2018年に一番愛された作品は? カルチャーランキングを発表

社会情勢は一層混迷し、個人レベルでの「分断」も目立ってきた2018年も、もう間もなく終わろうとしています。CINRA.NETでは今年も読者のみなさんの力をお借りして、音楽、映画・ドラマ、アート、ステージ、書籍の5ジャンルの年間ランキングを発表します。

今年はアンケート形式だけではなく、「2018年に出会った、あなたの心を動かした作品」をテーマに、読者のみなさんが出会った2018年発表のカルチャー作品のうち、特に「#わたしの心を動かした作品2018」の投稿を募集しました(募集期間は2018年11月29日〜12月19日)。気になる結果は、巷の売上ランキングでも、専門メディアのランキングとも異なる、また昨年までのCINRA.NETのランキングともまた違う、カルチャーの受け手の視点が垣間見えるものとなりました。是非このランキングを見ながら、みなさんの2018年を振り返っていただけたら幸いです。

【音楽編】10作品中、バンドは2作のみ。国内外ともにソロアーティストへの支持が集まる

文:山元翔一

【国内】5位 折坂悠太『平成』

折坂悠太『平成』ジャケット
折坂悠太『平成』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

平成元年生まれのシンガーソングライター、折坂悠太の2作目となるアルバム。一聴して耳に残る独特な歌声と歌唱法、世界各地のルーツミュージックを吸収した豊かな楽曲で幅広い支持を集めました。古今東西の歌に接続しながら、同時代性も打ち出した作品性で、『ミュージック・マガジン』誌など国内メディアの年間ランキングでも高い評価を獲得しています。

特集:折坂悠太という異能の歌い人、終わりゆく平成へのたむけを歌う

4位 椎名林檎と宮本浩次“獣ゆく細道”

椎名林檎と宮本浩次“獣ゆく細道”ジャケット
椎名林檎と宮本浩次“獣ゆく細道”ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

唯一単曲でのランクインを果たした、椎名林檎と宮本浩次(エレファントカシマシ)によるコラボ曲。改めて、プロデューサー・椎名林檎の慧眼ぶりには恐れ入るばかりですが、あの宮本浩次を「楽器としてすごい」と評する肝の据わり方に痺れた人も多いのではないでしょうか。『ミュージックステーション』でのエキセントリックなパフォーマンスも大きな話題となりました。

3位 cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』ジャケット
cero『POLY LIFE MULTI SOUL』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

各所で絶賛された前作から約3年ぶりとなる、ceroの4thアルバム。小田朋美(CRCK/LCKS)らアカデミックな素養を身につけたサポートメンバーの手を借り、創作性は前作を遥かに凌ぐ域へ。リズムの多様化、和声の洗練をはじめ、ソングライティング面の飛躍的な進化に心から興奮させられました。世界の先鋭的な作品と並べても一切見劣りしない紛れもない傑作です。

特集:ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る

読者からのコメント

2位 宇多田ヒカル『初恋』

宇多田ヒカル『初恋』ジャケット
宇多田ヒカル『初恋』ジャケット(Amazonで購入する)

今年、デビュー20周年を迎えた宇多田ヒカルの7枚目のオリジナルアルバム。ゴスペル風のコーラスを配した生命力ほとばしる“Play A Love Song”で幕を開け、“あなた”“初恋”“誓い”“Forevermore”とド級の名曲が続く序盤の流れが圧倒的。世界屈指のドラマー、クリス・デイヴらを迎えた生演奏を主体とした作風でこれまでとの変化も印象付けました。

特集:宇多田ヒカルは本当に時代と関係なく生きてきた?『初恋』を考察

1位 カネコアヤノ『祝祭』

カネコアヤノ『祝祭』ジャケット
カネコアヤノ『祝祭』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

宇多田ヒカルを抑えて栄えある1位に輝いたのは、カネコアヤノのフルアルバム『祝祭』。音楽的に真新しいところがあるわけではないのだけれど、胸に響くものがある――そういった聴き手の日々を彩り、心の拠り所となるような作品をこういった形で評価できるのは、このランキング企画ならではかと思います。時代を超えて多くの人の心に寄り添い続けるであろう作品です。

