JINTANA&EMERALDSインタビュー 一生青春なオトナの幸福論

「得体の知れない多幸感がエコーするエメラルド色のソウル電波だ! イイネ! イイネ! イイネ!」――そんな横山剣(クレイジーケンバンド)が寄せたコメントに全面首肯。6人組ネオドゥーワップバンド「JINTANA & EMERALDS」の1stアルバム『Destiny』は、1950~60年代の古き良きオールディーズミュージック直系の心躍るメロディー&コーラスに、コンテンポラリーなダンスミュージックのアシッド / チルアウト感を見事に融合させたドリーミーな一枚だ。

そもそもの発端は、横浜発の音楽制作集団「PPP」ことPan Pacific Playa所属のスティールギタリスト・JINTANAを中心に2011年にスタートしたプロジェクトで、シンガーの一十三十一、女優としても活躍するMAMI、黒木メイサなど幅広くダンスミュージックのプロデュースを手がけるカミカオルという三人の歌姫と、ギタリストのKashif、(((さらうんど)))などでも活躍するトラックメイカーのCRYSTALという異色の実力派が集結。とはいえ、音楽を聴けば堅苦しいことは一切吹き飛び、彼らが作り上げた架空の「エメラルドシティー」の輝きに飲み込まれてしまうこと必至である。今回はJINTANAと一十三十一にご登場願い、二人の音楽的バックグラウンド、グループの結成秘話、そして今作に至るまでを仔細に語ってもらった。さぁ、ここではないどこかに確かに存在する、天国に一番近い街・エメラルドシティーへようこそ。

初めてオールディーズを聴いたのは、地元の港町、函館のハンバーガーSHOPで流れるBGMでした。(JINTANA)

―お二人とも北海道のご出身ですが、出会ったのはいつ頃ですか?

JINTANA:18、19才くらいのときだよね。たしか辻堂の海岸の『SPUTNIK』っていうパーティーじゃなかった?

一十三十一:そう、なんかオシャレな場所での出会いだったよね(笑)。もともと交友関係が近かったんだけど、そのパーティーで初めて知り合って。

―そもそもJINTANAさんの音楽的ルーツは、どういうものだったんですか?

JINTANA:オールディーズとの出会いで言いますと、僕は函館出身なんですけど、港町だからかオールディーズがかかってる店が結構多かったんですよね。「ラッキーピエロ」っていうハンバーガー屋さんが函館に10軒以上あるんですけど、その店のBGMが常にオールディーズだったり、街の街頭放送でも、なぜかThe Righteous Brothers(1960年に活躍したアメリカのデュオ。ブルーアイドソウルの代表格で、2003年にロックの殿堂入りを果たした)がかかっていたし。

―街中に流れているのがきっかけで、オールディーズに興味を持ったんですね。

JINTANA:まぁ、そこでは自然に慣れ親しんでいたというぐらいだったのですが、初めてオールディーズを強く意識したのは、GUNS N' ROSESの『The Spaghetti Incident?』というアルバムに入っていた、オールディーズの名曲“Since Idon't have you”のカバーでした。僕は当時1970年代や90年代のロックが好きだったんですけど、オールディーズのメロディーが、ガンズの音作りというフィルターを通すと、こんなにも甘くて新鮮なんだと思って聴き惚れました。

―オーセンティックな音楽が体に染み込んでいたのかもしれませんね。

JINTANA:あとはとにかくSantanaが好きですね! 甘くて深い精神性がある音色が素晴らしい。Santanaとオールディーズは不純物が一切なくて、愛についてストレートに向かっているという点で共通していて、そういう精神性が感じられる音楽はずっと好きです。一方で、BOREDOMSをはじめ実験的なものもすごく大好きで、『チョコレート・シンセサイザー』の最初の数曲のアシッド感には虜になりました。そういうオーセンティックな感覚と、実験的でトリッピーな感覚の両方の要素が昔から好きで、JINTANA & EMERALDSにも反映されていると思います。

JINTANA & EMERALDS
JINTANA & EMERALDS

―一十三さんの音楽的なルーツはどこからきているのでしょう?

一十三十一:私も北海道出身なんですけど、両親がトロピカルアーバンリゾートレストランを経営していたので、札幌なのに常夏みたいな環境で育ったんです(笑)。いつも西海岸の風を感じるような音楽がかかっていて、その影響は大きいと思いますね。お店は私が生まれてから14才の頃までやっていて、そのあと両親がインドの旅に出かけてしまい……帰ってきてからは「マジックスパイス」っていうスープカレー屋さんを始めたんですけど。

―マジックスパイスと言えば、今や超有名なスープカレー屋ですよね……!

