いい曲を書きたい×ウケたいのせめぎ合い 4×4=16インタビュー

「4×4=16」というその名の通り、二人の人間のかけ合いによって、とんでもない相乗効果を生んでいるユニットの登場である。OK?NO!!というインディーポップバンドの中心人物である上野翔と菅野明男が、バンド解散とともに本格始動させたこの宅録ユニット。本人たちの影響源から名前を借りるとすれば、このユニットは「沖井礼二といとうせいこうが、もしも一緒にユニットを組んだら」という、「もしもボックス」的な発想のもとに成り立っている。

Cymbalsに憧れ、端正なポップス職人の気質を持ったソングライター兼ギタリストの上野。片や口を開けばシティボーイズやバナナマンの名前を影響源に挙げる芸人気質のリリシスト、菅野。この二人が産み落とす音楽は、一聴すると、耳馴染みのいい良質なポップスのようだが、その奥にはとてもドロッとしたサブカルチャーの「念」のようなものが詰まっている。音楽でもお笑いでも、沼にハマるがごとくカルチャーに魅了された人間の「自己表現」とは、こうなるのだ。

「かっこいいもの」と「面白いもの」の中間が理想。(菅野)

—11月15日にリリースされた4×4=16としてのデビュー作『Short Show』は、ギターポップもあれば、ヒップホップソウルもあって、1曲1曲がめちゃくちゃキャラ立ちした作品ですよね。そして、体感としてはすぐ終わる作品だなって(笑)。

菅野:そう、すぐ終わるんですよね(笑)。だからタイトルは『Short Show』なんです。

上野:僕らは以前、OK?NO!!っていうバンドをやっていたんですけど、その頃からだいたい1曲3分くらいなんですよね。アルバム全体としても30分を越えないくらいが、ポップスとしてはちょうどいいなっていう感覚があって。僕はCymbalsがすごく好きで、彼らのように速くて、爽快感があって、何度でも聴きたくなるくらいサクッと終わるのが理想なんです。

4×4=16(左から:上野翔、菅野明男)
4×4=16(左から:上野翔、菅野明男) / 『Short Show』のトレイラーをEggsで聴く(Eggsを開く

—今回の収録曲のなかでは、僕は入江陽さんをフィーチャリングに迎えた“I'm still in Love”が大好きで。

菅野:ありがとうございます!

—この曲は、歌詞がまたいいですよね。<Number Girl アジカン ACIDMANとか 片耳 Earphoneで一緒に聴いた><ナンバガ教えてあげたGIRLは BIGMAMAハマってどっか消えた>っていう歌詞が、なんとも言えずリアルで(笑)。

菅野:この部分は……実話です(笑)。

—やっぱり(笑)。

菅野:この曲は、2000年代のリバイバルみたいなことがやりたかったんですよ。トラックはマサヒコ☆スーパーノヴァさん(ステキス)が僕らのために書いてくれたものなんですけど、聴いた瞬間にTERIYAKI BOYZの“I still love H.E.R. feat. Kanye West”(2007年)が思い浮かんで。

菅野:あの曲の、アメリカンスクールの男の子がフラれて「君はどこに行っちゃったの?」って言っている感じがやりたかったんですよね。女子の友達も全然いない、地味な高校生活を送ってきた僕らなりのTERIYAKI BOYZをやろうと。

—4×4=16のリリックには、“I'm still in Love”に対するTERIYAKI BOYZのような、引用やオマージュが結構あるんですか?

菅野:引用とかオマージュ、大好きです。2曲目のラップ曲“Fantastic Show!!”は、いとうせいこうさんの“マイク1本”(1995年)あたりを意識しています。僕の理想は、いとうせいこうさんとか、スチャダラパーなんですよ。『5th WHEEL 2 the Coach』(1995年)とか『偶然のアルバム』(1996年)あたりのスチャダラパーのような感じのことをやれたらいいなって思う。

—その「感じ」って言葉にできますか?

菅野:「かっこいいもの」と「面白いもの」の中間というか。曲は「いい曲だな」って思えるものでも、歌詞の内容をよく読んだら、ラップのなかにフリとボケが入っているような感じが理想なんです。

上野はあくまで「いい曲を書きたい」人なんですよ。でも、僕は「ウケたい」人なんです。(菅野)

—話を聞いていて面白いなと思うのが、“I'm still in Love”や“Fantastic Show!!”は、そうした菅野さんのラッパーとしての志向性が出ていますけど、たとえば清水裕美さん(ex.lyrical school)をフィーチャーした“Goodbye Girl”は、それこそCymbalsのような端正なポップソングじゃないですか。スチャダラ的な側面とCymbals的な側面、この2つの軸が4×4=16というユニットにはありますよね?

上野:そうですね。そこに関しては、僕が曲を作り、菅野がリリックを書くっていうスタンスで、完全に分業しているのが大きいと思います。僕らとしても、お互いにやっていることは全然違うという認識なんですよね。菅野は根がお笑いだもんね。

菅野:そうそう。僕、大学ではお笑いをやっていたんですよ。

—そうなんですか!

菅野:高校生の頃、シティボーイズ(大竹まこと、きたろう、斉木しげるによるコントユニット)の動画をずっと見てて、最近の公演も観に行ったりしていて。ああいうシニカルで、テレビじゃできないぐらいの長尺コントが好きだったんです。

あとは、小学生の頃からテレビで見ていた爆笑問題とか、バナナマンとおぎやはぎとラーメンズがやっていたユニット「君の席」も大好きで。僕のなかでは「面白い」と「かっこいい」が直結しているんです。それで大学ではお笑いサークルに入って……結局、僕がやっていたのはジャングルポケットみたいな、大味な笑いのコントなんですけど(笑)。

—ははは(笑)。

菅野:そもそもOK?NO!!でも、僕は歌詞を書くだけで、最初はライブとかには参加していなかったんですよ。でも、一度ライブを観たときに、「普通に曲やっているだけだなぁ」と思って……なんか、「もっと人にウケることしたいな」って思っちゃったんですよね。

菅野:それで僕もライブでラップをするようになったんです。まぁ、□□□にいとうせいこうさんがMCで加入した感じを想像してもらえれば。4×4=16も、その延長線上なんです。自分がラップするからには、笑ってもらいたいんですけど、この感覚は、上野は別にどうでもいいんだよね?(笑)

上野:うん(笑)。歌詞に関しても、菅野は僕が全然気にしていないようなことを訊いてくるんですよ。「このフリには、このボケでいいのかなぁ?」とか。でもそこは、別に僕としてはどうでもいいんですよね(笑)。

菅野:上野はあくまで「いい曲を書きたい」人なんですよ。でも、僕は「ウケたい」人なんです。だから、僕ら二人のコミュニケーションって、噛み合っているようで全然噛み合っていないことが多い(笑)。

俺、インフラかよ!(上野)

—お互い、それでいいんですか?(笑)

上野:僕らは高校の同級生なんですけど、菅野とやるときはそういう音楽になるんですよ。そこに関してはもう、「信頼と諦め」がありますね(笑)。

菅野:それはお互いにあるよね(笑)。高校の頃、軽音楽部に入って最初の自己紹介で二人とも「ZAZEN BOYSが好きです」って言ったんです。そこからの関係なので。

—腐れ縁ってやつですね。

菅野:僕が曲を作れないっていうのも大きいんですけどね(笑)。だから曲を作れる上野は、僕の生命線です。電気・水道・ガスと同じ存在。

上野:俺、インフラかよ!

—ははははは(笑)。

上野:菅野は曲を作らない代わりに、アルバムの構成とかをすごく気にするんですよ。ラップ曲が3曲あるとしたら、じゃあ、ポップスの曲も3曲入れなきゃいけない、とか。そういうところって、僕からすると「そこまでこだわらなくても……」っていう感じなんですけど。

11月30日に開催された『exPoP!!!!! vol.104』より / Photo by 伊藤惇
11月30日に開催された『exPoP!!!!! vol.104』より / Photo by 伊藤惇

菅野:神経質なんだよね(笑)。僕は0からなにかを生み出すよりも、すでにあるものを構成したり、編集したりするのが好きなんです。たとえば、いとうせいこうさんは文章を書いたりラップしたりするけど、根本的には「企画屋になりたかった」と言っていて。僕もそこに近いんです。

それぞれの曲をどうキャラ立ちさせるかということと、作品として一貫性を持たせることをどう両立すべきかを考えたり、根本的な「見せ方」を考えたりするのがすごく好きで。今作も、「同じ声の人が歌う同じタイプの曲が続いちゃうと、どうしても疲れちゃうなぁ」って思ったので、フィーチャリングアーティストをそれぞれの楽曲に入れてみたりとか。

やっぱり「はいどうも~!」ってステージに出たい。(菅野)

—そもそも、菅野さんが、ご自身のお笑い的な素養を音楽のフィールドでアウトプットしようとするのは、どうしてなんですか?

菅野:そこも、いとうせいこうさんやスチャダラパーが存在として大きいんだと思います。そもそも「スチャダラパー」っていうユニット名自体が、いとうせいこうさんや竹中直人さんやシティボーイズが組んでいた「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」っていうユニットの演劇の名前に由来しているわけだし、お笑い的な素養を、音楽を通してアウトプットするのは、自分にとっては自然なことというか。

11月30日に開催された『exPoP!!!!! vol.104』より / Photo by 伊藤惇
11月30日に開催された『exPoP!!!!! vol.104』より / Photo by 伊藤惇

上野:菅野は、本当に振る舞いが芸人なんですよ。

菅野:うん、やっぱり「はいどうも~!」ってステージに出たいもん。なんか、「はいどうも~」で出てくる人って、僕らの周りに全然いないんだよね。

上野:なんでいないか、わかるでしょ?

菅野:なんで?

上野:音楽だからだよっ!!

—ははははは! 漫才を見てるみたいです(笑)。

菅野:すいません(笑)。

「スニーカーとスキル」は、あえて磨かない。(上野)

—ラップのスタイル的にも菅野さんは、いとうせいこうさんやスチャダラパーといった人たちを踏襲していますよね。

菅野:僕、芸人さんがやるラップも好きなんですよ。たとえばダウンタウンがやっていたGEISHA GIRLSの、尼崎弁でずっとラップしている感じとか、最近だとmiwaさんのライブで披露したオードリーの若林(正恭)さんのラップがすごく好きなんです。

ラッパーのラップって、知識とかバックグラウンドがあったうえのものだと思うんですけど、芸人さんのラップって、耳の感覚重視のもののような気がして。そこにある勢いに憧れるんです。

4×4=16

—なるほど。ラッパーらしいラップは性に合わない?

菅野:そもそも、僕のラップは拍の頭で韻を踏みがちで、その感じが、いとうせいこうさん的だって周りに言われたりするんですよね。

上野:今の主流とは違うんだよね。今はみんな、トラックにゆる~くノッて、後ろで韻を踏む感じだから。

菅野:そうなんだよねぇ。PSG、環ROY、鎮座DOPENESS、SIMI LAB……この10年くらい、みんなその感じなのに俺はスキルがなくて、それができない(笑)。

上野:「スニーカーとスキル」は、あえて磨かない。

菅野:今のはTWIGYですね。

—……かけ合いが絶妙です(笑)。

やっぱり、異物感はほしいんですよね。(菅野)

—たしかに、名前を出していただいたスチャダラパーやいとうせいこうさんのように、音楽だけじゃない様々な文化的バックグラウンドを持ちながら、そこから抽出した毒とユーモアを音楽に変えてアウトプットしていくような感覚って、今はあまり見られないもの、という感じもしますよね。

菅野:そうなんですよねぇ……。

上野:やっぱり、いわゆる「サブカル」が終わっていったのと同じなんでしょうね。音楽だけじゃなくて、演劇とかお笑いとか、サブカルチャー全般を摂取してきた人たちが音楽でアウトプットをすると、スチャダラパーのような存在が生まれてくると思うんです。でも今は、もはや「サブカル」がなくなってしまったから。

4×4=16

—でも、「メイン」も「サブ」もなくなったこの時代に、あえて自分勝手な異物感を出しまくっている(笑)、そんな4×4=16の感覚は、最高だと思いますけどね。

菅野:そう言っていただけてありがたいです(笑)。やっぱり、異物感はほしいんですよね。そもそも僕みたいに「いい曲作りたい」じゃなくて「ウケたい」の精神が強い人間が音楽をやっていること自体、異物だと思いますし。今回の作品だって、5曲中4曲それぞれに違ったフィーチャリングアーティストがいて、曲調もバラバラだっていう時点で、異物感満載ですからね。

菅野の歌詞と僕の曲が組み合わされば、あとは「信頼と諦め」がなんとかしてくれます(笑)。(上野)

—その異物感はやっぱり自覚的なものなんですね。

菅野:コミックバンドみたいに振り切りたくないけど、ゴチャっとはしていたいんです。それに、俺が「音楽的にちゃんとしたものを作ろう」って言い出したら、上野も「なに言ってんだ、こいつ?」って思うでしょ?

上野:……思うね。

—ははははは(笑)。

上野:今回の作品みたいに本来はきれいにまとまる曲たちをあえてゴチャつかせてみたり、1曲のなかに異様な言葉数のラップを入れてみたり……そういう異物感のあることは、僕としてもやっていきたいことで。

もちろん、僕自身としてはCymbalsのような綺麗なポップスを作りたいとは思うんです(笑)。でも、それをやるのは自分のソロとか、別のプロジェクトになると思う。4×4=16は、この感じでいいんじゃないかな。歌詞に関しては菅野が好きなように作って、曲に関しては僕が好きなように作る。それが組み合わされば、あとは「信頼と諦め」がなんとかしてくれます(笑)。

11月30日に開催された『exPoP!!!!! vol.104』より / Photo by 伊藤惇

—本当にいい関係性の二人ですね。改めて、4×4=16がやっていることってめちゃくちゃ文化濃度の高いことですよね。でも、今日お話ししていただいたことって、音源を聴いただけでは簡単にはわからないことで。なので、お話聞けてよかったです。

上野:引用の内容もわかりづらいですしね(苦笑)。誰でも笑えるものではないし、菅野なりのロジックがあるんだけど、それは菅野自身の自分史と結びつているものだから、聴き手や、僕にすら全然わからないものだったりする。じゃあ、僕らの心情的なものが込められてるかというと、それは一切なかったりもするし(笑)。

菅野:入れたいとも思っていないもんね~(笑)。

上野:このインタビューも固有名詞だらけになると思うんですけど、そういう鎧を被らないと外に出ていけないっていう面もあるし(笑)。

落語とか講談って、ラップとすごく近いんです。(菅野)

—最後に、4×4=16として、この先作りたいものってありますか?

上野:どうだろう……これは、そもそもやりたかったことで、没になったアイデアなんですけど、当初は1時間まるまるラジオ番組を模したアルバムを作ろうとしていたんですよ。間に入るCMやBGMも自分たちで作って、ナレーションも他の人に頼んで入れてもらって……でも、それは途中で力尽きてしまったんです。

菅野:スネークマンショー的なものというかね。でも、「これは3年かけても完成しないな」ってなって(笑)。

—それ、完成版をすごく聴きたいんで、お願いします(笑)。

菅野:どうかなぁ~(笑)。でも、最近すごく思っていることがあるんですけど……最後に話していいですか?

—お願いします。

菅野:僕、神田松之丞さんっていう講談師さんがすごく好きなんですけど、落語とか講談って、ラップとすごく近いんです。たとえば、松之丞さんとTHA BLUE HERBのBOSSさん(BOSS THE MC)が、じつは似ていたりするんですよね。

講談って、リズムを取りながら語っていくものなんですけど、ライブでトラックが鳴っていない瞬間に、聴き手の耳には聴こえない体内のビートに合わせてラッパーが語る感じって、落語や講談にすごく近いと思うんです。特にBOSSさんのMCと松之丞さんの講談の渋い情熱が、僕のなかですごくリンクしていて。そういう知識やノウハウを活かして、今後なにかやれたらいいなぁ~って思うんですけどね。

上野:そういう話は最近よくするよね。喋り言葉とラップの中間地点を捉えてみたら面白いんじゃないか、とか。スチャダラパーの“サマージャム'95”(1995年)とかが、その感じに近いんだよね。

菅野:そうそう。でも、あれは難しいんだよ。挑戦してみたいけどなぁ。

—それ、マジで聴きたいので、よろしくお願いします。

菅野:はい(笑)。頑張ります!

4×4=16

4×4=16『Short Show』ジャケット
4×4=16『Short Show』ジャケット(Amazonで見る

リリース情報
4×4=16
『Short Show』

2017年11月15日(水)発売
価格:1,620円(税込)
EGGS-024

1. Goodbye Girl(feat. 清水裕美)
2. Fantastic Show!!
3. Boo-Wee do be down...(feat. セルラ伊藤、志賀Lummy)
4. I’m still in Love(feat. 入江陽)
5. Paperdriver(feat. 深澤希実)

プロフィール
4×4=16 (ししじゅうろく)

2010年頃結成、2016年から断続的に活動開始。神奈川県出身の上野翔(ラップとギターと作曲)と菅野明男(ラップと作詞)の2人組。前身バンド「OK?NO!!」解散後はSoundCloudへの音源公開を中心に活動。上野は静岡朝日テレビのインターネットTV番組『Aマッソのゲラニチョビ』の音楽担当や、別バンド「毛玉」、「箱庭の室内楽」のメンバーとしても活動中。ゆるめるモ!などのバックバンドも務める。Cymbalsや□□□に憧れながら、4畳半の自室で日々Macに向かい楽曲制作中。



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