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いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

東京オペラシティ アートギャラリー『石川直樹 この星の光の地図を写す』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之

全部を見せる必要はない。一部分からでも感じるものっていっぱいある。(石川)

—石川さんは写真を撮って旅をする人という認識でいたのですが、じつはいとうさんとみうらさんも旅人なんだってことに今日は気づかされました。

石川:相当、旅人ですよ(笑)。

いとう:日本国内が専門だけどね。『見仏記』(いとうせいこうとみうらじゅんの共著による紀行文シリーズ)を始めたときも、いちばん最初こそ編集者が同行したけれど、そのあとの20数年間は完全に2人旅(笑)。昨日、ちょうど新しい一冊のあとがきを書いていたんだよ。本当は連載は終わっているんだけど、「自腹で金を出すから行かせてくれ!」って言って、それで峨眉山にツアーで行った。最初の1日目はパンダを見てね。

石川:(笑)。

いとう:ふざけた旅っていうのも、楽しいんだ。あと、俺個人で言えば、ここ2年くらい「国境なき医師団」を取材している。去年1冊本が出て、昨日は先日行った南スーダンの記事を書いてた。

石川:南スーダンまで行ったんですか。

いとう:その前は隣接するウガンダに行ったから、難民が出ていく国(南スーダン)と、受け入れる国(ウガンダ)の両方を見てきたんだ。その経験があるので、石川くんが旅先で感じるものがわかる気がするんだよ。

壁画のところでもすこし触れたけれど、それは撮っている自分の背中の側にある物語なんだ。難民キャンプに行って、難民の人たちを直接写真に撮ったり、文章で描写することには難しさがある。安易に書いてしまうことで傷つけてしまう可能性が大いにあるから。

いとうせいこう

石川:特に「国境なき医師団」の活動は、その性質上、なんでも書けるわけではなさそうですね。

いとう:だからこそ、例えば空のベッドを撮ることで何かを表現したりするわけ。これは壁画以降の時代の表現技術と言える。ヘラジカをあえて描写しないことで、被写体と自分の関係を、作品に託すというか。これは石川くんの写真も同じじゃないかな。

石川:はい。全部を見せる必要はないと思ってます。一部分からその全体を感じられるものっていっぱいあると思うし、伝え方もいろいろある。すべてをつまびらかにする必要はまったくないですよね。

言葉が追いつかないところ。言葉が意味になる前のものを撮りたいんです。(石川)

いとう:石川くんの写真に靄(もや)がたくさん登場するのもその意識の反映だと思うな。それと、言葉やキャプションではっきり説明していなくても、写るべきものはすべてきちんと写っている場合もある。「なんで、こんな端っこに人がいるんだろう?」とか疑問に思ったものには、石川くんの意思、石川くんが体験した物語が込められている。

石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三
石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三
『K2』(2015年)
『K2』(2015年)

石川:写真とキャプションの関係ってすごくデリケートですからね。例えば猫の写真があったとして、そこに「おなかをすかせて彷徨っている猫」ってキャプションを入れたら、もうそれにしか見えない。でも別にそうじゃないかもしれない。

いとう:言葉って怖いよ。

石川:すごく怖い。だから、写真と文章が半々みたいな本を作るのって、とても難しいと思ってます。だから、いつも僕は分けるようにしてるんです。

石川直樹

いとう:撮りたいのは言葉や文脈では必ずしもないしね。例えば、クジラを写していたとしても、それは「クジラと出会った」「なんでこの湾にクジラがいる?」っていう経験や主観をこそとらえている。

石川:まさにそうです。ぼくの写真は固有名詞を現したものではないですし。たとえば、向こうから弓矢が飛んできたとして、弓矢を弓矢として撮ったら、弓矢の説明になっちゃう。そうじゃなくて「何かが飛んで来たぞ」ってところで撮りたい。言葉が追いつかないところ。言葉が意味になる前のものを撮りたいんです。

いとう:今の表現は、石川くんの写真を説明する最良の言葉かもしれない。だとすると、素早く写さないといけないね。

石川:理想はただただ反応だけで撮りたいんです。でもそうもいかないので、カメラを身体の延長だと思って、限りなく自意識を排して撮ろうと心がけています。考える前に撮りたいな、と。

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イベント情報

『石川直樹 この星の光の地図を写す』

2019年1月12日(土)~3月24日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー

時間:11:00~19:00(金、土曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)、2月10日(全館休館日)
料金:一般1,200円、大高生800円
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料

プロフィール

いとうせいこう

俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。執筆活動の一方で宮沢章夫やシティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなすなど、マルチな活躍を見せている。近年では音楽活動も再開しており、口口口やレキシ、dubforceなどにも参加している。

石川直樹(いしかわ なおき)

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を、『CORONA』(青土社)により第30回土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版社)、都道府県47冊の写真集刊行プロジェクト『日本列島』(スーパーラボ×BEAMS)、本展のカタログでもある大冊の写真集『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。

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