尾崎裕哉の叫び 僕が僕であるために、見えない壁に囚われぬよう

シンガーソングライターの尾崎裕哉が1stフルアルバム『Golden Hour』を完成させた。長年の付き合いであるプロデューサーのトオミヨウや、KREVAや布袋寅泰といった豪華ゲストの参加も話題だが、本作で何より重要なのは、尾崎が自らのこれまでを振り返り、自分を認め、肯定する作品であるということ。ダイバーシティの時代における「僕が僕であるために」の再定義。そんなふうな言い方もできるかもしれない。

1980年代のロックや歌謡曲をルーツに持ち、15歳までの10年間をアメリカで過ごして同時代のヒップホップやR&Bをインプットし、帰国後にJ-POPに触れた尾崎の作る楽曲は、独自のブレンド感が魅力。本作ではトオミに加え、SUNNY BOYや小袋成彬といったグローバルな視点を持つプロデューサーとの共同作業によって、その幅広い音楽性が確かに示されてもいる。レーベル移籍とコロナ禍の先で、現在の尾崎の心の内を聞いた。

尾崎裕哉(おざき ひろや)
1989年、東京生まれ。2歳の時、父・尾崎豊が死去。母と共にアメリカに渡り、15歳までの10年間を米国ボストンで過ごす。慶應義塾大学大学院卒。2016年に自伝『二世』(新潮社)を出版しアーティスト「尾崎裕哉」としては初の音源となるデジタル1stシングル『始まりの街』をリリース。2020年10月、初のフルアルバム『Golden Hour』をリリース。

無言の2年間は、自らを見つめ直し、「尾崎豊の息子」ではなく「尾崎裕哉」を待ってくれている人たちの存在に気づけた期間だった

―2017年に2枚のEPをリリースして以降、2018年と2019年は表立ったリリースがなく、弾き語りツアーなどを行っていたわけですが、尾崎さんにとってどんな2年間だったと言えますか?

尾崎:武者修行ですね。リリースをしなくても、ついてきてくれる人、待ってくれる人がいるってことに気づけたのは大きな収穫でした。これまでは七光り的な部分も大きかったし、それによって聴いてくれている人もいたけど、この無言の2年間でそういう人は離れていっちゃったなと。それはよくも悪くもですけどね。

尾崎裕哉“Glory Days”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―「尾崎豊の息子のファン」ではなくて、「尾崎裕哉のファン」が残ったということですよね。

尾崎:そういう人たちがちゃんとライブに足を運んで、自分を見に来てくれることは、アーティストとしての自信になったというか……安心感がありました。「自分のやってることは本当に意味のあることなんだろうか?」って、考えちゃうこともあるんですけど、そういうときに、自分の言葉を求めてくれる人が、自分をちゃんと見ようとしてくれる人がいるって事実は、アーティスト活動をする上での土台になるんです。それがあったからこそ、武者修行をして、自分のスタイルを模索できたなと思います。

―尾崎さんは正式にデビューをしたのが27歳で、その時点で「満を持して」という感覚もあったと思うのですが、2枚のEPをリリースしてみて、「やっぱりもっと修行が必要だ」と感じた部分があったのでしょうか?

尾崎: EPを2枚出しても、まだ自分の音楽性の半分も出せてないし、もっともっとできるなと思ってました。常にいろんなスタイルにチャレンジしたいので。レーベルを移籍したのもあってリリースのタイミングを探っていたところもあるんですけど、一番は自分の曲作りともっと向き合いたかったのが大きかった。いろんな人とコラボレーションをしながら、自分の立ち位置を見つめ直した期間でした。

尾崎裕哉“音楽が終わる頃 feat. 大比良瑞希”を聴く(Apple Musicはこちら

―そんななかで、今年はコロナ禍に見舞われたわけですが、音楽をやることの意味や、音楽の役割について、何か思うところはありましたか?

尾崎:音楽が役割を失うことは一生ないと思うんですよね。震災のときって、「衣食住以外のものって本当に必要なのか?」みたいなことをみんなが考えて、音楽にできることの少なさを痛感した人も多かったと思うんです。とはいえ、音楽を聴いて気持ちが救われる人は常にいるわけで。その経験を経た今となっては「音楽が役割を失うことはない」って俺は断言できる。

なので、コロナ禍での音楽の意味を模索するというよりはーーまだちゃんと薬も開発されていない不確実な状況で俺がやるべきことは、自分が作りたいものを作るってことだけ。コロナには左右されないというか、もともとあった『Golden Hour』の構想は非常にパーソナルなものだったので、それをそのまま出すだけだと思いました。

