました。1か月の間に3号同時に動いているような時もあって、そういう月は全然寝られないし、帰れない。情けない話ですが、その頃は「しんどい」「辞めたい」なんていつも思っていましたよ。

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ーそれでも食らいついて辞めなかったのにはどのような理由があるのでしょうか?

市村:同期に恵まれたからだと思います。しんどいという気持ちや野望なんかを語り合えて、ガス抜きもできて、お互いに支え合えた気がします。そういう時期が3年くらい続いて、ようやく自分のページを持つことができた時は本当に嬉しかったですね。

ーファッションにも疎かったというお話でしたが、大変な部分も多かったのでは?

市村:そうですね。着る服を毎日先輩にダメ出しされて、「今持っている服全部捨てろ」と冗談交じりに言われたりしていました(笑)。毎日の業務に必死だったので、自分の服なんて正直どうでもよかったのですが、でもそれでは当然ダメで。展示会も先輩の後ろについていき、どの服の前で立ち止まるのかを見て学んでいました。不思議と編集長も副編集長もデスクも、みんな立ち止まるところが一緒なんです(笑)。そういうのを見て、「『LEON』的なセンス」みたいなものが養われていったんだと思います。

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やっぱり男は「格好つけてナンボ」

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ー『LEON』的センスが磨かれるなかで、趣味嗜好もそのスタイルに寄っていった部分はあるのでしょうか?

市村:仕事を通じてかっこいい生き方をしているオヤジにお会いする機会に恵まれているので、とても影響を受けています。とはいっても、仕立てのいいスーツや時計、車などの価値を本当の意味で彼らと同程度分かっているかと聞かれると、まだまだその域に達していないですが。誌面を作る時も、自分がかっこいいと思う大人がどうしてこのお店に行きたがるのか、この車に乗りたがるのか、自分の理想のオヤジ像を追っている、という感覚はあります。

ー確かに、市村さんの年齢と読者層の年齢とにはギャップがありそうです。

市村:正直どこまで突き詰めて考えても、築いてきた年輪が違うので彼らの本当の価値観や審美眼には追いつけないんですよ。だからこそ僕らみたいな若造が提案しても、違和感のないもの、いいなと思ってもらえるものというのを慎重に考えないといけない。常日頃から大事にしているのは、「こんなオヤジが理想だ」という視点です。

ー具体的に市村さんにとっての理想のオヤジとは?

市村:やはりいくつになってもバイタリティがある人ですね。年を重ねても老けこまないで、しっかり遊んでいる。いくら平日によそで遊んでいても、自分の家族もちゃんと幸せでいる。常に女性が喜ぶ姿をモチベーションとしていて、そういう人たちに、『LEON』を通じて何人も知り合えました。だから男にとって大事なのは年齢ではなくて、バイタリティなんだと痛感しますね。

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ー彼らにあって若い世代に足りないのはどのような部分だと思いますか?

市村:僕らの世代っていわゆるデートらしいデートをしない人が多いと思うんです。免許を持っていない人、免許を持っていても自分の車を持っていない人が多い。それに比べて、『LEON』を通して知り合う人たちは若い頃から自分の車で女の子をドライブに連れて行って遊んでいる。彼らの原動力は「モテたいから」だけなのかもしれないですけど、きちんと格好つけて女性をエスコートしてきた分、男としての経験値が違うと感じます。時代的にトレンドではないのかもしれませんが、そういう姿勢が今の若い世代には欠如しているなぁと感じています。諸先輩方を見てきて感じるのは、やっぱり男は「いくつになってもモテてナンボ」ということです。いいものを身につけたり、女性の好みに応じてお店をセレクトできたり、「格好つけること」でしか学べない部分ってたくさんあると思っていますね。

ー「ちょい不良(ワル)」という言葉が一斉を風靡した頃はモード的なものが流行していましたが、今は時代的にもナチュラルなものが支持される傾向にありますよね。

市村:そうですね。ファッションは基本的におよそ10年周期で変わるので。そのなかで『LEON』が掲げる理想のオヤジ像みたいなものも少しずつ変化させていかなければと思っています。当時はイタリアオヤジのファッションを常に見本として取り上げていました。彼らの生き方や考え方を理想としていることに変わりはありませんが、ことファッションにおいては、いまはイタリアンもアメリカンもありません。逆に、日本人の仕立てるスーツやスタイルの方が優れている場合も多々あります。イタリアに出張して、現地で「おしゃれだな」と思う人が、実は日本のファッションを積極的に取り入れていることもあります。だからこそ、ファッションは柔軟に変化させていかなくてはいけないなと思いますね。

LEON編集部は通過点。自分もかっこいいオヤジに

ー市村さんが仕事をする上で挑戦していることってありますか?

市村:誌面を作る上で絶対に間違いない型みたいなレイアウトもあるんです。だけど、あえてそれを少し崩したり、新しいものを付加してみようと努力しています。そうでないと自分が携わっている意味がない。今のモチベーションはそこにありますね。過去のスタイルをアップデートするだけではなく、全く見せたことのないレイアウトとか、普段あまり撮らないシチュエーションでやってみるとか。そういうことが今の自分の挑戦領域です。まあ、結果怒られることもあるのですが、なにもやらずに怒られるよりはよっぽどいいです。

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ー一方で時代が変化しても変わらない『LEON』像もありますよね。

市村:そうですね。食事する場所や着ている服、乗る車が変わっても「女性が喜ぶ顔を見て、男性が嬉しい」という根本は、時代が変わっても多分変わらないはずです。そこがずれなければ、少しはみ出したりしても問題ないかなと思っています。

ー最後に、これからの目標を教えてください。

市村:20代の頃から仕事を通じて、普通に暮らしていてはまず会えないようなブランドのCEOやデザイナー、文化人にお会いするチャンスをいただいています。でもそれって “LEON編集部の”市村だから、協力してくれる企業の人や会ってくれる人がいるだけで、僕個人の力ではないんですよね。当たり前のことかもしれませんが、そこを履き違えて天狗になってはいけないなと思っています。そうしたなかで今意識するのは、『LEON』を離れて僕1人になっても「市村だったら協力したい」と力を貸してくれる人を1人でも増やすような仕事をすることです。

ーなるほど。

市村:編集長の前田は常々「LEON編集部を通過点にしろ」と言っています。ここを離れたときにどこまでやれるのか、まだまだ磨いていきたいですね。同時に自分が50〜60代になったときに、ただの老け込んだおっさんにはなりたくないなと思っているので、『LEON』を通じてお会いしたようなバイタリティ溢れるかっこいいオヤジになりたいなと思います。要するに、「モテたい」というだけなのかもしれませんが(笑)。



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