GEZANマヒトが我々に問う。新しい世界の入り口で社会を見つめる

2019年3月、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーから突如連絡があった。「頭のなかを整理したいから話を聞いてほしい」。深夜3時過ぎに送られてきたショートメールにはそんな旨のことが書かれていた。

傑作『Silence Will Speak』から約半年、そのとき彼は、自らを取り巻く状況が劇的に変化しつつあることを教えてくれた。マヒトゥ・ザ・ピーポーとしてソロアルバムを2枚リリースし、初の小説を執筆、GEZANとしてはドキュメンタリー映画の公開を控え、『FUJI ROCK FESTIVAL '19』への出演も決定、そして自らが主催するイベント『全感覚祭』を東京と大阪の2会場で、フードフリーで開催することを矢継ぎ早に話した。

なぜ、彼らは命を削り生き急ぐような活動を展開しているのか? その背景を紐解くと、この社会に対して真摯に向き合うマヒトの眼差しが見えてきた。CINRA.NETでは、彼の目線を、考えを記録するべく連載企画を始動。すべてのはじまりとなる今回、彼は「新しい世界がもう目の前に来ている」と繰り返し語った。不穏にうねりをあげ、激しく変化する時代の渦中で我々は問われている。なぜなら、新しい世界には、新しい価値観が必要だから。

以下のテキストは、2019年4月に実施したインタビューである。これは、この世界に、あなたに、私に、巨大な疑問符を投げかけるひとりの音楽家の記録だ。

自分の役割は、世の中にある問題を個人のものに立ち返らせることなんだろなって感じて。

―今回、どこから話をはじめようかと考えたとき、6月に公開されるドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』を拝見させていただいたのもあって、この1年でマヒトさんが見てきたことを話していただくのが、一番リアリティーと説得力があるなと思ったんです。

マヒト:たしかに、直面したものが説得力を持つというのはそのとおりです。 今、SNS上で論理と論理で喧嘩させてそのうえで展開していく感じがずっとあるけど、自分の友達や知り合いがいたりすると、その考え自体に血が通い、意味が変わってくる。アメリカツアーもそれに近いような経験があったんです。今までテレビとかネットの世界とかで触れていた言葉が、温度を持って迫ってくる機会になった。レイシズムやLGBT、クィアのことを考えるときに、シンプルに言えば、そういう立場にいる友達の気持ちを想像して、思うってことが一番リアリティーがある。

マヒトゥ・ザ・ピーポー
2009年、バンド・GEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル「十三月の甲虫」でリリースしたり、野外フェス『全感覚祭』やZINE展を主催したりとボーダーをまたぎ自由なスタンスで活動している。2019年2月に『不完全なけもの』、4月には『やさしい哺乳類』とソロアルバムを2作リリース。5月23日には、自身初の小説作品『銀河で一番静かな革命』を発表する。

―映画のなかにも、LGBTの人たちが集っているコミュニティーで演奏しているシーンがありました。

マヒト:アメリカって日本よりも露骨に人種差別があるから、コミュニティーを作って自分たちを守ることに対しては敏感なんだと感じた。価値観が多様化しすぎて、ある程度近い価値観の人同士で集まらないとサバイブできないというか、コミュニティーを作って集まる根底にはアメリカの社会状況が理由としてある気がする。

以前、Mean Jeansっていうバンドを日本に呼んで一緒にツアー回ったとき、メンバーが中国系アメリカ人の奥さんを日本ツアーに誘ったらしいんですけど、「日本に来るとレイシズムの対象になるから行きたくない。日本なんか嫌いだ」って言って拒否していたみたいで。外の世界から見ても日本ってそういうイメージなんだって新鮮だった。

でも、俺たちがアメリカツアーのときに1週間彼らの家に泊めてもらったんですけど、日本が好きになったらしくて。今度、新婚旅行で日本行くからみたいな感じに連絡がきたんですよ。シンプルに嬉しかった。