人生の迷いを振り払い、アーティストとして生きていこうと腹を決めたときのこと。詩にしたためた想い

―資料には、『Golden Hour』は「回想をテーマにしたアルバム」とありますね。

尾崎:自分の人生の、特に思春期の振り返りみたいなニュアンスがあります。モラトリアムだったり、これまでの恋愛だったり。まだはっきりとは見えていない夢を追いかけて、不安なことのほうが多いなかでも前に進もうとしてた自分を今振り返ってみると、全て美しい、意味のあるものだったと思える。「Golden Hourのような時期だったね」って。それがこの作品を通してのメッセージというか、雰囲気ですかね。

尾崎裕哉“LONELY”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―今回6曲にプロデュースで参加しているトオミヨウさんとは、かつてCrouching Boysというユニットで、『"BLUE" A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI』に参加していて、1曲目の“Golden Hour”はそのときのオマージュのような朗読曲になっていますね。この曲で<あの風景がいつまでも頭を離れない>と綴られているフランスの景色は、尾崎さんにとってどんな意味のある景色なのでしょうか?

尾崎:ちょうど人生の転換期というか、大学院を卒業する前、「今後の人生どうしよう?」っていうタイミングでフランスに行ったんです。当時、遠距離恋愛をしていて、相手がフランスに住んでいたので、恋愛面でも「今後どうしよう?」と思っていて。そういう人生のいろんな「どうしよう?」が並べられたなかで見た、レ・ローヴの丘からのサント・ヴィクトワール山にすごく意味があったというか。

そのとき(ポール・)セザンヌのアトリエに行って、彼がずっと描いている山の絵を見て、「自分もこうやって、生涯この想いを書いていけばいいのかな」と思ったところもあって。あとセザンヌは当時、骸骨の絵をひたすら描いてて、アトリエにも骸骨が置いてあったんですよ。

―ちょっと不気味ですね。

尾崎:アトリエのおばちゃんいわく、骸骨は死の象徴だと。要は、老いも若きも、死は平等にやってきて、最終的にはみんなこれ(骸骨)になる。その言葉が響いて、「どうあがいてもこうなるんだったら、やりたいことをやんなきゃ」って思ったんですよね。アーティストになるということ、「曲を作って生きていく」みたいなライフスタイルにはずっと憧れていて、自分の父親がやってきたこと、できなかったことを並べたときに、「うだうだ考えるより、やってみよう」と思えたんです。

尾崎裕哉“Golden Hour”を聴く(Apple Musicはこちら

―その意味でも、やはり今回の1曲目にふさわしいですね。

尾崎:大概の人には意味のない散文だと思うんですけど、そのときの心情や見た景色を、自分なりにまとめています。きっとこのときも、自分のそれまで歩んできた道を振り返って、「自分は間違ってなかった」って言い聞かせていたと思うんです。これからもそうやって、自分は間違ってないと言い聞かせながら生きていくんだろうなって。

石崎ひゅーい、菅田将暉、あいみょんら、トオミヨウが手がけるフォークや歌謡曲を背景に同時代なサウンドをミックスした音楽家たちに尾崎裕哉はシンパシーを感じる?

―“Road”や、大比良瑞希さんが参加している“つかめるまで”“音楽が終わる頃”は、これまでも長くライブで演奏されてきた曲ですよね。“Road”に関しては、前回の取材で「等身大の歌詞を書くきっかけになった曲」とおっしゃっていましたが、資料には“つかめるまで”に関しても「自分にとって、とても大切な曲」とありますね。

尾崎:“つかめるまで”はある種ネガティブモードなところもあるけど、そこから這い上がって、光を掴もうとしてる曲で。最初は語りっぽく、念仏のように<いつまで経っても>って繰り返してますけど、それが低いところからはじまって、徐々に明るくなって、最後はファルセットでいけるとこまでいく。「どん底まで落ちたら、あとは上がるしかない」ってことを歌詞だけじゃなくて、音楽的にも表現できたかなって思います。結構ナチュラルに、こういう構成になりましたね。

―尾崎さんの楽曲は幅広い音楽からの影響を感じさせますが、“つかめるまで”を例にとってみると、この曲を作るときはどんなリファレンスがありましたか?

尾崎:これはいろんな曲をベースにしていて、ひとつはKREVAさんの“かも”って曲へのリスペクト、あとはフランク・オーシャン的な要素を入れてトラックを作ったり、ボーカルワークはThe Manhattan Transfer。昔コーラス部でクワイアをやってて高校生のときにずっと聴いていたから、その影響もあるし、あとギターパートは後期のジョン・メイヤーを意識してたり……いろんな要素が入ってますね。

尾崎裕哉“つかめるまで feat. 大比良瑞希”を聴く(Apple Musicはこちら

―トオミさんは石崎ひゅーいさんとか、最近だと菅田将暉さんやあいみょんの作品にも関わられているじゃないですか? 彼らの共通点って、日本のフォークや歌謡曲へのシンパシーがありつつ、プロデューサーの存在もあって、ジャンルレスな、今のサウンド感の楽曲になっていることだと考えていて、そこは尾崎さんとも通じると思ったんですよね。

