園子温×Chim↑Pomエリイ対談 占いと神頼みで人生を切り拓く

人はなぜ占いや神を信じるのか。もしかしたら、この問いは人類に課せられた命題なのかもしれない。なぜなら、文明は滅びても占いや宗教は存在し続けてきたからだ。

そんな古今東西の奇想天外な占いを再発見して実験を重ねてきたのが、アートコレクティブChim↑Pomのミューズ、エリイがパーソナリティを務めるAGARUTV『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯エリマニ』だ。その番外編として、11月10日~11日に開催される『NEWTOWN 2018』で、エリイが路上占い師に扮して悩める男女の恋愛相談にのるという。

そこで今回は、この「占い」をテーマにエリイと旧知の映画監督・園子温との対談を行った。ともに自らの意思と実力で人生を切り拓いてきた印象がある2人は、占いや神頼みのようなものをどう考えているのだろうか。

占いが好きなんて言ったこともないから、最初は「何で私に?」と思ったんですよ。(エリイ)

—11月10日~11日に開催される『NEWTOWN 2018』では、LINEのトーク履歴を見ながら恋愛相談にのるそうですね。しかも占いを交えながら。

エリイ:私、LINEのトーク履歴を見て、脈があるかないかを判断するのが得意なんですよ。女の子の友だちにもLINEのやり取りを見せてもらって次の手を考えたり。

:それってどういうところで判断するの? スタンプが多いとか?

エリイ:スタンプはあんまり関係ないかも。言葉と時間帯かな。でも、私だけじゃなく、誰でもなんとなくはわかるよね(笑)。

—自分のことになると、客観的に状況を判断できなくなる人はけっこう多いと思います。そういうときに、エリイさんのようにきちんと助言してくれる人がいるのは心強いんですよね。

左から、エリイ(Chim↑Pom)、園子温

—エリイさんが占い番組のパーソナリティを務めるのは意外でした。自身のことを他人に委ねることはあまりないような印象だったので。

エリイ:最初は「なんで私に?」って思ったんですよ。雑誌の誕生日占いすら目を通さないし、今までに数回くらいしか占ってもらったことなんてなかったから。それこそ、子供の頃に地元の横浜中華街で占ってもらったのと、10年くらい前に友だちと一緒に渋谷でやってもらったのと、あとは台湾で鳥占いを試したくらい。

それで、どこからそんな話が出たのか聞いてみようと思って家の横のカフェで会ってみたら良い方たちだったので始まりました。今は番組を通じて、占いの先生に八卦(古代中国から伝わる易の8つの基本図像)や風水のことをいろいろ教えてもらっています。

『#11 Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ エリイ、口寄せで亡き祖母を呼び出す。』

今はもうできないけど、昔は交通事故に遭う人が直感でわかった。(園)

—園さんは風水などを信じたりしていますか?

:風水はあんまり詳しくないけど、玄関のカーペットは赤い方がいいと言われたらやるし、願掛けは結構する。たとえば、ハリウッドでデビューしたいと思ったら、もちろん自分でできることは全部やるんだけど、それ以外に、やれることはやっておこうと思って願掛けをしたり。

—具体的にどのようなものやったことがありますか?

:「祐気取り」という、運勢が開ける方角に無理矢理向かうっていうすごく不条理なやつがあるんだけど、それはやっている。この前はニュージランドに行って2週間くらい過ごして、あと今年はフィンランドにも行ったよ。人によってどの方角のどこがいいっていうのがあるみたい。

エリイ:園さんの人生ってどんどん拓けてるじゃん? その祐気取りの効果すごいじゃん。

:一応信じてる。そういうことをやってでも成功することに必死だから。

:でも、タイミングによっては行っちゃいけない方向もある。あと思い出したんだけど、僕は20年くらい前までは、人を見ただけで交通事故に遭うかわかったんだよね。昔ある番組の若い占い師に「園さんこそ超能力者じゃん」って言われていたぐらい。

—それは何かオーラみたいなものが見えたりするんですか?

:それはないんだけど、直感的に感じるの。自分が運転してなくてもダメだから、タクシーも危ない。あるときは、知り合いの子供が車から落ちるビジョンが見えたんだけど、どうしても信じてもらえなさそうだから、その子と一緒に後部座席に座ったんだよ。そしたら、実際に高速道路で100kmくらい出しているとき、ドアを開けて落ちそうになったの。それを俺が後ろから抱きかかえて守ったことがあるよ。

—すごいですね……。

:でも、今はその能力は閉じちゃったみたい。どん底人生のときってそういう特別な能力が開くのかもしれないね。

『#9 Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ エリイとMEGUMI、「一」の字で一生を占う。』

エリイ:園さんってタロットとかおみくじもいい結果になるまでやり続けるよね。

:うん。神社のおみくじは大吉が出るまで引き続ける。それで納得して終わる。

—エリイさんも大吉が出るまでおみくじは引き続けますか?