JINTANA:すさまじい行動力を持ったご両親だね。

―JINTANAさんは高校卒業後、北海道を出られたんですよね?

JINTANA:神奈川県の藤沢のほうにある大学に通っていたんですが、当時は恵比寿の「みるく」というクラブによく行ってました。そこで脳くんやLatinQuarter、あとKesに出会って、それが今僕が所属しているPPP(Pan Pacific Playa)の発起人である三人だったんですよね。

―PPPっていうのは、ミュージシャン集団のようなものですか?

JINTANA:レーベルというかクルーというか……まぁ音楽仲間という感じです。メンバーのほとんどが横浜出身で、PPP自体のパーティーも江ノ島のクラブ・OPPA-LAなど横浜周辺を中心に活動しているんですけど、リーダーの脳くんから、「横浜も函館も港じゃん、ペリーも来たじゃん、一緒だよ」って誘われたんですよ(笑)。それで8年くらい前にPPPに入りました。PPPがやっているのは、みんなの中で少し妄想の混じった「横浜」感のある音楽です。港町っぽいメロウやアーバン、一方でジューク(近年シカゴで生まれたダンスミュージックの一種)のようなすごくゲットーなサウンドをやったり。PPPに入ってから、僕も横浜や江ノ島などでライブするようになり、どこか函館に似てる空気感だなと思い、いまではPPPのメンバーとして横浜周辺に愛着があります。港から港へ流れ着いてきた感じですかね(笑)。

―メンバー構成はどんな感じですか?

JINTANA:僕みたいなバンド系の楽器奏者とトラックメイカーの両方がいて、全体的に打ち込みのダンスミュージックに生演奏をしっかりのせるってことをやってます。中でもLUVRAW & BTBというグループは頻繁に活動していて、彼らはダンスなトラックの上に、トークボックス(楽器の音に人が喋っているようなイントネーションを加えるエフェクター)をのせています。僕もPPPに入ったばかりの頃は、脳くんたちとXX(チョメチョメ)っていうバンドを組んで、ディスコサウンドにジョージ・ベンソン風だったりSantana風のギターをのせたような曲をやっていました。


すべてを洗い流して浸れるくらい「気持ちいいもの」を作りたかった。(JINTANA)

―当初はどういうバンドを考えていたんですか?

JINTANA:すべてを洗い流して浸れるくらい「気持ちいいもの」を作りたくて。オールディーズのオーセンティックなメロディー感と、PPPの他のメンバーから影響を受けた、今のダンスミュージックの音の感触の気持ち良さを足したものがやりたかったんです。

―それって、それ以前に何か不満や反動があったから「気持ち良さ」に振り切ったような部分もあったんですか?

JINTANA:そういう反動めいた気持ちとは違うかもしれないですけど、僕は音楽を聴く上で、その瞬間を明るくしてくれたり、気持ちの良い気分にしてくれたり、という部分を求めているところはあります。もちろん悲しい曲を聴いて共感したいときもありますが、いずれにせよ、気持ちを何かしら前に進めるためのパートナーにしたくて、音楽を聴くことが多いです。

―なるほど。

JINTANA:そういう意味で言うと、バンドを始める前に、フィル・スペクターやオールディーズばっかり聴いていたんですよね。なんだか、目の前がパーッと晴れ渡るような感覚があって。でも、これがさらにハイファイだったら気持ち良くて最高なのになぁ、という思いもあって、そんなときにガンズがオールディーズのカバーをしていたことを思い出したんです。やはり40~50年前の音楽ですし、現代の音質に変えたらさらに素敵になるのではと思って。

JINTANA Emeralds
JINTANA Emeralds

―JINTANAさんが、ギターをスティールギターに持ち替えたのはどういうきっかけだったんですか?

JINTANA:それも、レイドバック感とアシッド感をさらに追求する中で辿り着きました。ダンスミュージック的な観点から、シンセサイザーみたいに「音色」にフォーカスしてスティールギターを弾いてみたら、どこまでも高鳴るような音がホントに最高で、音色だけで別世界に連れて行かれるような感覚がありました。この楽器を昔の時代に置き去りにするのはもったいないと思って、スティールギターが僕の演奏するメインの楽器になっていったんです。

―まさに虜になったんですね。新しくバンドを組むにあたって、自分のギタープレイをフィーチャーさせるというよりは、もっとプロデューサー的な立場でメロディーの立った歌ものが作りたかったということでしょうか?

