ミニシアターを救うために。現場からの声と、海外の事例を紹介

シネ・ヌーヴォ(大阪)の館内 撮影:井戸沼紀美

新型コロナウイルス感染症流行の影響で、映画館が苦境に立たされている。2月下旬頃から、チケットの払い戻し対応や、入り口でのアルコール除菌、スタッフのマスク着用などで感染拡大防止の施策を行なってきた劇場も多く存在する中、行政からの不要不急の外出自粛要請や、密閉、密集、密接の「3密」を避けるべきというアナウンス、そして4月7日の政府による緊急事態宣言により、いよいよ劇場の経営自体が危ぶまれているのだ。

既に休業を余儀なくされている映画館は少なくない。特に地域に根ざしたインディペンデントな活動を続けるミニシアターが、大きな打撃を受けていることは想像に難くないだろう。4月に入ってからは、京阪神の映画館による「Save our local cinemas」プロジェクト、政府に対して緊急支援を求める要望書への署名を募る「#SaveTheCinema」など、業界全体の連帯の動きも活発化し、本日4月13日からは映画監督の深田晃司と濱口竜介が発起人となって立ち上げられた「ミニシアター・エイド基金」のクラウドファンディングがスタートする。この記事では、いくつかの劇場スタッフの声と、海外の事例を紹介。今、映画館のために出来ることを考えたい。

ミニシアターから届いた声。「上映の主役は一人一人の観客」「再開したら映画を観に来て」

CINRA.NET編集部では、シアター・イメージフォーラム(東京)、ポレポレ東中野(東京)、横浜シネマ・ジャック&ベティ(神奈川)、シネ・ヌーヴォ(大阪)の4館に取材。「現在の状況」「政府や行政に求めること」「映画館支援として一般の観客に出来ること」の3点について、いただいたコメントを紹介する。

シアター・イメージフォーラム 山下宏洋
<一般の観客に出来ること>
一般のお客さんに言えることは、通常運転できるようになった際には、また見にきてください! ということしかないです。今回のことを機に、映画館で映画を観るという体験がより大事な得難いものなのだと改めて認識しなおしました。再開の際には、映画館でじっくり十全に映画を味わってもらいたいです。劇場としても、そのような場を提供することを改めて心がけていきたいと思います。
ポレポレ東中野 大槻貴宏、小原治
<現在の状況>
映画を観て下さるお客様の健康と安全が脅かされぬよう、コロナウイルス感染拡大の予防策として、アルコール消毒液の設置、スタッフや登壇者のマスク着用、場内の換気の徹底、座席間隔を空けるために座席数を半分にするなどの措置をとりながら営業を続けていました。しかし、緊急事態宣言が出されたことにより、当館も当面の間休館することにしました。当館含め、今は全国どの映画館も経営上非常に厳しい現実に立たされていますが、日々ひっ迫する医療現場の崩壊を防ぐためにはやむを得ないと判断しました。営業再開時期は5月上旬を見込んでいますが、状況を見ながら随時判断し、詳細が決まり次第、当館HPやTwitterなどでお知らせします。(ポレポレ東中野スタッフ・小原治)

<政府や行政に求めること>
従業員の雇用、つまり給与の保障についてキチンと提示して欲しいです。彼らや彼らの家族の生活が大事、というのは勿論ですが、ミニシアターのような「表現」を商品にしている場所は、多くのスタッフそれぞれの意見が重要になります。みな好みや主義、家族構成も違う。その意見の多様性こそが映画館全体としての表現となり、ひいては表現活動全体の多様性に繋がる筈だろうと。そして、それが我々ミニシアターの役割だと信じています。独りでも運営は出来るけど、それでは意味が無いと思う。だから、なるべく多くのスタッフとやっていきたい(決して高給与ではありませんが笑)。なので、その人員(=財産)が減ってしまう状況が1番困る、という事を伝えたいです。(株式会社ポレポレ東中野代表・大槻貴宏)

