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ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの

ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの

『IMAGINE<イマジン>』
テキスト
村尾泰郎
野中モモ
リードテキスト・編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

「ジョン・レノンが探し求め続けた魂の居場所。ポールから『The Beatles』という居場所をもらったように、ヨーコによってもたらされたもの」テキスト:村尾泰郎

ジョン・レノンが凶弾に倒れた日、その直前に行われたラジオのインタビューで、ジョンは「人生のうちで2回、素晴らしい選択をした。ポールとヨーコだ」とコメントした。ジョンの運命を変えたポール・マッカートニーとオノ・ヨーコ。二人はジョンにとってどんな存在だったのだろう。

ジョンがポールと知り合ったのは17歳の頃。ジョンがリーダーを務めたバンド・The Quarry Menにポールが加入する。実母のジュリアを事故で亡くしたジョンは、すでに病気で母を亡くしていたポールと絆を深め、ジョンにとってポールは曲作りに欠かせないパートナーになった。

『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(2010年に)予告編。若き日のジョン・レノンの姿が描かれる

一方、ヨーコと出会ったのは、The Beatlesが人気絶頂だった26歳の頃。アートスクールに通っていた頃から東洋の文化に興味を持っていたジョンは、日本人アーティストのヨーコに興味を持ち、個展に出かけて感銘を受ける。そして、二人の交際が始まり、1969年に結婚した二人は早速『ベッド・イン』という平和を訴えるパフォーマンスを行った。ジョンにとってヨーコはポール同様、創造性を触発する存在であり、同時に自分を受け止めてくれる母性的な存在でもあった。ヨーコの個展に展示してあった作品をジョンが見ていたとき、虫眼鏡で天井に書いてある小さな文字を覗くと、そこに「YES」と書いてあった、というエピソードが二人の関係を象徴しているようだ(『天井の絵(Ceiling Painting)』と題されたその作品は、『DOUBLE FANTASY - John & Yoko』でも再現されている)。「『NO』だったら会場を出ていたと思う」と後にジョンは振り返っているが、反抗的な思春期を送ってきたジョンが、「YES」という言葉に心動かされたというのが興味深い。

1969年3月25日、ベトナム戦争が泥沼化するなかジョンとヨーコはオランダ・アムステルダムのヒルトンホテルで『ベッド・イン』を行なった

ポールとヨーコに共通するのは、二人とも実験的な精神を持ち合わせていたことだ。ポールはメロディメイカーのイメージが強いが、 The Beatlesの頃からクラシックや現代音楽、電子音楽の要素を積極的にロックに取り入れようとしていて、“Yesterday”の弦楽四重奏を電子楽器に置き換えようかと考えたこともあった。軸足をロックにおいて実験をしていたポールに対して、前衛芸術集団、フルクサス出身のヨーコは実験精神の塊。ジョンはそんな二人の先鋭的な感性を受け入れる柔軟性と、彼らと渡り合い、それを作品として昇華できるだけの個性と才能を持っていた。

とはいえ、世界的なロックスターが音楽的には素人の妻を同じ表現の場に立たせて音楽を共作するというのは、あまりにも大胆な行為だった。ポールもソロになってから妻のリンダと共同作業をしていたが、あくまでリンダはバンドメンバーの一人として。

たとえばジョンを敬愛するリアム・ギャラガー(ex.Oasis)が再婚した妻と一緒にバンドを結成したとしたら、と考えてみてほしい。しかし、ジョンは愛に目が眩んだのではなく、ヨーコのミュージシャンとしてのユニークさ、可能性を見抜いたうえでのコラボレーションだったことは、ヨーコの作品がパンク / ニューウェイブ以降のアーティストに影響を与えたことからもわかる。 

ジョン・レノン&オノ・ヨーコ『Double Fantasy』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