特集:カネコアヤノが語る、怒涛の2年の全て 本当のはじまりはここから

読者からのコメント

【海外】5位 The 1975『ネット上の人間関係についての簡単な調査』

The 1975『ネット上の人間関係についての簡単な調査』ジャケット
The 1975『ネット上の人間関係についての簡単な調査』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

マンチェスター出身の4人組、The 1975の3作目。多様な音楽をジャンル横断的に内包したサウンドに、ソーシャルメディア時代の憂鬱を描いた現代社会に接続したテーマ、また本人らの発言もあって、批評家筋ではRadiohead『OK Computer』を引き合いに出して語られることも多い本作。2018年現在、世界でもっとも支持を集める若手ロックバンドが5位にランクインしました。

4位 ジャネール・モネイ『Dirty Computer』

ジャネール・モネイ『Dirty Computer』ジャケット
ジャネール・モネイ『Dirty Computer』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

映画『ムーンライト』『ドリーム』に出演するなど俳優としても活動する才媛、ジャネール・モネイの約5年ぶりのアルバム。ファレル・ウィリアムス、グライムスの参加も目を引きますが、ブライアン・ウィルソン(The Beach Boys)の参加には驚かされました。ポップかつ先鋭的なフューチャーソウルの傑作です。

3位 Mitski『Be the Cowboy』

Mitski『Be the Cowboy』ジャケット
Mitski『Be the Cowboy』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

アメリカ人の父と日本人の母を持つミツキ・ミヤワキの5枚目のアルバム。日本で生まれ、コンゴ民主共和国、マレーシアなど様々な国を行き来する環境で育ち、現在はニューヨークを拠点に活動している彼女の歌の多くは孤独がテーマ。その生々しい歌に今、世界が魅了されています。米音楽メディア『Pitchfork』の年間ベスト1位に輝いた一作。

2位 カニエ・ウェスト『ye』

カニエ・ウェスト『ye』ジャケット
カニエ・ウェスト『ye』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

8作連続となる全米アルバムチャート1位を獲得した、カニエ・ウェストの2年ぶりとなるソロアルバム。世を騒がせたエピソードも目立ったが、この音楽はとにかく美しかった。また、7曲入り約24分というタイトな構成も話題に。これが、作品ごとにポップミュージックを次のレベルに推し進めてきた、天才の最新モードです。

1位 Snail Mail『Lush』

Snail Mail『Lush』ジャケット
Snail Mail『Lush』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

名門インディーレーベル「Matador Records」からデビューを果たした18歳、Snail Mailのデビューアルバム。瑞々しいローファイサウンドと物憂げな歌声で、多くのリスナーの心を掴みました。『ニューヨーク・タイムズ』も称賛を送る若きシンガーソングライターが、並み居る傑作を抑えて見事1位に。

音楽編総括
昨年の総括文には、「SpotifyやApple Musicといったサブスクリプションサービスを通じて音楽に接することが当たり前になってきた」と書きましたが、2018年は椎名林檎、Mr.Childrenといった国内のトップアーティストがサブスクリプションサービスを解禁したことで、ストリーミングで音楽を聴く文化がより一般層にまで浸透した1年だったと位置付けることができるでしょう。

そういった背景がありながら、あいみょんが瞬く間に国民的認知を獲得し、BAD HOPが日本武道館の舞台に立ち、CHAIの『PINK』が米音楽メディア『Pitchfork』の「The Best Rock Albums of 2018」に取り上げられ、そして米津玄師が『NHK紅白歌合戦』に出演するという、数年前には想像もしなかったことが起こったのは、今、日本のポップミュージックの世界が劇的に面白くなっている証拠かと思います。

そんな2018年、このランキングの結果から特筆すべきなのは、バンド名義による作品がceroとThe 1975のみであったこと、旧来の「ロック」という枠組みに収まるものが影を潜めたこと、そして、並み居る傑作を抑えて1位に輝いたのが、カネコアヤノとSnail Mailという若手女性アーティストの作品であったこと。これらを、現時点で、日本のリスナーの傾向やポップミュージックの世界の変化に結びつけて語ることは難しいですが、「2018年が転機であった」というふうに数年後に振り返って語られる日が来るような、そんな予感がみなさんのなかにもあるのではないでしょうか。