JINTANA:そうですね。ドゥーワップ的なコーラスがやりたくて、一十三ちゃんに「誰かいいボーカルいない?」って相談してみたら、「面白そうだから私がやりたい!」って言ってくれて。

一十三十一:私を誘ってるわけじゃなかったんですけど、ずっとやってみたいと思っていたことだったので、入部? させてもらいました(笑)。

左から:Chao Emeralds aka カミカオル、TOI Emrralds aka 一十三十一、Mami Emeralds aka 阿部真美
左から:Chao Emeralds aka カミカオル、TOI Emrralds aka 一十三十一、Mami Emeralds aka 阿部真美

JINTANA:たしかに部活っぽいよね(笑)。

―はははは。でも本人たちが楽しんでる感じは伝わりますよね。曲はどういうふうに作るんですか?

JINTANA:僕とkashifくんがメロディーを作って、kashifくんとCrystalくんがアレンジをして、みんなの歌入れをして、最後にCrystalくんにドリーミーな音像の加工をやってもらってます。この音像がかなり大事なポイントなので、Crystalくんが試行錯誤しながらやってくれているのですが、完成したファイルが送られてくるときに、いつもメンバーみんなが盛り上がりますね。

左から:Crystal Emeralds aka crystal、Kashif Emeralds
左から:Crystal Emeralds aka crystal、Kashif Emeralds

―レコードを再生して聴いてるような、味のある音像ですよね。

JINTANA:はい、曲によっては、そういうレコード的な音響にしてるものもありますし、1960年代的なボーカルエコーをやってみたり、チルアウトだったりダビーだったり。一方で、今のUSのR&Bのような現在進行形のダンスミュージック的な音の広がりのある雰囲気を作ったりもしてますし、ディティールの部分をいろいろ楽しんでやっています。

架空の「エメラルドシティー」を舞台に繰り広げられる男女の恋愛を描いた歌詞は、ファンタジーなのに不思議と共感できるんです。(一十三十一)

―ファンタジスタ歌魔呂さんが手がけたアートワークを含め、JINTANA & EMERALDSは往年の良き時代をリスペクトしつつも、オマージュを楽しんでいるようなユーモアが感じられますが、アルバムのコンセプトはどうやって練っていったんですか?

JINTANA:最初から「こういうのやってみようよ!」ってガチガチにコンセプトを固めてたわけじゃなくて、曲ができてから、最後に一十三ちゃんの提案してくれた『Destiny』ってタイトルをつけたんですよ。音楽性もアートワークも、個々がそれぞれのレイドバックを追求していったら、気づいたらこんな格好して、こうやって海に集まっていたんです、というのに近い(笑)。

JINTANA & EMERALDS

一十三十一:アーティスト写真も海で撮影したんですけど、みんな高揚感でいっぱいになって。ここに居合わせたことが「Destiny」だなって思えたから、タイトルでそう言い切ってもいいんじゃないかなって。それぞれのキャラ設定みたいなのもそう言えば成り行きで、いつの間にか決まっていた(笑)。歌入れも本当に楽しくて、Detroit Babyっていう作詞専門担当の子が全曲書いてくれてるんですけど、デトロイト出身の日本人で、アメリカのティーンエイジャーみたいに可愛くて自由(笑)。全部英詞なんですけど、すごくファンタジー感のある内容なんですよね。

JINTANA:歌詞を見ながらアルバムを聴くと、架空の「エメラルドシティー」を舞台に、そこで繰り広げられる男女の恋愛をショートストーリーのような雰囲気で楽しめるかもしれません。最初に僕の語りからアルバムが始まるのですが、その後、例えば“Moon”という曲は、ある女性が湖にいると、空に浮かぶ月がどんどん大きくなって、湖に映ってる月もどんどん大きくなっていく。もう手で触れるくらいに月が大きくなって、実際に触ってみると、その月というのは愛そのもので、その愛が自分の中に流れてくる……。そして、その湖はエメラルドシティーの観光名所になっている(笑)、という話だったり。街のいろいろなできごとや人々の様子が歌詞になっています。

JINTANA & EMERALDS

―情景の描写が細かいですね!