The Beatles~ソロ活動と、パートナーとの関係性を通じて作品を作り上げていくこと。それがジョンの才能のひとつであり、とりわけヨーコとのコラボレーションはロック史上類を見ないものだった。ジョンがヨーコとPlastic Ono Bandを結成したのは二人が結婚した1969年。当時、女性がフロントに立つロックバンドは珍しかった。ジョンはヨーコの女性性や、彼女が持っているロックとは全く異なる感覚を大胆に取り入れることでロックの可能性を広げた。その際に「ヨーコをプロデュースする」という関係ではなく、あくまで対等の関係でコラボレートしたのが重要なところ。電子楽器を取り入れたりジャンルをミックスさせたりする以上に、ヨーコとのコラボレーションは大胆な「実験」だった。そして、そんなジョンの期待に応えて、ヨーコは常にジョンに刺激を与え続けた。彼女の活躍は数年後に世界を席巻するパンクシーンで、パティ・スミス、The Slits、The Raincoatsなど、さまざまな女性ミュージシャンがロックシーンで才能を発揮することを予言しているようでもある。

ジョンはThe Beatlesを通じて得た名声やキャリアを捨てて、新しい可能性に飛び込んだ。それは愛や平和を謳うこと以上に勇気がいることだ。結婚した頃、ジョンは新聞は妻が玄関から持ってきて夫が読むものだと思っていた。しかし、ヨーコに「それなら、別々に新聞を取りましょう」と言われて、男性社会の勝手な思い込みに気付いたという。

世界を変えることと同じくらい、自分を変えることは難しい。その試行錯誤の様子をジョンは作品として発表し続けた。ジョンが権力に立ち向かう姿に影響を受けたミュージシャンは多いが、そうした男性的な英雄像はジョンには似合わないような気がする。

映画『IMAGINE<イマジン>』より
映画『IMAGINE<イマジン>』より(サイトで見る) / ©2018 YOKO ONO LENNON

愛と平和という大きなテーマを訴える前に、ジョンは必死で自分の居場所を探し、そして、ポールは「The Beatles」、ヨーコは「家庭」という居場所をジョンに与えた。物心ついたときから叔母夫婦に育てられ、実の両親に見捨てられたように感じていたジョンにとって、家庭は探し求めていた大切な場所。ヨーコはジョンに精神的な安定とクリエイティビティという二つの大切なものを与えてくれる稀有な存在だった。安心して自分を委ね、ときには甘えられて、迷ったときには力強く「YES」と言ってくれるパートナーがいればこそ、ジョンは自信を持って大きな力に立ち向かうことができた。

ジョンが書く曲のタイプを大きく分けると、ロックンロール色が強い曲と繊細で美しいメロディを持つ曲があるが、後者のほうがジョンの本質に近い気がするのは、その独特の歌声のせいかもしれない。

聴く者に直接語りかけるような親密さと剥き出しの感情を感じさせる声は、まるで静かな叫び。ジョンは自分の弱さや迷いを、ロックで表現することができるミュージシャンでもあった。ロックスターが「人間宣言」をした名盤『ジョンの魂(原題:Plastic Ono Band)』が、<Mother(母さん)>というシャウトで始まるのが衝撃的だ。

ジョン・レノン『Plastic Ono Band』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

このアルバムの制作に入る前、ジョンは「原初(プライマルスクリーム)療法」という精神療法を受けて子どもの頃から抱いていたトラウマと向き合ったが、ジョンにとってロックはセラピーの役割も果たしていたのだろう。そこでポールとヨーコは、セラピスト的な役割も果たしていたのかもしれない。

そんななかで、ジョンとヨーコが監督・主演を務めた映画『IMAGINE<イマジン>』は、二人の関係性を知るうえで重要な作品だ。アルバム『Imagine』(1971年)の曲に合わせて様々なイメージが綴られていくが、一つひとつのエピソードはシンプル。

冒頭でジョンがピアノを弾きながら “Imagine”を歌うシーンは有名だが、そのほかのシーンでは、パーティーやビリヤード、公園の散歩など日常的な風景を切り取りながら、見せ方や演出にアート作品のようなヒネりが加えられている。プライベートフィルムのようなパーソナルな雰囲気が漂っているのがジョンとヨーコらしいところだが、最後まで飽きさせないのは、そこで流れる音楽とジョンとヨーコの間に流れる強力な磁場のようなものに惹きつけられるからだ。

