フェスと都市文化論 水カンと麻生潤が語り合う日米アジアの事情

『SYNCHRONICITY』主催・麻生潤と水曜日のカンパネラ・マネージャー兼ディレクターDir.Fこと福永泰朋による対談の後編(前編記事:水曜日のカンパネラと麻生潤が語る、いいフェス・出たいフェス)。

今年の『SYNCHRONICITY』にはフィリピン、台湾、香港、タイから4バンドが参加し、一方の水カンもフェスを含めた海外でのライブを積極的に行うなど、両者ともに海外、特にアジアとの接点を強めている。そんな中で、東京を体現する「都市型フェス」が果たす役割はさらに大きくなっていくに違いない。麻生と福永による国内外のフェス談義は、都市文化論として日本の現在とこれからを浮かび上がらせるものである。

いまアジアはすごく面白いし、やっぱり「近い」って大きなメリットだと思う。(麻生)

—水曜日のカンパネラ(以下、水カン)は、最近は海外のフェスにも出演するようになっていますね。昨年10月にロサンゼルスで開催された、Tyler, the Creator主催の『Camp Flog Gnaw Carnival 2017』に出演されましたが、海外フェスでのお客さんの反応はどうでしたか?

『Camp Flog Gnaw Carnival 2017』出演時の様子(撮影:横山マサト)
『Camp Flog Gnaw Carnival 2017』出演時の様子(撮影:横山マサト)

『Camp Flog Gnaw Carnival 2017』出演時の様子(撮影:横山マサト)
『Camp Flog Gnaw Carnival 2017』出演時の様子(撮影:横山マサト)

福永:香港とかだと日本と変わらない温度感で、音楽を楽しみに来てくれるんですけど、アメリカではまだまだ受け入れられていないと思いました。2番目に大きいステージに出させてもらったんですけど、集客は厳しかったです。「日本人が来てて面白い」みたいな目線が多くて、「音楽」として聴きに来てくれた人は少なかった印象があります。でも、チャレンジできたのはよかったですね。

—アメリカのフェスはどんな部分が日本と違いましたか?

福永:驚いたのが、タバコはフロアでも自由に喫えるんですけど、お酒はエリアで隔離されて飲んでるんですよ。だから、酔っ払ってる人はあんまりいなかったです。

あとカリフォルニアは火事が起こりやすくて、日本でやってる布の演出を持ち込もうとしたら、タバコに引火して、火事になる可能性があるからやめてくれって言われて(笑)。そういう意味では、日本のフェスより厳しい部分もあったりしますね。

福永泰朋(水曜日のカンパネラ)
福永泰朋(水曜日のカンパネラ)

—『SYNCHRONICITY』も海外との接点を強めていて、今年は日本以外のアジアから4バンド出演しますね。

麻生:いまアジアはすごく面白いし、やっぱり「近い」って大きなメリットだと思う。日本はこれまで経済大国として第一線を走ってきたけど、停滞もあるし、いい意味でも成熟してる。だけどアジアはこれから。いろんなエネルギーと新しさを感じるし、市場としても可能性に溢れてると思う。

ただ、そんな中でも日本の音楽のクオリティって高いし、アジア諸国も日本の音楽・文化との関わりを持ちたい、進出したいって思ってるんです。だから、クロスオーバーするにはすごくいいタイミングで、むしろ今しかないと思う。今回アジアから4バンドを呼んだのは、その意識の表れで、日本とアジアのネットワークをしっかり築いて、双方にメリットのある音楽ビジネスにつなげていきたいって思ってます。いずれは『SYNCHRONICITY』のアジア版とかもやりたいですね。

麻生潤
麻生潤

海外の人が日本の音楽を聴いて、「かっこいい」って言ってくれるなんて、そんな最高なことない。(麻生)

—水カンは現在アジアではどのような状況なのでしょうか?