エリイ:私が引くとほとんど大吉だから、引き直す必要がなくて。園さんは最近おみくじ引いた?

:最近は引いてないかな。だって、変なの出たら面倒だし。25年くらい前に当時ライバルだった映画監督と、酔っ払った勢いで道端にいた占い師に手相を見てもらったことがあったんだよね。そしたら「あなたは今が絶頂で、あとは下っていくだけです」って、そいつが言われて。それを聞いて、俺は占ってもらうのをやめちゃったんだけど、そいつは本当に人気が落ちていったの。だから、占いは軽い気持ちでやったらダメなんだよね。

Chim↑Pom『にんげんレストラン』会場内にて。手前に映るのは、即身仏を目指して痩せ細った稲岡求(Chim↑Pom)をモチーフにした西尾康之『稲岡展示居士』

どっちでもいいことなら、少しでもいい方を選んでおきたいだけ。(エリイ)

—エリイさんは番組でパーソナリティを務めるようになってから占いを信じるようになりましたか?

エリイ:番組で風水師に「青がよくない」と言われてから、生活に不自由が訪れましたね。私、すごく青が好きだったんですよ。下着とかも青ばっかだったのに。でも、可能なかぎりいい方を追い求めたいじゃないですか。だから、今は青への気持ちがどんどん萎えてる。

私たちが拠点にしている高円寺のキタコレビルに『Chim↑Pom通り』という道を作ったんですけど、「旗を入り口に向けて、この角度で立てたほうがいい」と言われて。その通りにしたら人の流れが増えました。

『Chim↑Pom通り』(2017年) / キタコレビルの屋内に建設し、屋外の公道と繋げた「道」。施錠せずに24時間一般に無料で開放することで、プライベートの空間内に公共空間を作り出す / 撮影:森田兼次 提供:Chim↑Pom Studio

—けっこう影響を受けていますね。

エリイ:でも、下着の色とかって私にとってどっちでもいいことだから。赤でも青でもそんなに気にならないというか。どうせなら、少しでもいい方を選んでおきたいだけ。

Chim↑Pom『にんげんレストラン』会場内、鎖に繋がれて物乞いする松田修のパフォーマンス『人間の証明1』前にて

—2人は神社にお参りしたりはしますか?

エリイ:そういえば、今年の5月に伊勢神宮へ行ってからは、自宅に神棚を作って水を毎日替えてお祈りしてます。

:何を祈ってるの?

エリイ:地震が起きませんようにとか、台風の被害が大きくなりませんようにって。伊勢神宮は神様への感謝を伝える場所だから、個人的なお願いはしてなくて。

—園監督はどうですか?

:僕は愛知県の豊川の生まれなので、稲荷神社だけはお参りするかな。昔は超貧乏だったから「うまくいきますように」って祈ってた。やっぱり大変なときは神頼みが多くなる傾向があるね。今はあまりないけれど。

エリイ:今はあまりないってことは調子がいいから? 成り上がると神を忘れてしまうわけだ(笑)。

:ジョン・レノンの“God”という曲の歌詞に<God is a Concept by which we measure our pain>、「神はただの概念で、俺たちの苦痛を測る物差しにすぎない」ってあって。苦しみがあるときは神にすがるけれど、そういうものがなくなったらあんまり頼みごとってしなくなるんだよね。だから、最近は「ありがとう」って感謝の気持ちを述べるくらい。

『#5 Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ「エリイ、丑の刻参りで呪いをかける。」』

願望を叶えるためには願掛けもするけど、自分の意思に反するものは信じない。(園)

—とはいえ、芸能関係の方で占いや願掛けを信じている人は多いように思います。

:まあね、刹那刹那の人生なので。明日が見えないから神にすがるっていうのはあると思います。

エリイ:でも、自分がその方向に向いていることをさらによくするために祈ることはあっても、0を1にするために神頼みすることはないかな。それはしてくれないと思うんですよ。

:僕がやってることは、神頼みじゃないと思うんだよね。具体的なことをやったうえで、それのダメ押しって感じ。「祐気取り」もそうだけど、やっておけることはすべてやる。

馬鹿馬鹿しいと言えば、馬鹿馬鹿しいけどね。でも、その不条理が面白い。普通だったら、なんでフィンランドに行かないといけないんだろうと思うじゃん。知り合いなんて誰もいないのに(笑)。

エリイ:それで明らかに人生がよくなっているからいいし、自分からは行かないとこに行けるのいいね。

—そうやって、自分の意思とは異なるところで人生が好転するって不思議ですよね。ちなみに、自分の人生に関わる占い結果でも信じますか? たとえば、交友関係を切らないといけないとか、住んでいる場所を変えなさいとか。

エリイ:実は風水の先生に言われたんですよ、「今住んでいるところは最低だ」って。でも、別の先生は「まじでここから見る景色は絶景!」って言う。ものの見方を変えたらいいだけじゃないかな。

