『高校生RAP選手権』優勝者HARDY 「余裕」が人生を変えた

2018年、日本の音楽シーンにおいて最もエポックメイクな瞬間のひとつと言える、武道館ワンマン公演を成功させた神奈川県川崎市のヒップホップクルー、BAD HOPのT-PABLOWも、その出自に持つ『BSスカパー! BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』。その第14回大会で見事優勝を果たし、「LINE RECORDS賞」も受賞したのが、大阪の西成に拠点を置く2000年生まれのラッパー、HARDY(ハーディ)だ。

今回、そのHARDYに単独インタビューを行うことができたのだが、「まだ若いのに……」なんて枕詞をつけたり、そもそも年齢で語ること自体が失礼に感じられるほど、彼の思考と言葉は明晰だ。高校を1年生で中退し、ラップ一筋で生きてきた彼は、様々な街やクラブで、そしてMCバトルを通して人と出会い、自分を見つめてきた。HARDYは、この世界で生きることの不自由さを理解しながら、それでも自由であろうと、自分自身であろうとする。そのために彼が選んだ手段がラップだったのだということが、彼の言葉から、わかっていただけるだろう。

僕は、みんな「社長になりたい」って思うべきやと思うんです。

—まず、少し時間は経ってしまいましたが、『BSスカパー! BAZOOKA!!!第14回高校生RAP選手権 in NAGOYA』(以下、『高校生RAP選手権』)での優勝おめでとうございます。

HARDY:ありがとうございます。第11回、高1のときから4回出ているんですけど、「やっと獲れたなあ」っていう感じですね。でも、獲れる気はずっとしていたので、諦めないでよかったです。

—HARDYさんにとって、『高校生RAP選手権』とは、どのような場だったのでしょう?

HARDY:『高校生RAP選手権』には「高校生」ってタイトルについているけど、僕は高校1年生で学校を辞めているんですよ。だから、同い歳と集まってMCバトルをするっていうのは、ある意味、僕の中では「学校」のような場所でしたね。こういう感覚で臨む人は、あんまりいないと思うんですけど。高1から高3の年齢まで出場して、最後に優勝できたっていうのは、卒業前の文化祭でひとり勝ちした気分です(笑)。

HARDY

—差支えなければでいいんですけど、なぜ高校は中退されたんですか?

HARDY:めちゃくちゃ自分がだらしなかったからです(笑)。端から行かなければよかったなっていう感じなんですけど。あと、ひたすらに先生が嫌いでした。「こいつ、なに言ってんねや」ってずっと思ってたし、そいつに教えられている自分もイヤでしたね。

1回、同級生に巻き込まれて停学になったことがあって。僕はまったく悪くない出来事だったんですけど、悪いやつと一緒の罪で、同じくらいの期間自宅謹慎になったんです。でも一番悪いやつが「課題をやっていたから」っていう理由ですぐに学校に帰ってくることができて……「なんでなん?」って。そこから、高校に行かなくなりました。制服だけ着てコンビニまで行って、コンビニの前で死ぬほどYouTube見たり、地元の西成から難波のブックオフまで行って、延々マンガ読んだり、映画見たり。親にもバレてなかったんですけど……バレてたんすかね?

—どうだろう(笑)。親は敏感ですからね。

HARDY:じゃあ、バレてるかもしれないっすね(笑)。……まあ、そんな時期があった結果、「俺、もう学校いらんな」ってなって。でも、まったく後悔はしていないんですよ。「学校、行っとけばよかった」って思ったことは一度もない。お母さんには謝りたいけど、いつか恩返しできればいいなって思うんです。

逆に、学校行ってるヤツらには、「お前ら、よう学校とか行けてんなあ」って思います。そう思っちゃうくらい、自分の価値基準がラップ中心なんです。「こいつ、金は持ってるけど、ラップは下手やから俺の勝ちやな」みたいな。ラッパー以外には人間として負けているので腰低いし、助けてほしいなって思いますけど、相手がラッパーだったら、いくら先輩でも自分のほうがラップ上手かったら大口叩けるなって思っていて。

—「自分はなにを軸にして生きていくのか?」ということが、HARDYさんにはすでに明確にあるということですよね。

HARDY:そうっすね。この日本で「ミュージシャンになりたい」とか「ラッパーになりたい」なんて目標を持つことのほうが本来はおかしいと思うんですよ。みんなが同じように勉強を教えられて、「お前らはこういう人間になるべきなんやぞ」って言われ続けているので。でも、それって僕は洗脳やと思うんです。だから僕は、みんな「社長になりたい」って思うべきやと思うんです。

—社長?

