ロックが売れない時代に、KASABIANが勝ち続ける理由

これまでCINRAで洋楽アーティストのインタビューを掲載する機会はあまり多くなかったが、今こそ洋楽を取り上げることが必要だと感じている。00年代の前半から中盤にかけてYouTubeやMySpaceが浸透していった頃は、「これで海外との距離が縮まる」という期待を抱かせたが、その結果起こったのは、細分化に伴う洋楽リスナーの減少だった。元々「邦楽/洋楽」という壁が存在する日本において、洋楽(特定のスターは除く)は一部の愛好家のためのものになりつつあると言っても、決して過言ではないかもしれない。実際に、今年はこれまでTHE STROKES、ARCTIC MONKEYS、THE RAPTURE、CSSといった00年代を代表するアーティストのリリース・ラッシュだったにもかかわらず、どこか盛り上がるに欠けるどころか、むしろ目立ったのは洋楽を取り巻くメディアの厳しい状況だったりする。しかし、異なる国の文化に触れることによって自分を見つめ、相互理解を深めることの重要性はいつの時代も変わらない。

今回取材を行ったのは、新作『ヴェロキラプトル!』を発表するレスター出身の4人組KASABIAN。もちろん、多くのロックファンがご存知であろう、00年代のイギリスを代表するバンドのひとつである。しかし、ここ最近で日本のミュージシャンと洋楽の話をするときの共通項は「USインディは面白いけど、UKロックは今ダメだよね」というもの。実際、ARCTIC MONKEYSの登場を頂点に、イギリスにおけるギターロックの盛り上がりは下降線を辿り、現状が厳しいのは確かである。そんな中、KASABIANだけは2009年に発表した前作『ルナティック・アサイラム』をチャートの1位に送り込むなど、一人気を吐き続けている。
なぜ彼らだけがそのポジションを守っていられるのか? そして、『ヴェロキラプトル!』は、果たしてUKロック復権の起爆剤となるのだろうか?

重要なのは、みんなが一般的なロックに期待するものをただ作るんじゃなくて、新しいアイデアをどんどん出して、新しい世界に踏み込むことだね。

まずはKASABIANのこれまでの歩みを簡単に振り返っておこう。彼らがセルフタイトルのデビューアルバムを発表した2004年は、いわゆる「ロックンロール・リバイバル」の盛り上がりを受け、ポップでストレートなロックンロール・バンドが数多くシーンをにぎわせている時期だった (そう、それは今の日本とどこか似ている)。しかし、そんな中に布で顔を覆った不気味なアイコンを掲げ、THE STONE ROSESやPRIMAL SCREAMらと比較される強靭なグルーヴを持った「異端」としてシーンに登場すると、セカンドの『エンパイア』ではその世界観を過剰なまでに拡大させたスケールの大きなサウンドを鳴らし、見事に全英1位を獲得。続くサード『ルナティック・アサイラム』では、DJ SHADOWやGORILLAZらを手掛けているヒップホップ畑のプロデューサー、ダン・ジ・オートメーターを起用し、音数を減らすことでビートを強調した作風へと転換しながら、またしても全英1位を獲得している。そして、それから約2年の歳月を経て完成されたのが、通算4作目となる『ヴェロキラプトル!』だ。アルバムについて、ギターのサージ・ピッツオーノは以下のように語ってくれた。

サージ:前作とは全く違うアルバムにしたかったんだ。前作は狂気の世界っていうか、サイケデリックの世界を深く探求した作品だったけど、今回はよりダイレクトな、「ロックの名作」って感じの作品を作りたかった。それでいて未来的でもある…そう、フューチャリスティック・ロック・アルバムだね。

ロックが売れない時代に、KASABIANが勝ち続ける理由"
サージ・ピッツオーノ

前作同様にプロデューサーにはダン・ジ・オートメーターが起用されており、ロックもヒップホップも飲み込んだ上での「レス・イズ・モア」なビート・ミュージックであることには変わりない。しかし、エレクトロニクスと生楽器がこれまでの作品以上に整然と融合を果たし、アルバム全体でのトータルな完成度を誇る本作からは、確かに「ロックの名作」と言うべき端正な雰囲気が伝わってくる。では、「未来的」とはどんな部分を指しているのだろう?