福永:台湾には3回くらい行きました。去年はワンマンを台北と台中でやったんですけど、台北には800人くらい集まりました。サブスク(サブスクリプション:SpotifyやApple Musicなどをはじめとする、定額制の音楽配信サービス)に関して、日本はアジアの中でも遅れていますけど、向こうではそういうところから知ってくれてる人が多いみたいです。

香港でも去年『Clockenflap Festival 2017』に出させてもらって、それも2番目に大きいステージだったんですけど、1万人以上はいたんじゃないかな。

麻生:『SYNCHRONICITY』も海外、そしてアジアのお客さんは増えてますね。海外からはプレイガイドでチケットが買えないから、観光客専用のリザベーションページを作ってて、結構予約が来てます。

あと今年出てもらう台湾のElephant Gymってバンドは、彼らのエージェントと、toconomaのレーベルとで「お互いの国を行き来できる仕組みを作ろう」って話をしてて、Elephant Gymは『SYNCHRONICITY'18』に出た後に、大阪でtoconomaと2マンをやって、その後には台北で2マンをやるんです。お互いの国を2マンで渡り合うってずっと描いてた構想なので、実現できて嬉しいですね。それぞれのバンドの期待感も高くて、すごくいいなって思ってます。

Elephant Gym“月落moonset”

toconoma“L.S.L”

—大きな会社は大きな会社として動く一方、もっと個人レベルでのアーティストやイベンターのネットワークも構築されつつあって、2020年をひとつの契機に、もっともっと広がっていきそうですね。

麻生:国内だけでビジネスをするのは難しくなってるから、海外に目を向けるのは自然なことだし、可能性に溢れた時代だと思いますね。海外の人がサブスクなどを通して自然に日本の音楽を聴いて、「かっこいい」って言ってくれるなんて今の時代ならではだし、そんな最高なことないですから。

左から:麻生潤、福永泰朋

人の奏でる音楽で街を変えられるかもしれないと思った。(福永)

—『SYNCHRONICITY』が東京のカルチャーを代表する場所として、海外からのお客さんも興味を持つフェスになったら素敵だと思いますが、今年は過去最大規模の渋谷8会場での開催となりますね。

麻生:もともとサーキットイベントとは考えていなくて、「都市と一体になったフェス」っていうのを作っていきたいんです。地域と密着した、お祭りみたいな感じにしたいと思っていて、その意図もあっての規模拡大ですね。

今年はLOFT9でトークセッションもやろうと思ってるんですけど、将来的には渋谷区長さんに渋谷の都市開発について話してもらったり、もっとパブリックなものにしていきたいなって。そうして、少しずつでも東京のカルチャーを代表する場所になれたら最高です。

麻生潤

—福永さんも、もともと学生時代に都市開発について研究されていたそうですね。

福永:建築とか土木の家系なので、そういう大学に行っていて、ランドスケープデザインに興味がありました。「街と人」とか「建物と人」とか。その勉強のためにイタリアに行ったときに、街のいたるところでストリートライブをやっていて、結構盛り上がっていたんですよ。そのときに、なぜか街の活性化って、建物以上に、人とか音楽なんじゃないか? って思ったんです。

—なるほど。

福永:で、京都に帰ってきたら、それまであんまり気にしたことがなかったんですけど、四条河原町でもストリートライブをやっていて、「イタリアと一緒やん!」っていう状況があって。そこから、人の奏でる音楽で街を変えられるかもしれないと思って、音楽の仕事に興味を持ったんです。

麻生:もっと日常的に音楽があるといいなって思いますよね。ライブって、特別なものもあるけど、日常の一部でもあって、仕事帰りにふらっと立ち寄れるような、そういう場所を作りたい。

今の日本のアートや音楽は、発展途上かなって思う。(福永)

福永:日本って、自国のストリートカルチャーが少ないと思うんですよね。アメリカはたくさんの人種や言語が存在するから、規制やルール、文化自体がこれからな状況だけど、文化を生み出そうというエネルギーがすごくあると思う。それが路上にまではみ出ているのかも。

逆に、日本はずっと同じ人種で固まって、平和な部分やそれによって生み出されて来た文化もあるんだけど、当たり前のルールや縛りの中で、そこのしがらみからはみ出そうとしない人が多いというか、そういう文化や感覚の違いは、他の国に行った時にすごく感じました。

島国のいいところでもあるんだけど、音楽とかアート、カルチャーが交わらない原因にもなっている気がしていて、そこはこれからの大きな課題ですよね。今の日本のアートや音楽は、発展途上かなって思う。特に音楽はようやく幕末が始まった感じがします。

左から:福永泰朋、麻生潤

麻生:本当、それはそう。日本の音楽ビジネスって全然海外のスピードに追いついていないですよね。

さっき言ってたストリートカルチャーが少ないっていうのも同感で、それって結局ほとんど輸入ものなんですよね。ストリートってよく言うけど、じゃあ、「日本のストリートって何だ?」って考えると、そういう概念自体がそもそもないんじゃないかなって思う。