―まさに体験によって生じた変化ですね。

マヒト:そう。政治とか活動家みたいな人って、「構造」を変えることはできるんだけど、芸術や音楽は、そういう問題を体験に変えられる可能性を持っていると思っています。

マヒト:この前、アキ(SEALDs設立者の奥田愛基)と辺野古に行ったとき、ハンガーストライキ(何らかの主張を世間に広く訴えるために、断食を行うストライキの一種)をやっている仁士郎くん(「辺野古」県民投票の会、代表・元山仁士郎)に会ったりして。いろんな立場の人が様々なアクションをするんだけど、自分に役割があるとすれば、目に見えた問題に温度を与え、個人のものに立ち返らせることなんだろなって感じた。語る景色の向こう側に友人や大切な人の顔が浮かぶような、それは最短で議論の帰結を目指す学者たちが語る口からは省かれた顔たちなんです。

―芸術や音楽の力は「問題」を「体験」に変えられる。

マヒト:理路整然と隙がないようにしないと戦えない、みたいな前提がどこまで必要なのか? そもそも人間はよくわからない存在として生まれてきたわけで。

たとえば、辺野古の話(辺野古米軍基地建設の埋立ての賛否)でも、その背景にいろんなものがあって、県外の人間が「反対」って言えない雰囲気はあるんですよ。でもシンプルに、理屈ではなく「嫌だな」って思うものはそのまま嫌でいいと思う。動物的な感覚に立ち返り、もっと不完全なままその曖昧さを許容してもいいと思う。

マヒトゥ・ザ・ピーポー『不完全なけもの』(2019年)を聴く(Apple Musicはこちら

正しいことを発していて、正しい気持ちでいるつもりでも足元を見たら花を踏んづけてる、みたいなことが日常的に起こっている。

―これまで理屈で割り切れないことを、無理やり整理してきたという歴史があると思うんです。そのために政治や法律、宗教が役割を果たしてきた。でも理屈では整理しきれないからこそ、人種差別や身分制度のような歪な歴史的事実が存在してきたわけで。それが今、いよいよ不可能になっていることに、世界レベルで向き合っている時代なんだろうなと感じます。それはもちろん健全なことですけど。

マヒト:今、目の前に見えていること全部に背景があって、構造に影響を受けているんだけど、その瞬間に気づけることと、気づけないことってあるじゃないですか。たとえば、今朝、来るときに牛丼食べてきたのだけど、世界中の人が全員ベジタリアンになったら地球温暖化は終わるって言われているんですよね(「完全菜食主義食が世界規模で広まれば、2050年までに温室効果ガスを3分の2削減できる」とオックスフォード大学が2016年に発表。出典:Oxford Martin School / 外部リンクを開く)。

マヒト:南米とかアフリカ大陸の森林が地球上の酸素の大部分を供給しているのに、牛の餌になる大豆の畑にするために焼き払われるみたいなことが起こっていて。その背景には、人間が牛肉を食べすぎて、高く売れるからって理由がある。

結局、自分たちが安いお肉を食べるのは、環境破壊のうえに利益を得ている企業を応援していることと一緒で。それは卵も同じ。雌鶏をずっと昼間だと勘違いさせるためにライトをあて続けて、卵を産ませる機械にして、安い、資本主義的に扱いやすい卵を産ませ続けている。それを自分たちが食べるってことは、そういうふうに生命を扱っている企業への投票なんですよね。

―安価な肉や卵を食べるっていう日々の行動が、間接的にかもしれないけど、環境破壊に繋がっていると。

マヒト:一人ひとりに地球温暖化に賛成しているかって聞いたら、みんな賛成してないって言うと思うんですよ。でも参加はしてる。今、自分が置かれている社会の背景とか、どういう構造のなかにいるかってことを全部理解するのはすごく難しいし、いろんな構造のなかに巻き込まれて存在しているから、自分も含めてめちゃくちゃ矛盾している。

自分が正しいことを発していて、正しい気持ちでいるつもりでも足元を見たら花を踏んづけてる、みたいなことが日常的に起こっている。その構造に全部参加しないでい続けるのは無理なんだけど、少なくとも自分が巻き込まれている構造について考えていかないと辻褄が合わなくなる。

