「アニソン」の枠はさらに自由に。ブンサテ、agraph、fcpなど

J-POPの3つの「独自性」とは?

日本のポピュラーミュージック、いわゆる「J-POP」の昨今の世界的な浸透からは、改めて、J-POPにはどれほどの「独自性」があるのかに気づかされる。たとえばBABYMETAL、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅらは、エンターテイメントとしてのユニークさから、海外でのファンベースを着実に広げてきた。その他にも、アニメやゲームに起用されたJ-POPのアーティストが外国で流行するケースや、ピコ太郎のようにYouTubeなどの動画サイトで拡散されるケースもある。

J-POPの持つ「独自の魅力」とは一体なんだろうか。筆者は以前、「大のJ-POP好き」でも知られるWeezerのリバース・クオモに、そのことを尋ねたことがある。そのとき彼は、「スーパー・キャッチーなメロディ。スーパー・ハイエナジーなサウンド。それからコンプレックス(複雑)なコード進行」(RealSound掲載のインタビュー記事より引用)と答えてくれた。非常に核心を突いた答えだと思うが、リバースの言う3つの要素をさらに突き詰め、物凄いスピードで進化してきたのが「アニメソング(アニソン)」と言えるだろう。

今や、ねごと・BOOM BOOM SATELLITES・agraphなども「アニソン」の分野に参加する

どうやら「アニソン」というフィールドには、それ以外ではなかなかやれない「遊び」が自由にできる楽しさがあるようで、昔から優秀なコンポーザーが集まり、チャートを賑わすヒット曲をしばしば作り出してきた。そのため、J-POP界のアーティストたちがアニソンを手掛けるケースも、それこそ古くはゴダイゴから、1980年代に入ると杏里やTM NETWORKなど枚挙に遑がない。

さらにここ数年は、優秀なコンポーザーやJ-POP界のアーティストのみならず、クラブシーンやJ-ROCKシーンなどで活躍するミュージシャンたちも、次々とアニソンを提供するようになり、これまでになかったケミストリーが起きている。

たとえば、ロックバンド「Sound Schedule」のボーカリストとしてキャリアをスタートさせた大石昌良は、アニメ『けものフレンズ』のオープニングテーマ“ようこそジャパリパークへ”(どうぶつビスケッツ×PPP)の作詞・作曲・編曲を手掛け、大ヒットを記録。クラムボンのミトに「これ以上のアンセムはないんじゃないか? っていうくらい秀逸な曲」と言わしめ、大石本人も「この曲はよく『現代アニソンの集大成』と言われるんですけど、まさにその通りだなって思います」と自負する(レポート記事「アニソン、舐めたらアカン。ミト×OxTによる『アニソン座談会』」より)。

また、シンガー・XAIの歌う劇場版アニメ『GODZILLA 怪獣惑星』の主題歌“WHITE OUT”は、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之が作曲を、ねごとの蒼山幸子が歌詞を担当し、BOOM BOOM SATELLITESやねごとの楽曲とはひと味違う魅力が宿った楽曲として話題となった(参考記事:中野雅之も認める、新人アーティストXAI。デビューを語る)。

さらに、“WHITE OUT”が入ったXAIのデビューミニアルバムに“Somewhere in Night”を提供した牛尾憲輔(agraph)は、電気グルーヴが主題歌(“MAN HUMAN”)を歌うNetflix独占配信アニメ『DEVILMAN crybaby』で劇伴を担当し、その音楽と映像の高度な掛け合わせは評判を得ている。

「アニソン」のクオリティーが進化し続けている背景には、何があるのか?

前述したリバースの言うJ-POPの魅力をアニソンが加速させることができたのには、いくつか理由が考えられる。そのなかのひとつが、ボカロPの登場とSNSの普及だろう。

ボカロPの多くは自作を動画サイトに投稿し、そこでリスナーたちが付けるコメントを参考に、曲や音楽性をブラッシュアップさせてきた。「初音ミク」をはじめとするVOCALOIDを使うことで、常人には歌いこなすことが不可能なほどメロディーが高度化・複雑化していく。すると今度は、そのメロディーを歌いこなす生身の歌い手が現れ、レベルが一段上がるということを繰り返してきたのだ。

そうした切磋琢磨は、ボカロ登場以降、あちこちで行われてきた。たとえば前述の“ようこそジャパリパークへ”や、Tom-H@ck率いるMYTH & ROIDによる『Re:ゼロから始める異世界生活』のエンディングテーマ“STYX HELIX”のような難解な楽曲がリリースされると、それはたちまちリスナーたちによって「解析」され、SNSで共有される。その一方で、『Re:ゼロから始める異世界生活』のオープニングテーマを歌った鈴木このみのような、作家たちの無理難題に答える超絶テクニックを持つ歌い手が、次々と登場してきているのだ。

