KEN ISHII×ジェフ・ミルズ ダンスミュージックはもっと進化する

大学生の頃いきなりヨーロッパからデビューし、自ら操る機械の発する複雑なトーンだけで世界をあっと驚かせたKEN ISHII。デビューから四半世紀以上を駆け抜け、プロデューサーとしてだけでなく、言葉も文化もまったく異なる地球上のあらゆる場所に赴いて見知らぬ何千何万の人たちを熱狂させるDJとしての人気も不動のものとした。そんな彼が13年ぶりに自らの名前で発表した新作アルバム『Möbius Strip』は、自分が現在できることをすべて出し切ったと断言する、さまざまな要素が入り交じった力作だ。中でも、彼が多大なるリスペクトを表明し、偉大な先輩として長年密かに共作の機会をうかがっていたという孤高のテクノアーティスト、ジェフ・ミルズと一緒に作った2曲はひときわ輝いている。

かなり久しぶりにレコードを使った原点回帰的なDJを披露するというパーティーでジェフが来日し、その晩のサポート役として抜擢されたKENと、熱狂の一夜の数日後に再び顔をあわせた。KENが風邪で喉をやられてほとんど声が出ないという大変な体調をおしての対談だったが、久々の対話はとても盛り上がり、共作の裏話や、エレクトロニックミュージックの未来について熱く語りあってくれた。

ジェフは誰もやってなかったようなことに挑戦していて衝撃を受けた。(ISHII)

―随分昔のことだと思いますが、直接知り合う前のそれぞれの音楽の印象を覚えていますか。

ISHII:元々は純粋にファンでした。かつてジェフがメンバーだったUnderground Resistance(以下、UR)も聴いていたし、彼の活動を通してテクノシーンが形作られてきたようなところもあったから、すごい人がいるなって。URの時代はメディアに顔も出してなかったから、どんな人が作ってるのかなっていう興味もありました。ソロの作品だと、特にMillsart名義で出した“Step To Enchantment”なんかに衝撃を受けたな。誰もやってなかったようなことに挑戦していて。

KEN ISHII(けん いしい)
「東洋のテクノ・ゴッド」との異名を持つ、アーティスト、DJ、プロデューサー。1年の半分近い時間を海外でのDJで過ごす。︎1993年、ベルギーのレーベル「R&S」からデビュー、イギリスの音楽誌「NME」のテクノチャートでNo.1を獲得。1996年アルバム『Jelly Tones』をリリース。このアルバムからのシングル「Extra」のアニメーションMV(映画「AKIRA」の作画監督/森本晃司監督作品)が、イギリスの“MTV DANCE VIDEO OF THE YEAR”を受賞した。2017年にはベルギーで行われている世界最高峰のビッグフェスティバル<Tomorrowland>に出演するなど常にワールドワイドに活躍している。

ミルズ:最初は曲というより、「R&S」(ベルギー発の名門レーベル)から出た“Extra”のビデオだったと思います。ヨーロッパですごく人気があってそれを目にして。その曲のルーク・スレーターのリミックスが気に入ってよくプレイしていたし、後に自分のミックスCD『MIX UP Vol.2』でも使いました。初めて会ったのはいつだったかな。最初に日本に来たとき?

ISHII:いや、香港であった音楽見本市、『MIDEM』で会ったんだよ。1996年だったかな。

ミルズ:そうだった。あのときはデトロイトと東京のDJたちが集まって、テクノサウンドを初めて本格的に中国のリスナーに紹介するっていう機会で。田中フミヤ、石野卓球、デリック・メイなんかも来ていましたね。それ以来、デトロイトと東京のアーティストはずっと強くつながっているし、関係性も築かれてきたんです。

