歌う心理カウンセラー心屋仁之助、苛立ち疲弊する日本人に助言

心屋仁之助は、「歌う」心理カウンセラーだ。テレビのバラエティー番組出演をきっかけにそのカウンセリング術が注目され、以降、全国で開催される講演会やセミナーは大きな人気を博し、著書の累計発行部数は350万部を突破。人気も実力も折り紙つきの、いわば「売れっ子」心理カウンセラーだ。そんな彼のカウンセリング術のなかには、今、「歌」がある。

心屋は、2015年に本格的に音楽活動を開始し、2年連続で全国Zeppツアーを敢行。去年までに3枚のアルバムをリリースし、今年も新作アルバム『魔法のうたIV 生きる』をリリース。さらに、今年2月には日本武道館での独演会も成功させている。とてつもないスピードと行動力で音楽活動を邁進していく彼は、心理カウンセラーとして、今、なぜ歌うのだろうか? 彼がカウンセラーとなるまでの道のりや、心屋が考える現代の「幸せ」の在り方について訊きながら、そのカウンセリングが「歌」へと辿り着いた、その理由に迫った。

霊感商法と僕らがやっていることは何も変わらない。ただ、僕らは人の悩みを解決する具体的な技術を持っている。

—いきなり不躾な質問なのですが、心屋さんのやっている心理カウンセリングを、胡散臭いものとして見る人も、きっといますよね?

心屋:いますいます。日本で「カウンセリングをやっている」って言ったら、霊感商法みたいに見られますからね。そういう場所は弱っている人が行くところで、カウンセラーである我々は、「弱っている人からお金を巻き上げる人」みたいな構造は、まだ根強くあると思う。

心屋仁之助
心屋仁之助

—そういう反応を示されたとき、心屋さんはどう対応されますか?

心屋:「お前は胡散臭い」と言ってくる人には、「うん、胡散臭いよ」って言います(笑)。

—ははははは(笑)。

心屋:まぁ、何やっているかわからなかったら、人って怪しがるからね。でも実際、胡散臭いのは胡散臭いと思うんですよ。いわゆる霊感商法と僕らがやっていることの何が違うのかと言えば、別に違いなんてないから。ただ、僕らは人の悩みを解決する具体的な技術を持っているんです。

「周りが悪い」って悩んでいる人と、「自分が悪い」って悩んでいる人の根っこは同じなんです。

—そもそも、心屋さんが心理カウンセリングの世界に入られたきっかけは、どうしてだったのでしょうか?

心屋:そもそもの話をすると、僕は大学を卒業してから佐川急便に就職して、そこで19年間働いていたんですよ。

—佐川といえば大企業ですし、19年というのも、長いですよね。

心屋:しかも19年間、仕事一本槍だった。生活が「仕事95%、家庭5%」くらいの割合で続けていた結果、家庭が壊れてしまったんですよ。子どもが学校に行かなくなったり、奥さんが家事をできなくなったり……。その家庭の問題を解決するために暗中模索していくなかで、心理学に出会ったんです。

—当時の心屋さんに、心理学は何をもたらしたんですか?

心屋:当時の僕は、学校に行かない子どもが悪い、家事のできない奥さんが悪いっていう思考だったので、「子どもや奥さんをどうにしかしよう」と思っていたんです。でも、心理学の世界を進んでいくなかで気がついたのは、悪かったのは家族じゃなくて自分なんだっていうこと。

心屋仁之助

心屋:自分が仕事に傾きすぎていたので、家庭が壊れることでバランスを取ってくれていたことに気づいた。そこで、仕事を辞めて、もっと家庭に目を向けるようにしようと思いました。その一環で、心理カウンセラーとして起業したんです。

—19年間働き続けた職場を離れるのって、相当な勇気がいますよね?

心屋:死ぬかと思いました(笑)。41歳くらいの頃だったんですけど、とんでもなく怖かったです。起業したところで何の保証もないし、家族もいたし。でも、新しい世界に飛び込んででも、人生を変えたかったんでしょうね。

—今の心屋さんが振り返ってみて、「家族が悪い」と思ってしまった当時のご自身の心理とは、どのようなものなのでしょうか?

心屋:悩んでいる人って、「周りが悪い」って悩んでいる人と、「自分が悪い」って悩んでいる人の、どちらかなんですよ。僕は前者だった。もちろん、後者の人もいる。でも実は、どちらも根っこは同じなんです。

日本人は「がんばると上手くいく」っていう謎の宗教を信じてしまっている人が多いんですよ。

—「周りが悪い」と思って悩む人と「自分が悪い」と思って悩む人、どう同じなんですか?