サージ:重要なのは今起きていることを認識し、吸収して、そういったものにどんどんトライすること。みんなが一般的なロックに期待するものをただ作るんじゃなくて、新しいアイデアをどんどん出して、新しい世界に踏み込むことだね。あとは、音楽っていうものが生まれてから何年経ってるかわからないけど、これまでの音楽のピースをすべて切り取って、別の組み合わせで出すってこと。このアルバムが、これまでにない全く新しいサウンドかっていうとそうじゃないし、まったく新しいスケールを使ってるわけでもないけど、その組み合わせがどれだけ新しいかってことが大事だと思うんだ。

2/3ページ:作品性にこだわって、そこにできる限りを詰め込めば、「こんな素晴らしい作品は絶対に欲しい!」ってみんな思うはずなんだ。

作品性にこだわって、そこにできる限りを詰め込めば、「こんな素晴らしい作品は絶対に欲しい!」ってみんな思うはずなんだ。

また、サージは「リスナーが11曲の間ずっとワクワクしてるような、そういう作品を作りたかった」とも言う。ダウンロードによって曲単位で聴くことが主流になりつつある今も、アルバムというパッケージの持つ芸術性に対する信頼に揺らぎはない。

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サージ:確かに今はダウンロードの時代だけど、それが作り手にも悪影響を与えてると思う。1曲だけシングルヒットがあればいいから、その周りに適当な曲を並べたようなアルバムを作ってて、その結果全体的な質が下がってる気がする。そうじゃなくて、作品性にこだわって、そこにできる限りを詰め込めば、「こんな素晴らしい作品は絶対に欲しい!」ってみんな思うはずなんだ。絵画にしても映像にしても、作り手の情熱が込められた作品は、受け手も家に置いておきたくなるだろ? だから今の風潮に反発して、「このアルバムはとにかく素晴らしい!」と思わせる作品にしなきゃって思ったんだ。

「ロックの名作」でありながら、「未来的」でもあるアルバム…そんな難題を達成するための更なる要件として、サージは「サウンドとメロディの両立」を挙げる。そして、それはそのまま今の音楽シーンへ向けた提言にもなっている。

サージ:今面白いのは、普通のロックバンドよりエレクトロニックなことをやってる人たちだと思うよ。ロックが最も刺激的だったのは1968年から1975年ぐらいだからさ。最近刺激を受けてるのは、SLEIGH BELLS、GANG GANG DANCE、ANIMAL COLLECTIVEなんかだね。彼らはすごいことをやってると思うんだけど、ただ「名曲を生む」っていう部分がちょっと欠けてる気がするんだ。昔は両方あったと思うんだよね、未来を感じさせるようなアイデアがありつつ、素晴らしい楽曲も存在した。その共存こそが僕らの理想なんだ。

実際に、本作にはこれまでのKASABIANの作品にはなかったような、シンプルで、美しいメロディが印象的な楽曲がいくつか存在する。中でも、ロックンロールに狂わされた二人の別れを甘いメロディで歌った“GOODBYE KISS”は、新境地とも言うべき名曲だ。

サージ:元々ロイ・オービソンとかエルヴィス・プレスリーとかエヴァリー・ブラザーズなんかが好きで、ああいう名曲を書くことほど難しいことはないと思うんだよね。それにチャレンジしてみたかったんだ。人から「KASABIANはそういうことをやっちゃダメだよ」って型にはめられるのなんて御免だし、そのときそのときで自分が本当にやりたいことをやるべきだと思う。

なぜKASABIANは、ヒットチャートにも生き残り続けられるのか?

90年代のイギリスにおいて最も素晴らしいメロディを残したバンドといえば、サージもファンを公言するOASISの名が浮かぶ。しかし、彼らの解散が一つの象徴であるかのように、現在イギリスはギターバンド冬の時代を迎えており、2010年のランキング上位100曲の中で、ギターロックはたったの3曲のみだったというのだから、かなり深刻な落ち込み具合である。

では改めて、そんな状況の中にあって、なぜKASABIANは今も厚い支持を受け、新作を待望されているのか。それは彼らがブームに乗って現れたのではなく、「異端」として登場しながら、自らの力で道を切り開いてきたからだろう。だからこそ、多くのロックンロール・バンドがブームと共に姿を消した今も、KASABIANだけは揺らぐことなく、トップを守り続けているのだ。

ロックが売れない時代に、KASABIANが勝ち続ける理由"

サージ:うん、自分たちでもホントに独自の立ち位置にいると思うよ。ファーストとかセカンドの頃って、「このバンドはこういうバンドだ」とか「このバンドに近い」とかってメディアが括ろうとしてたけど、サードを出してからはもう予測不可能で、そういうことが無意味になったと思う。今回も“GOODBYE KISS”と“SWITCHBLADE SMILES”みたいなまったく正反対の楽曲がひとつのアルバムに入ってるのなんて、俺たち以外できないんじゃないかな?