<一般の観客に出来ること>
コロナウイルス感染拡大防止のため、上映を中止する作品があります。公開を延期する作品があります。それぞれの作品に葛藤があり、状況があり、判断があります。映画館は、こうして作品を提供してくれる作り手、配給、宣伝、その他様々な立場の方に支えられている場所です。そして、上映の主役は一人一人の観客です。休館中の映画館は上映の主役を失った状態といえ、観客が安心して映画館に映画を観に行くことが当たり前だった日常を思えば、これは異常事態です。その一方で、映画館で映画を観る面白さや醍醐味について改めて考えてみる機会にもなるのではないでしょうか。映画館で映画を観ることとは別の方法で、映画が育まれる期間だと思います。その先に再び訪れるかけがえのない日常に向かって当館も経営を続けていくため、皆様に支援をお願いしております。オンラインショップを開設しましたので、お力添えをいただければ幸いです。(ポレポレ東中野スタッフ・小原治)
横浜シネマ・ジャック&ベティ 梶原俊幸
<現在の状況>
コロナウイルスが猛威をふるい始めてからも、客数はかなり少なくなっておりましたが、暮らしの中に映画・映画館がある常連さんのお客様がお越し下さっていたので、席数制限や衛生面の配慮等をしながら、営業を続けてきました。しかし4月7日の緊急事態宣言を受けて、苦渋の決断ですが休館を決めました。給付金や補償、スタッフの休業補償などが不明確な中、1か月程度の休館になることや、再開後にすぐにお客さんが戻ってくるのかなど、今後の運営には不安があります。しかし、そのような状況に「SaveTheCinema」や「ミニシアター・エイド基金」の話があり、とても心強く思っております。

<一般の観客に出来ること>
当館のお客様にも応援をいただけないかと思い、ネットショップにて「〈コロナを乗り越えたい!〉お名前スクリーン上映&劇場鑑賞券」の販売を開始しました。開始してからわずか1日半ほどの段階で、既に約800人の方にご購入をいただき、スタッフ一同、感謝の気持ちで一杯でございます。
シネ・ヌーヴォ 山崎紀子
<現在の状況>
多くのミニシアターが常に自転車操業だと思います。日々の映画鑑賞料金の収入でなんとか、運営している中で、入場者数大幅減・休館と、収入がなくなった時の蓄えがありません。収入が少なくなっても開けざるを得ない映画館も多く、辛い立場にあると思います。

<政府や行政に求めること>
存続するための助成金対応。具体的には家賃などの固定費です。人件費は雇用調整補助を利用したいと考えています。

<一般の観客に出来ること>
全国のミニシアター支援が立ち上がっています。全国の瀕死の映画館を助けようとたくさんの方が関わり、たくさんの方が支援してくださっています。大きな力を感じています。本当にありがとうございます。

不安なことは、一度休館すると、お客さんはなかなか戻ってきくれません。どの映画館も潰れないように頑張るので、再開した暁にはたくさん映画を観に来て欲しいです。

映画館の存続を願う人が、家に居ながら出来ることは?

各地の映画館スタッフからいただいたコメントからもわかるように、今映画館が置かれている状態は、決して楽観視できるものではない。独自の方法で支援を募っている映画館も数多く存在する。

渋谷、吉祥寺の劇場に加え、京都での新館オープンも控えるアップリンクは、運営する動画配信サービス「アップリンク・クラウド」で60本以上の映画が定額で見放題になるキャンペーンを開始したほか、寄付込みのプランも追加。御成座(秋田)や下北沢トリウッド(東京)、ユジク阿佐ヶ谷(東京)、シネマスコーレ(名古屋)などの映画館は、オンラインサイトでオリジナルグッズや特別鑑賞券などの販売を開始した。書店とカフェが併設された出町座(京都)が立ち上げたクラウドファンディングでは、再オープン時から使用可能な「未来映画券」に加え、カフェ券や図書券もセットにしたリターンも購入可能。それぞれの映画館が、なんとか休館後にも営業を続けようと知恵を絞っている。

また、上記のようにファンディング企画を立ち上げていなくとも、多くのミニシアターは「会員制度」を設けて常に観客からの応援を求めている。もしもこの記事を読んで脳裏に浮かんだ場所があるのなら、公式サイトにアクセスして、入会方法や特典を確認してみても良いだろう。劇場の立地や形態によって、適した支援の方法があるはずだ。

『SR サイタマノラッパー』などで知られる入江悠監督は、自身のブログで「各地のミニシアターが募集していること」をリスト化している。

また、4月8日には想田和弘監督が、新作映画『精神0』を「仮設の映画館」でデジタル配信することを発表。視聴者は「仮設の映画館『精神0』」のウェブサイトに掲載されている全国各地の映画館から鑑賞館を選ぶことができ、鑑賞料金はそれぞれの劇場、配給会社、製作者に分配されるという。新型コロナウイルスの感染拡大によって危機に瀕する日本の映画業界に、新たな一石を投じた。

想田和弘監督の新作映画『精神0』予告編。5月2日から「仮設の映画館」でデジタル配信される(詳細を見る

世界の映画界に厚い雲が。この危機をどう乗り越える?