心屋:「周りが悪い」と思っている人も、実は腹のなかでは「自分が悪い」と思っている。「自分が悪い」を出発点にして、自分責めにいくか、他人責めにいくかっていう違いなんですよね。これは、アレルギーを持っている人が、症状が内臓に出るのか、皮膚に出るのかっていう違いに近いと思う。

—その根源は一緒だと。

心屋:そう。自分は無力で、期待に応えられなくて、人を困らせてしまう……そういう謎の「罪」をずっと背負っていて、そこから「自分はダメなんだ!」って自分を責める人と、自分は罪人であるがゆえに、正しく生きようと踏ん張っている人がいる。で、後者は、自分にとって間違っていることをしている人に腹が立つんですよね。仮面ライダーと一緒で、自分が正義であるためには、悪者が必要になってくるんですよ。そして、「悪者は叩いていいんだ」っていう思考になってしまう。

—最近は、SNSで芸能人が叩かれたりっていう話題も多いですけど、簡単に人を叩いてしまう人の「怒り」の原動力も、実は根底は自分に向かっているんですかね?

心屋:うん、そうだと思います。それに他人を叩く人が狙うのは、自由に生きている人なんですよ。「自分は一生懸命我慢して真面目に生きているのに、なんであいつらは好きに恋愛するんだ!」とか、「なんで、あいつらは好きに金使うんだ!」とかね。みんな、本当は自分がやりたいことを我慢しているんですよね。

—自分が我慢し続けた結果として、他者に攻撃的な態度をとってしまうというのは、かなり歪ですよね。人はなぜ、やりたいことを我慢してしまうのでしょうか?

心屋:我慢することが、いいことだと思っているからじゃないですかね。実は、日本人の多くが信じている宗教があるんです。それは、「がんばる教」。「がんばれば上手くいく」、「我慢すればそのうちいいことがある」、「人に任せずに自分でやることが素晴らしい」……この3つの柱を基軸にした宗教。

心屋仁之助

心屋:それを信じ込んでしまうと、物事が上手くいかない理由が「がんばらなかったから」とか、「我慢しなかったから」になってしまう。でも、がんばっても、我慢しても、報われないものは報われないですよね。だって、がんばったらCDが売れるのなら、みんなが売れている。

でも、売れるか売れないかなんて、水ものじゃないですか。「売れたこと」と「がんばったこと」をイコールで結びつけたがる人も多いんだけど、それはイコールではないですからね。「がんばったら報われるんだ」って言っているのは、報われた人だけですから。世の中には、がんばらなくても売れる人だっていますからね。

—たしかに……。

心屋:それなのに、日本人は「がんばると上手くいく」っていう謎の宗教を信じてしまっている人が多いんですよ。

現代における「本当の幸せ」っていうのは、好きなことを好きなときに、好きなようにできることだと思うんですよ。

—では、その「がんばる教」を抜けるにはどうしたらいいのかというと……恐らく端的に言うと「がんばらない」ということですよね?

心屋:うん、そう。

—でも、「がんばらない」っていうのは、実はすごく勇気がいりますよね?

心屋:「がんばる教」の人にとって、「がんばらない」っていうのは、今まで自分が避けてきたことに飛び込む勇気ですので、勇気がいります。僕も、会社勤めをしていた頃はずっと「がんばらない」ことも、我慢せずに好き勝手やることも、自分でやらずに人任せにすることもダメだと思っていたから、すごくわかる。ダメだと思っていたことをやる勇気って、犯罪レベルの難しさです。

—どうしたら、その難しさを乗り越えられるのでしょうか?

心屋:まず、周りの人の優しさを信じることですね。そして、自分はその優しさに助けてもらえる人間なんだって信じる。自分が少々迷惑をかけても、好きなことをしてわがままを言っても、周りの人は許してくれるし、助けてくれるしと信じることが、一番大事なんじゃないかと思います。あなたも、「締め切りを守らなくても編集の人は許してくれるんだ」って信じてみてください(笑)。

—その点で言うと、僕はもう充分、いろんな人の優しさに生かされています(笑)。

心屋:それはよかった(笑)。……結局、人の心のなかって、「したくないけど、しないと怒られる」とか、「したいけど、すると嫌われる」みたいな、欲求と恐怖が闘っているんですよね。