ジョン・レノン『Imagine』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

映画『IMAGINE<イマジン>』より
映画『IMAGINE<イマジン>』より / ©2018 YOKO ONO LENNON

なかでも印象的なのが、映画のいたるところで見られるジョンとヨーコのキスだ。キスをするときの感情の高鳴り、相手を求める気持ちが、二人の視線やアクションから生々しく伝わってくる。まるで真剣勝負の即興セッションだ。ヨーコが常に胸の谷間を露出した服を着て女性性を挑発的にアピールしているのに対して、ジョンは常に紳士的な態度で接しているのも面白い。ヨーコの胸の谷間はセックスアピールと同時に強烈な母性を発しているようでもあり、ジョンがヨーコの脱いだハイヒールの匂いを嗅ぐ姿にも驚かされる。まさに女性上位フィルム。ラストでお互いの名前を連呼する声が続くのは、それだけで音楽作品のように思える。二人にとって愛はセレブの夢物語ではなく、人生を賭けたアートであったことが映画から伝わってくる。

ジョン・レノン生誕80年を機に初めて国内劇場公開となった『IMAGINE<イマジン>』。今回はドルビーアトモスの良質な環境で鑑賞できる唯一の機会(ドルビーアトモス/7.1/5.1化のリミックスを手がけたのはポール・ヒックス)。なお、2018年にイギリス・アメリカで劇場公開されたものと異なり、ジョンとヨーコが過ごしたティッテンハースト・パーク(1969年の夏から1973年5月までジョンとヨーコが所有し、同年9月10日にリンゴ・スターに売却される)の貴重な未発表映像が追加されている(サイトで見る

21世紀に入って、ヨーコを中心にショーン・レノン、本田ゆか、小山田圭吾らがPlastic Ono Bandを再始動させるが、性別も国境もジャンルも超えた彼らの音楽を聴いて、そこにジョンが目指したものが、しっかりと受け継がれ表現されていると感じた。一人の力ではなく関係性の中から作品を生み出し、新しいものを生み出すためには無用な偏見や余計なプライドをすぐに捨て去ることができる。オルタナティブで同時にユニバーサルな感性を持ったジョン・レノンは、この分断化された時代のなかで、さらに輝きを増すミュージシャンであり、ヨーコは創作活動や作品のリイシューなど様々な形で今もジョンの魂とコラボレートし続けているのだ。

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作品情報

『IMAGINE<イマジン>』
『IMAGINE<イマジン>』

2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

監督:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ
出演:
ジョン・レノン
オノ・ヨーコ
ジョージ・ハリスン
アンディ・ウォーホル
フィル・スペクター

リリース情報

ジョン・レノン
『Gimme Some Truth.』(2CD+1Blu-ray)輸入国内盤仕様・完全生産盤

2020年10月9日(金)発売
価格:9,350円(税込)
UICY-79255

[CD1]
1. Instant Karma!(We All Shine On)
2. Cold Turkey
3. Working Class Hero
4. Isolation
5. Love
6. God
7. Power To The People
8. Imagine
9. Jealous Guy
10. Gimme Some Truth
11. Oh My Love
12. How Do You Sleep?
13. Oh Yoko!
14. Angela
15. Come Together(live)
16. Mind Games
17. Out The Blue
18. I Know(I Know)

[CD2]
1. Whatever Gets You Thru The Night(w Elton John)
2. Bless You
3. #9 Dream
4. Steel And Glass
5. Stand By Me
6. Angel Baby
7. (Just Like)Starting Over
8. I'm Losing You
9. Beautiful Boy(Darling Boy)
10. Watching the Wheels
11. Woman
12. Dear Yoko
13. Every Man Has A Woman Who Loves Him
14. Nobody Told Me
15. I'm Stepping Out
16. Grow Old with Me
17. Give Peace a Chance
18. Happy Xmas(War Is Over)

[Blu-ray Audio]
1. HDステレオ・オーディオ・ミックス(24bit/96kHz)
2. HD5.1サラウンド・サウンド・ミックス(24bit/96kHxz)
3. HDドルビー・アトモス・ミックス
※36曲(CD1&CD2)のHDオーディオを収録

ジョン・レノン
『Gimme Some Truth.』(2CD)