ジェフ・ミルズ<br>1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。Axis Records主宰。DJとして年間100回近く世界中のイベントに出演する。2005年、モンペリエ交響楽団との共演をきかっけにオーケストラの共演を開始。エレクトロニック・ミュージック・シーンのパイオニアでありながら、クラシック音楽界に革新を起こす存在として世界中の注目を浴びている。音楽のみならず近代アートとのコラボレーションも積極的に行い、2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章Chevalier des Arts et des Lettresを授与、2017年4月にはOfficier de la Légion d'honneur Ordre des Arts et des Lettresを授与された。
ジェフ・ミルズ
1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。Axis Records主宰。DJとして年間100回近く世界中のイベントに出演する。2005年、モンペリエ交響楽団との共演をきかっけにオーケストラの共演を開始。エレクトロニック・ミュージック・シーンのパイオニアでありながら、クラシック音楽界に革新を起こす存在として世界中の注目を浴びている。音楽のみならず近代アートとのコラボレーションも積極的に行い、2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章Chevalier des Arts et des Lettresを授与、2017年4月にはOfficier de la Légion d'honneur Ordre des Arts et des Lettresを授与された。

KEN ISHII“Extra”PV

スタジオは新しいアイデアを具現化する場所で、誰にも邪魔されない安全地帯。(ミルズ)

―ジェフさんは定期的に日本に来てプレイしているので日本のこともよく知っていると思いますが、ISHIIさんがジェフさんの故郷デトロイトに行ったり、現在住んでいるパリで会ったりすることもあるんですか?

ISHII:デトロイトは何回か行ってるし、パリもしょっちゅうプレイしに行ってるんだけど、会ったことはないと思います。ヨーロッパだといろんな街の仕事の現場で会うこともあるけど、やっぱり日本で会うことが一番多いですね。

―ジェフさんの目を通して日本の話を聞くというのは割とあるけど、日本のアーティストから「ジェフはパリではこういう暮らしぶりで」とか、「彼のいるのはこういうシーンで」みたいな話はあまり聞かないし、ちょっとミステリアスなところもありますよね。

ISHII:確かに。

―あまりそういった部分をオープンにしていないんでしょうか?

ミルズ:そうですね。プライベートな領域だと思っています。特にスタジオはね。秘密の洞穴みたいなもので、立ち入り禁止。修理の人すら入れないようにしています。どこに何があるかすべて理由があるし部屋のことを全部わかってるというのが大事。仮に何か月か家を空けても同じ状態であることが必要なんです。

新しいアイデアを具現化する場所だし、自分にとっては誰にも邪魔されない安全地帯でもある。誰かがやって来て、思ってたのと違うとかそんな話をするのは聞きたくないし、過去30年間ずっとそうしてきました。

ISHII:DVD『Exhibitionist 2』で、ジェフが曲をどうやって作ってるかちょっと明かしてるっていうパートがあって、Studio Mixって書いてあったけど、あれはスタジオじゃなかったんですね。

ミルズ:あれは僕のオフィスだね。スタジオを公開はしたくなかったからね(笑)。まぁ、見てもそんなにたいしたものではないですよ。

ISHII:でも、その気持ちわかる。やっぱり見せたいとは思わないもの。

ジェフ・ミルズの映像作品『Exhibitionist 2』(2015)トレイラー映像

―そういえばかつてスタジオの話を聞いた覚えがあります。その配置を「Spider Formation(スパイダーフォーメーション)」と呼んで、それを曲のタイトルにもしていましたよね。あれは結構レアケースだったんですか?

