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ボン・イヴェール、10年の足跡の全て 分断と衝突の時代に捧ぐ歌

ボン・イヴェール、10年の足跡の全て 分断と衝突の時代に捧ぐ歌

Bon Iver
テキスト
木津毅
リードテキスト:小林祥晴(The Sign Magazine) 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

2011年、新たな春。カニエ・ウェスト最高傑作への参加を経て、新たなコミュニティーの創出を目指した『Bon Iver, Bon Iver』

Bon Iver『Bon Iver, Bon Iver』を聴く(Apple Musicはこちら

1stアルバムの突然の成功と、それに伴うツアーで受けたたしかな評価。たったひとりで始まったBon Iverは、バンドの仲間を得たことで次第にその枠を拡大し、確立する時期を迎えようとしていた。The Nationalが編纂した当時のインディーロックシーンの集大成とも言えるコンピレーション『Dark Was The Night』(2009年)で重要なポジションを占めるなどUSインディーロックのネットワークとたしかに繋がる一方で、何より人々を驚かせたのはカニエ・ウェスト『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010年)に参加するという離れ業だ。

『Dark Was The Night』を聴く(Apple Musicはこちら

カニエ・ウェスト『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』を聴く(Apple Musicはこちら

きっかけは『For Emma, Forever Ago』期の楽曲を収めたEP『Blood Bank』(2009年)のなかの1曲“Woods”が、カニエの興味を引いたことだ。オートチューンを駆使したアカペラを重ね、ひとりで多重コーラスをやってのけたその曲は新しいサウンドデザインによるゴスペルソングに他ならず、それが当時カニエがトライしていたことと共鳴したのだろう。

そうしたシーンの枠を飛び越えた活躍を包括したのが、当時から「春のアルバム」だと説明された本作『Bon Iver, Bon Iver』だ。

ただ、カニエからのフックアップのような華やかな脚光もあったものの、本作に直接的な影響を与えているのはヴァーノンがこの時期に参加していたバンド、Volcano Choirだと思われる。前身をPele(ヴァーノンの同郷ウィスコンシンのポストロックバンド。1990年代末からリリカルなアルバムをいくつか残している)とするCollections Of Colonies Of Beesとヴァーノンによって結成されたそのプロジェクトは言わば、フォークとゴスペルとドローンとエレクトロニカとポストロックといった各メンバーが持つバラバラの音楽的要素をバンドサウンドでどう融合させるかという試みだった。

Volcano Choir『Unmap』を聴く(Apple Musicはこちら

その発展形が『Bon Iver, Bon Iver』である。当時のツアーメンバーやミシガン出身のサックス奏者コリン・ステットソンといった地元中西部のミュージシャンを集め、ロックを基調としつつもカントリー、アンビエント、エレクトロニカ、果てはAORまでを横断していく。

ヴァーノンのファルセットコーラスを支えるために、ときに繊細に、ときにタフに姿を変えるバンドアンサンブル。エモーションの幅も広がった。それは前作のように「ひとり」では決して実現できないものであり、アメリカの片田舎に根差したコミュニティーの音楽であるということがBon Iverの確固たるコンセプトになっていく。

『Bon Iver, Bon Iver』リリース時のアーティスト写真
『Bon Iver, Bon Iver』リリース時のアーティスト写真

2016年、狂った夏。トランプ政権の誕生と共に局地的な衝突と分断が激化する時代に、穏やかな連帯の祈りを込めた『22, A Million』

Bon Iver『22, A Million』を聴く(Apple Musicはこちら

ヴァーノンはこのアルバム『22, A Million』における季節を「狂った夏」だと説明している。美しいフォークソングを自らズタズタにするようなインダストリアルビートと突如指しこまれるノイズ、過激なまでの声の変調。Bon Iver史上、そしておそらく彼が手がけた作品のなかでももっとも烈しくいびつな姿をしたアルバムである。リリースは2016年――再び時代は大きな曲がり角を迎えようとしていた。

『グラミー賞』受賞など前作がきっかけで得たメインストリームでの成功は、むしろヴァーノンに混乱をもたらすことになったのだろう。そんななか彼は自分のやって来た場所を振り返るように、あるいはこれから目指す場所をたしかめるようにして、前作から本作にたどり着いている。

『22, A Million』リリース時のアーティスト写真
『22, A Million』リリース時のアーティスト写真

とりわけ注目したいのが、地元ウィスコンシンでThe Nationalのアーロン・デスナーと主宰したフェスティバル『Eaux Claires』(2015年~)の存在だ。

そこではThe Nationalやスフィアン・スティーヴンス、WilcoといったUSインディーロックやフォークの仲間たちが出演しているのは当然のこと、チャンス・ザ・ラッパーやヴィンス・ステイプルズ、エリカ・バドゥ、ジェイムス・ブレイクといったジャンルを超えるミュージシャンが集められ、さらにはカントリー / フォークの伝説的シンガーであるジョン・プラインやソウルの異才Swamp Dogg、1930年代に盲学校で結成されたゴスペルグループのThe Five Blind Boys Of Alabama、さらにポール・サイモンも出演している。

メインストリームからアンダーグラウンドまでに至る、地域も世代も音楽性も超えたミュージシャンがアメリカの田舎に集まって、それぞれのユニークな音楽を鳴らすということ。音楽の豊かな歴史を現在と大胆に交錯させること。それこそがヴァーノンが抱く理想だったことがそこでたしかめられたのだ。

そしてその帰結として、『22, A Million』にはさらにたくさんの音楽が混ざり合い、ぶつけられることになった。アルバムはなかばランダムに挿入されたようなジャズセッションやドローン / アンビエント、エレクトロニックとオーガニックの複雑な混淆を経て、平穏なゴスペルソング“00000 Million”へとたどり着く。

ゴスペル――それは「人びと」が集まって生まれる祈りの音楽である。本作ではたくさんの断片化した音楽がかき集められているが、それはまるでアメリカという国でバラバラになったものを出会い直させるようだ。人種やジェンダーなど様々なアイデンティティーが対立し合い、分断したとされる2010年代なかば――そしてトランプ大統領が誕生した2016年、本作はだから、そうした分断を乗り越えるコミュニティーの音楽を目指した。プリズマイザーという新技術によって実現されたデジタルクワイアによる風変わりなゴスペルは、バラバラになった「人びと」をそれでも集めるための祈りだったのである。

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イベント情報

『Bon Iver 来日公演』
『Bon Iver 来日公演』

2020年1月21日(火)、1月22日(水)
会場:東京都 お台場 Zepp Tokyo
料金:指定席9,600円 スタンディング8,600円(共にドリンク別)
※指定席はソールドアウト

プロフィール

Bon Iver
Bon Iver(ぼん いゔぇーる)

米ウィスコンシン州出身のシンガーソングライター=ジャスティン・ヴァーノンのソロプロジェクトとしてスタート。2011年に発表した2ndアルバム『Bon Iver, Bon Iver』が、全米チャート初登場第2位を皮切りに、世界各地で大ヒットを記録する。このアルバムは、『第54回グラミー賞』にて主要3部門を含む全4部門ノミネートされ、『最優秀新人賞』と『最優秀オルタナティヴミュージック・アルバム賞』を勝ち取った。2019年8月、4作目となるアルバム『i, i』をリリース。2020年1月には4年ぶりとなる来日公演を控える。

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