毎週膨大な数の作品が世に放たれては消費されるというサイクルは加速する一方ですが、少し大げさな言い方をすると、音楽を愛でるという営みが失われることはないはずです。実際にこの企画には、万人からは愛されなくとも、音楽的な革新性がなくとも、聴き手の心に触れた作品が数多く寄せられました。ここでそのすべてを紹介することはできませんが、その事実は書き留めておきたく思います。読者のみなさんの心を動かした作品を集めたこのランキングが、より豊かな生活の一助となれば幸いです。

【映画編】「観客」の重要性がより強化された2018年

文:久野剛士

5位 『カメラを止めるな!』(監督:上田慎一郎)

2018年最強のダークホースが第5位にランクイン。公開当初は都内2館の上映だった低予算作品が、口コミでファンを拡大。全国190館で上映される爆発的大ヒットとなりました。内容には触れませんが、「この作品を作っている人々は、当時きっと大変だったろうけど心底楽しかったんじゃないか」と想像させてくれる1作でした。

4位 『バーフバリ』(監督:S・S・ラージャマウリ)

出ました! 140分以上の長尺にもかかわらず、口コミで人気が爆発。インドを越え、日本でも中毒患者を生み出した『バーフバリ 王の凱旋』のオリジナル版。観れば必ず「バーフバリ!」と叫びたくなる本作はリピーターも続出。しかし、あまりに観客をハイにさせる作用があるため、摂取量には注意しましょう。

読者からのコメント

3位 『万引き家族』(監督:是枝裕和)

現代社会における「家族」とはなにか? 子どもの演出に定評のある是枝監督の集大成とも言える作品で、『第71回カンヌ国際映画祭』でも最高賞である「パルム・ドール」を獲得した本作が3位に。この作品をきっかけに、「家族」や「貧困」といったテーマについて、改めて考えてみた人々も多いのではないでしょうか。

2位 『ボヘミアン・ラプソディ』(監督:ブライアン・シンガー)

惜しくも第2位に選ばれたのはQueenのボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記映画。「ラスト20分のライブ映像に鳥肌が立った」といった感想のほか、「Queenファンだった昔の恋人を思い出した」というコメントも寄せられ、それぞれが抱えるQueenエピソードを披露する良い機会にもなっているようです。

読者からのコメント(投稿フォームより)
好きな人が誘ってくれて初めて一緒に観に行った映画。正直Queenのことなんて全然知らなかったけど、彼が嬉しそうにしているのが良すぎて泣きたい気持ちになった。共通の知り合いに一緒に行ったことがバレないようにフィルマークスに少し時期をずらして記録したりしたことを、いつか彼と笑いながら思い出す日が来るといいな。

1位 『君の名前で僕を呼んで』(監督:ルカ・グァダニーノ)

見事、1位の栄冠に輝いたのはティモシー・シャラメの甘く、切ないひと夏の恋を描いた作品。スフィアン・スティーヴンスによる繊細な楽曲も人気の一因でしょう。オリヴァー(アーミー・ハマー)とエリオ(ティモシー・シャラメ)が、バレーをしたり自転車で街に出かけたりしながら、「あとで」という台詞とともに描かれる恋のはじまる予感にときめきます。

読者からのコメント

映画編総括
2017年の映画ランキングは洋画ばかりでしたが、2018年は邦画界も賑やかでした。ランクインした2作はもちろん、『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)『きみの鳥はうたえる』(三宅唱監督)の同日公開や、『枝葉のこと』(二ノ宮隆太郎監督)『あみこ』(山中瑶子監督)などインディーズ映画の話題作が生まれるなど、優れた日本映画が数多く劇場公開されていたと思います。

また、『ア・ゴースト・ストーリー』(デヴィッド・ロウリー監督)やスフィアン・スティーヴンスの楽曲が使用された『君の名前で僕を呼んで』、Radioheadのジョニー・グリーンウッドがスコアを担当した『ファントム・スレッド』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)、『ビューティフル・デイ』(リン・ラムジー監督)、ケンドリック・ラマーを中心にTEDがサントラを担当した『ブラックパンサー』(ライアン・クーグラー監督)など、音楽が印象的な作品が多かったのも2018年だったかもしれません。

