常識が創造力に及ぼす悪影響 よしいちひろ×佐藤ねじ親子鼎談

「あれをやってみたい」「こんなものを作ってみたい」と発する、豊かな子どもの創造力。それをのびのびと育んでいくために、親ができることはなんなのだろう? 教育方針に、きっと正解はない。しかし、創造力を持った大人であるクリエイターのパパやママは、どのように子どもと向き合っているのだろうか。

サントリー『水と生きる デジタルミュージアム』の企画展に参加した1児の母であるイラストレーターのよしいちひろ、小1男子と、彼をサポートした父親の佐藤ねじの3人に、制作した作品を通して「子どもの創造性を育てる」ことについてお話を伺った。

自然は、子どもの自由な発想を豊かにしてくれる環境なのかもしれません。(よしい)

よしい:私、ねじさんの窓の光でひらがなを映す作品を以前拝見しました。

ねじ:『くらしのひらがな』ですね。(小1男子に向かって)覚えてる?

佐藤ねじの作品『くらしのひらがな』

小1:あー、引っ越す前のだ。

左から:よしいちひろ、小1男子(佐藤ねじの息子)、佐藤ねじ

—私も『MilK JAPON』(フランス・パリで誕生した雑誌『MilK』の日本版)のブログで、よしいさんがお子さんと創作を楽しまれている姿を拝見しています。

ねじ:立体ですか? 平面ですか?

よしい:子どもは立体が多いですね。はじめは私が作っていたんですけど、最近は見よう見まねで、自ら空き箱を使って作品を作っています。

—今回、よしいさんと小1男子くんはサントリーが9月に新設したウェブ上の『水と生きる デジタルミュージアム』の企画展「空想の森」に参加されました。『水と生きる デジタルミュージアム』は、「水と生きる」をテーマに、きれいな水を育む森や、さまざまな生きものたちの大切さを考えるきっかけに、という願いを込めて開設されたものです。よしいさんは、自然に囲まれた生活環境を選ばれていますが、それはお子さんにとってどんな影響がありましたか?

よしい:たとえばフィンランド人のアーティストなんかを見ると、明らかに豊かなインスピレーションの源として自然の存在を感じるんですよ。でも、私の住む多摩地方程度の自然では、原風景としてどれくらい子どもの心に残るのかはいまのところわかりません。

でも、子どもっておもちゃがなくても「名前のない遊び」をいくらでも生み出します。蛇口から出る水を手で遮ったり、水たまりを三輪車で行き来したり、放っておいたらそういうことを延々と続けてる。そうした点では、自然に囲まれた生活って自由な発想を豊かにしてくれる環境なのかもしれません。そういう名前のない遊びができることを大切にして欲しい。

あと、住んでいる人たちがのびのびとしているのも住心地がいいです。走り回っても怒られないし、子どもも私も気持ちにゆとりが生まれますね。そのことは、子どもがおおらかに育つ作用を与えると思います。

よしいちひろ
よしいちひろのイラスト

ねじ:わが家も周りに河川敷と森が両方あるので、息子は好きなときに好きなように遊んでいますね。以前は「原っぱ大学」という、逗子で山の中を冒険する子どものアクティビティーに通ってたね。

佐藤ねじ

小1:いま、いちばん行きたいところ! あそこね、探検が楽しいの。崖を登ったり降りたりね、ルートもたくさんあってね、行っちゃダメな場所がわからないの。いちばん大変だったのはね、シダの森かな。シダがたくさん生えてて、上からごろごろ岩が落ちてきて、迷子にもなったよ。

ねじ:性格がビビりだったのに、たくましく成長しましたね。危険を察知したら逃げるタイプだったのが、自分から前に進むようになりました。森で迷ったら、どっちに行くか覚えてる?

小1:たしか太陽の方向かな。上のほうに行けば街が見えるって言われた。

小1男子

「常識」が創造力に及ぼす影響は大きいなと思います。(ねじ)

—子どもの創造力を育てるために、2人が心がけていることってありますか?