昨年11月11日、ミト、大石昌良、Tom-H@ckが登壇した、CINRA主催イベント『NEWTOWN』内の『アニソン座談会』にて、ミトは次のように語っていた。

ミト:僕は、アニソンシーンの何が好きかって、作り手も受け手もものすごく勉強熱心というか。楽曲に対して様々なロジックを駆使して「解析」をしてくれるんですよね。それがあるからこそ、次に生まれる楽曲のクオリティーが飛躍的にアップするし、アニソンシーンそのものが世界的にも「ワンアンドオンリー」になっているんじゃないかと思うんです。

MYTH & ROID、fox capture planらにとっての「遊び場」となるボーカリストの登場

そして今、鈴木このみを輩出した『全日本アニソングランプリ』で、2011年にファイナリストとなった経験を持つASCAの“PLEDGE”が、テレビアニメ『グランクレスト戦記』のエンディングテーマに起用され話題となっている。

ASCAは2017年11月、1stシングル『KOE』でデビュー。テレビアニメ『Fate/Apocrypha』2ndクールのエンディングテーマに起用された“KOE”は、ヒネリの効いたコード進行や動きまくるベースライン、切れ味鋭いエレキギターが中期ビートルズを思わせつつ、ドラマティックな転調やどこか昭和歌謡なメロディーが非常にドラマティックで印象に残っていた。作詞・作曲・編曲は、藍井エイルや瀧川ありさなども手掛けているSaku。

同じく“PLEDGE”もSakuによるもので、楽器編成やサウンドプロダクションなどは“KOE”の延長線上にありつつも、オーケストラを大々的にフィーチャーした壮大な雰囲気に仕上がっている。

めまぐるしい転調の上で踊る、抑揚たっぷりのメロディーを難なく歌うASCAのボーカルも圧巻だ。地声からファルセットまで巧みに使い分けつつ、ブレスのリズムなどにも細かく配慮したアーティキュレーションは、おそらく作家魂を焚きつけるものがあるのだろう。今後もこの二人のコンビネーションが生み出す楽曲を楽しみに待ちたい。

そしてもうひとつ気になるのが、『PLEDGE』のカップリングとして収録されている“グラヴィティ with fox capture plan”だ。作詞はMYTH & ROIDのhotaruで、作曲と編曲を、「現代版ジャズロック」を鳴らすピアノインストバンド・fox capture planが担当している。岸本亮(fox capture plan)のピアノが全編にわたってフィーチャーされ、そこにオーケストラがたっぷり絡んでくる。ドラマ『カルテット』(TBS系列)の劇伴を務めて以降、劇伴担当としても引っ張りだことなっているfox capture planだが、それらの音楽ともまたひと味違う、まさに「ASCAというボーカリストを使って普段できないことをやった」「アニソンというフィールドで大いに遊んでみた」といった感じの音楽性が引き出されている。

表題曲ではアニメのテーマソングとしての王道を追求しつつ、カップリング曲で他ジャンルの作家とも積極的にコラボした『PLEDGE』は、日本におけるアニソンシーンの進化を象徴する一枚と言えるかもしれない。

ASCA『PLEDGE』
ASCA『PLEDGE』(Amazonで見る

リリース情報
ASCA
『PLEDGE』初回生産限定盤(CD+DVD)

2018年2月21日(水)発売
価格:1,728円(税込)
VVCL-1179-80

[CD]
1. PLEDGE
2. 悠遠
3. グラヴィティ with fox capture plan
4. PLEDGE -Instrumental-
[DVD]
1.「PLEDGE」Music Video
2.「PLEDGE」Lyrics Video

ASCA
『PLEDGE』期間生産通常盤・アニメ盤(CD+DVD)

2018年2月21日(水)発売
価格:1,620円(税込)
VVCL-1182-83

[CD]
1. PLEDGE
2. 悠遠
3. グラヴィティ with fox capture plan
4. PLEDGE –TV size mix-
[DVD]
TVアニメ『グランクレスト戦記』ノンクレジットエンディングムービー

ASCA
『PLEDGE』通常盤(CD)

2018年2月21日(水)発売
価格:1,404円(税込)
VVCL-1181

1. PLEDGE
2. 悠遠
3. グラヴィティ with fox capture plan
4. PLEDGE -Instrumental-

プロフィール
ASCA
ASCA (あすか)

愛知県出身、1996年9月5日生まれ。A型。中学生時代よりロックバンドのボーカリストとして音楽活動を開始し、その力強い歌声で注目を浴び始める。第5回『全日本アニソングランプリ』に出場、10,000組以上の中から決勝まで勝ち抜き、ファイナリストとなる。2017年8月、アニメ音楽誌『リスアニ!』誌上にてASCA初となるオリジナル楽曲“RUST”を発表。新曲“KOE”がTVアニメ『Fate/Apocrypha』2ndクールエンディングテーマに決定。11月22日(水)に1stシングル『KOE』でデビュー。2018年1月より放送の『グランクレスト戦記』エンディングテーマに新曲“PLEDGE”が抜擢され、同年2月21日にリリースされることが決定した。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 「アニソン」の枠はさらに自由に。ブンサテ、agraph、fcpなど

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて