関和亮が71.8秒で人の一生を撮った。グリコのウェブ動画の舞台裏

Perfume、サカナクション、星野源、OK Goなど、話題のMVを数多く手がける映像ディレクター・関和亮。その最新の仕事は、女性の生涯を描いた一大ミュージカルの演出!? とは言っても、チケットを予約して劇場に出かける必要はない。その作品『71.8秒のLIFE』は、YouTubeのグリコ公式チャンネルで現在公開中だからだ。動画は公開後約3週間で600万回以上の閲覧数を記録している。

元気な泣き声をあげる赤ちゃんのプロローグから、1秒で1歳ずつ年を重ねていく主人公。これを実際に0歳から71歳までの女性72名が次々と入れ替わりながら演じていく。オランダのポップ職人ベニー・シングスの楽曲、ELEVENPLAYのNONによる振り付けも印象的で、物語は、長い人生に笑顔と健康を、というグリコのメッセージにもつながっていく。ちなみに、71年の生涯という設定は現在の世界の平均寿命である71.8歳からきている。

MV、CM、ドラマ、映画、さらに写真やグラフィックデザインなど幅広いフィールドで活動する関をして、「初めての経験」と言わしめたこの映像。本作に込めた作り手としての思いを、関本人に聞いた。

初めての経験だし、この先もたぶんないかと思う。

―大河ドラマなどでは、主人公をその成長に合わせて数人の役者さんが演じることもありますが、今回は、ひとりの女性の一生を72人の演者がつないでいく、という前例のないアイデアですね。演出を担当した関さんにとって、特に印象的だったことを教えていただけますか?

:いちばんのチャレンジは、やはり72人が登場し、しかも全員が1歳ずつ違う0~71歳の実年齢の方々だというところです。これは初めての経験だし、この先もたぶんないかと思います。

キャストそれぞれの動きは事前に決めて撮影に入ったので、現場ではそれを一人ひとり順番に伝えることになります。それが大変でもあり、面白くもありました。世代によって、演出への理解の仕方も本当にいろいろで。

72人それぞれが、手の上げ方から歩き方、表情も違うので、ワンカットごとにその人の性格も出る。そういうところに人生を感じることもありましたね。

関和亮
関和亮

smile.Glico『71.8秒の LIFE / 71.8 SECOND LIFE』

―たとえばスタートの0歳とラストの72歳、それぞれの演者さんでいうと?

:いちばん始めに登場する0歳児は、こちらからのコントロールが一切できないので、彼女の本能に任せるしかありませんでした。この最初のシーンは、「人間が初めて口にするものを表現する」と企画段階から決まっていて、赤ちゃんがお母さんのおっぱいで満腹になってスヤスヤ眠るという、人間の初めての欲求を表現しています。なので、実際に0歳児の彼女のお腹がすいたタイミングで撮影し、そのあと眠ったところを撮影したんですね。

『71.8秒のLIFE』より
『71.8秒のLIFE』より

:この冒頭に関しては、ほとんどドキュメンタリーのような感覚でした。一方で、主人公の生涯の最期を演じる71歳の方に「あなたは死んでいる役です」って説明するのは、複雑な気持ちでしたね。

―「毎秒ごとにひとつ歳を刻んでいく」映像作りにおいて工夫した点はどんなところでしょうか?

:振り付けを担当したELEVENPLAYのNONさんとは、シンプルだけど1秒で動きが伝わるものを連続させていきたい、という話はしていました。いちばん考えたのは、その1秒の中に入れる動きです。1秒というのはすごく短いですが、映像でやれることは結構あって、そこにその人の想いを込めて72個をつなぐところが、演出の見せ場ですね。

関和亮

『71.8秒の LIFE』メイキング

―全体が1秒ごとにカットされていながらも、切れ目のないワンカット映像のようになり、ひと続きの人生になっています。全編ワンカットの映像は、これまでもサカナクションの『アルクアラウンド』、Perfumeも出演したOK Go『I Won't Let You Down』などで手がけていますね。一方で今回は、「ひとりの一生=ワンカット」というこれまでにないコンセプトだったと思います。どのように解釈して演出したのでしょうか?

:ワンカットという表現は、ずーっとつながっている、切れ目がないということだと思うので、まさに心臓の鼓動だったり、歩き続ける歩幅だったり、人間のとどまることがない動きを意識したものになっていると思います。逆に、同じ格好、同じような動きをしていても、毎秒ごとに全然違う人だという認識を、自分に当てはめて見てもらえると、それもまた面白いのではないかと思いますね。

『71.8秒のLIFE』より
『71.8秒のLIFE』より

大変だったなあという仕事のほうが、見てもらう人々に楽しんでもらえるものが多いような気がしています。

―赤ちゃんから少女に、そして大人の女性に……という流れで、変わっていくもの、変わらないものが凝縮された感覚もありました。短い映像で人の一生を描く挑戦の中で、感じたことがあれば教えてください。

:0歳から順番に見ていると、自分の年齢より少し下くらいまでは、自分自身の子どもの成長を見ているように感じられました。特に何テイクも撮っていると「ガンバレー!」と心の中で叫んでいましたね。それが自分の年齢くらいなったら、それはそれで、「俺ガンバレー!」みたいに親身になってしまって(笑)。

関和亮

:さらに自分の母親の年齢に近づくと「母ガンバレー!」と自然に力が入ってしまいましたね。留意した点でいえば、この登場人物の周りに、常に誰かがいるということは大事にしていました。ひとりじゃないんだなぁと。

『71.8秒のLIFE』より
『71.8秒のLIFE』より

―友達や恋人、家族と歩んでいくシーンの折々で控えめに登場する、ポッキーやパピコなどのおなじみの商品を見つけるのも楽しいですね。関さんが今回の映像で、気付かれにくいけど実はこだわっている部分などあれば、教えていただけますか?

:動きのつながりですね。シームレスにワンカットでつなぐ映像はたくさんありますが、今回は毎秒ごとに演じる人が変わっていく、そのシーンをあえてスムーズにつないでいないんです。

急に「ポコン」と、ある意味少し乱暴に変わっていく。あまりCMや動画ではやらない手法で、人の変化をわかりやすくするためのあえての方法で、そこは面白く見てもらえると思います。デジタル機器をたくさん使っていますが、アナログ感、人力でやっている感じが出ている映像だと思いますね。

全体的に、人の手のぬくもりを感じさせる、あったかいものにしたいという思いがあったので、あまりきれいにやり過ぎない、スタイリッシュにし過ぎないということは考えていました。

関和亮

―一人ひとりの登場シーンはわずかですが、撮影現場では72人のキャストそれぞれを約1時間かけて撮り、全体では72時間以上をかけたと伺いました。これまでの関さんの話題作も相当大変そうなものが多いですが、仕事人生を通じて何度もそうしたチャレンジができる原動力とは?

:大変さのその先にある、喜びや楽しさでしょうかね。また、振り返ってみると、大変だったなあという仕事のほうが、見てもらう人々に楽しんでもらえるものが多いような気がしています。

『71.8秒のLIFE』より
『71.8秒のLIFE』より

―いま関さんは41歳。この映像作品でいえば、人生の41カット目かと思います。昨年は長く所属してきたプロダクションから独立され、自ら「コエ」を設立されました。ご自身の未来像があれば教えてください。

:若い時からそうなのですが、基本的には「近い未来」を想像しながらずっと仕事をしてきました。映像の世界も日々変化しているので、柔軟に対応していかないといけない。仕事においては、元気に熱を持って毎回の仕事ができるよう準備していく、ということが大事だと思います。

『71.8秒のLIFE』より / 総勢72名の女性が出演した
『71.8秒のLIFE』より / 総勢72名の女性が出演した

―最後にこの作品をどんなふうに見てもらえたら嬉しいか、メッセージを頂けたら幸いです。

:やはり、まずご自身の年齢に注目してもらいたいですね。そして、それまでの時間を思い出してもらいたいですし、それ以降の時間にも注目してもらいたい。それらを短く感じるか、長く感じるかで、今の自分の生き方が見えてくるのではないでしょうか。さらに最後まで見たとき、自分が感じた時間の感覚というのを大事にしてもらえたらと思います。

関和亮

作品情報
グリコ コーポレートWEBムービー
smile.Glico『71.8秒のLIFE』
プロフィール
関和亮 (せき かずあき)

1976年生まれ、長野県小布施町出身。音楽CDなどのアートディレクション、ミュージックビデオ、TVCM、TVドラマのディレクションを数多く手がける一方でフォトグラファーとしても活動。サカナクション『アルクアラウンド』、OK Go『I Won't Let You Down』、星野源やPerfumeのミュージックビデオなどを手がける。『第14回文化庁メディア芸術祭』エンターテインメント部門優秀賞、『2015 55th ACC CM FESTIVAL』総務大臣賞/ACCグランプリ、『MTV VMAJ』や『SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS』等、受賞多数。



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