心屋仁之助

心屋:でも、現代における「本当の幸せ」っていうのは、好きなことを好きなときに、好きなようにできることだと思うんですよ。それをするには、根っこに「安心」が必要なんですよね。「自分は何をやっても大丈夫なんだ」、「何をやっても上手くいくんだ」、そして同じくらい、「自分は何をやっても失敗するんだ」ということを理解するのが大事。そして、「失敗しても大丈夫なんだ」っていう安心があると、人は急に自由になるんですよね。

—でも、その「安心」を得ることが、すごく難しい気がします。

心屋:そうですよね。じゃあ、安心を得ようと思ったら何をすればいいかというと、今までやってはいけないと思っていたことを、少しずつやってみるといいんです。

真面目に生きてきた人は、はしゃぐのが苦手なんですよ。

—ええと、どういうことでしょうか?

心屋:親不孝をするとか、仕事をさぼってみるとか、高いものを買ってみるとか、締め切りを破ってみるとか(笑)。そういうことをちょっとずつやってみると、安心がじわーっと広がっていくんです。

—ちょっとずつ、自分のなかにある「大丈夫」の枠を広げていくというか。

心屋:そうそう。で、大丈夫じゃなかったときは、「やってもうた! どうしよう!」って、笑えばいいんです。

—でも、それ怖いですよ……。

心屋:うん、怖いですよね。だって、周りの信頼は損なわれますからね。

—そうですよ。

心屋:でも、大丈夫です。

—えぇ~(笑)。

心屋:ミスをすれば、信頼は損なわれます。当然ですよね?

—そりゃ、そうですよ。

心屋:でも、大丈夫です。死にはしません(笑)。

—ははははは(笑)。恐らく、数年前にテレビのバラエティー番組に出られていた頃の印象が強かったり、遠くから漠然と見ている人にとって、心屋さんは非常にウェットなイメージの方だったんだと思うんですよ。でも、実際お会いして思いますけど、心屋さんって、非常にドライな人ですよね。

心屋:そうですね(笑)。まぁ結局、テレビが求めるものって、悲劇とか感動ですからね。僕がテレビに出ていたとき、実際にスタジオでタレントさんをカウンセリングしていると、大爆笑の時間がほとんどなんですよ。でも、放送に使われるのは泣いている場面や、辛いことや苦しいところを乗り越えた場面ばかりなんですよね。ただ、僕らが本当に伝えたいのはそっちじゃなくて、「もっと笑えるよ」っていうことなんです。

今、僕は講演のほかに歌を歌ってライブもやっているんですけど、ライブをやる理由のひとつも、そこにあるんですよね。真面目に生きてきた人は、はしゃぐのが苦手なんですよ。でも、そういう人たちにこそ、はしゃいでもらいたくて。

心屋のライブ公演より
心屋のライブ公演より(公演特設サイトを見る

僕らは自分の人生をキューっと抑え込んでいる。

—これまで言葉や文章で考え方を伝えてきた心屋さんが、今、歌も歌っていらっしゃる。そもそもきっかけはなんだったんですか?

心屋:きっかけとしては、お経です。お経って、読まれたことありますか?

—ちゃんと読んだことはないですね。

心屋:僕、実家が仏教だったんですけど、祖父や祖母が亡くなると、四十九日、毎晩2時間くらいお経をあげる時間があったんですよ。それが辛くて辛くて仕方がなかったんですけど、自分の声がお経にハマったときって、喉の辺りの震えが、とてつもなく気持ちいいんですよね。そういうところから、声を出す気持ちよさに気づき始めたんです。

それに、お経のなかにはきっと大事な言葉が並んでいて、その大事な言葉を覚えてしまうくらい、読み込んでいる人たちがいる。じゃあ、僕がいつもカウンセリングで伝えている言葉を一緒に口に出しながら届けることができたら、幸せになるものができるんじゃないかなって思ったんです。

心屋仁之助『魔法のうたIV 生きる』ジャケット
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—「一緒に歌えること」というのは、やはり重要なんですか?

心屋:そうですね。歌を歌うことで、最終的に僕が目指したいと思っているのは、“夕焼け小焼け”のような童謡なんですよね。あれは、楽器がなくてもいいし、みんなの音程がバラバラでも歌えるじゃないですか。そういうものがいいんです。

—「歌う」ということは、言葉を頭で理解するだけではなく、そこに身体性が加わる行為だと思うんですけど、それが重要なのは、なぜなのでしょうか?