尾崎:なるほど。あんまり考えたことなかったですけど、確かに菅田くんもあいみょんも古い音楽が好きでリスペクトもありますよね。まあ、俺は単純に元が尾崎豊なので、1980年代のロックがルーツとしてあって、そこに今っぽいエッセンスをどんどん足していって、気づいたら今の俺になってたって感じなんで。普段は海外の音楽ばっかり聴いてるし、日本のアーティストとの比較ってあんまり意識したことないんですよね。

少年時代に『8 Mile』などを通じて取り入れたヒップホップ的感性、帰国後に触れたJ-POPやJ-ROCKの世界観――尾崎裕哉が志向するサウンドについて

―逆に言えば、海外の同世代のシンガーソングライターにシンパシーを感じる?

尾崎:そうですね。Logicにせよ、Rex Orange Countyにせよ、エド・シーランにせよ、そのあたりの人たちは面白いなって思います。“Awaken”とかはRex Orange Countyを意識していて、身近な言葉で身近なことや自分のことを言ってて、そのセンスがすごく好きで。自分もわりとそれに近いスタイルだから、韻を乗せて、フロウで話していくみたいなスタイルは参考にしました。

―そこには同時代意識もあると。

尾崎:自分は帰国子女なんで、聴いてきた音楽も海外のシンガーソングライターのほうが共通言語が多いし、同じボキャブラリーを持っているんで。たとえば、エド・シーランはEminemを崇拝してますけど、俺も小中の頃に『8 Mile』(2002年)を見て、「プチャヘンザ!」してたわけですよ。

で、ルームメイトが黒人で、Ludacrisばっかりかけてて、「お前の頭から足の指の先までなめまわすぜ」みたいな曲を聴いて毎朝起きてたから、俺の語尾も「Hey Men!」とか「Yo!」みたいになってて。そういう人生だったんです(笑)。

―あはは(笑)。

尾崎:だから、RADWIMPSとか、米津玄師とか、川谷絵音さんとか、J-POP / J-ROCK的な世界観は、あとからインストールしてるんですよね。そのボキャブラリーは今までなかったから、すごく新鮮だし、面白い。意識としては、洋楽的な感じと邦楽的な感じが50:50になるように狙ってて、メロディはどうしても洋楽っぽくなりがちなんですけど、“Awaken”なんかはすごく上手くいったんじゃないかなって。まあ、そこはまだ勉強中ですね。

尾崎裕哉“Awaken”を聴く(Apple Musicはこちら

敬愛するKREVAに書き下ろしてもらった“想像の向こう”が伝える重層的なメッセージ

―“想像の向こう”には先ほども話に出たKREVAさんが、“Rock ’n Roll Star”には布袋寅泰さんが参加されていますが、彼らは尾崎さんにとってどんな存在だと言えますか?

尾崎:KREVAさんは日本に帰ってきてからほぼ毎年ライブを観に行ってるくらいファンだし、布袋さんも『ギター・マガジン』を読んで、同じエフェクターが欲しくて、お年玉をはたいて買ったりしてて、とにかくお二方ともにリスペクトしています。お二人ともミュージシャンが憧れるミュージシャンであることは間違いないし、一つひとつベンチマークを作ってきた方たちだと思う。作品でご一緒できるのはちょっと非現実的なところもあるんですけど、お二人のエッセンスを借りて、自分の作品に取り入れたらどうなるのかなって挑戦でもありました。

尾崎裕哉“想像の向こう”を聴く(Apple Musicはこちら

―“想像の向こう”はKREVAさんの提供曲ですが、作るにあたってはどの程度やりとりがあったのでしょうか?

尾崎:最初のプリミーティングのときに、「最近こんなこと考えてる」「最近こんなの聴いてる」みたいな話をして、そのときは特に尾崎豊のこととかは聞かれなくて。で、次に会ったときにはもう完成してたんですよ。他愛もない話しかしてなかったと思うんですけど、KREVAさんなりに感じるところがきっとあったんでしょうね。最初はもっとやりとりして作っていくのかなと思っていたんですけど、「これを歌わせてもらいます」という感じでした。

―<見えない壁は見なけりゃいいのさ><行こうよ 想像の向こう>といった歌詞に関しては、どのように受け止めましたか?