JINTANA:そうなんです。あとは、恋愛が成就した後のことって、普通描かないじゃないですか? でも最後の“Days After Happy Ending”っていう曲は、成就した後こそが幸せで、その幸せがずーっと続くんだってことを、キッチンでチーズケーキを焼きながら思っている女の子の歌なんです。

一十三十一:そうそう。1曲ずつそういう物語があって面白いし、ファンタジーなのに、不思議と共感できるんだよね。

逃避願望があるわけじゃなくて、究極に今日という日を楽しもうとしてる。(一十三十一)

―お話をうかがっていて思ったのは、JINTANA & EMERALDSが面白いのは、「多幸感」を地(じ)でやり切っているところだと思うんです。「非日常」へ誘うような音楽性も込みで、いわゆる「ここではないどこか」を意図的に目指しているように見えて、実はそうじゃないというか。生き辛い現実からの逃避願望があるわけじゃなくて、このバンドっていうのは、てらいなく「今」を思いっきり楽しめる能力に長けている人たちだと思うんです。それで、そういう人こそが、「ここではないどこか」を幻想で終わらせずに、現実のものとして形にできるんじゃないかって。

一十三十一:なるほど……。たしかに、リア充感はあるよね(笑)。

JINTANA:あるある(笑)。究極に今日という日を楽しもうとしたらこうなったっていう。

―だって、逃避願望からこういう音楽を作っているわけではないですもんね?

一十三十一:それよりも、「憧れ」なのかな。地元の話に戻るんですけど、生まれ育った北海道って、1年のほとんどが雪だったり寒かったりするから、みんなだいたい南に憧れるんだよね。

JINTANA:たしかに。南に対しての憧れはすごくある。

一十三十一:砂浜とか、さらさらしてる海岸とかね(笑)。だから、別にここが嫌だったっていうわけじゃなくて、常に「憧れ」の気持ちが当たり前のものとしてあるんですよ。それで両親もトロピカルレストランをやっていたんだと思うんですけど、そこには地元の着飾った若者がいい車でドーンと来たり、ハイヒールをカツカツ鳴らして恋人と待ち合わせしたり、キラキラのバブリー空間だったんです。

―逃避願望というより強烈な憧れが原点にあるから、ダイレクトかつポジティブにアウトプットされているのかもしれませんね。

一十三十一:そうですね。だから、JINTANA & EMERALDSのトリップ感のある音楽も、私にとっては故郷みたいな感じで。


JINTANA:僕は、一点のくもりもないくらい、スパッと心から楽しい! という気持ちになりたいと常々願ってるし、楽しむことにピュアな人は立派だなと思います。僕個人はまだまだそこまで辿り着けていないですけど。

一十三十一:でも、PPPのパーティーってホントにそういう感じじゃない? 波打ち際で酔っ払って、永遠に続くかのごとくやっていて。一晩中踊って、江ノ島のOPPA-LAの窓の外がだんだん明るくなってくると、もう言葉もいらないくらいの多幸感があるよね。音楽的にも人間的にも、みんなすごくピュアだし、そういう人たちが引き寄せられるように集まる場所。またレストランの話で申し訳ないんですけど……「おいしい」っていう気持ちに言葉はいらないじゃないですか? 音楽を「楽しい」って思うのも同じだと思っていて。おいしい料理と、そこにふさわしい音楽をみんなでシェアする気持ち良さって、「救い」なんですよね。そういう環境で育ってきたので、自ずとそれを求めちゃうし。なんだろう、「誘(いざな)い魂」っていうのかな。血は争えないね……。

―まさにこのバンドにはそういう力が宿ってると思います。アルバムが完成して、今後の展開をどんなふうに考えていらっしゃいますか?

JINTANA:これまでもただ楽しくやってきたからねー。

一十三十一:これがずっと続けばいいよね(笑)。

JINTANA:あと、ライブですね。7月に東京と京都でレコ発ライブをする予定なので、いろいろと趣向を凝らして、見に来てくれた人をドリーミーな世界に誘えるような、素敵な体験になるライブにしていけたらと思ってます。

リリース情報
JINTANA & EMERALDS
『Destiny』(CD)

2014年4月23日(水)発売
価格:2,592円(税込)
PCD-24337

1. Welcome To Emerald City
2. 18 Karat Days
3. Emerald Lovers
4. I Hear a New World
5. Honey
6. Runaway
7. Destiny feat. LUVRAW & BTB
8. Moon
9. Let It Be Me
10. Days After Happy Ending

プロフィール
JINTANA & EMERALDS(じんたな あんど えめらるず)

メンバーは、PAN PACIFIC PLAYA所属のスチールギタリストJINTANA、DORIANらへの客演でひっぱりだこなギタリストKashif、アーバンなニュー・シティ・ポップで話題沸騰中の媚薬系シンガー・一十三十一、(((さらうんど)))でも活躍するCRYSTAL、少女時代や三浦大知など幅広くダンスミュージックの作詞、作曲、プロデュースをするカミカオル、女優でもあるMAMI。フィルスペクターが現代のダンスフロアに降り立ったようなアシッド・ウォールオブサウンドで、胸騒ぎの夏へ。



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