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サンティアゴ・バスケス×芳垣安洋が信じる、即興音楽の対話力

サンティアゴ・バスケス×芳垣安洋が信じる、即興音楽の対話力

『True Colors Festival』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
編集:石澤萌、川浦慧(CINRA.NET編集部)

LA BOMBA DE TIEMPOのアルバムを初めて聴いた時は、「これは一体、どういうシステムでやっているのだろう?」と戸惑いましたね。(芳垣)

―そもそもサンティアゴさんは、どんなきっかけで音楽を始めたのですか?

サンティアゴ:6才くらいから、家にある箸などを使って「あらゆるもの」を叩いてその音を楽しむということをしていました(笑)。それに合わせてメロディを作ったり、それをカセットに録音したり……最初から「即興音楽家」のつもりだったんでしょうね。いわゆる「ドラマー」に憧れていたり、ドラムセットが欲しかったりしたわけではなく、リズムそのものに純粋に興味があったというか。

当時アルゼンチンは独裁政権だったので、そこから逃れるため私が4才の頃には家族でスペインに移住していたんです。音楽を始めるようになったのもスペインですし、ドラムレッスンを始めた10才の頃にはすぐに「プロになりたい」と思っていましたね。ドラムだけでなく、第二楽器としてピアノも習っていたのもあって、そこで和声も学びました。

―まずはドラムから音楽家としての人生をスタートさせたんですね。

サンティアゴ:はい。でも、そのうち自分の音楽を表現するのにドラムだけでは物足りなくなってきて、様々なパーカッションをマスターしていきました。ブラジルやモロッコ、インド、ウルグアイなど、ツアーや旅行で海外へ行くたびに、現地の楽器を買ったり習ったりして。そのうち米国カリフォルニア州の「カルアーツ」(California Institute of the Artsの略称)という芸術大学への留学が決まり、そこではタブラなどを習得しました。Puente Celesteを結成したのは、カルアーツを卒業してブエノスアイレスに戻ってすぐでしたね。

サンティアゴが所属していたPuente Celeste。動画は脱退後の2013年の公演のもの

―芳垣さんがサンティアゴさんと初めて会ったのは?

芳垣:確か2006年にサンティアゴが初来日した時ですね。当時フアナ・モリーナ周辺の音楽が、「アルゼンチン音響派」という日本独自のネーミングでカテゴライズされて話題になっていました。その流れで2002年にフアナが初来日を果たし、帯同していたフェルナンド・カブサッキ(ギタリスト)が「次に日本へ来る時にはアルゼンチンのミュージシャンを何人も連れてきたい」と話していたんです。それで実現したのが2006年に実施された『アルゼンチン音響派スペシャルユニット+山本精一+勝井祐二ツアー』です。

サンティアゴ:アレハンドロ・フラノフらと共に日本に行く前、カブサッキが勝井祐二さんと山本精一さんをブエノスアイレスにお招きしたんですよ。それで一緒にスタジオに入ってレコーディングしたのですが、日本にはこんなにも自由な即興演奏を行なうミュージシャンがいるのだという事実に驚きました。その後初めて日本を訪れ、芳垣さんを含め多くの日本人ミュージシャンとお会いする機会があって、日本のインプロシーンにさらに興味を持つようになっていきました。

芳垣:その時に「一緒にスタジオ入ろう」という話になったんだよね。岡部洋一や高良久美子、内橋和久、GOMAくんも参加して、Anima Mundi名義で『PRIMER ENCUENTRO』と『SEGUNDO PUENTE』という2枚のアルバムを作ったんです。

サンティアゴ:芳垣さんには、会った瞬間に強い繋がりを感じました。以前から私の音楽を知っていてくださったこともあったと思うのですが、話していても、演奏していても、何か通じるものがあるんです。本当に素晴らしいドラマーなのですが、テクニカルな部分だけでなく概念的な部分も含めて共感することが多いです。

2018年8月に新宿で行われた、サンティアゴ・バスケス・スペシャルバンドの公演。サンティアゴと芳垣が共演し、演奏に「ハンドサイン」を用いている

芳垣:その頃はもう「LA BOMBA DE TIEMPO」を始めていたんだよね? 僕もバッチ・モリスの「コンダクション」に参加したことがあるし、ジョン・ゾーンの「コブラ」(ゲームスタイルを取り入れた即興演奏のスタイル)にもずっと関わっていたから、サンティアゴの提唱する「ハンドサイン」というコンダクションシステムには、すごく興味がありました。実際LA BOMBA DE TIEMPOのアルバムを初めて聴いた時は、「これは一体、どういうシステムでやっているのだろう?」と戸惑いましたね。半分くらい想像がつかなかった。

「ハンドサイン」で指揮をとるサンティアゴ
「ハンドサイン」で指揮をとるサンティアゴ

麻薬中毒者のリハビリや、刑務所での更生プログラム、発達障害者への療法の一環としても、ハンドサインを使ってくれるようになった。(サンティアゴ)