心屋:「歌う」っていうこともそうだけど、もっと大きく言うと、「口に出す」っていうことは、すごく重要で。なぜなら、人間の体と頭は別の人格だから。人って、体は常に「ああしたい、こうしたい」っていう信号を発しているんだけど、頭がそれを一生懸命コントロールしている状態なんですよ。

たとえば、今、こうやって話しながら「よし、汗かくぞ」と思っても汗はかけないじゃないけど、心配事があったりヒヤヒヤすると勝手に汗をかいたりする。つまり、本心っていうのは体にあるんです。実際、カウンセリングをやっていると、経験から、その人の問題や悩みを解決するために必要なキーワードがわかってくるんだけど、その言葉を口に出してもらうと、口に出した人の体が震えだしたりするものなんですよ。

—そこまで明確に体に出るんですね。

心屋:そう。だから、「自分の本心は体に訊いてほしい」って思うんですよね。この間、出版社の人と打ち合わせをしていたとき、話を聞いていたらわかってきたので、その人に「『私は自分の本が書きたい』って言ってみてください」って言ったんですよ。

そうしたら、「えぇ? そんなこと言えません! 本なんか書けないです!」って言うんですね。だから、「気持ちはわかったから、とりあえず『自分の本が書きたい』っていう言葉だけ、言ってみてください」って言ったんです。そうしたら、ウワーっと泣き出しちゃったんですよ。「私、本当は自分の本が書きたかったんです!」って。そのぐらい、口に出すことで気づける本心があるし、本当の気持ちに気づいたときは、体がブワッと揺れるんですよ。

—なるほど……。

心屋:自分の本当の夢って、口に出すだけでも、体が怖くなるんですよね。そのぐらい、僕らは自分の人生をキューっと抑え込んでいる。……だから、自分の本当の夢は口に出さないほうがいいですよ。気づくと、人生変わっちゃうから。

—いやいやいや、それに気づかせるのがお仕事ですよね?(笑)

心屋:はい、そうでした(笑)。

心屋仁之助

リリース情報
心屋仁之助
『魔法のうたIV 生きる』

2017年10月18日(水)Amazon限定発売
TGCS-10323

1. お誕生日おめでとう
2. 心配戦隊タイヘンジャー
3. 正義の味方
4. 10年前のキミに
5. 告白
6. 「自分を変える」って「素晴らしい自分になる」ことではない
7. 自信
8. YES!!!
9. ときめき
10. 熱気球
11. ウソつき
12. ふたりで
13. 生きる

イベント情報
『心屋仁之助 「MONDOU(問答)LIVE 3 ~歌だけ~」』

2017年10月25日(水)
会場:東京都 Zepp Divercity

2017年10月30日(月)
会場:愛知県 Zepp Nagoya

2017年11月7日(火)
会場:大阪府 Zepp Namba

2017年11月11日(土)
会場:福岡県 イムズホール

プロフィール
心屋仁之助
心屋仁之助 (こころや じんのすけ)

心理カウンセラー。兵庫県生まれ。大手企業の管理職として働いていたが、家族や自分の問題をきっかけに心理療法を学び始める。それが原点となり、心理カウンセラーとして「自分の性格を変えることで問題を解決する」という「性格リフォーム心理カウンセラー」として活動。現在は京都を拠点として、全国各地でセミナー、講演活動やカウンセリングスクールを運営。その独自の「言ってみる」カウンセリングスタイルは、テレビ番組を通じて全国に知られることとなり、たったの数分で心が楽になり、現実まで変わると評判。現在は個人カウンセリングは行っていないが、スクール卒業生により全国各地で心屋流心理学のセミナーやボランティアでのグループカウンセリングが広く展開されている。発行しているメールマガジン「たった一言!あなたの性格は変えられる!」は4万人を超える読者に支持され、公式ブログ「心が 風に、なる」は月間1000万アクセスの人気ブログ。2012年10月より約二年間、テレビのお悩み解決番組において芸能人に「魔法の言葉」を言ってもらうカウンセリングを展開。何人もの芸能人が番組で号泣し、大きな話題となる。著書累計は350万部を突破。また、2015年、2016年と、音楽活動を本格的に開始し、心屋の「魔法の言葉」にメロディーを載せた『魔法のうたⅠ』『魔法のうたⅡ』『魔法のうたIII』を続けてリリース、2年連続でZeppツアーを敢行。2017年2月には、心屋10周年として日本武道館での独演会を大成功させる。2017年10月18日、『魔法のうたIV 生きる』をリリース。



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