人をコントロールしやすくするために、構造によって価値観の根底に刷り込まれてる偏見がたくさんあって。

―構造や背景を知ろうとすることが大事で、そのうえで、どう生きるかが問われている。

マヒト:でも、はっきり言ってしまえば、俺も何も答えなんて持ってないんですよ。答えに近づく道があるとすれば、いろんなものに疑問を持ち続け、想像し続けるだけで。俺、断言できるんですけど、「答え」を言い切って押しつけてくる人のことはこの先、疑ったほうがいい。

昔みたいに、カリスマとかヒーローみたいな存在が、ひとつの強い価値観で象徴する時代は終わった。過去にパワーを持っていた写真家も足元すくわれているし、スターだったお笑い芸人も全然笑えない状態に仕上がっている。アートの世界でも政治の世界でも、今までみたいにパワーで押しとおせなくなっている気がするんです。それは前進している過程だと思う。もっとダメなものは消えてしまえばいい。利益を上げてる構造側の人間が延命のために鎖国状態を作って均衡を保ってる。破壊したい。

―たとえばセクシャルマイノリティーに対する差別発言は、社会的に許されるものじゃないという意見が当たり前になりつつあります。

マヒト:でも、マイノリティーと呼ばれる集団が、ひとつの大きな構造に立ち向かうために数を集めて束になっても、数と数の戦争をしたら結局同じことだと思っていて。一番強いのは、一人ひとりが圧倒的に超越した個人でいるということ。

―それは、右へ倣えが美徳とされてきた日本では一番難しいことかもしれないですね。

マヒト:そう。1億2000通りの神様を持った集団がいるという状況が一番コントロールしにくくて、最も怖い。だからこそ国家は、コントロールしやすくするために、何パターンかのカテゴリーを作るわけなんですけど。家父長制っていうのは構造みたいなものを理解させる一番身近な仕組みなんですよね。家族は子どもが成長していくときに最初に直面する社会で、そういう国が作ったルールがこの世界の構造のもとで生きる下準備になっている。

―そう考えると、人が構造から逃れて生きるのは不可能に近い。

マヒト:そしてその構造によって価値観の根底に刷り込まれてる偏見がたくさんある。たとえば、ゴキブリを見たら直感的に気持ち悪いと感じるんだけど、実はその直感もコントロールされているんですよね。実際はカブトムシと大差ないのに、「ゴキブリは汚い」っていうイメージが刷り込まれた構造を俺たちは生きている。

それは白人至上主義も同じような話で。黒人を蔑むように扱ってきた映画とかテレビに子どもの頃から接さざるを得ない環境だと、「黒人は自分たちよりも下の存在なんだ」って認識が刷り込まれてしまう。

だから「直感」って感覚としてはすごく大事なんですけど、言葉としては疑う必要があるなって思うんですよね。その言葉自体、プロパガンダの影響を受けているし、疑わないと間違えてしまう。

直感を信じるよりは、違和感を信じるほうがより答えに近いんじゃないかなと思っていて。

―そもそも社会とか構造に対する疑問がマヒトさんのなかで立ち上がったのは、いつ頃からなのでしょうか?

マヒト:アメリカツアーは間違いなく大きくあります。ツアーの過程でネイティブアメリカンのところに行って、迫害されてきた人たちに会ってその背景を知ったときに、「すべての白人があなたたちの敵というわけじゃない」なんて言えない雰囲気があって。白人に迫害されてきた歴史を自分は通過してないから、同じ意見が全然通らないというか。肌の色で判断するなよってまったく言えない雰囲気があったのが衝撃的だった。

―ドキュメンタリーではナバホ族のコミュニティーを訪れますよね。そこで、「日本や中国、沖縄はみんなひとつだ」と語っていた方が、「でも、白人だけは違う」と繰り返し訴えていました。

マヒト:あのとき、アメリカツアーで自分が出会ってきた友達の顔が浮かんだんですよ。だから、白人をひと括りにするのは違うと思うんだけど、その場では言えなかった。「正しさ」には本当に種類が多いなと思う。その人の生きてきた背景に密接に関係しているから。