―「ハンドサイン」のいいところ、用いることの意義とはどのようなものでしょうか。

サンティアゴ:「ハンドサイン」はコミュニケーションツールとして非常にパワフルです。よくたとえに出すのはスポーツ。バスケットボールやサッカーにはルールがあり、それに従ってゲームが進んでいきますよね。「ハンドサイン」というのは、即興演奏をやる上での「ルール」のようなもの。それさえ把握していれば、誰もが演奏の中で自由に自分を表現できるわけです。

ただし、ルールを覚えるためには「ルールブック」のようなものが必要だなと。それで作ったのが『MANUAL DE RITMO Y PERCUSIÓN CON SEÑAS』です。

サンティアゴ・バスケス著『MANUAL DE RITMO Y PERCUSIÓN CON SEÑAS』
サンティアゴ・バスケス著『MANUAL DE RITMO Y PERCUSIÓN CON SEÑAS』

芳垣:僕も持っていますよ(と言って取り出す)。

サンティアゴ:ありがとう(笑)。現在はスペイン語と英語が出ていて、イタリア語版、フランス語版の出版を進めているところです。グループでの活動で言えば、LA BOMBA DE TIEMPO以外にも、例えば「LA GRANDE」(パーカッション以外の楽器奏者も招く即興演奏グループ)や、新たにスタートしたパーカッションユニット「PAN」など様々な活動を行なっていて、そこでも「ハンドサイン」を用いています。

サンティアゴ・バスケス

―現在はドラマー、パーカッショニストとしてだけでなく、セラピストとしての活動も行なっているそうですね。

サンティアゴ:アルゼンチンにはスラム化した「ビジャ」という貧困区域があるのですが、そこで「ハンドサイン」を用いた運動を行なっています。他にも活動を広げていくうちに、麻薬中毒者のリハビリや、刑務所での更生プログラム、発達障害者への療法の一環としても、「ハンドサイン」を使ってくれるようになって。

自分はセラピーの専門家ではありませんし、即興演奏のための「ハンドサイン」が役に立つとは全く想像もしていませんでした。ただ、実際に導入されている現場を見学させてもらうと、彼らの活動から学ぶこともたくさんあります。「ハンドサイン」は楽しいシチュエーションを作り出し、そこで人々が自由に自分自身を表現し合える。子どもたちの情操教育にも使えるし、様々なバックグラウンドを持つ人同士のコミュニケーションツールとしても有効なシステムです。今後も「ハンドサイン」を使った社会貢献活動を積極的に行なっていきたいと思っていますね。

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イベント情報

『True Colors BEATS ~Uncountable Beats Festival~』

2019年10月22日(火・祝)
会場:東京都 代々木公園野外ステージ・イベント広場
料金:無料
出演:
サンティアゴ・バスケス
ermhoi
xiangyu
岩崎なおみ
大友良英
角銅真実
勝井祐二
コムアイ(水曜日のカンパネラ)
フアナ・モリーナ
ミロ・モージャ
YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ×オオルタイチ)
Monaural mini plug
岸野雄一

『True Colors Festival』

「超ダイバーシティ芸術祭」。障害・性・世代・言語・国籍などのあらゆる多様性があふれ、皆が支え合う社会を目指し、ともに力を合わせてつくる芸術祭。1年間を通して多彩なパフォーミングアーツの演目を展開します。アートを通して色々な個性が出会う場に、参加することでより多くの気づきが生まれます。「True Colors Festival」はダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて、新しい価値観が生まれる機会を創出します。

プロフィール

サンティアゴ・バスケス

1972年生まれ、ブエノスアイレス出身。アルゼンチンを代表する打楽器ほか多様な楽器の演奏者、作曲家、指揮者、文化イベントの仕掛け人。ハンド・サインにより複数の演奏者による即興演奏を可能とする「Rhythm with Signs」のメソッドを開発。本年4月にブエノスアイレス市から文化功労者と認定された。

芳垣安洋(よしがき やすひろ)

関西のジャズエリアでキャリアをスタートさせ、モダン・チョキチョキズ、ベツニ・ナンモ・クレズマー・オーケストラ、渋さ知らズなどに参加後上京。渋谷毅、山下洋輔、坂田明、板橋文夫、梅津和時、片山広明、巻上公一、ホッピー神山、大島保克、菊地成孔、オオヤユウスケ、高田漣、ヤドランカ、酒井俊、長谷川きよし、カルメン・マキ、おおたか静流、小島真由実、浜田真理子、カヒミ・カリィ、UA、原田郁子、John Zorn、Bill Laswellなど様々なミュージシャンと共演。現在、ROVO、大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラ、南博GO THERE、アルタード・ステイツや自己のバンドVincent Atmicus、Emergency!、Orquesta Nudge!Nudge!等のライブ活動の他、蜷川幸雄や文学座などの演劇や、映画の音楽制作も手掛ける。
メールスジャズフェスを始めとする欧米のジャズや現代音楽のフェスティバルへの出演や、来日するミュージシャンとの共演も多く、海外ではインプロヴァイザーとしての評価も高い。レーベル「Glamorous」を主宰する。

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