ミルズ:そうですね。その頃はちょうどニューヨークに引っ越したばかりで何も家具がなかったんです。それで広い部屋全体をスタジオにすることにしました。テーブルも何もなかったから機材を全部床に置いて、中心のミックス卓をハブに遠くまで広がっていくような、ちょうど蜘蛛の巣みたいな形になった。電源や接続ケーブルがたくさん床を這っていたしね。1992年の作品『Waveform Transmission Vol.1』やX-103(ジェフ・ミルズとロバート・フッドのユニット)のアルバム、Purpose Maker(自身の主宰レーベル)の初期の曲はいくつかそのスタジオで作りました。

昔からいつか機会があったらジェフの音楽を本格的に触らせてもらいたいと願っていた。(ISHII)

―なるほど。今年ジェフさんは回顧的な『Director's Cut』のリイシューシリーズや、コンピ『Sight Sound and Space』をやっていて、これからは新しいチャレンジに向かっていくという話だし、ISHIIさんは日本デビュー25周年で13年ぶりのメイン名義でのアルバムということで、結構大きな区切りとなりそうです。このタイミングでコラボレーションが実現したというのは、どういう経緯なんですか?

ISHII:以前からの憧れもあって、特にここ10年15年ほどのジェフの歩み、いわゆるDJやテクノという枠に収まらない活動をやっている背中を見ていて、すごくかっこいいなと思ってたんですよ。これまでも少し関わらせてもらうことはあったんだけど、昔からいつか機会があったら彼の音楽を本格的に触らせてもらいたいと願っていました。長い間自分名義のアルバムを作れなくていざ作ろうってなったときに、今回ようやくこうして形にできるチャンスが来たから、機が熟したのかなと思い切って頼んでみました。いくつかやりとりした後、ぜひ! ってお願いしたらOKしてもらえたので、本当によかったです。

KEN ISHII『Möbius Strip』を聴く(Apple Musicはこちら

―ジェフさんの場合、かつてのURの仲間、マッド・マイクやロバート・フッドとはありますけど、それ以外でテクノのコラボをしたというのは初めてですかね?

ミルズ:そうなるのかな。KENとのプロジェクトという意味ではまず2003年に“Condor To Mallorca”という曲のリミックスをやってもらって限定盤でシングルをだしたことがあって、次にアルバム『Where Lights End』(2013)の2枚目のディスクでいろいろな日本人アーティストにリミックスをやってもらった企画でも参加してもらった。今回は3回目の試みですね。

ミルズ:KENのことはずっとマエストロだと高く評価しています。特にこのプロジェクトで目立ったのは、彼が曲に異なる視点をもたらすことがすごく上手いということですね。誰かが作った素材をいじったり改変したりするのは簡単じゃない。その証拠に、リミックスがオリジナルに勝ることはあまりない。でも、今回は僕が作ったものより何ステップも高いところに曲を持ち上げてくれました。だから作業中から曲がどんなに風に完成するのかすごく楽しみだったし、アルバムのサンプルをもらってすぐ、日本に来る前に何曲かフロアで試してみたんです。オーディエンスから実に素晴らしい反応を引き出していましたよ!

ISHII:いやぁ、嬉しいなぁ。

ジェフ・ミルズ『Sight Sound and Space』を聴く(Apple Musicはこちら

―既存の曲をリミックスするのと、ゼロからやりとりして曲を一緒に作っていくというのはやはり全然違うものですか。

ISHII:そうですね。リミックスの場合はオリジナルのことはあまり気にせず自分色にしちゃったり、まぁあとはDJが使えるようにっていうのを主に考えて作ったりします。でも、今回の場合は、彼の作ってくれた部分と、自分の部分がフィフティーフィフティーになるように、全体を聴いたときに両方の要素やいいところがすっと入ってくるようにと、そういうことを一番意識しました。実際、リミックスをやるときは原曲の要素は一か所だけ使ってあとは全部自分の曲のように作っちゃうっていう方がやりやすかったりもするんだけど、今回はそうならないように、がんばりました。

今回は「じゃあコンセプトは何かな?」というところからスタートしたから、これまでのコラボ作品とは少し違った。(ISHII)

―ISHIIさんはコラボ作品が結構多いと思いますが、作り方や取り組み方っていうのは相手によって変わってくるのでしょうか?