新型コロナウイルスの影響によって苦境に立たされているのは、もちろん日本の映画業界だけではない。例えば3月28日にはニューヨークのリンカーン・センター映画協会が、パートタイムで働くスタッフ全員と、フルタイムで働くスタッフの半分を一時解雇、もしくは一時帰休とし、同協会による印刷版『Film Comment』誌の発行を半永久的に休止することを発表するなど、今、世界の映画業界全体を厚い雲が覆っている。毎年5月末に行なわれている『カンヌ国際映画祭』が延期することも既に発表されており、同イベントがオンラインに移行して開催される可能性は、フェスティバルディレクターにより否定されている。

既に150以上の独立系映画館が休業を余儀なくされているというアメリカでは、この危機のために仕事の機会が減少した映画関係の労働者に向けて、数多くの策が打たれている。

3月14日には、ブルックリンの非営利映画施設・Light Industryと、ニューヨークの映画上映情報を365日発信するメールマガジン・Screen Slateが手を組んで、ニューヨークの映画関係者のための基金「Cinema Worker Solidarity Fund」を設立。10日間で約78000ドル(およそ850万円)の支援を獲得することに成功し、市内の約350人の申請者全員に、4月3日から緊急の資金援助を提供し始めた。

3月31日からは、休業中のミニシアターを金銭的に補助するキャンペーン「The Art-House America Campaign」がスタート。配給会社クライテリオン・コレクションと、兄弟会社のヤヌス・フィルムズがそれぞれ5万ドルずつをまずは投資し、50万ドルの目標達成にむけて資金を募り始めた。原稿執筆時点の4月10日現在、集まった金額は376,660ドル(約4083万円)。

日本と同様、映画館が自身の手で資金を募るケースも数多く存在する。例えば3月13日から休館中のブルックリン・Nitehawkでは、映画館で使えるギフトカードの購入を促すと同時に、劇場スタッフへの募金を呼びかけるクラウドファンディングを行なっている。

さらに、想田和弘監督による「仮設の映画館」のように、ストリーミング料金を自分の好きな映画館に支払うことの出来る仕組みも、定着しているようだ。

残念ながら日本からは視聴できないが、ニューヨークを拠点にする配給会社Grasshopper Filmのウェブサイトでは、ペドロ・コスタ、ストローブ=ユイレらの作品が映画館への支援も兼ねて視聴可能

アメリカ以外にも目を向けると、『パラサイト 半地下の家族』の『アカデミー賞』作品賞受賞が記憶に新しい韓国でも、3月の映画の興行収入が昨年の約111億8700万円から、約13億3500万円へと減少するなど、映画界は打撃を受けている。韓国政府では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開が延期、キャンセルされた20の映画についてマーケティング費用を助成するほか、失職または職が減少した映画業界の400人に対して職能訓練を実施するなどの措置を発表した。

まずは公的機関から十分な支援を。また映画館に通える日まで

映画界を取り巻くシビアな状況は、すぐには終わりを迎えないだろう。例えば1月から閉鎖されている上海の200以上の映画館は、3月末に一斉に営業を再開すると市から発表された数時間後に、中国映画局から再び閉鎖を要請されることとなってしまった。事態が終息しても、すぐに客足が戻るとも限らない。だからこそ、まずは日本でも政府や行政などの公的機関から、映画文化を、それを支える人たちの暮らしを守るための十分で適切な支援が早急におりることを切に願う。

今は、どんなに映画を愛する人でも「映画館に行こう」と口に出すのが憚られるのに無理はない。そして4月7日の緊急事態宣言以降、これまで何とか営業を続けてきた映画館の多くも、休業をせざるを得なくなってしまった。観客の立場で出来ることはあまりに少ないかもしれないけれど、金銭的な支援が出来る人は支援を、署名が出来る人は署名を、それぞれが可能な方法で、映画館の今後を想うこと、知恵を絞ることは、新型コロナウイルス終息後の世界でも、決して無駄にはならないだろう。もちろん、営業再開後にこれまで通り劇場に足を運ぶことも。

ふと思い立った時、立ち寄ることのできる映画館が側にあること。そのことが、どれだけ人々の暮らしを豊かにしてきたかは計り知れない。1本の映画が街の見え方をまるっきり変えてしまうことは絶対にあって、筆者も濱口竜介の『親密さ』をオールナイトで観ていなければ、きっとこの記事を書いていない。映画館の暗闇に、また誰もが身を預けられる日が来るまで、どうか光を忘れずに。これまで映画と過ごした時間が、きっと味方してくれると信じて。



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