:なんだかんだ、最終的な意思決定は自分でするものだからね。アメリカで映画を撮るのはやめなさいと言われても絶対に嫌だし、いくら偉い先生の言葉でもそれは受け入れられない。そういう選択権は自分にあって、願望を叶えるためには願掛けもするけど、自分の意思に反するものはどんなに悪いことであっても信じないかな。

—もしかしたら直感に近いのかもしれませんが、作品を制作する際の意思決定はどうしていますか? おそらくいろんな意思決定をしながら進んでいくと思うのですが。

エリイ:すごくいい言い方をすると、もう目の前に作品はあるんですよ。それが彫刻だったら石を掘り出していくだけ。だから、私が決めるというよりも、すでにそこにあるものっていう感じかな。

—自分の中にビジョンがあって、そこに向かっていくような感覚なのかもしれないですね。

:多くの人はさ、考えが曖昧なままで占いをやったり、神社でお祈りしてるんですよ。「とりあえず金くれ」とか「早く結婚させてくれ」とか。だから、うまくいかないんじゃないかな?

エリイ:もうちょっと自分の考えを明確に細かく言わないといけないってことだよね。でも、きちんとビジョンを語れる人もいるじゃん?

:その人はもう占いに頼る必要はないかもしれない。占いって、すごく努力している人が最後の最後に頼るものであって、何もしてない人が頼るものではないと思うんだよ。

—ちなみに願望を叶えるためのコツがあったら教えてください。

エリイ:願掛けは細かいところまで伝えた方がいいんじゃないですか。住所をちゃんと言うとか。

:あと期間ね。いつまでにやるのかを言わないと。1年と10年では大きな違いだからさ。

エリイ:期限は気づかなかったなあ、大事だね。最終的には自分でどうにかしないといけないものだからね。

番組情報
AGARUTV『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ』

オンデマンドで全編見放題

イベント情報
Chim↑Pom『グランドオープン』

2018年11月22日(木)~2019年1月26日(土)
会場:東京都 品川 ANOMALY

『NEWTOWN 2018「アタるも八卦♡ アタらぬも八卦♡ Chim↑PomエリイのLOVE LOVE LINE診断 presented by AGARUTV」』

2018年11月10日(土)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)

アートコレクティブ・Chim↑Pomのミューズ・エリイが路上占い師に!? 独自に磨かれたLINE診断術と、4000年の歴史を持つ占いを駆使して1on1で恋のお悩みを解決します。恋のお相手のLINEのトーク画面を見ながら、エリイが独断と偏見と占いでアドバイスしちゃいます。

プロフィール
園子温 (その しおん)

1961年、愛知県生まれ。1987年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』(1990)は、ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30以上の映画祭で上映された。他『愛のむきだし』(2008)で第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞、『冷たい熱帯魚』(2011)で第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門・第35回トロント国際映画祭ヴァンガード部門、『恋の罪』(11)で第64回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待される。『ヒミズ』(2012)では、第68回ヴェネチア国際映画祭にて主演二人にマルチェロ・マストロヤンニ賞をもたらした。近年の作品として、『新宿スワン』(2015)、『ラブ&ピース』(2015)、『リアル鬼ごっこ』(2015)、『映画 みんな!エスパーだよ!』(2015)、『ひそひそ星』(2016)、『新宿スワンII』(2017)『アンチポルノ』(17)『クソ野郎と美しき世界「ピアニストを撃つな!」』(2018)などがある。

エリイ

2005年、東京にて、卯城竜太、林靖高、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀らとともに、アートコレクティブ「Chim↑Pom」結成。都市問題、広島、原発事故、移民などのテーマを扱いながら、時代の「リアリティ」に反応し、現代社会に介入したメッセージ性の強い作品を発表。ときに賛否両論を呼ぶ過激な表現となることもある作品で、社会現象化するほどの注目を集める。また高円寺のキタコレビルでアーティスト・ラン・スペースの運営や、企画展のキュレーション活動も行う。主な展示に“また明日も観てくれるかな?”(歌舞伎町振興組合ビル,東京, 2016)、“SUPER RAT”(Saatchi Gallery, ロンドン, 2015)、“広島!!!!!”(旧日本銀行広島支店,広島, 2013)、“Chim↑Pom”(Parco Museum, 東京, 2012)、“Chim↑Pom”(MoMA PS1, ニューヨーク, 2011)。グループ展に、“Don’t Follow the Wind”(東京電力福島第一原発の事故に伴う帰還困難区域内,福島, 2015)、“Zero Tolerance”(MoMA PS1, ニューヨーク, 2014)、“第9回上海ビエンナーレ REACTIVATION”(上海現代美術館, 2012)、“第29回サンパウロビエンナーレl – There is always a cup of sea to sail in”(サンパウロ, 2010)、“Biennale de Lyon 2017”(リヨン, 2017)など多数。著書に、2009年『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』、2017年『都市は人なり Sukurappu ando Birudoプロジェクト全記録』、2018年『にんげんレストラン』など。



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