ISHII:ほとんどの共作で、やはりエレクトロニックの場合はパーツのやり取りをすることが多いんですが、今回は少し違ったんですよね。こっちが少し恐縮しながらお願いすると、まず「よし、じゃあコンセプトは何かな?」ってところからスタートするから。何回かキーワードを挙げたりアイデアを話したり、そういうやり取りをしました。それが一番の違いかな。普通はノリ一発で「やる?」「OK!」みたいな感じだからね。

ミルズ:そうなんだ、知らなかったよ。僕の場合、コンピュータは制作に使ってないし、マルチトラックレコーダーも使わない。つまり、ステムだったりパーツごとのデータを送ることはできないから、2Mixのトラックを送ることになります。

実はこの話をもらった頃、NTS(ロンドンのオンラインラジオ局)の番組をやっていて、その番組で使うためにもとてもたくさんの曲を作っていました。基本はショーで使うためのものだから、曲として完成している必要はなく、90秒とか2分とかアイデアが持続すればよかった。そんなタイミングだったから、未完成のパーツ的なものを元に共作するという提案はちょうどよかったんです。

―今回2曲やっていて、“Take No Prisoners”はドライヴ感のあるTR-909のドラムを中心に後半にKEN ISHIIらしいシンセが絡んできて盛りあがっていくダンストラック、一方の“Quantum Teleportation”はすごく実験的ではっきりしたリズムもないアブストラクトな曲。テクノの2面性というか、両極端にあるようなタイプのものをあえてやったのはなぜですか。

ISHII:“Quantum Teleportation”は最近のジェフが取り組んでる方向性にも近い音だと思うんですが、こういう内容ってテクノが元々持っていた要素なのにみんな忘れかけてるでしょう。それで、僕らがやっていることって本来こういうことでは、と敢えて言いたかったというのもあります。最初ジェフからは、両極端な要素を提示されて、どちらかひとつ選ぶかい? という話だったんだけど、いや両方やらせてくれと答えました。その両方の方向性があって初めて、彼とのコラボレーションがかっちり決まると思って。

KEN ISHII“Quantum Teleportation with Jeff Mills”を聴く(Apple Musicはこちら

ミルズ:“Take No Prisoners”は、ワオ! って声が出てしまうようなトラックです。アフロパンクのような印象を受けると感じました。一聴すると直球のテクノというイメージを持つかもしれないけど、個人的にはもっとインダストリアルでワイルドな曲だと思っています。アルバム全体の構想を聞いて、この2曲でバリエーションをもたせるというのはいいなと感じました。

KEN ISHII with JEFF MILLS“Take No Prisoners”PV

―その“Take No Prisoners”っていうタイトルはジェフさんが付けたと聞きました。

ISHII:そうなんです。最初は自分で考えた仮タイトルみたいなのを付けてたんですが、できた後に聴いてもらったらこれがいいと思うってジェフから提案されて。それで意味を調べてみたら、「なりふり構わず突進する」とか「情けをかけない」みたいな感じで、これはピッタリだなと。

ミルズ:言葉の意味としては、攻撃が相手の殲滅を目的としてるってことなんです。このトラックを聴いて、何に対しても妥協も弁解もないところが、リスナーにトドメを刺すというようなイメージを想起すると思ってタイトルを提案したんです。

大半の人は、ダンスフロアでどう機能するかしか考えていない。一方こちらは宇宙、未知との遭遇、タイムトラベル、パラレルワールド等々を考えている。(ミルズ)

―もう一つの“Quantum Teleportation”というのは、映画『インターステラー』からインスピレーションを得たコンセプトなんですよね。今回改めて「量子テレポーテーション」の簡単な解説を読んでみましたが、あまりよく理解できませんでした。具体的なものやできごとをテーマにするより、こうした抽象的な概念をイメージして曲を作るのは難しくないですか?