よしい:人間って子どものときにいちばん創造力があって、あとは大人になるほど狭まっていくと思っているので、できるだけ口を出さないように意識しています。いまは、同級生が女の子や乗り物を描いている横で、息子は抽象画のようなものを描いて毎日持って帰ってくるんですけど、それをそのまま受け止めて、興味のある部分は質問してみる。大人の常識を教えてしまうとその枠を超えるのが難しくなってしまうので、いまは自由に。もう少し大きくなったら模写をさせてみるのも楽しいかもしれないですね。

ねじ:子どもの創造力は減衰モデルだと思っていて。小学校という場所に入ったあとに「常識」を教え込むことによる創造力の落差がすごいんですよ(笑)。元々小1男子は「NHK Eテレ」や図鑑が好きなのですが、小学校に入ってからアニメを知り、だんだん絵が俗っぽくなってきて。それも独自の進化を遂げているのでいいんですが、「常識」が創造力に及ぼす影響は大きいなと思います。

よしい:いろんな刺激を受けることで、個性にもなるでしょうけど。

ねじ:心がけ、というほどでもないですが、僕もよしいさんと同じで、できるだけ口を出さないようにしています。ただし、ツールや環境は用意する。僕はデジタル派で奥さんがアナログ派なので、画材やツールが家にたくさんあって、両方の側面から教えるんですね。ハサミの使い方や、YouTubeでの調べ方など、創造はするけれど形にできない子どものために、創造力を補う最低限のサポートをしています。

小1:興味を持つと、1日中これをやりたいってなるの。今日は手品にハマった! あと、ゲームを作りたい!

ねじ:フットワークよくいかないと、子どもの興味ってすぐに移り変わっちゃうんですよね。どんな子どもも創造力は高いので、それを形にできる環境を用意することが大事でしょうし、僕らができない場合は適役に会わせてもいいですよね。いまなら手品師に会わせると、おもしろいかも。

よしい:そうそう。子どもの興味って刹那。その瞬間を捉えられるかどうかが勝負ですよね。

ねじ:パソコンやプログラミングはこれからですが、僕は積極的に教えるつもりです。算数も、「学校の宿題よりも難しいのをやりたい」と言うので積極的に教えますし。

よしい:難しいことのほうが楽しい、という感覚は私の子どもにもあります。簡単なお手伝いよりも難しいことを好むので、その反応には素直に応えますね。

ねじ:小1男子は、「子どもの創造力を育てる方法」についてはどう思う?

小1:うーん。自分が育てられているほうだからわかんない。

全員:(笑)。

目標があった上で、必要なスキルを身につけるために子どもに習いごとさせるのはいいですよね。(よしい)

—そんなよしいさんと小1男子くんが参加した『水と生きる デジタルミュージアム』の企画展「空想の森」は、木の特徴と役割だけをお題に、想像で木を描くという企画でした。よしいさんはどうお題を解釈されたのですか?

よしいちひろへのお題:世話の焼ける癒し系
材木にするために人がたくさん植えた木。葉っぱは、手のひらを広げたような形をしている。こまめに世話をしないといい木に育たないので、とても手間がかかるけど、ていねいに育てれば、癒しをもたらす素晴らしい香りの木に育つ。

よしい:「手間がかかるけれどていねいに育てる」という言葉は、子育てに置き換えられると思ったんですね。「こういう大人になってほしいな」という願望を子どもに向けたときに、ただ褒めればいいわけでも、かかりきりで世話を焼けばいいわけでもない。見守って、必要な場面で手助けして、愛情を伝えてそうやって育まれた「自己肯定力」が、子どもにとってなによりも生きていく支えになるのではないか、と思っています。

今回は「自己肯定力」をテーマに、子どもをていねいに育てたいという気持ちも込めて、手のひらを広げて希望を大切に包み込んでいるイメージで描きました。手は子どもの心を大切に育てる親の手であると同時に育った子どもが希望を包み込む手でもある。その2つを同時にイメージしています。

ねじ:手のひらに包まれているものはなんですか?

よしい:宝石やぬいぐるみ、星などです。自己肯定感を得ることによって、力強く夢に向かって進んだり、まわりの友達を大切にしたりして人として成長する姿や、希望をイメージしています。「癒やしの香り」という言葉からも、やさしさを連想しました。

—小1男子くんの制作意図も教えてもらえますか?

