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音楽を、やめた人と続けた人

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(2014/09/05)

音楽の衝動を止められない「音楽を続けた人」ナカノヨウスケの宿命
一方のナカノヨウスケは、藤井に“オレンジ”を演奏させたそのライブの後すぐに、この連載の取材がスタートする。トントン拍子の復活劇を見せた2010年を終え、全てを失った2011年3月。心身ともにボロボロになったナカノはその後、どのように復活していったのだろうか。
もともとナカノヨウスケという男は、何か事件があるたびに、そこから音楽を生み出してしまう、そういう男だ。死んだ姉が眠っている隣の部屋で、どうしても歌を作らずにいられない。PBLが解散しそうになればなるほど、その軋轢から新しい曲が出来上がってしまう。理由があって歌っているわけでも、曲を作っているわけでもない。ただ歌わざるを得ない、作らざるを得ない、そういう衝動が常に彼の中にある。だからナカノは、どんなことがあっても「音楽を続けた人」であり続ける。

そういうわけで当然、あの一連の出来事のあと、ボロボロになりながらもナカノは音楽を作り始める。お金もなくなり、住んでいた家を解約して実家に戻った彼は、そこで多くの曲を生み出し、歌いたい衝動は日に日に高まっていったようだ。結局ナカノは、3月の失踪騒動のあと、その春のうちに一人で弾き語りライブをスタートさせ、その音楽の衝動はまた、バンドへと向かって行くのだ。
ナカノ:“This World”っていう曲ができて、どうしてもこの曲はバンドでやりたい、バンドでやったら絶対カッコいいと思ったんです。それで前に智之が、「音楽続けて欲しいし、やるんだったら手伝いますよ」って言ってくれたことを覚えてて、連絡してみたら、「取りあえず1回スタジオに入りましょう」って言ってくれて。で、Modeastとスタジオに入ったら、みんなほんといい人柄だし、演奏も上手だし楽しくて楽しくてしょうがなくて、そこから毎週スタジオに入るようになっていったんですよね。

―Modeastはインストバンドだったけど、そもそもボーカルを入れたいと思っていたんですか?

磯野:いいボーカルがいたら入れたいと思ってたんですけど、なかなか見つからないから、インストでやってたんです。で、ヨウスケさんやPBLのことはもちろん知ってたし、その頃の僕らは都内でライブをやったこともないようなバンドだったから、「すごい! 俺らプロのミュージシャンとスタジオ入ってる!」みたいな高揚感もあったし、実際に歌はすごかった。インストバンドだったんで、ボーカルのための隙間も少なかったし、楽器の音量もすごく大きいバンドなんですけど、その上から歌が乗っかってくるんですよ。すごいボーカルだなって感じました。

中村:それで気づいたら、あれよあれよと4曲くらい曲ができたんですよね。

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中村龍人(Key)

ナカノ:そういうタイミングで新宿Motionが僕にライブのオファーをくれて、それでやっぱり俺、このバンドだったら出たいし、絶対うまく行くって思ったんです。こんなにモチベーションの高いバンドが今までライブする機会がなかったのも、ホントもったいないと思ったし。

磯野:俺らはもう、え、東京でライブできるの!? って(笑)。
そこで「Emerald」として初ライブを行った彼らは、翌月には下北沢ERAでindigo la Endなどと対バンし、ライブハウスからも高い評価を受ける。なんとまだ2回目のライブだったにも関わらず、ライブハウスにとっては一大イベントとも言える、大晦日のイベントへ誘われたのだ。そしてその年末イベントでは、イベントのPAを担当していた山下大輔に気に入られ、その後のEmeraldのPAをやりたいという、一介のバンドになかなか無い、何ともありがたい申し出を受ける。Emeraldは、活動を始めてすぐ、着実に評価を積み上げていったのだ。これはまさに、彼らが本物の実力を持っていたという、何よりの証だろう。
ナカノヨウスケは変われたのか?
しかしここで、1つの疑問が浮かんでくる。新しいバンドを組んだナカノヨウスケだが、再びバンドで活動することに対して、不安や恐れなどはなかったのだろうか? そもそも、そう簡単に新バンドへ気持ちをシフトできるものなのだろうか。
―そのときのナカノくんは、どういう精神状態だったんだろう? やっぱりPBLのことがまだ尾を引いて凹んではいるけど、少しずつ回復にも向かっている、そういう状況だったのかな?

ナカノ:そうですね。ライブハウスに行けば、あの一連の出来事を知ってる人も沢山いるし、公開リハビリみたいな感覚はありました。でもとにかく、このバンドで音楽をやるのがただただ本当に楽しかったし、環境によって人は変わるんだって、実感したんです。

“ナカノヨウスケ(Vo)”
ナカノヨウスケ(Vo)

―具体的にはどう変わったんだろう?

ナカノ:生き方から変わったと思います。端的に言うと、周りの人たちの気持ちとか、やろうとしていることとか、やりたいこととかを、大事にする。結果と成果を急がない。

―それが出来なくて、我慢出来なかったから、PBLは幾度も解散の危機を迎えたし、結局前に進めなかったわけですよね。それがなぜ急に、そんなふうに生き方を変えられたんでしょう? PBLの一連の出来事があったから?

ナカノ:それは、Emeraldのメンバーからの影響だと思います。PBLは、音楽で生きて行くために四人で上京して一緒に暮らしたりしていたけど、それに比べればEmeraldのメンバーは、人生の全てを音楽に捧げて生きているわけではないのかもしれない。でも、音楽以外の喜びとか幸せや厳しさもちゃんと知ってるし、だからこそ純粋に音楽をやることを楽しんでたり、一緒にやっていることを楽しんでくれる。そういう環境になって、人の優しさがじわーって染み込んできて、人に対して優しい気持ちになれるようになったんです。とにかくEmeraldのメンバーに癒されたんです、俺は。
―なるほどね。成功するために頑張ってきたPBLは、お互いの足りない部分を指摘し合ってしまったけど、純粋に音楽を楽しむことに軸足を置いているEmeraldは、それぞれが持っているものを喜び合うことができる。減点方式ではなく、加点方式で高め合っていける。ナカノくんはPBLでも、褒められてるときはどんどん前進できてたもんね(笑)。

ナカノ:そう。結局のところ、一緒に作ってる仲間を認め合って、「これいいね!」ってなったりする、そういう手応えみたいなものが俺の原動力なんですよ。

―でも敢えて厳しいことを言うと、Emeraldのその環境っていうのは、PBLに比べて、「音楽で成功したい!」という意識が薄いとも言えるわけですよね。それが悪いことだとは思わないけど、ナカノくんは今、音楽で食べていくっていうより、音楽をやるっていう喜びを求めて、音楽を続けているの?

ナカノ:それは、厳密に言うと違うんです。僕は、歌を歌って生きていく人になりたいから、すごく承認欲求もあるし、売れたいと思ってるんです。でも「音楽で成功したい!」って前面に押し出して生きていくことが、どれだけしんどいかを、PBLで知ってしまった。いろんなものを捨てなきゃいけないし、いろんなものを壊さなきゃいけないし、自分に嘘をつかなくてはいけないんです。俺だけじゃなく、PBLメンバーみんなも苦しい思いを沢山したし、それは正直、幸せな生き方じゃないなと思ったんですよ。そこであまりにも大きい喪失があったから、ちょっとゆっくりした。なんとか社会復帰はできた。そういうところまで、ようやく戻ってこれたんです。
 

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