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宮城聰×タニノクロウ 演劇祭は世界を面白がるための処方箋

宮城聰×タニノクロウ 演劇祭は世界を面白がるための処方箋

『ふじのくに⇄せかい演劇祭2017』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

演劇祭は、パフォーミングアーツのセレクトショップだと考えればいい。良いセレクトショップが価格帯ではなくセンスで品揃えを決めるように、良い演劇祭は、そこに行けば1本筋の通った幅広さで演劇の面白さを楽しめる。

その好例がSPAC-静岡舞台芸術センターの『ふじのくに⇄せかい演劇祭』だ。芸術総監督・宮城聰は今年、世界的に蔓延する負のオーラを払拭する秘策を、寿ぐ(ことほぐ)=面白がる=「対象と距離を取ること」だというメッセージを記し、自らも静岡や日本を超える射程で作品を用意する。宮城と、昨年の岸田國士戯曲賞を受賞後初の新作でありながら脚本を書かない作品を作るという奇才・タニノクロウに、演劇の力について聞いた。

人は敵をこしらえると興奮して、充実した気分になる。その病みたいなものを、「ギリギリ」と呼んでみた。(宮城)

―毎年、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』にはテーマが掲げられます。今年は「ギリギリ人、襲来!」をキャッチコピーに、世界全体を覆う不満、憎悪、熱狂の空気への警鐘と、それらに対する演劇の効用が示されています。ユーモラスな言葉とは裏腹に、行間に強い危機感を感じました。

宮城:明らかに1年前より状況は悪くなっていますよね。世界的に見て、今、過半数の人が不遇感を持っている。マズいのは、権力vs民衆という構図が成り立たないことなんです。

「自分はワリを食っている」と感じている人は、自ら排外主義みたいな方向に進みがちなんですよ。「その分、誰かが得をしているはずだ」と、仮想敵を生み出してしまうから。

左から:宮城聰、タニノクロウ
左から:宮城聰、タニノクロウ

―不遇の原因を、見えない誰かに全部押し付けてしまう?

宮城:そうです。敵をこしらえると興奮して、充実した気分になるんです。そして権力側は、そういう人達が盛り上がって作った御神輿(おみこし)の上に乗っかる形になる。その興奮というか病みたいなものを、「ギリギリ」と呼んでみたんです。

―では、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』に来襲するギリギリ人とは?

宮城:こんなに世界がギリギリなら、あえてギリギリの人達に来てもらって、面白がろうと。面白がる、楽しむという行為を、今年のメッセージの中では「寿ぐ」と言ってみたんです。それは自分との違いを見つけて「あいつ、何やってるの?」とか、逆に自分と似た姿を見つけて「俺たち、何しているんだろうね」と客観的になって、つい笑ってしまうことなんですね。

宮城聰

よくわからないものを目の前にした時に、いつもは表に出てこない自分に気づく、そんな作品にしたい。(タニノ)

―「近くで見ると悲劇、遠くから見ると喜劇」は演劇の大原則ですね。

宮城:そうそう。桂枝雀師匠(上方落語の人気噺家)も言っていましたけど、緊張が弛緩した時に笑いは起こりますから、興奮して、没入して、憎悪に走っている人達が、自分達を相対的に見て笑ってしまえばいいじゃないですか。

で、せっかくだから、いろんな国や地域からギリギリの人に集まってもらおうと、ドイツやイタリア、そしてシリアの人に声をかけたんです。そのひとりがタニノさん(笑)。

宮城聰

タニノ:確かに、僕をはじめ今作のメンバーは、いろんな意味でギリギリかもしれません(笑)。僕はそんなに世界の動向に注目して生きているわけではないんですけれども、それでも海外で仕事をすることが増えてきて、この何年かで、国だったり人同士がどんどん分かれていっているような危機感は感じています。

タニノクロウ

タニノ:今の宮城さんのお話は、僕とカスパー・ピヒナー(今回のタニノ作品のプロダクションデザイナー)が、一緒に作品を作ろうと思った最初の着想に近いところがあると思いながら聞いていました。今、僕たちは、相手の人種や性別、言葉もわかりえない状態で、人と人は繋がり合えるのかを考えているんです。

タニノとピヒナーがタッグを組んだ、ドイツの公共劇場からの委嘱作品『水の檻』(2015年 クレーフェルト=メンヒェングラートバッハ公立劇場)作・演出=タニノクロウ、舞台美術・衣装=カスパー・ピヒナー
タニノとピヒナーがタッグを組んだ、ドイツの公共劇場からの委嘱作品『水の檻』(2015年 クレーフェルト=メンヒェングラートバッハ公立劇場)作・演出=タニノクロウ、舞台美術・衣装=カスパー・ピヒナー

タニノ:彼はドイツ人なのですが、それこそドイツは今、難民の問題で国全体が揺れている。僕自身も、2年前の『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』というワーク・イン・プログレスを上演した時に近い思いがあったんです。

それは、何か得体の知れない、一見共感できそうにない相手に対して、協力的になれるのか、なれないのか。よくわからないものを目の前にした時にどう反応するかで、いつもは表面に出てこない部分の自分が初めてわかることがある。そういうことに気づく、そんな作品にしたいんです。

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イベント情報

『ふじのくに⇄せかい演劇祭2017』

2017年4月28日(金)~5月7日(日)
会場:静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園ほか
上演作品:
『アンティゴネ ~時を超える送り火~』(構成・演出:宮城聰、作:ソポクレス) 『MOON』(作・演出:タニノクロウ)
『ウェルテル!』(演出:ニコラス・シュテーマン、原作:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)
『ダマスカス While I Was Waiting』(演出:オマル・アブーサアダ、作:ムハンマド・アル=アッタール)
『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』(構成・演出:ジゼル・ヴィエンヌ、作:デニス・クーパー(出演者との共作))
『六月物語』(構成・演出・出演:ピッポ・デルボーノ)
『1940―リヒャルト・シュトラウスの家―』(演出:宮城聰、音楽監督:野平一郎、脚本:大岡淳)

プロフィール

宮城聰(みやぎ さとし)

1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。17年には日本の演出家として初めてアヴィニョン演劇祭メイン会場となる法王庁中庭でのオープニング公演に選ばれ『アンティゴネ』を上演する。その他の代表作に『マハーバーラタ』『王女メデイア』など。06年よりアジア舞台芸術祭プロデューサーをつとめる。18年東京芸術祭総合ディレクターに就任予定。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。

タニノクロウ

1976年富山県出身。庭劇団ペニノの主宰、座付き劇作・演出家。セゾン文化財団シニアフェロー(2015年まで)。2000年医学部在学中に庭劇団ペニノを旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を手掛ける。ヨーロッパを中心に、国内外の主要な演劇祭に多数招聘。劇団公演以外では、2011年1月には東京芸術劇場主催公演で『チェーホフ?!』の作・演出を担当。狂気と紙一重な美しい精神世界を表現し、好評を得る。2015年3月ドイツにて新作『水の檻』を発表。2016年『地獄谷温泉 無明ノ宿』にて第60回岸田國士戯曲賞受賞、第71回文化庁芸術祭優秀賞。2016年北日本新聞芸術選奨受賞。

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