その中でも日本の文化や感覚っていうのはあって、地域に根差したお祭りとかって意外と大切なキーだな、と。世代間をつなぐこともできるしね。だから、そういうものを守ってきた人たちと組んで、一緒にやっていくことって大切かなって。

—『SYNCHRONICITY』には今年も大トリを飾る渋さ知らズオーケストラという祭の守護神がいますし、そう考えると、コムアイさんは巫女ってことですかね(笑)。

麻生:渋さ知らズオーケストラはまさに日本を体現してますよね(笑)。うん、水曜日のカンパネラのチームは、そういう地域に根差すみたいな部分が自然にある気がする。前から地域と密着したことをいろいろやってて、あれ不思議だなって思ってたんですけど、今日の福永さんの話で腑に落ちました。

麻生潤

—ちなみに、麻生さんはコムアイさん自身についてはどんな印象をお持ちですか?

麻生:イメージですけど、偏見がないというか、いろんなものをアメーバみたいに受け入れちゃう人っていうか。でも、自分のメッセージがないわけじゃなくて、芯がありつつ、いろんなものを飲み込んで、それが自然な形で表現に繋がってる。

あんな人は滅多にいないから、ホントにすごいなって思います。でも、最初にLIQUIDROOMワンマンの打ち上げの話をしましたけど(参考記事:水曜日のカンパネラと麻生潤が語る、いいフェス・出たいフェス)、あそこで福永さん、ケンモチさんと話をして、「このチームがあってのコムアイちゃんなんだな」とも思って、素直に感動したんです。ホントに最高のチームだなって思いますね。

イベント情報
『SYNCHRONICITY’18』

2018年4月7日(土)
開場 / 開演 13:00
開場:TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、VUENOS、Glad、LOFT9

出演:
SPECIAL OTHERS
bonobos
Ovall
韻シスト
toconoma
Tempalay
betcover!!
渋さ知らズオーケストラ
SOIL&"PIMP"SESSIONS
WONK
JABBERLOOP
MONO NO AWARE
DALLJUB STEP CLUB
踊Foot Works
DJ New Action!
toe
the band apart
fox capture plan
Ryu Matsuyama
King Gnu
MISTAKES
サニーデイ・サービス
LUCKY TAPES
CHAI
向井太一
TENDRE
SUPER SHANGHAI BAND
水曜日のカンパネラ
ReN
Have a Nice Day!
ニーハオ!!!!
ドラびでお
DMBQ
milkcow
FUCKER
柴田聡子
DEATHRO
チーターズマニア
Limited Express (has gone?)×ロベルト吉野
MANON
Maika Loubté
pavilion xool
パブリック娘。
Lucky Kilimanjaro
UDD
Elephant Gym
GDJYB
Moving and Cut
フレンズ
Yasei Collective
Emerald
大比良瑞希
SARO(-kikyu-)×Latyr Sy
弱虫倶楽部
Newspeak
all about paradise
Opus Inn
ディープファン君
DJ:Ko Umehara(-kikyu-)
ライブペインティング:Gravityfree
料金:前売5,800円 通し券8,000円

『SYNCHRONICITY'18 After Party!!』

2018年4月7日(土)
会場:東京都 渋谷 clubasia

出演:
KONCOS
FREE THROW
club snoozer
shakke-n-wardaa
DÉ DÉ MOUSE & Akinori Yamamoto(LITE)
Shima
Judgeman
マイケル
SHiN
New Action!
料金:前売2,800円 通し券8,000円

プロフィール
麻生潤 (あそう じゅん)

2002年、クリエイターチーム-kikyu-設立。2005年、クラブ・ライブカルチャーをミックスしたイベント『SYNCHRONICITY』を開催。2007年以降は「都市」と「クロスオーバー」をテーマに都市型フェスティバル『SYNCHRONICITY』を手がける。2008年、株式会社アーストーン設立。2015年、ウェブマガジン『SYNCHRONICITY』をスタート。音楽フェスからアパレル、行政まで、音楽・アート・カルチャーに関わる様々な企画・プランニングを行っている。

福永泰朋 (ふくなが やすとも)

2011年の震災以降、水曜日のカンパネラをケンモチヒデフミと構想し2013年5月15日にコムアイを主演歌唱とした現在のチームで1stミニアルバム『クロールと逆上がり』リリース。以降マネージャー兼、Dir.Fとして水曜日のカンパネラに参加。



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