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浅野いにおが描く「普通の人」。ネガティブな感情への優しい視点

浅野いにおが描く「普通の人」。ネガティブな感情への優しい視点

LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」
インタビュー・テキスト
榎並紀行(やじろべえ)
撮影:寺内暁 編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

「一部の人だけにでも安心感を与えられるなら、描く意味はあるのかなと」

―浅野さんご自身の背景についてもお伺いします。高校時代から漫画を描き始め、17歳で早くも雑誌デビューしていますが、子供の頃から漫画をかなり読み込んでいたのでしょうか?

浅野:いえ、もともと漫画っ子というほどではなく、『ジャンプ』も中学で卒業しましたね。本格的に興味を持ったのは、高校に入ってからです。友達の影響で1960年代、1970年代の漫画に触れる機会があったんですけど、それまで自分が読んでた漫画と全然違う手触りがあって。

いわゆるヒーローではなく、自分と地続きの場所にいるようなキャラクターが主人公で。憧れよりも、不満や鬱屈としたネガティブな感情も含めた、共感をベースとした作品を面白いと感じて、それからそういう漫画をよく読むようになりました。

―当時、よく読んでいた漫画のひとつが、桜玉吉さんの作品だったそうですね。

浅野:桜玉吉さんの日記漫画って、とにかく卑屈なんです。卑屈な人間の内面がしっかり描かれている。20代くらいって自分のことをあれこれ考える時期だと思うんですけど、僕自身も当時鬱屈した時期を過ごしていたので、桜さんの漫画を読んでいると「こういう考え方をするのは自分だけじゃないんだな」という安心感がありました。作風というよりも精神的な部分で影響を受けた一人ですね。

―ヒーローではなく、自分と地続きの「普通」な主人公の、心の内を隠さず描くというのは、浅野さんの漫画にも共通する部分ですよね。

浅野:実は僕、デビュー当時はギャグ漫画家志望だったんですけど、当時の担当編集者に評価されたのはギャグではなく、「自分の身辺で起きた出来事」を落とし込んだ漫画でした。それで、身の回りのことだったり、僕自身の根暗さに起因する物語を描くのが自分には向いているんだろうなと。

そうした根暗さや鬱屈した人の心情というのは、20代の僕にはいちばん自然なことで、いちばんの関心ごとだったんです。でもそれは大ヒットするような漫画ではないので、描くからには、なにかしら意味がほしいなと思っていて。それこそ僕自身が桜玉吉さんの作品を読んだ時のように、一部の人だけにでも安心感を与えることが、僕が描く意味なんだろうと。20代のころは、そういう気持ちで漫画を描いていましたね。

『おやすみプンプン』第13巻P126-127
『おやすみプンプン』第13巻P126-127

―どこかに深い苦しみや葛藤、あるいは卑屈さなどネガティブな部分を抱えている人。それが、浅野さんから見た人間のリアルなのでしょうか?

浅野:そうではない人ももちろんいるでしょうし、卑屈さがない人がウソっぽいということではないんです。でも、人というのは掘り下げていけば、絶対にどこか変な部分があると思うんですよね。その中で僕が考える「人間らしさ」というのは、理不尽であるとか矛盾している部分だったりするので、どうしてもそういう部分を探して描いてしまうんだと思います。

僕が考える「人間らしさ」がバンバン全開で出ている人は、もしかしたら実質社会ではすごく迷惑な人なのかもしれないですが、綺麗に隠している人もいるんですよね。そういう人は本人で完結できているから、僕が描く意味はないなと思うんです。そうじゃなくて、やっぱり僕も入り込むような余地をもってる人。それは一般的には「間違っている」という要素を持っているということなのかもしれないけど、そこを認め合う、許し合うということで、僕の人間関係には信頼関係が生まれてきたから、どうしてもそういう「人間らしい」部分を持った人にしか注目できないというか。そういう矛盾を抱えて生きている人物を主人公にしたくなってしまうのだと思います。

LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」では、浅野いにおさんのインタビュー後半を掲載。 普段主役になり得ないものが、いかにその場所の質感を物語るのか、漫画における技術的な面や、ご自身の部屋を紹介しながら語っています。

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プロジェクト情報

LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」

壁は間取りを作るためのものだけではなく、空間を作り、空気感を彩る大切な存在。その中でインテリアや照明が溶け込み、人へのインスピレーションを与えてくれる。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」は、LIXILとCINRA.NETがコラボし、7名のアーティストにインタビューを行う連載企画。その人の価値観を反映する空間とクリエイティビティについてお話を伺います。

プロフィール

浅野いにお(あさの いにお)

1980年生まれ、茨城県出身。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。

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