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仲野太賀×中川龍太郎 同世代が選んだ、生きづらい時代での闘い方

仲野太賀×中川龍太郎 同世代が選んだ、生きづらい時代での闘い方

『静かな雨』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:寺内暁 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

合言葉として出てきたのは「カルト映画を作ろう」ってことだったんですよね。(中川)

―そこまで積極的にコミットする現場は、太賀さんにとっても珍しいのでは?

仲野:珍しいですね。この映画って、衛藤美彩さんが主演で、原作があって、新人監督で……という座組なので、いくらでも安牌は取れたはずなんですよね。でも、その安牌だけは絶対取らないでいこうっていう話は、監督やスタッフともしていました。

というのも、中川監督って、『ぴあフィルムフェスティバル』から出てきたとか、助監督からの叩き上げとか、そういうのではないところから独自のやり方で少しずつ存在感を示しつづけてきた監督じゃないですか。そういう監督が、初めて自分のオリジナルではない原作を手にしたときに何をやるかっていうのはすごく重要だから、一番美しい形を取りたいと、いち俳優部の人間としては思ったんです。それについては、本当にいっぱいディスカッションをしたんですよね。

中川:そう、撮影の1か月前ぐらいに、プロデューサーの和田さんと僕と太賀の3人でいろいろ話して……それこそ、「画角は4:3でいこう」とか「いっそ白黒で撮るのはどうだろう」と、どんどん僕が提案していきました。結果的に、みんなの合言葉として出てきたのは「カルト映画を作ろう」ということだったんですよね。

左から:仲野太賀、中川龍太郎

―カルト映画?

中川:さっき太賀が言ったように、原作もので衛藤さん主演で新人監督という座組だったら、いわゆる「キラキラ映画」にすることもできるわけじゃないですか。そうではなく、むしろその真逆で、地味になってもいいから先々カルト的な人気が出るような作品に振り切るべきなんじゃないかって。

―なるほど。そのために、中川監督は具体的にどのようなことをしていったのですか?

中川:ひとつは、さっき言ったように、太賀と話し合った中で出てきた「行き止まりを生きる」というテーマです。もうひとつは、高木正勝さんの音楽です。僕の中では、この映画を全編で1曲のような映画にしたいっていうコンセプトがあって、99分間全編即興で高木さんが作ってくれた音楽が流れているんですよね。

―また、すごいことをお願いしますね。

中川:そうですね(笑)。そうすれば、この映画自体が一個の「おとぎ話」のようになるんじゃないかと思って。要するに、この原作を写実で描くのは不可能だと思ったんです。とはいえ、寓話として描くにしても、妙にリアルなところがあるから、それをどう映画にしていくのかは悩みました。そのときに、一編の詩のようにするために、全編に音楽が流れているのがいいのではないかと思いついたんです。太賀が足を引きずる音や、劇中の環境音と音楽が一体になっているようなものというか。

あと、これまでの僕の作品は、引きの画面でロングショットを積み重ねることが多かったんですが、今回は初めて塩谷さんにお願いして手持ちで撮影しました。この映画の主役は、太賀と衛藤さんと、もうひとつ、それを見ている視点なんだと思ったんです。その視点はカメラであり、そこに流れている音楽でもある。そう紡いでいけば、何とかいけるんじゃないかと思ったんですよね。

結局、いま目の前に誰がいるかがすべてなんですよね。(仲野)

左から:仲野太賀、中川龍太郎

―もうひとつ、この映画は、記憶を失い続ける女性の話でもあって……同様の作品は、これまでたくさんあったように思いますが、本作は「記憶」の扱い方が、それまでのものとは、ちょっと違いますよね?

中川:そうですね。記憶喪失は、この物語の本質ではないんです。それは、これから起きるであろう災害であったり事故であったり……あと、高齢化多死社会。太賀演じる行助が足をひきずっていることと、衛藤さん演じるこよみが記憶を失ってしまうことは、だんだんと社会が機能不全になっていく、そういう災いの象徴なんです。だから、それ以上の意味づけを与えてしまうといけない。

なので、原作には出てきた事故の原因やディテール、その具体的な症例名は、今回の映画では全部差っ引いたんです。この映画は、あくまでも東京の郊外の片隅で暮らす名のない男女の物語であり、記憶を失ってしまったこよみを、行助がどのように愛するかという映画なので。

―そこが本作の面白いところですよね。「記憶」が戻る戻らないは、物語の本題ではない。

仲野:こういう言い方はちょっと語弊がありますけど、記憶喪失って映画やドラマにするときに、すごくいい題材なんだと思うんです。ただ、それをいま僕らがやるのであれば、セオリー通りではダメだろうなって気持ちがあって。

中川:だから、実はこの映画は、記憶という過去の話ではなく、未来に向けた話なんですよね。未来を構想するというのは、とりもなおさず、いまここにある現在地を見つめることなので。だから、記憶喪失というものを逆手にとって未来を語る、つまり「いま、ここ」を語る構造にすることは、ひとつの突破口になりました。だからこそ、その瞬間手にしたたい焼きが温かいとか、美味しいとかが大事になってくる。

仲野:結局、いま目の前に誰がいるかがすべてなんですよね。

中川:ああ、そうだね。いま誰が自分の目の前にいるのか。この映画は、そういう映画なのかもしれない。

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作品情報

『静かな雨』
『静かな雨』

2020年2月7日(金)からシネマート新宿ほか全国で順次公開

監督・脚本:中川龍太郎
原作:宮下奈都『静かな雨』(文春文庫、2016年)
音楽:高木正勝
出演:
仲野太賀
衛藤美彩
上映時間:99分
配給:キグー

プロフィール

仲野太賀(なかの たいが)

1993年2月7日生まれ。東京都出身。2006年、俳優デビュー。2007年の『風林火山』を皮切りに、2009年には『天地人』、2011年『江~姫たちの戦国~』、2013年『八重の桜』、2019年『いだてん』と過去に4作のNHK大河ドラマに出演。このほかのドラマ出演作にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』、『恋仲』(フジテレビ系)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)など。主な出演映画に『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『南瓜とマヨネーズ』『タロウのバカ』など。

中川龍太郎(なかがわ りゅうたろう)

1990年神奈川県生まれ。詩人としても活動し、17歳のときに詩集「詩集 雪に至る都」(2007年)を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞受賞(2010年)。国内の数々のインディペンデント映画祭にて受賞を果たす。初監督作品『Calling』(2012年)がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞受賞。『雨粒の小さな歴史』(2012年)がニューヨーク市国際映画祭に入選。東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では『愛の小さな歴史』(2014年)に続き、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015年)と2年連続の出品を最年少にして果たす。『四月の永い夢』(2018年)が、世界四大映画祭のひとつである第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞。第19回台北映画祭、第10回バンガロール国際映画祭にも正式出品された。

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