2020年10月9日(金)発売
価格:3,960円(税込)
UICY-15941/2

[CD1]
1. Instant Karma!(We All Shine On)
2. Cold Turkey
3. Working Class Hero
4. Isolation
5. Love
6. God
7. Power To The People
8. Imagine
9. Jealous Guy
10. Gimme Some Truth
11. Oh My Love
12. How Do You Sleep?
13. Oh Yoko!
14. Angela
15. Come Together(live)
16. Mind Games
17. Out The Blue
18. I Know(I Know)

[CD2]
1. Whatever Gets You Thru The Night(w Elton John)
2. Bless You
3. #9 Dream
4. Steel And Glass
5. Stand By Me
6. Angel Baby
7. (Just Like)Starting Over
8. I'm Losing You
9. Beautiful Boy(Darling Boy)
10. Watching the Wheels
11. Woman
12. Dear Yoko
13. Every Man Has A Woman Who Loves Him
14. Nobody Told Me
15. I'm Stepping Out
16. Grow Old with Me
17. Give Peace a Chance
18. Happy Xmas(War Is Over)

ジョン・レノン
『Gimme Some Truth.』(CD)

2020年10月9日(金)発売
価格:2,750円(税込)
UICY-15940

1. Instant Karma!(We All Shine On)
2. Cold Turkey
3. Isolation
4. Power To The People
5. Imagine
6. Jealous Guy
7. Gimme Some Truth
8. Come Together(live)
9. #9 Dream
10. Mind Games
11. Whatever Gets You Thru The Night(w Elton John)
12. Stand By Me
13. (Just Like)Starting Over
14. Beautiful Boy(Darling Boy)
15. Watching the Wheels
16. Woman
17. Grow Old with MeO
18. Give Peace a Chance
19. Happy Xmas(War Is Over)

イベント情報

『DOUBLE FANTASY – John & Yoko』

2020年10月9日(金)~2021年1月11日(月・祝)予定
会場:東京都 ソニーミュージック六本木ミュージアム

プロフィール

ジョン・レノン

1940年10月9日、英リバプール生まれ。1960年代はThe Beatlesのメンバーとして活躍、史上最高のロックンローラー。1966年、オノ・ヨーコと出会い、1969年3月結婚。二人は共作したコンセプチュアルアート『Acorn Peace(平和のどんぐり)』『Bed In(ベッド・イン)』『WAR IS OVER!(if you want it)』などの平和運動とともに、『Give Peace A Chance(平和を我等に)』発表後プラスティック・オノ・バンドとして活動。The Beatles解散後の1970年『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』を発表しソロキャリアをスタート。1971年、ヨーコとともに拠点をニューヨークへ移し、同年『Imagine』を発表、英米日で1位を獲得。1972年にはヨーコと共に『Some Time in New York City』を発表。その後も1973年『Mind Games』、1974年『Walls and Bridges(心の壁、愛の橋)』、1975年『Rock’N’Roll』とコンスタントにアルバムを発表する。1975年、息子ショーンが生まれた事を機に主夫として生活、しばらく音楽活動を離れる。1980年、5年の沈黙を破りジョン&ヨーコ名義での『Double Fantasy』で音楽シーンに再登場。しかし、リリース直後の12月8日、凶弾に倒れ悲劇的な死を迎える。享年40歳。ジョンが遺した作品、メッセージは今もなお人々の心に寄り添い、時代を超えて生き続ける。

オノ・ヨーコ

1933年2月18日、東京都生まれ。1950年代後半よりNYで芸術活動を開始。コンセプチュアル・アートの先駆者、前衛芸術家、音楽家として60年以上にわたり全世界へ向けてメッセージを発信し続ける。1964年『Grapefruit(グレープフルーツ)』を出版。1966年、ロンドンのインディカ・ギャラリーで開催した個展でジョン・レノンと出会い、その後共に音楽・芸術活動を行なう。ジョンは生前“Imagine”は『グレープフルーツ』から着想を得ていたと語っており、1971年のリリースから46年後の2017年にジョンの希望通り、ヨーコの名前が共作者として正式にクレジットされるに至った。一貫してアートと日常生活の境界を崩すことを試み、彼女ならではの前衛的な方法で愛と平和を訴え続けている。

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