HARDY:「自分自身が、自分にとって一番」っていうことですね。自分の中の一番になれない、プライドを消さなきゃいけないようなことは、したくないんです。自分で目標を持って、やりたいことをやっている人が一番かっこいいなって思うので。

それってただのわがままなんですけど、わがままを貫き通したらかっこいいですよね。僕も「働け」って言われることもありますけど、「いや、俺ラッパーやし、『高校生RAP選手権』のチャンピオンやし」って思う。就職のことなんて考えたくないし、考えなくてもいいように、いまがんばってるんです。

圧倒的な余裕を見せればいいんやなって思えるようになったんですよね。

—HARDYさんが、ラップに惹かれるようになった理由はどこにあるのでしょう?

HARDY:ラップを始める前から、先輩でラップやってる人に誘われて、遊びに行ったりはしていて。中3の頃に遊びに行ったときに、ラッパーの人たちを見て、「かっこいいな」と思ったんですよね。ステージに立って、自分の実体験、自分がしてきたことを歌っている……その姿がとにかくかっこよかった。それから自分でもラップを始めました。

中学に、たまたま同時期にフリースタイルとかMCバトルに興味を持ちだしたやつがいて、そいつと2人で「もっと人増やしたいな」と思って、友達に「ヒップホップって知ってる?」「MCバトルって知ってる?」って勧めて。放課後とか休み時間にビート流して、フリースタイルをし始めたのが最初ですね。ラップは唯一、自分が真剣にできて、「いま、自由に動けてるな」って思えるものだったんですよね。

—具体的に、好きだったヒップホップアーティストなどはいましたか?

HARDY:最初は、日本語ラップばっかり聴いていて。自分は、ちょっとタイプは違うと思うんですけど、PSG(PUNPEE、S.L.A.C.K.、GAPPERの3人組ヒップホップクルー)みたいなクリエイティブな人たちが好きでしたね。でも、自分の韻の踏み方とかフロウに関しては、誰かに教わったというよりは、独学というか、見様見真似で始めました。あと、YouTubeがあったのはやっぱりデカいです。

PSGのメンバー、PUNPEEの楽曲“Happy Meal”

—ラップに魅了されるようになってから、ラップがご自身の人生の軸になっていく……そこにある覚悟や自信は、どのようにして身についたのだと思いますか?

HARDY:高校2年生くらいの頃に、ネガティブなことばっかり考えている時期もあったんですけどね。『高校生RAP選手権』で勝てなかったりとか、いろんなことがあって、「俺って、このままでいいんかなぁ?」「これもダメだ、あれもダメだ……」って。ただ、ネガティブなことほどリリックには書きやすかったりするし。でも、「バトルで負けたら、そのバトルの動画をYouTubeにアップされて、コメント欄で叩かれるんや。ダルいなー」みたいな。

—僕は体感したことないですけど、やっぱりそういうのってキツいですよね。

HARDY:そうなんすよ。でも、あるとき、「正味、俺はラップでかましてるけど、そいつらは、それを見てコメントしてるだけやん」って思ったんです。「俺に直接なにかを言えるわけではないんやな」って気づけた。

そうすると、バトルの感じも変わってくるんですよ。相手を見て、「ラッパーとして、こいつより自分のほうがイケてるんちゃうか」って思ったら、別にボコボコにする必要もない。圧倒的な余裕を見せればいいんやなって思えるようになったんです。