ISHII:こっちは僕がタイトルを考えました。映画の後、ずっと自分の中で気になっていた概念だったんだけど、今回もらった曲のパーツなんかを聴いてるうちにそれとガッツリあうイメージだったので。ジェフもすごく宇宙の話をしたり曲のテーマにもしてるわけだし、量子テレポーテーションはこの数年宇宙科学とか物理学の世界でも中心的なトピックのひとつだし、ジェフも気になっていたと思うんですよね。

ミルズ:僕も映画は楽しみました。最初にスケッチ的な曲のパーツを送ったときは特にこういったイメージを元に作ったわけじゃないけれど、KENがそういうイメージを抱いて新たに曲に違う視点を加えた結果こういうタイトルになったわけだから、そういう意味では本物のコラボレーションですね。

クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』

ミルズ:実際、僕がエレクトロニックミュージックのアーティストとあまり一緒に曲を作ったりしないのは、このジャンルの中だと誰とやってもそんなに大きな違いがあるわけじゃないと思っていたからなんです。最初にアイデアを語り合って、まずは自分のやり方でベースを作り、次に別の視点を見つけて、それらを主題に沿って再接続させるというプロセスはとてもおもしろい。実際、他のアーティストとももっとこういうことをやってみてもいいかと思いましたよ。

ミルズ:ただしひとつ難しいのは、エレクトロニックミュージックのアーティストで、コンセプトを考えたり作ったりする人はほとんどいないということです。大半の人たちは、ダンスフロアでどう機能するか、グルーヴィーなビートを作って踊らせたり、皆が気持ちよくなって手を挙げるような展開はどう作ればいいか、そんなことしか考えていない。一方こちらは宇宙、未知との遭遇、タイムトラベル、パラレルワールド等々、そういうことを考えて境界を越えていこうとするわけだから、やはり一緒に作品を作る相手を見つけるのは簡単じゃない。

これからもっと跳躍していくためには、立ち止まって同じことを繰り返してる場合じゃない。(ミルズ)

ISHII:今の話を聞いて思いだしたんですが、ジェフの作ってくれたパートはすごく自由で、特に“Quantum Teleportation”になった方のネタはテンポも一様じゃなく、流れるような曲でした。だから、それを発展させていくっていう作業も実はすごい大変で。途中でビートが出てきたりもするんだけど、それをどうやってはめるのかもかなり試行錯誤しました。ミックスをするのにソフトを立ち上げて作ろうとすると、10か所とかそれ以上細かく異なるパートがあるので、どこをどうやって使うか散々悩みました。

ジェフが言ってたように、今のダンスミュージックって「ほらこういう感じならいいだろ、盛りあがってはい終わり」みたいなものがほとんどなんですが、自分も彼と同じように、音楽にもう一つアイデアだったり、何か感じてもらえるものを加えたいと思ってるから、すごくやりがいのあるチャレンジでした。

ミルズ:このジャンルは35年くらいの歴史があって、ハウス、テクノ、ヒップホップ等々の広がりをもって、大勢のプロデューサーがいるにも関わらず、その人たちがただダンスフロアで踊らせるためだけに創作してるっていうのは本当にもったいないと思います。35年という歳月を振り返ると、まだまだ我々はスタートを切ったばかり。他のジャンル、アートフォームのことを考えたら歴史も浅いし、やれることはいくらでもあるはずです。これからもっと跳躍していくためには、立ち止まって同じことを繰り返してる場合じゃないんです。

エレクトロニックミュージックは本来なにをやっても自由で、好きなことが表現できるはず。ルールとか縛りとかそんなことを気にしなければ、結果としてもっと色々なことができる。オーケストラと共演するのも、映画のために音楽を作るのも、他のアーティストと共作するのも、その一端なんです。

引かれた線を越えるたびにミュージシャンとして磨かれる。それを持ち帰って、違う視点をもたらす。そうやってジャンルは進化していく。(ミルズ)