GEZAN『Silence Will Speak』を聴く(Apple Musicはこちら

マヒト:逆に言うと、個人の生きてきた時間のなかにこそ正しさはあって、もっと体験を生きるべきだと思う。「客観」なんて言葉は無意味だし、そんなものはコントロールしたい側が作り出した幻想なんですよね。都合のいい「正しさ」を正当化したいから「客観」という言葉を作った。

―構造というものが前提にあって、直感すらも刷り込みによって形成されていて、客観的な正しさは存在しえない……ここまでの話を整理すると、問い続けること、考え続けることをやめてはいけないことだけは、たしかなことなんでしょうね。

マヒト:自分はそういう直感を信じるよりは、違和感を信じるほうがより答えに近いんじゃないかなと思っている。直感は間違いないって信じているからこそ、一番コントロールしやすいんですよ。それはピュアって言葉も同じだと考えていて。純血、純日本人とか、そういう混じり気のないものを美徳とする信仰は力を持ちやすくて、危険。たとえばナチスの思想もピュアの極致だから。

LGBTとかフェミニズム、人種差別とかにまつわる声が多くあがっているのは、新しい時代に直面しているからなんだと思う。

―なぜ今、マヒトさんのなかで「ピュア」という言葉が引っかかるのでしょう?

マヒト:それはこの先、もっとハイブリッドな、いろんなものが混在した時代が来ると思っているから。それは、カリスマとかヒーローが存在できなくなることとも全部繋がっているんです。フェミニズムやジェンダーのことも同じ話で。

中国でHIVに免疫のある遺伝子操作をした子どもが生まれたってニュースがあったじゃないですか。これまでのピュアであることを美徳としていた時代では、一番不変なものとしてDNAや遺伝子を念頭に置いていた。でも、その遺伝子自体が変動しうる時代が目の前に来ているんです。科学の好奇心っていうのは一度芽生えたら止められないから、この先もっともっと加速すると思う。

マヒト:たとえば今、ガンの特効薬をお医者さんが一生懸命探しているけど、これから生まれる子どもに対して、ガンに抗体のある遺伝子操作ができるとしたら全然すると思うんですね。でも、DNAが変わりうるってことは、その先の枝分かれにある全ての価値基準が揺らぐということ。だから今、クィアや人種差別とかにまつわる声が昔より多くあがりはじめているのは、新しい時代に直面しているからなんだと思う。

―DNAの揺らぎが、私たちが直面しているあらゆることに直結していると。もう少し噛み砕くとどういうことなのでしょうか?

マヒト:ベーシックが揺らいだ先で、もっと複雑な認識と向き合わざるを得ない。AIやロボットは心を持てるのかみたいな議論もそう。遺伝子組み換えで、黒人のDNAから肌の色素の黒い部分を抜いて生まれた人は、白人なのか黒人なのか。コントロールできてしまえるものに従来の差別が通用するはずがない。ピュアが死滅して、ハイブリッドに混乱した時代が来る。今あがっている警鐘はその時代へのはじまりの合図なんじゃないか。そんなこと意識して声をあげていないと思うけど。

―SFみたいな話ですけど、DNAの揺らぎが人類の歴史の重大な転換点となるというか。

マヒト:そうだと思う。今まで存在した男と女、白人か黒人か黄色人種か、みたいな分類がさらに細分化してカテゴリーの限界値を超える。単純にミックスしている割合もそうだけど、遺伝子組み換えをした白人とか、9割ロボットで1割だけ人間の部分が残っている人とか、全然ありうる。そうなると、今まで差別が優位としてきたものが適用できなくなっていくんです。それはもうすでにはじまっている。

―私たちは新しい時代の入り口に立っている、と自覚するだけでも社会の見え方が変わるような気がします。

マヒト:先ほどのヒーローの話と同時代的なことだと思っていて。もちろん構造は相変わらず強いけど、確実に危うくなってる。だからこそ、そういう構造にいかに参加せずに個人が超越して自分の法律を作ってくしかないんだろうな。でもこれ、すごいアナーキストみたいな発想に聞こえるかもしれないけど。

