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大友良英が『いだてん』に感じた、今の時代に放送される必然性

大友良英が『いだてん』に感じた、今の時代に放送される必然性

『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』、『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:新妻和久 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

海外で活躍してきた大友が感じる、異なる文化との関わり方

―『いだてん』のサントラ第2弾と同時期にリリースされた『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』は、大友さん個人の歴史を振り返るところもあって共通点を感じました。1990年代に香港で制作された楽曲も入っていますね。

大友:『スタントウーマン 夢の破片』(1998年 / アン・ホイ監督)や『喝采の扉 虎度門』(1997年 / シュウ・ケイ監督)ですね。1990年代半ばの劇伴の仕事は本当に香港しかやってないから貴重な音源ですよ。香港ではやった仕事はほぼ全部サントラ盤になったんですが、『スタントウーマン 夢の破片』だけが未リリース。特に気に入ってたから、今回はぜひ入れたいと思いました。

大友良英『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』ジャケット
大友良英『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』ジャケット(Amazonで購入する

―当時の香港の空気が感じられる気がします。

大友:実は、東京のミュージシャンたちによる東京録音だったんですけどね(笑)。ただ、当時の香港の感じは出せてるとおもってます。猥雑でパワフルな感じは、いまの香港からは失われたものだと思います。それと、当時の自分の環境を思い出しちゃいますね。ただ、まったく別の意味でいまの香港はものすごくパワフルですけど。

1990年代、自分の活動の半分はヨーロッパとアメリカで、残りの1/4くらいが香港。日本での活動はすごく少なかったんです。海外の仕事で面白かったのが、特にヨーロッパでは国境を越えてみんないっしょに仕事をしていたこと。車で移動できるから、フランスの人とドイツの人がバンド組んだりして、お互いさほど上手ではない英語でやりとりして、音楽を作っていて。それを見て、すごくうらやましいと思ってましたね。

 

―うらやましい?

大友:当時はインターネットもない頃だから、コミュニケーションも大変だったんです。欧米や香港は英語でなんとかなるけれど、たとえば韓国なんて地理的に日本と近いのに、まるで言葉が通じない。中国本土もそうで。

それにいまもそうだけど、国同士の仲の悪さってあるでしょ。ドイツとポーランドなんてお互いに超悪口を言い合うんですよ。でも、いざ音楽となるとミュージシャンはそれを跳ね飛ばしてつながっていける。この頃に見たそういう風景から、アジアにも音楽のネットワークを作りたい、と強く思うようになりました。

―それが現在の「ENSEMBLES ASIA / アンサンブルズ・アジア」などの活動につながっているんですね。それを経ての『いだてん』みたいな音楽世界があるわけですから、『GEKIBAN2』と『いだてん』のサントラを続けて聴くと、この30年弱の大友さんの旅路がわかるんですね。

大友:そうですね。だから、前半の金栗さんや嘉納治五郎が海外に行って、なんとか海外とつながろう、日本にオリンピックを持ってこよう、って気持ちは痛いくらいわかるんです。オリンピックって要は音楽でいえばフェスなので。まるで自分を見ているよう。

金栗さんが「JAPAN」じゃなくて「NIPPON」って書かれたプラカードを掲げたいって思った気持ちもすっごいよくわかるんです。微かな抵抗として、自分はYOSHIHIDE OTOMOではなく、ある時期からOTOMO YOSHIHIDEと名乗るようになりました。グローバルスタンダードに合わせないといけないのはもちろんわかるんだけど、それってほとんどはヨーロッパの基準で、そのことにイラっと来るんですよ。

大友良英

―ヨーロッパのルールに従うのが当然というような雰囲気に、でしょうか。

大友:そうです。でもだからといって、素朴な国粋主義になっちゃうのもダサい。他の価値を認めないで自分の価値だけが正しい、なんて考えるのは弱虫の発想だと思います。いろんな国のいろんな考え方を、どう受け止めるかってことでしか世界はうまくいかない。そのためには、まずは自分も考え方を表明しないと。名前がその最初の一歩でした。

当時ヨーロッパに行くと「禅の影響は」って必ず聞かれたんです。すごい嫌でしたよ、安易なステレオタイプで見られることが。だから自分が海外と接するときは、かつてヨーロッパが犯したその手の過ちを繰り返したくないし、日本が過去にやってしまった国粋主義や排外主義にも陥りたくない。じゃあどうするか? ってことを1人で海外に行ってた1990年代は真剣に考えてたので、『いだてん』時代の人たちの気持ち、自分のことのようにわかるんです。

―そういう大友さんから見て、1990年代と現代では時代のマインドは変わったと思いますか? あるいは20世紀と21世紀で違いはありますか?