―なるほど。今の話を聞いていて、広がっていく、もっと先へ進むためにも人と一緒にやってみるというのが手段としてとても大事というのはわかったんですが、一方で打ち込みで音楽をやる人は一般的に「メンバーを集めなくてもいい」「ひとりで全部完結できる、コントロールできる」みたいな動機で始めるケースが多いですよね。

ISHII:もちろん、自分も最初はそうでした。ただ25年もやっていると、枠というか自分ひとりでできることがこのくらいかなというのが見えてきちゃうし、それを飛び越えてとんでもないところに行くってことがあまりないのかなと感じます。でも、人とやることで普段考えてなかったアイデアが出てきたりとか、音楽的な新しさだけじゃなくて、「あぁこういう作り方、こういう考え方もあるんだ」っていうような新しいインプットが生まれてすごくプラスになるんですよね。

必ずしも相手から予想していたような球が投げられるとは限らないんだけど、それに向きあうことで普段使わない頭の箇所を刺激してくれて、自分が拡大する感じがすごくある。僕にとってはそれがすごく重要だと思うんですよ。

ミルズ:まったくその通りだと思います。今KENが話したことが金科玉条だと言えます。自分の前に引かれた線を越えるたびにミュージシャンとして磨かれ、会話を持てば何かを学ぶことができる。それをエレクトロニックミュージックの世界に持ち帰って、違う視点をもたらす。そうやってジャンルは進化していく。

誰も考えたこともないようなアイデアを具現化することは可能なんです。特に若いプロデューサーの精神にとって、すべてやり尽くされたなんてわけはない、未開拓の領域も手法もまだまだたくさんあるんだって認識することはとても大事ですよね。

ISHII:実はテクノのビッグネームの人って意外とチャレンジしてなくて、どっちかと言うとマーケティングばかりやって、どうやれば成功するか、届きやすいかを考えて自分のテリトリーをガッツリ守ってるんですよね。でもジェフはパイオニアだしビッグネームであり続けてるのに、違うところに常に攻めて行っていて、本来のミュージシャンの姿勢をすごく感じる。そこがやっぱり一番リスペクトしてるところなんですよ。

KEN ISHII『Möbius Strip』収録曲“Bells of New Life”PV。監督は児玉裕一

やっぱり自分の体で、指先を使ってすごい仕事してるんだなって伝わってくるDJがかっこいいなと思うし、そういう感覚はなくならないと思う(ISHII)

―今ずっと音楽制作の話を聞いてきましたが、ジェフさんはDJ、エンターテイナーとしても表現を切り拓いてきました。先日の渋谷・Contactのパーティーでは、久方ぶりのレコードを使ったプレイということでお客さんもすごく盛りあがってたし、1990年代に感じたようなフレッシュなヴァイヴも会場に溢れていたんじゃないでしょうか。

ミルズ:この間のパーティーではDJブースの後ろの壁に棚を作ってレコードをたくさん並べ、そこから1枚1枚取ってプレイするっていうことをやってみたんですが、あれはまさに長年の夢が叶ったような演出でした。つまり、レコードショップをクラブに持ち込んだようなものだから。レコード屋でするみたいにディスプレイから盤を取ってかけるんですが、それを何百人かの人が一緒に聴いて、踊っているという。

実はもう今はほとんどレコードでDJすることはないんです。だから当日はナーヴァスになったし、針が飛んだり曲が終わってしまったりというトラブルが起き得るから気を使うことも多くて、感覚を思い出すのに15分くらいかかりましたよ。レコードは優しく触ってやらないとダメだしね。

ISHII:今回横で見ていて、学生の頃に戻ったような、以前聴いてた感覚を思い出して楽しいなとまず思いました。あとはやっぱり、その壁に置いてあるレコードをわざわざ脚立に乗って取りに行くっていう動き自体がクラブ環境で見たことないものだったから、すごくシュールで、アートのインスタレーションのような印象も持ったんですよね。お客さんもすごくおもしろかったんじゃないかな。

―かつてジェフさんはDJするとき、かけたレコードなんて全部その辺に放り出して、ブースの周りがレコードだらけになってたのを知ってるから、余計ですよね!