そして、『カメラを止めるな!』や『バーフバリ』シリーズ、『ボヘミアン・ラプソディ』の口コミによる爆発的大ヒットがそのままランキングに反映している結果や、応援上映のさらなる活発化によって、映画における「観客の能動性」はさらに強くなった印象があります。もちろん、映画の面白さとイコールではありませんが、ビジネスとしての映画においては「観客をどう巻き込めるか?」がこれから、より重要になってきていることを改めて、ヒシヒシと感じる結果でした。

【ドラマ編】田中圭がグイグイきた。オリジナル脚本の良さに気づいた2018年

文:石澤萌

5位 『大恋愛 ~僕を忘れる君と』(TBS)

主演・ムロツヨシのinstagramにはファン垂涎の2ショットが満載(番組詳細はこちら

12月末に最終回を迎えたばかりのムロツヨシ、戸田恵梨香の異色カップルによるラブストーリーが第5位にランクイン。若年性アルツハイマー病に侵された女医と、それを支える元小説家という設定は「ド直球」とも言えますが、涙を誘われた人も多いはず。3枚目俳優として知られていたムロツヨシが、高い演技力を見せた作品でした。公式アカウントだけではなく、放映期間中、毎日のように更新されるムロのInstagramもファンにはたまらないものに。

4位 『anone』(日本テレビ)

番組公式instagramでは広瀬すずの可愛さ全開オフショットが楽しめる(番組詳細はこちら

『最高の離婚』(2013年)、『カルテット』(2017年)などヒット作を生む坂元裕二が脚本を務め、さらに広瀬すず、瑛太が出演。放送前から「最高なのでは?」と予感させまくりのドラマ『anone』が第4位に選ばれました。ネカフェに寝泊まりする女の子を囲む大人たちとお金の問題という、現実の汚さも垣間見えるヘビーな作品でしたが、坂元裕二らしく、思い出してはまた見たくなる良作です。2018年10月にフランス・カンヌで行われた国際テレビ見本市『MIPCOM 2018』では、なんとグランプリを獲得。さすが!

3位 『獣になれない私たち』(日本テレビ)

新垣結衣、松田龍平、田中圭、菊地凛子、主題歌はあいみょんというパワフルな布陣(番組詳細はこちら

ガッキーこと新垣結衣が社畜女子を演じたことで話題になった『けもなれ』が第3位にランクイン。本作を見て、さまざまな出会いを求めクラフトビアバーに足を運んだ読者もいるのでは? 心の奥底に熱情をひそませてばかりで、いっぱしの大人のフリをした人生に寄り添い、背中を押す作品として、たくさんの視聴者を肯定していました。放送が終了したばかりですが、あいみょんが歌う主題歌“今夜このまま”を聴いて、余韻に浸ってみてください。

2位 『おっさんずラブ』(テレビ朝日)

2019年夏には映画化も決定! 公開が待ち遠しい(番組詳細はこちら

2018年、ナイトドラマながらその人気を轟かせた話題作『おっさんずラブ』が、惜しくも第2位にランクイン! 元々は2016年に単発放送され、今年連続ドラマに生まれ変わった今作。人気急上昇の田中圭演じる主人公が、イケメン部下と頼れる上司の両方からアプローチを受けるという、ジェンダーの垣根を超えたラブコメディを繰り広げました。そのBL的設定や部長・黒澤武蔵の公式SNSが話題になり爆発的ヒット。ついに映画化まで決定し、引き続き盛り上がりを見せる作品となりそうです。

主人公・春田(はるたん)への愛が詰まったインスタ。胸キュンが止まらない

1位 『アンナチュラル』(TBS)

「やはりそうか」と思う人も多いであろう、栄えある第1位を獲得したのは石原さとみ主演『アンナチュラル』。『逃げ恥』を始めとした数々の原作付きドラマを描いた野木亜紀子が、満を持して発表したオリジナル作品でした。解剖という方法で、常に傍らにある「死」とどう向き合うのか、ひとつの解釈を提示している作品でした。脚本にいくつも張り巡らされた、伏線を回収したときのすっきり感と鳥肌は、ぜひ体感してほしいです。『紅白』出場が決定した、米津玄師手がける主題歌“Lemon“とあわせてどうぞ。

『東京ドラマアウォード』『放送文化基金賞』など、数々の賞を受賞した

ドラマ編総括
若者を中心とした「テレビ離れ」が囁かれるようになって久しいなか、しっかりと人々の記憶に残る作品を残した、2018年ドラマ。昨年度のランキングでは集計していないカテゴリでしたが、皆さんの声を聞くとさまざまな傾向を見ることができました。

今回ランキングに入らなかった作品の中には、『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS)、『きみが心に棲みついた』(TBS)など、原作付きドラマも多々。その中で、ランクインしたのはほとんどがオリジナルドラマだったことから、視聴者はより作品の脚本・ストーリーを重視する傾向にあるように感じられました。また、シリーズものの第2期、第3期が少なかったこともひとつの特徴となりそうです。

しかし、やはり言及すべきは田中圭の台頭! 『東京タラレバ娘』(2017年、日本テレビ)でズルい不倫男を演じたあたりから「田中圭旋風」の序章は始まっていたように思えますが、今回ランクインした『おっさんずラブ』から勢いが大爆発したのではないでしょうか。来年も引っ張りだこ間違いなし。

人気俳優・女優を起用しながらもきちんとストーリーを練りこんでいくスタンスは、2019年も続くのでしょうか? ちょうど1年後のランキングを楽しみにしながら、まずは、意外と原作モノばかりの1月期ドラマを要チェックです。

【アート編】充実した回顧展が多数開催。驚きの事件もあった2018年

文:宮原朋之

5位 『ルドン―秘密の花園』(三菱一号館美術館)、『ルドン ひらかれた夢』(ポーラ美術館)

『グラン・ブーケ(大きな花束)』1901年 パステル / カンヴァス 三菱一号館美術館蔵

ロベール・ド・ドムシー男爵がルドンに依頼したという大食堂の壁面全体を覆う装飾の全16点が、傑作『グラン・ブーケ(大きな花束)』とともに、一堂に介した三菱一号館美術館『ルドン―秘密の花園』。ルドンの人物像を多角的に掘り下げたポーラ美術館での『ルドン ひらかれた夢』。2018年は、ルドンの豊かな表現力に魅了された年でした。

特集:KIGIの二人がルドン展を鑑賞。実物の絵画を見る醍醐味を語る

4位 『ムンク展―共鳴する魂の叫び』(東京都美術館)

エドヴァルド・ムンク『叫び』1910年? テンペラ・油彩、厚紙 83.5×66cm オスロ市立ムンク美術館所蔵 ©Munchmuseet

初来日となった代表作『叫び』(ムンク美術館所蔵)を含め、その人物像に迫る重要作を含めた約100点を展示した本展。展示内容の充実度に加えてポケモンカードゲームや街歩き番組、BEAMSとのコラボが話題を集めました。さらにはPARCO MUSEUMでの特別企画展、公式キャラクター「さけびクン」、オリジナルの「叫び」を描くアプリなど、連動企画も盛りだくさん。展覧会は2019年1月20日まで開催中なので、未見の方はまだ間に合います。

3位 バンクシー『風船と少女』落札直後、細断

バンクシーのInstagramの投稿より

唯一、展覧会以外のランクインは、日本のニュース番組でも報道されてお茶の間を賑わせた、あるオークションでの出来事。覆面芸術家バンクシーの代表作『風船と少女』が、1億5000万円で落札された直後、額に施されていた仕掛けにより細断されてしまいました。すべては作者のイタズラだったのですが、唯一の想定外は作品が半分までしか細断されなかったこと。事後公開された編集映像タイトルには「The Director's half cut」というオチがつきました。