余裕を持つことの大事さって、自分の同世代には必要なものなんじゃないかと思うんです。

—僕、HARDYさんのMCバトルの様子を見て思ったことがあって。HARDYさんの戦い方って、相手を打ち負かしにいく感じではないんですよね。もちろん攻撃的なことは言うけど、それは相手を「負かす」ための言葉というより、MCバトルという空間が持つ熱量を相手と一緒になって高めていくためのもののように感じられて。「すごくポジティブな戦い方をする人だな」と思っていたんです。

HARDY:それは「ポジティブ」というよりも、「余裕」を見せてるんですよ。普段の実生活ではできないことも多いけど、ラップだったら自信持てるし、相手に対して余裕を持てれば勝てるんちゃうか? って。余裕を持つことって、自分と同世代には必要なものなんじゃないかと思うんです。余裕って、別に「金を持っている」っていうことではないと思うんですよ。僕だって、金に関しては余裕ないです。

でも、大好きなラップをやって生きているから余裕を持てるんですよね。そういう考え方を持てるようになったら、『高校生RAP選手権』でも、優勝できたっていう。これまでいっぱい負けもしたけど、やってきたことはなにもかも無駄じゃなったなって思いましたね。

—『高校生RAP選手権』に4大会出場されてきた中で、意識の変化も如実にあったわけですよね。

HARDY:そうですね。『高校生RAP選手権』に関しては、そもそも兄貴に教えてもらったきっかけで見ていたので、この大会から出てきた人たちは、自分にとってスターみたいな存在やったし、最初は「自分もこれに出たら、高校生っていうだけで下に見られることもなくなるんじゃないか」って思ったんですよね。でも、高校1年生のときに初めて出てみて思ったのは、「周りとは、あんまり気が合わないな」っていうことで。

—それはなぜでしょう?

HARDY:いま思うと、周りの人たちはとにかく「ラップうまくなりてえ」とか「バトル強くなりてえ」っていうスタンスだったんですよね。みんな「とにかく優勝したい」っていう感じだった。僕は「ガンガンMCバトルで優勝したい!」っていうよりも、むしろ「早くいろんな場所に行ってライブしたいな」っていう気持ちが大きかったんです。

もちろん、僕もラップはうまくなりたいし、MCバトルで優勝したかったし、負けまくって悔しかった時期もあるけど、バトルがきっかけで地元以外の場所でのライブに呼んでもらえるようになったことがうれしかったんですよね。

—それはやっぱり、HARDYさんにとって目的はラップで「勝つ」ことではなくて、ラップで「生きる」ことだった、ということですよね。

HARDY:そうですね。地元の大阪から1歩外に出ると、各地で人の考え方も、優しさも、強さも、熱さも、ラップのタイプも全部変わってくるっていうことに段々と気づくようになって。

違う考え方の人たちが周りにいれば、それによって自分が磨かれることもあるんですよね。いろんなチームがあって、全員が交わることってないと思うんですよ。でも、それなら個々の味が出るところで勝負したい。僕は「大阪のHARDY」として、余裕を大事にしながら勝負したいなって思う。そういうことに気づけたので、周りの人たちって、自分の鏡なんやなって思います。

—失礼な言い方になってしまいますけど、HARDYさんのように若くて、「周りは自分の鏡なんだ」と力強く言えるのは、すごいことだと思います。

HARDY:僕、あんまり反抗期っていうのがなかったんですよ。ただずっと、ほかの人にぶつけるというよりは、自分の中で闘って、自分の中で沈めるっていう感じだった。なので、小学校~中学校時代は、いま思うと周りが見えてなかったんですよね。テンションの高いやつではあったんですけど(笑)。学校は嫌いやったんですけど。たまに給食前の4時間目くらいから行って、はしゃいで帰る、みたいな(笑)。

—高校中退される前から、学校には行ってなかったんですね(笑)。

HARDY:「不登校」って呼ばれてたんですけど(笑)、でもそのぶん、いまは、ほとんど街に出て遊んでます。街に出れば、人を見る機会が多いですから。なので「人を見る」っていうのは、いまの自分にとっては普通のことですね。

ホイホイと自分のスタイルを変えることって、僕には無理やなって思う。

—去年の暮に配信リリースされた“ARE YOU READY”は、HARDYさんにとって、どのような曲になりましたか?