ミルズ:いや、あれは意味があったんですよ。小さなボックスからいちいちレコードを探してまた戻してっていう作業をするより、あちこちに放り投げた方がパッと目について、また次にその盤の別の曲を使いたいなんてときにすぐ見つけられたし、自分にとっては早くて合理的だったんです。

ISHII:そうなのか(笑)。

ミルズ:DJという行為が辿ってきた道、進化の過程を振り返ると、まだこれから新しい表現も出てくるし変わっていくんじゃないかと思います。テクノロジーの進化で、ヘッドフォンもモニターも、CDやUSBのプレイヤーも不要になるかもしれない。究極的にはミキサーがあればいいわけだし。そうしたら、DJはステージから解放されるかもしれないし、ブースの中の一か所に留まって下を向いてなくても自由にいろいろできるなんてことも想像できますよね。

ISHII:今では仕事で世界中のいろんなDJがプレイしてるのを目にするけど、僕なんかは昔ジェフのDJを見て本当に衝撃を受けたし、やっぱり自分の体で、指先を使ってすごい仕事してるんだなって伝わってくるDJがかっこいいなと思うし、そういう感覚はなくならないと思うんですよね。卓越した技術を持っていることに憧れるし、そこに注目が集まるという流れに最終的には帰ってくるんじゃないかな。

リリース情報
KEN ISHII
『Möbius Strip』完全生産限定盤 Type A(2CD+7インチアナログ盤)

2019年11月27日(水)発売
価格:5,060円(税込)
UMA-9130~2

[CD]
1. Bells of New Life
2. Chaos Theory
3. Take No Prisoners(Album Mix)with Jeff Mills
4. Vector 1
5. Green Flash(Album Mix)with Dosem
6. Silent Disorder with Go Hiyama
7. Prism
8. Vector 2
9. Skew Lines
10. Polygraph
11. Quantum Teleportation with Jeff Mills
12. Vector 3
13. Like A Star At Dawn
[CD-EXTRA]
・JOIN THE PAC(Official Theme Song for PAC-MAN 40th Anniverary : Club Mix)
・Bells of New Life MV&25周年スペシャルインタビュー映像
・KI Möbius Strip オリジナルフォント(Mac,Windows,Unix対応 OpenType PS)
[7インチアナログ盤]
1. EXTRA('95 Original Video Edit Rematered)
2. JOIN THE PAC(7” Version)

※全世界1000セット限定、7インチサイズハードカバー仕様、折込ポスター付

KEN ISHII
『Möbius Strip』完全生産限定盤 Type B(2CD)

2019年11月27日(水)発売
価格:3,630円(税込)
UMA-8130/1

[CD]
1. Bells of New Life
2. Chaos Theory
3. Take No Prisoners(Album Mix)with Jeff Mills
4. Vector 1
5. Green Flash(Album Mix)with Dosem
6. Silent Disorder with Go Hiyama
7. Prism
8. Vector 2
9. Skew Lines
10. Polygraph
11. Quantum Teleportation with Jeff Mills
12. Vector 3
13. Like A Star At Dawn
[CD-EXTRA]
・JOIN THE PAC(Official Theme Song for PAC-MAN 40th Anniverary : Club Mix)
・Bells of New Life MV&25周年スペシャルインタビュー映像
・KI Möbius Strip オリジナルフォント(Mac,Windows,Unix対応 OpenType PS)

Jeff Mills
『SIGHT SOUND AND SPACE』(3CD)