2位 『マルセル・デュシャンと日本美術』

東京国立博物館『マルセル・デュシャンと日本美術』展

20世紀のアートに衝撃的な影響を与えた芸術家、 マルセル・デュシャン。本展は一部と二部に分かれ、反響が多かった第一部はフィラデルフィア美術館が収蔵するコレクションのアジア初となる巡回展。「便器」「レディメイド」というイメージが先行するデュシャンについて、初期の油彩画から関連資料や写真など、彼の創作活動の足跡をじっくりと辿ることのできる貴重な機会となりました。

読者からのコメント(投稿フォームより)
お前はなんで絵を見に行くんだ?美しいってどういうことだ?芸術ってなんだ?って、根元からぐらぐら揺さぶられながら帰りました。ああいう気持ちになったのは初めてでした。

1位 『ゴードン・マッタ=クラーク展』

ゴードン・マッタ=クラーク『スプリッティング』1974年 ゴードン・マッタ=クラーク財団&デイヴィッド・ツヴィルナー(ニューヨーク)蔵 Courtesy the Estate of Gordon Matta-Clark and David Zwirner, New York. ©2018 Estate of Gordon Matta-Clark/ Artists Rights Society(ARS), New York.

ランキング1位となったのは、ニューヨークを拠点に幅広い分野で活動し、35歳で逝去したゴードン・マッタ=クラークのアジア初の回顧展です。建築の一部を切る作品で知られる作家の痕跡を、彫刻やドローイング、映像や写真、関連資料などから丹念に捉え構成。展示には、1970年代当時のニューヨークの社会的背景や現在の東京に関わる資料も取り入れられており、作品の今日的な意味を問いかけ、多くの反響を集めました。

アート編総括
「~展」とつくものから常設の展示作品や建築物まで、実に多種多様な「#わたしの心を動かした作品2018」の声をいただきました。得票数を合算すると、マスメディアで大きく取り上げられたものや、ネットで話題になり注目を集めたものが上位に上がります。そんななか、頭一つ飛び抜けていたのが『ゴードン・マッタ=クラーク展』でした。他のランクインしたものとは逸した、あえて誤解をおそれずにいうと「地味な」アートの展覧会がしっかりと得票していたのは、「#わたしの心を動かした作品2018」ならではの結果だったのではないかと思います。

【舞台編】アニバーサリーイヤーの劇団多し。周年記念公演が目白押し

文:川浦慧

5位 ロロ『マジカル肉じゃがファミリーツアー』

初期作品『旅、旅旅』(2010年)を元に新たに書き下ろした本作は、2017年9月の『BGM』、11月の『父母姉僕弟君』に続く「旅シリーズ3部作」の最後を飾りました。三浦直之の言語感覚やポップセンスが光る家族をテーマにした作品に、「家族のことを思い浮かべて暖かな気持ちになった」「幼少期の家族との風景を思い出して泣いた」などの声が寄せられました。来年10周年となるロロの活動にますます注目が集まりそうです。

特集:三浦直之率いるロロは、なぜ演劇ファン以外からも支持される?

4位 川上未映子×マームとジプシー『みえるわ』

今年で活動10周年を迎えたマームとジプシーが記念ツアー第2弾として、小説家・川上未映子と共作し、全10都市を巡演。川上未映子の書き下ろしや、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』『水瓶』に収録されている7篇の詩の世界を、青柳いづみが演じました。会場は「劇場」だけでなく、元キャバレーのライブハウスや酒蔵などを使用。ANREALAGE、suzuki takayukiら豪華なクリエイターが担当した衣装にも注目が集まりました。

3位 ナイロン100℃『睾丸』

今年25周年を迎えたナイロン100℃。それを記念した第1弾の春公演では『百年の秘密』を再演。そして、第2弾の夏公演として上演された新作『睾丸』が本ランキングに選出されました。「四半世紀の歴史を持つ劇団の未来を問う新作」と銘打たれた本作は、おなじみの劇団員が総出演。春公演は、女性2人の友情と半生を描いた作品に対し、夏公演は、2人の複雑な過去をめぐる「男くさい人間ドラマ」と、ナイロン100℃の全く異なる2つの顔を1度に見られるファンにとってはたまらない年でした。