最初に、KASABIANが登場した2004年のイギリスの状況は今の日本に近いと書いたが、ARCTIC MONKEYSの登場がイギリスにおけるロックンロール・ムーヴメントの頂点だったように、今年の年末にTHE BAWDIESと毛皮のマリーズが立て続けに武道館公演を実施することで、日本におけるロックンロールの盛り上がりに関しても、ひとつの区切りとなるような気がしている。もちろん、これからも良質なロックンロール・バンドは現れるだろうが、その脇から自らの道を切り開いていったKASABIANのようなバンドが、日本でも現れることを期待したい。

2/3ページ:自分たちが歩んできた道のりがいかにすごかったか、「俺たち、ここまで来たんだな」って気分にもなるよ。そういうことを振り返って歌う時期だったんだろうね。

自分たちが歩んできた道のりがいかにすごかったか、「俺たち、ここまで来たんだな」って気分にもなるよ。そういうことを振り返って歌う時期だったんだろうね。

最後に、歌詞についても触れておこう。もはや王者の風格すら漂わせる彼らだが、本作の歌詞からは過去を振り返るような視点も感じられる。サージも、それを否定はしなかった。

サージ:もう4枚目の作品だし、俺も30歳になったからね。自分たちが歩んできた道のりがいかにすごかったか、「俺たち、ここまで来たんだな」って気分にもなるよ。そういうことを振り返って歌う時期だったんだろうね。

また、「昨年父親になったことは関係ある?」という質問には、一呼吸してこう答えてくれた。

サージ:…かもね。人生の新しい始まりっていう感覚は確かにあったよ。不思議なんだけどさ、これまで俺の周りっていい意味で混乱してたっていうか、とっ散らかってたんだよね。でもさ、息子が生れてからは、なんでもあるべきところにあるっていうか、しまうべき引き出しが決まってるような、整えられた感じがすごくするんだよね。

ロックが売れない時代に、KASABIANが勝ち続ける理由"

狂気や混沌をそのまま鳴らした『ルナティック・アサイラム』から、未来的なサウンドも美しいメロディもすべてが端正に仕上げられた「ロックの名作」である『ヴェロキラプトル!』へ。この変化は、結局サージの心境の変化そのものなのかもしれない。こんな人間臭さもまた、彼らのたまらない魅力である。

リリース情報
カサビアン
『ヴェロキラプトル!』初回限定盤(CD+DVD)

2011年9月21日発売
価格:3,570円(税込)
SICP3272-3

[収録楽曲]
・Let's Roll Just Like We Used To
・Days Are Forgotten
・Goodbye Kiss
・La Fée Verte
・Velociraptor!
・Acid Turkish Bath (Shelter From The Storm)
・I Hear Voices
・Re-wired
・Man Of Simple Pleasures
・Switchblade Smiles
・Neon Noon
[特典内容]
・21曲、114分に及ぶフルライブDVD
・日本盤限定ボーナストラック3曲収録
初回のみ特典封入

カサビアン
『ヴェロキラプトル!』通常盤(CD)

2011年9月21日発売
価格:2,310円(税込)
SICP3274

[収録楽曲]
・Let's Roll Just Like We Used To
・Days Are Forgotten
・Goodbye Kiss
・La Fée Verte
・Velociraptor!
・Acid Turkish Bath (Shelter From The Storm)
・I Hear Voices
・Re-wired
・Man Of Simple Pleasures
・Switchblade Smiles
・Neon Noon
[特典内容]
・日本盤限定ボーナストラック3曲収録
・初回のみ特典封入

プロフィール
KASABIAN

トム(Vo)、サージ(G/Vo)を中心に英レスターで結成、後にクリス(B)、イアン(Dr)が加わり、現在のカサビアンとなる。04年のデビュー以降これまでにリリースした3作全てがミリオン・セールスを達成、現在2作連続で全英1位、最も権威あるBrit Awardでは「Best Group」も受賞している国民的バンドであり、海外や日本の大型フェスではヘッドライナーを務めるなど世界を代表するライブ・アクト。



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