大友:20世紀のカルチャーは、みんながやったほうがいいものをみんなでやるっていう時代ですよね。みんな同じものを楽しんだり受け取ったりすることでなるべく平等になっていくって発想。スポーツも音楽もそう。

でも、いまは「みんなが聴かなくてもいいけど、面白いものはいっぱいはある」って時代でしょ。だからオリンピックみたいな全世界を巻き込むイベントのカウンターとして、小さくてジャンルの細分化されたフェスが世界中に出てきた。世界中で「みんな同じ音楽をやりましょう」って変だし、嫌ですよね。

大友良英

ーたしかにそうですね。

大友:宮藤さんの脚本がいいなと思うのも、その変化とちゃんとつながってるところなんです。男女差別の問題とかも含めて、当時の人が意識してなかったことを、いろんな変化球でちょいちょい突っ込んでいくでしょう。現代的な視点が入ってくることで作品がより立体的になってるように思います。

『いだてん』、視聴率的にはなかなか苦戦してるけれど第1部の最後で空気が変わった気がするんですよ。オリンピックの歴史は、少し勉強が必要だった。でも、関東大震災の場面を通して、東日本大震災のこと、被災した記憶、避難所の記憶を思い出した人はいっぱいいたと思うんですね。

―つまり、自分ごととしてドラマを見られるようになった。

大友:その意味では、これからの『いだてん』は、直接的に現在につながる話になってきます。そこには喜びもあれば時代の中でどうにもならなかった切実な歴史も出てくる。それを見ている人に伝える助けに劇伴がなっていけばいいな、と思ってます。

大友良英
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リリース情報

『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』(CD)
大友良英
『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』(CD)

2019年7月24日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-65225

1. いだてんメインテーマ 歓声入りVer
2. 金の男
3. 田畑のテーマ
4. 闘う女子
5. 変貌
6. Far East
7. 新世代
8. グロリアス!
9. 孝蔵のブルース
10. 河童のテーマ
11. にらみあい
12. 夢見る人
13. 覚悟のとき
14. Team TABATA
15. 焼け野原
16. 空のうた
17. 勝のテーマ
18. 新富久マラソン
19. 戦争と平和
20. スタディオン
21. ユートピア

『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』(CD)
大友良英
『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』(CD)

2019年7月24日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-65226

1. 鈴木先生のテーマ
2. 日常のテーマ
3. テーマ・いざ隠岐島へ
4. クライマーズ・ハイ オープニングテーマ
5. しあわせ色写真館
6. アイデン&ティティのテーマ
7. 浄念のテーマ2
8. トットてれび オープニングタイトル
9. トットの行進曲
10. 兵士とハイビスカス
11. 鬼太郎が見た玉砕 エンディングテーマ
12. 撃てない警官
13. スタントウーマンのテーマ
14. 決闘のテーマ
15. 太陽
16. “やっぱり、かえろう”篇
17. 歌おうマーチ
18. バカボンのパパよりバカなパパのテーマ
19. 風花
20. 兵器のある風景
21. 希求2
22. 三里塚に生きる
23. 対立
24. 虎度門 オープニングテーマ
25. 虎度門 エンディングテーマ
26. クライマーズ・ハイ
27. 島のテーマ

プロフィール

大友良英
大友良英(おおとも よしひで)

1959年横浜生れ。十代を福島市で過ごす。常に同時進行かつインディペンデントに即興演奏やノイズ的な作品からポップスに至るまで多種多様な音楽をつくり続け、その活動範囲は世界中におよぶ。映画音楽家としても数多くの映像作品の音楽を手がけ、その数は70作品を超える。近年は「アンサンブルズ」の名のもとさまざまな人たちとのコラボレーションを軸に展示する音楽作品や特殊形態のコンサートを手がけると同時に、障害のある子どもたちとの音楽ワークショップや一般参加型のプロジェクトにも力をいれ、2011年の東日本大震災を受け福島で様々な領域で活動をする人々とともにプロジェクトFUKUSHIMA!を立ち上げるなど、音楽におさまらない活動でも注目される。2012年、プロジェクトFUKUSHIMA ! の活動で芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門を受賞、2013年には「あまちゃん」の音楽他多岐にわたる活動で東京ドラマアウォード特別賞、レコード大賞作曲賞他数多くの賞を受賞している。

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