2位 KERA・MAP『修道女たち』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ強し! KERAが主宰するナイロン100℃以外の演劇活動の場としてスタートさせたKERA・MAPの、8回目の公演となる本作。KERAが初めて描いた「修道女」という信仰に生きる人々や、それを取り巻く人々を描いた作品です。劇団では、春に『百年の秘密』、夏に『睾丸』の2作を、さらに秋には今年3本目となる本作を上演。今年1年を通してKERA作品が演劇界を席巻しました。KERA人気は去年に引き続き健在です。

1位 TEAM NACS『PARAMUSHIR ~信じ続けた士魂の旗を掲げて』

TEAM NACS『PARAMUSHIR ~信じ続けた士魂の旗を掲げて』

安田顕、大泉洋らによる演劇ユニットTEAM NACSの、約3年ぶりとなった待望の公演。本作ではコミカルなイメージを封印し、日本を守るために戦った「名もなき兵士たち」として悲哀たっぷりに描かれました。全国6か所56公演に加え、122館の映画館ではライブビューイングも上映され、史上最大規模の11万人を動員したモンスター作品として、大きな注目を集めました。8万枚を即完し、「日本一チケットが取れない」という枕詞を、改めて目の当たりにさせられました。

舞台編総括
今年はマームとジプシーが10周年、ナイロン100℃が25周年、さらにランキング以外にも、大人計画が30周年、ヨーロッパ企画が結成20周年、ハイバイが15周年、ゴジゲンが10周年など、アニバーサリーイヤーの劇団が多い年でした。記念公演として、一味違った渾身の作品が奮ったスペシャルな1年だったことがランキングからうかがえます。

また、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品は、今年だけでなく昨年のランキングでも多くの票を集めており、圧倒的な不動の人気は健在でした。ランキング外には、平成中村座、『またここか』(脚本:坂元裕二)、NODA・MAP『贋作 桜の森の満開の下』、『書を捨てよ町へ出よう』(上演台本 / 演出:藤田貴大)のほか、いわゆる小劇場での公演にもかかわらず、ロロ「いつ高シリーズ」、ゴジゲン『君が君で君で君を君を君を』、ままごと『ツアー』などの「心を動かした」作品にも、熱いメッセージとともに票が集まりました。

【書籍編】社会の「普通」という価値観に対して、「個」の視点で世界を語り直す

文:野村由芽

5位 村田沙耶香『地球星人』(新潮社)

10人産めば、1人殺してもいい世界を描いた『殺人出産』、人工子宮で男性も妊娠出産ができるようになる『消滅世界』に続く2016年発表の『コンビニ人間』で、『第155回直木三十五賞』を受賞した村田沙耶香の最新作。人間社会の「常識」や「普通」をゆさぶってきた作者が、本作では異星人の視点を通して地球における「恋愛」のいびつさを浮き彫りに。本文中で印象的な「なにがあってもいきのびること」という台詞は、恋愛・生殖によって命を繋いでいく仕組みとはなにか、心を殺さず生きていく方法はどこにあるのか、少なくともその2つの問いをはらんでいます。読書とは、無意識下の違和感が、読み手の脳内で問いとして芽生えること。そんなことを改めて体感させてくれる一冊です。

4位 大島智子『セッちゃん』(小学館)

泉まくら、禁断の多数決、宇宙ネコ子といったミュージシャンのジャケットやPVを手がけるほか、GIFアニメや漫画などの制作をおこなうイラストレーターの大島智子が、2018年初春から小学館『CanCam.jp』で開始した初めての漫画作品。誰とでも寝てしまう女の子・セッちゃんと、誰にも心を寄せることができない男の子・あっくんの2人は、恋とも性とも言い切れない、繊細な関係。だけど実は人と人の関係というのはすべて、そのようにたやすく名前のつけられない関係で結ばれているのではないか。そしてそこを突いたからこそ、読者一人ひとりの孤独の心にしっかりと寄り添った作品になりえたのではないかと思わせてくれる一作です。

読者からのコメント(投稿フォームより)
マンガワンで流し読みしてハマりました。他人からしたら何てことのない出来事で泣いてしまう人たちの物語でした。淡々としていて最後には呆気なく終わるからこそ、濃密な感動を覚えました。

3位 近藤聡乃『A子さんの恋人』(KADOKAWA)