HARDY:『高校生RAP選手権』で「LINE RECORDS賞」をもらって曲を出すことになったとき、LINE RECORDSの田中大輔さんがいろんなプロデューサーの名前を挙げてくれる中で、DJ Mitsu the Beatsさんの名前が出てきて。「Mitsu the Beatsさんと曲できるんですか!」って、かなりぶち上がりました(笑)。で、Mitsuさんからビートがいくつか送られてきた中で、イントロから「絶対これや!」っていうのがあったんです。いままでの自分の曲は、ゆっくりと重く低音を鳴らしている感じが多かったんですけど、今回のトラックは、いままでやったことのない感じで。でも、それがすごくいまの自分っぽかったんですよね。

—ふつふつとなにかが湧き上がっていくような、覚醒感のあるトラックですよね。

HARDY:マインドとビートが合っている曲だなって思います。僕は、リリックで嘘がつけないんですよ。あることしか書けない。この曲でも<学校にもいかずに寝てたコンビニ>とか、「自分はこれまでこんな感じで、こんなことをしてきて、こんなことができた」っていうことを書いていて。

そのうえで、「だから、お前らもがんばれるよ」って言いたいんですよね。「俺、こんな人間やけど、お前ら俺よりマシやろ? だから、かませるよ」って、自分にも言い聞かせつつ、聴いてくれた人も読み取ってくれたらうれしい。

—HARDYさんはバトルと音源制作、両方を積極的にやっていると思うんですけど、ご自身の作る楽曲は、やはり「伝える」ということに重きを置いていますか?

HARDY:うん、音源はメッセージですね。ラッパーにも、リスナーにも、ヒップホップをまったく知らない人にも、言いたいことはあるし。もちろん、僕の、この人生とまったく同じ人生の人はいないと思う。でも、まったく同じ人生ではなくても、リリックに書いたことに気持ちが重なる人も多いんじゃないかと思うんです。僕と同じように学校が嫌いなやつだって、いっぱいいると思うし。自分もそうですけど、人に言われたって変わらないけど、曲を聴いて気づけることもあると思うんですよ。

—この曲の<ラップすんのは明日のため>というフレーズは、すごくシンプルだけど、深くグサッとくるパンチラインだと思います。

HARDY:そのラインは、バトルでパッと思いついて言っただけなんですけど、自分でもしっくりくるし、曲に入れようかなと思って。「結果、自分のためやで」って。一つひとつの行動も、嫌なことも、なにもかも。

—最後に、HARDYさんはこの先どのようにラッパーとしての人生を歩んでいきたいですか?

HARDY:僕は、気持ちはこのままでいたいんですよね。もちろん、ラップは進化していきたいですし、バトルもしますけど、いまの気持ちのまま、ちょうどいいハングリーさとグッドマインドで、この先も行けたらいいなって思います。

ぶっちゃけ、「トラップとか、これからどうしていくんですか?」って思うんですよ。この先、飽きがきますよね。もちろん、歌い方とかが変わっていくんだろうとは思うんですけど、そんなにホイホイと自分のスタイルを変えることって、僕には無理やなって思う。

スタイルが変わることで、いままで言えていたことが言えなくなってしまうのがいやで。僕は、常に自分の気持ちをなんでも言えるようにしておきたい。明確なビジョンは見えないですけど、この音楽を選んだことは間違ってないって自信があるんです。

リリース情報
HARDY
『ARE YOU READY』

2018年12月12日(水)配信

プロフィール
HARDY (はーでぃー)

2000年大阪生まれ。高校一年生の時に活動を始めるが中退。そんな時に『第11回高校生RAP選手権』のオーディションを受け見事合格。結果は残せなかったものの、自身初の作品を一二三屋から「After Kissin」をリリース。大阪のストリートを中心にLIVE活動を全国に広げる。2018年4度目の出場として、『第14回高校生RAP選手権』で見事優勝。「LINE RECORDS賞」を受賞。



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