この時代に居心地のいい音楽をやってるやつは、100:0でクズだと思うんですよね。

―マヒトさんはアナーキストって言いましたけど、構造をこの社会の基本ルールと考えると、資本主義をベースにした経済社会そのものすらもその範疇になりますよね。それも疑うとなると、一般的な感覚では難しい部分があることは否定できないです。

マヒト:でも、体制側の危うさはみんな薄々は勘づいてるはずなんですよ。でも、疑問なのは「構造が嫌だ」ってことを言うのに、その構造のなかで成功したい、評価されたいっていう矛盾があって。それは、自分の周りのミュージシャン全員に言いたい。その意味がわからない。構造なんて壊せばいいし、作ればいいって、俺は本気で思ってるんで。

―こういう複雑多様化した時代に音楽を作って鳴らす、というのは簡単なことではないんだろうなと思います。

マヒト:この時代に居心地のいい音楽をやってるやつは、聴いてくれる人に対して現状維持のために麻酔を打ち続けているような状態で。俺、それ100:0でクズだと思うんですよね。俺はそういうサロンみたいな、居心地よく今を肯定する音楽はいいとは思えない。

マヒト:現状に疑問符を投げかけられない音楽とか表現とか、企業とか個人もそうですけど、そういう存在は大きな構造のお膳立てをしているだけで、必要ないと思う。GEZANの持ってる歪さはただその混乱をそのまま表現しているだけです。

それを優しいと感じる人はそういう混在したハイブリッドな感覚がある人だと思う。揺さぶられることを拒否して、サロン的に毎日をなんとか繫ぎ止め、前に進めていきたいって人にとってはもうノイズですよね。必要な人のところに届く分のプロモーションでいいかなって俺は思ってる。

友達と集まっている場所だってひとつのコミュニティーなわけで、そこ大事にするほうがよっぽど政治だと思う。

―構造を変えるのは、活動家や政治の役割だと話されていましたよね。マヒトさんのなかには、どうしたって構造を変える必要があるという考えがあるけど、自分はあくまで音楽家であるという自負もある。そのうえで、「これが俺らの政治なんで」っていう去年の『全感覚祭』のMCの言葉の真意をお聞きしたいです。

マヒト:あれは皮肉です。政治って言葉を使ったとき、最初に浮かぶイメージは胡散臭い政治家の顔じゃなくて、家から駅までの道だとか、好きな友達とカラオケに行ったり、クラブに行ったり、スタジオに入ったり、そういうことが浮かぶべきだと考えていて。政治って、今はシンパシーも何も感じないやつらによる足の引っ張り合いの茶番劇を象徴する言葉になってるけど、本来はもっと血とか生活と密接な言葉であるべきで。

『全感覚祭2018』の模様。『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』より(©2019 十三月 / SPACE SHOWER FILMS)

―政治という言葉のイメージを塗り替えようと考えているのでしょうか?

マヒト:うーん……社会運動がしたいわけじゃないんですよ。2人いればもうそこには政治があると思うし。実際、友達と集まっている場所だってひとつのコミュニティーなわけで、そこ大事にするほうがよっぽど政治だと思う。変な話、カラオケで次に何の曲を入れるかも政治なんですよ。だってパーティーを途切れさせたくないから。

「RADWIMPS入れる?」みたいな。そういう行為も俺にとってはポリティカルなんですよ。茶番劇的なものとして使い古された政治という言葉を自分たちのもとに取り返すって言うと、どうしても語弊も含まれちゃうんですけど、GEZANや『全感覚祭』でやってることはそこに行き着くかもしれない。政治がもっと身近で優しい響きになればいいのに。帰るべきところに帰すって話ですね。

あらゆることに疑問を持つこと、いろんなことを知っていくことは、唯一カウンターの条件だと思う。

―では、何がマヒトさんを動かしているんですかね。

マヒト:違和感かな。社会の違和感に対する警鐘。ドキュメンタリーもそうだし、GEZANもソロもそうだし、これから作っていくことも全部、レベルミュージックだと思ってくれればいい。今これだけ混乱してる世界で表現が血を流してないとしたら、それこそオルタナティブとしての存在価値はないでしょ。

―社会とかリスナー含めた身の回りの人を、よい方向に導きたいと考えているんですか?