半人前の大人たちが繰り広げる、問題だらけの恋愛模様を描く本作もいよいよラストスパート。はじめこそ「東京とNYで暮らす2人の男性を両天秤にかける恋愛」の行方や、「ずっと『考え中』な状態であるA子の優柔不断さ」が読者の注目を集めていた印象がありますが、回を重ねるにつれ、「恋愛とは?」「仕事とは?」を考え続けることこそが、それらを自分の手に取り戻すための方法なのかもしれないということが、重みを持って伝わってくる展開に。A子たちと一緒に「もやもや」できる時間はあと僅かかもしれないけれど、本作がフィナーレを迎えても、「考え続ける」という重要なアティチュードはきっと読者に刻まれることでしょう。作者の近藤聡乃へのインタビューもあわせてどうぞ。

特集:『A子さんの恋人』近藤聡乃インタビュー 活動拠点のNYで聞く

2位 はるな檸檬『ダルちゃん』(小学館)

資生堂の『ウェブ花椿』で連載していた『ダルちゃん』。開始直後からSNSを中心に大きな話題を呼び、2018年12月に満を持して全2巻の単行本が発売されました。「ダルダル星人」であるという本性を隠し、懸命に「働く24歳の女性」に擬態して社会人生活を送る主人公・ダルちゃんの格闘の物語に、自分自身を重ねる読者の声が多く聞かれました。個人と社会はいつも完璧に折り合いはつかないものだけれど、そこでどのように生きていくのか。胸が苦しくなるほど既視感のある日常の風景、心の奥深くに沈んでいた気持ちを代弁してくれるようなパンチラインのたたみかけによって、「自分の本当の言葉」を見つけるヒントがもたらされる傑作です。

1位 爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)

「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね」――。Webサイト『日刊SPA!』の連載エッセイ『タクシー×ハンター』の中で特に人気の高かった恋愛エピソードを中心に、大幅加筆修正・再構築した本作が2018年の第1位にランクイン。作者である爪切男は、同人誌即売会・文学フリマで『夫のちんぽが入らない』の作者こだまらとユニットを組んで活動し、同人誌『なし水』やブログ本には行列ができるなど、人気を集めていた存在。いくつもの孤独な夜を乗り越えながらユーモアをもって生き抜く姿が、熱狂的なファンのみならず、多くの「死にたい夜」を経験した人たちに伝播していきました。

読者からのコメント

書籍編総括
世界のルールにどこか違和感を覚えたときに、居場所を求めた先にあったのが本だったのか、手にとった本がその居場所だったのか? そんなことに思いを巡らせた2018年の書籍ランキングは、「内容」と「話題の広がり方」の二点において特徴が見られる結果となりました。

まず内容面では、ランクインしている全ての作品が、今の社会を作っているルールや常識、普通というものに対して違和感を唱え、その価値観に一石を投じるような内容となっています。その理由として、#MeTooやLGBTQに関する問題提起をはじめ、大文字の歴史や複数形の主語ではなく、個人を主体とした一人ひとりの生き方に注目が集まった社会的な背景や気分とも影響し合ったことが挙げられるのではないでしょうか。「無意識」が「意識化」される過程が知性の獲得だとするならば、本を読む行為を通して、実社会に対するアクチュアルなものの見方の獲得につながる本が注目を集めた結果となったことが印象的でした。

「話題の広がり方」という点では、『文学フリマ』の同人サークルで頭角を現した爪切男による『死にたい夜にかぎって』や、実は大の宝塚オタクであるはるな檸檬による『ダルちゃん』が『ウェブ花椿』の連載からSNSで火がつくなど、日頃から「個」の世界を深めている作者が作り出す作品から熱量の高いコミュニティが生まれ、反響が広がっていくパターンが多く見られました。「世の中の普通」というものは時として個人の生き方に制約をもたらしてしまうこともあるものですが、それを食い止めることができるものがあるとすれば、それは小さくとも個人的で濃密な物語という形をとって、個人のまなざしで世界を捉え直すことなのかもしれません。有名・無名を問わず、よりパーソナルな視点を掘り下げて文章を紡ぎ、活動を広げる作家の作品が、これからの時代にますます必要とされていく予感がしています。



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