小1男子へのお題:縁の下の力持ち
地面深くにまっすぐ根を伸ばし、杭として不安定な斜面を支えてくれる。また、成長が早く、大きいもので40mにもなるので、クマタカやオオタカが巣をつくる。小さく長い葉が枝につき、樹皮は暗い灰色でうろこ状にはがれる。

小1:お題に「40m」ってあったから、上にも横にも広がっていそうで、天気を2つに分けるくらい大きいのかなって。

ねじ:なるほど。右が雨?

小1:うん。右が雨で、左が晴れ。ほかにもね、根っこが大きいのは幹が太いからかなって。赤いのはね、火事なの。

ねじ:やっぱり火事なんだ(笑)。どういうこと?

小1:大きいから根っこが横にのびてて、ときどき地上に顔を出しちゃうからね、そこから遠くの火事も集めちゃってるの。火で木は燃えちゃうでしょ。飛んでるのはオオタカでね、早すぎてぶれてる。ほかにもいろいろ描いたんだよ。

小1男子が、お題に対して描いた4枚の作品

よしい:4枚も描かれたんですね! ねじさんもご一緒に?

ねじ:僕や嫁は見ていただけです。画材だけはアドバイスして、全部変えました。最初の絵は色が薄かったので油性のクロッキーに変えて、紙もA4用紙からA3用紙に変更したので、のびのび描いていましたね。よしいさんは?

よしい:私は水彩絵の具です。パーツごとに描いて、すこしPhotoshopで色味を加工して、コラージュしました。

小1:大人だとパソコンを使えるね。

—でも、小1男子くんの作品はお題の「もみの木」にほぼ近いですね。わかっていましたか?

小1:わからなかったけど、杉っぽい感じを描いたの。

ねじ:調べものが好きなので、木や生きものに詳しいんですよ。小1男子の担当はクリスマスツリーだったんだね。

小1:鈴をつけてもよかったね。

ねじ:それは、正解をわかっている人の絵でしょ(笑)。

—最後に、ねじさんとよしいさんに質問です。それぞれ、お子さんの創造力を育てるために、今後やりたいことはありますか?

ねじ:どこに興味がのびていくかわからないので、自然に触れることもプログラミングも、可能性をつぶさずにいろんな「場」を用意することだけですね。もちろん親の限界ってあると思います。たとえば僕らは海外経験がないので、子どもが英語を学びたいときにどう対応するか。小1男子は生きものの研究者になりたいんだよね?

小1:うん。でも海外でやるかはわからない。

ねじ:でも、泳げたほうが研究に役立つだろうと水泳を習おうか考えています。

よしい:目標があった上で、必要なスキルを身につけるための習いごとはいいですよね。なにより本人のモチベーションに繋がる、身についたスキルも自信に繋がる。息子には……いまはまず、見せられるだけ広い世界を見せてあげたいなと思います。

リリース情報
サントリー
『水と生きる デジタルミュージアム』

生命のみなもとである水や、きれいな水を育む森、さまざまな生きものたちの大切さを考えていける。「水と生きる」をテーマに、作品を展示するデジタルミュージアム。

プロフィール
佐藤ねじ (さとう ねじ)

1982年生まれ。プランナー/アートディレクター。面白法人カヤックから独立後、Blue Puddle Inc.設立。「空いてる土俵」を探すというスタイルで、WEBやアプリ、デバイスの隙間表現を探求。代表作に『Kocri』『しゃべる名刺』『貞子3D2』『本能寺ストーブ』『レシートレター』『世界で最も小さなサイト』など。日経BPより「超ノート術」を出版。

小1男子 (しょういちだんし)

佐藤ねじの息子。「5歳児が値段を決める美術館」のクリエイター。「息子シリーズ」は佐藤ねじの個人プロジェクトです。子供が生まれてから毎年、その年齢に合わせて、何か作品を制作しています。ルールとして、企画とデザインは佐藤ねじが作るものの、アウトプットの核となる部分は子供が生み出したもので構成すること。ホームビデオ的な要素と、社会的なメッセージを組み合わせるなど、その年ごとの「取れ高」に応じて、作っています。

よしいちひろ

1979年兵庫県生まれ、東京都在住。女性の憧れや日常を、やわらかくみずみずしいタッチで描く作風が人気を呼び、雑誌や書籍、広告などで幅広く活躍。参加企画展に、『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016 暮らしになじむLOHACO展』など。



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