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志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧、宮原朋之(CINRA.NET編集部)

春は生命で溢れるだけじゃなくて、死も当然出てくる。

ふたたび丹羽のテキストを紹介しよう。この展覧会の理由について、企画者はこう書いている。

(2014年に)企画準備が始まった。作家の第一声は「いつかやらなければと思っていた大きな題材がある。会期は絶対に春で」というものだった。(略)長く厳しい冬を唐突に打ち破るような春の息吹に、志賀は単なる季節の移り変わり以上の特別な意味を感じていた。

志賀:東北に住んでいると、冬のあいだは雪で覆われて肉眼では何も見えなくなるし、写真を撮ったとしても何も写らないんです。そうすると、次の春を待つ、みたいな時間が強く意識されます。その「待つ」感覚っていうのは、写真の「ボタンを押して、イメージが出てくる」のを待つということにも重なるように思います。だから東北に移住した頃から、つねに「春」は気にかかるテーマでした。

『螺旋海岸』展はコミュニティーや、見えるもの / 見えないもの、みたいなことがテーマだったので、今回は春を軸に考えたい……それがスタートです。ただ、具体的に構想を練っているうちに、だんだんと抽象度が上がっていった。

例えば「spring」には「ばね」の意味もありますけど、飛び跳ねて現在進行形の時間から垂直方向に逸脱するようなイメージにつながります。個人的に仲のよい、contact Gonzoを撮った写真がありますけど、彼らの人(human)同士が激しくぶつかり合うパフォーマンスは、まさに逸脱という感じがします。私自身、写真を撮るって行為は刻一刻と死に向かっていく過去・現在・未来という時間軸から外れる空間を、儀式的に作ることだと思っているんですが。

志賀理江子

—春には、季節だけではなくて、観念的なイメージも重ねられているんですね。でも、「時間」というキーワードで結ばれてもいる。

志賀:そうですね。春は輝かしいものだけれど、同時に有機物が腐り始める時間でもある。だから生命で溢れるだけじゃなくて、死も当然出てくる。震災ということで言えば、津波に呑まれたまま遺体が見つかっていない人が大勢いて、そういった人たちのことをどうしても考えてしまう。2011年から8年が経って、きっともう白骨化して、海底や川の底で有機物に分解されている。そういった身体は、人間社会の中ではなし得ない死のかたちを成し遂げている。

—法的に死が認められて、戸籍が処理されて、墓に埋葬されて、というのが一般的な死のかたちですからね。

志賀:そこから外れた多くの死が、この8年間でたくさんあったということです。それは、春について考えるうえで大きな意味がありました。

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イベント情報

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』

2019年3月5日(火)~2019年5月6日(月・振休)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階展示室

休館日:毎週月曜日(ただし、4月29日(月・祝)および5月6日(月・振休)は開館)
料金:一般700円 一般団体560円、学生600 学生団体480)円、中高生・65歳以上500円 中高生・65歳以上団体400円
※小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜日は65歳以上無料
※当館年間パスポートご提示者無料(同伴の方1名様まで無料)

プロフィール

志賀理江子(しが りえこ)

1980年、愛知県生まれ。2000年東京工芸大学写真学科中退後渡英、04年Chelsea College of Art and Design(ロンドン)卒業。2008年より宮城県在住。11年東日本大震災で被災しながらも制作を続け、12年「螺旋海岸」展(個展・せんだいメディアテーク)開催。その他、15年「In the Wake」展(ボストン美術館)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)、17年「ブラインド・デート」展(個展・猪熊弦一郎現代美術館)等多数。

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