マヒト:破壊衝動みたいなものに近いというか。誰かを変えて何かいいほうに導くというよりは、今の構造を理解して、消えるべきものは壊していくみたいなほうが自分の気持ちにはフィットする。自分の考え方とか、自分の存在はもうはっきり言って著作権フリーみたいなものなんで。

―GEZANの音楽には激しさとか鋭さもありますけど、すごく優しいと思うんです。この前、マヒトさんが「新しい世界では価値観も倫理観も変わるし、優しさだって変わる」って言っていましたけど、ハッとさせられつつも納得して。

マヒト:背景が変わり、自分がオルタナティブな存在でいたつもりが構造の側にいたなんてことは平気であると思うし。

マヒトゥ・ザ・ピーポー『やさしい哺乳類』(2019年)を聴く(Apple Musicはこちら

マヒト:ある意味では今日話したことは全部優しさの話ですよね。優しさについて考えるにあたって、まず自分がどういう構造に巻き込まれているのかっていうことにピントを合わせないといけない。そうじゃないと、優しさなんて成立しなくなるから。

―誰かに優しくするということは、限りなく正しいことだと思うんです。でも、それが一体どういうものであるのかに考えを巡らせられないまま放たれた優しさは、果たして本当の優しさなのか。そのことについては、考える必要がありますよね。

マヒト:だからね、いろんなこと知らなきゃダメですね。疑問を持つこと、いろんなことを知っていくことは、唯一カウンターの条件だと思う。

作品情報
『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』

2019年6月21日(金)からシネマート新宿ほか全国で順次公開

監督:神谷亮佑
音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
出演:
GEZAN
神谷亮佑
青葉市子
テニスコーツ
原田郁子(クラムボン)
THE NOVEMBERS
行松陽介
UC EAST
imai
踊ってばかりの国
HIMO
呂布カルマ
やっほー
ほか
上映時間:88分
配給:SPACE SHOWER FILMS

リリース情報
マヒトゥ・ザ・ピーポー
『やさしい哺乳類』(CD)

2019年4月24日(水)発売
価格:2,300円(税込)
十三月 / JSGM-31

1. ゆうれいの恋
2. まだあの海が青かったころ ft 鎮座DOPENESS
3. Never cry if you want to fly
4. 超正義
5. flower me
6. 待夢
7. さよならグレーゴル
8. Slow flake

マヒトゥ・ザ・ピーポー
『不完全なけもの』(CD)

2019年2月6日(水)発売
価格:2,300円(税込)
JSGM-31

1. Wonderful World
2. HEAVEN SEVEN DAYS
3. frozen moon
4. 失敗の歴史
5. めのう
6. コトノハ
7. かんがえるけもの
8. Holy day

書籍情報
『銀河で一番静かな革命』

2019年5月23日(木)発売
著者:マヒトゥ・ザ・ピーポー
価格:1,620円(税込)
発行:幻冬舎

イベント情報
『十三月 presents 全感覚祭 19 -NEW AGE STEP-』

2019年9月21日(土)
会場:大阪府 堺 ROUTE26周辺
料金:無料(投げ銭制)

2019年10月12日(土)
会場:千葉県 印旛日本医大 HEAVY DUTY
料金:無料(投げ銭制)

プロフィール
マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年、バンド・GEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。2011年、『沈黙の次に美しい日々』をリリース。全国流通前にして「ele-king」誌などをはじめ各所でソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。2014年、kitiより2ndアルバム『POPCOCOON』発売。2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム『Delete CIPY』をK-BOMBらと共に制作、BLACK SMOKER recordsにてリリース。また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル、十三月の甲虫でリリースしたり、野外フェスである全感覚祭やZINE展を主催したりとボーダーをまたぎ自由なスタンスで活動している。



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