2019年9月25日(水)発売
価格:5,168円(税込)
UMA-1127~1129

[CD1]Sight
1. Perfecture – taken from “Metropolis” CD
2. Deckard – taken from “Blade Runner” EP
3. Le Mer Et C'est Un Caractere - taken from “Sequence” CD
4. Homing Device – taken from “2087” CD
5. The Never Ending Study – taken from “Etudes Sur Paris” soundtrack
6. The Drive Home - taken from “Woman In The Moon” CD
7. Parallelism In Fate - taken from “And Then There Was Light” CD
8. Devices - taken from “At First Sight “ CD
9. Transformation B (Rotwang's Revenge) – taken from “Metropolis” CD
10. Sleepy Time – taken from “Trip To The Moon” CD
11. Multi-Dimensional – taken from “Man From Tomorrow” DVD
12. Descending Eiffel Stairs – taken from “The Crazy Ray” film soundtrack
[CD2]Sound
1. The Hunter - taken from “Free Fall Galaxy” CD
2. The Bells - taken from “Kat Moda” EP
3. 4Art -taken from “4Art /UFO” EP
4. The 25th Hour - unreleased
5. Growth -taken from “Growth” EP
6. Spiral Galaxy - taken from Occurrence” CD
7. Microbe - taken from “The Power” CD
8. Jade - taken from “Every Dog Has Its Day” CD
9. Where The Shadows Have Motives – taken from “Dark City” soundtrack
10. Flying Machines - taken from “Sequence” CD
11. Compression-Release – taken from “Emerging Crystal Universe” EP
12. Into The Body – taken from “Fantastic Voyage” CD
13. The Resolution - taken from “Actual” 12” EP
14. Spiral Therapy – taken from “The Power” CD
[CD3]Space
1. Introduction – Phase 1-3 taken from “Fantastic Voyage” CD
2. Mercury (Residue Mix) - Unreleased – taken from “Planets” CD
3. Unreleased002
4. The Believers - taken from “Trip To The Moon” CD
5. The Industry Of Dreams – taken from “The Messenger” CD
6. Stabilizing The Spin – taken from “Moon: The Area Of Influence” CD
7. G-Star -taken from “Alpha Centauri” EP
8. Planet X – taken from “Lost In Space” EP
9. The Worker's Party – taken from Gamma Player Compilation “Niteroi' collaboration project
10. Daphnis (Keeler's Gap) – taken from “X-102 Re-discovers The Rings Of Saturn”
11. Outer Space – Unreleased
12. Unreleased005
13. Self-Portrait taken from “One Man Spaceship” CD
14. Aitken Basin – taken from “The Messenger” CD
15. Deadly Rays (Of A Hot White Sun) – taken from “Where Light Ends” CD
16. Medians – taken from “Free Fall Galaxy” CD

※本人解説(和訳)ブックレット付、ハードカバーブックケース仕様

プロフィール
KEN ISHII (けん いしい)

「東洋のテクノ・ゴッド」との異名を持つ、アーティスト、DJ、プロデューサー。1年の半分近い時間を海外でのDJで過ごす。1993年、ベルギーのレーベル「R&S」からデビュー、イギリスの音楽誌「NME」のテクノチャートでNo.1を獲得。1996年アルバム『Jelly Tones』をリリース。このアルバムからのシングル「Extra」のアニメーションMV(映画「AKIRA」の作画監督/森本晃司監督作品)が、イギリスの“MTV DANCE VIDEO OF THE YEAR”を受賞した。2017年にはベルギーで行われている世界最高峰のビッグフェスティバル<Tomorrowland>に出演するなど常にワールドワイドに活躍している。

ジェフ・ミルズ

1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。Axis Records主宰。DJとして年間100回近く世界中のイベントに出演する。2005年、モンペリエ交響楽団との共演をきかっけにオーケストラの共演を開始。エレクトロニック・ミュージック・シーンのパイオニアでありながら、クラシック音楽界に革新を起こす存在として世界中の注目を浴びている。音楽のみならず近代アートとのコラボレーションも積極的に行い、2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章Chevalier des Arts et des Lettresを授与、2017年4月にはOfficier de la Légion d'honneur Ordre des Arts et des Lettresを授与された。



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