尾崎:言い回しとかに関しては、KREVAさんらしいなと思いつつ……「よく言ったな」って感じがしましたね。<見えない壁を見てるのは君さ>って、自分自身のことでもあるし、他人から見た自分でもあって、「想像してる自分以上のものになれるんだよ」ってメッセージにも解釈できる。旧来の尾崎ファンが俺に対して思ってることかもしれないし、今の自分のファンが俺に思ってることなのかもしれない。いろんな視点で捉えられるので、さすがKREVAさんだなって。

―ちなみに、“143”という明確に“I LOVE YOU”を意識した曲も入っていて、尾崎さんは常々お父さんのことをベンチマークだとおっしゃってますよね? 今回の作品を作り終えて、その距離はどう変わったと思いますか? 近づいたのか、違う道をいったのか……いかがでしょう?

尾崎:ベンチマークではあるんですけど、超える / 超えないの問題ではないんですよね。“143”は自分の“I LOVE YOU”を作ろうっていうニュアンスで書いていて、それは尾崎豊の1stアルバム『十七歳の地図』(1983年)に“I LOVE YOU”が入ってるからなんですけど……距離感で言うと、ずっと平行線なんですよね。そこはパラレルワールドなんです(笑)。

尾崎裕哉“143”を聴く(Apple Musicはこちら

布袋寅泰がギターを寄せた“Rock ’n Roll Star”で歌われる、窓ガラスを割る必要のなかった者たちのリアル

―布袋さんが参加している“Rock ’n Roll Star”の作曲はTokyo Recordingsの小袋成彬さんとShinta Sakamotoさんですね。

尾崎:これはもともとCapeson名義で出してる曲で、ある意味セルフカバーなんです。Capeson名義と尾崎裕哉名義の両方で歌ってて、Capesonだと“Back In The Day”っていう曲名。なので、新しく作った曲ではないんですけど、自分がこれまで関わってきた人たちがたくさん入ってるアルバムという意味では、彼らも回想の一部ですね。“Rock ’n Roll Star”自体、もともと小袋と話をするなかで生まれたテーマで。

尾崎裕哉“Rock 'n Roll Star feat. 布袋寅泰”を聴く(Apple Musicはこちら

Capeson“Back In The Day”を聴く(Apple Musicはこちら

―どんな話をしたのでしょうか?

尾崎:もともとは全部英詞で、もっとユニバーサルなテーマだったんですけど、彼と話したのは、うちらって別にラッパーみたいな生活してないよねってことで。コンプトンで育ったわけじゃないし、『8 Mile』みたいな生活を送ってないけど、それでも目指すものがある。そんな話をして、この曲ができて、そういうのって実は誰もが共有できることなんじゃないのかなって。

―それこそ“Rock ’n Roll Star”の歌詞にあるとおり、<腹をすかせた夜はない 窓ガラスを割ったこともない>っていう人がほとんどで、じゃあそんななかで何を目指して、どう生きていくのか。それがこの曲のテーマにもなってるのかなって。

尾崎:そういう時代の変化は反映されていると思います。特に俺はアメリカンスクールだったので、自由を尊重されて育って、それが普通だと思っているんですけど、日本の教育はもともと工場的というか、「こういう人材を作る」って目的が先行しすぎているように見える。だから詰め込み教育で、減点方式じゃないですか?

それが今はちょっと柔らかくなったのか、あるいは、逆にそれが浸透して、誰も反論しない世の中になってるのか……あと単純に、教師の質がよくないんじゃないかとも思うけど、それは大元の制度から生まれたものですよね。

「自分が自分であることを認めてあげられればいい」――社会や他人に期待することよりも大切なこと

―4月に小袋さんがnoteで『新時代』というタイトルで文章を投稿していて、これからの新しい日本の中心を担うのは我々の世代で、自分たちには「新しい価値観がある」ということを書かれていました(外部サイトを開く)。尾崎さんも同じような感覚を持っていると言えますか?

尾崎:うーん……「引っ張っていく」みたいなのはちょっと違うというか、自ずとそうなるんじゃないですか? 今の日本の閣僚と、ニュージーランドやフィンランドの閣僚の年齢の違いみたいな写真を見たときは、「もうそろそろだな」って感じしましたけどね。

40年前にも俺と同じくらいの年齢の人――たとえば三島由紀夫とかの世代は引っ張っていく気満々だったと思うけど、「引っ張ってきたとこ、ここ?」みたいな……まあ、あの当時はネットがないわけで、今はもうちょっと情報が多いし、処理能力も高いうちらの世代が、これからをよくしていくのは必然かなと。それは頑張っても頑張らなくても、いずれそうなるだろうなと思っています。

尾崎裕哉“蜃気楼”を聴く(Apple Musicはこちら

―現在の尾崎さんは世の中に何かを呼びかけるというよりも、まずは自分の内側を見つめて、自分のことを歌うことが第一で、それが結果として、聴き手にとってもプラスであってくれれば、という考え方なんですね。

尾崎:そうですね。あまり表立ってそういうことを言うのが好きじゃないのもあるかもしれないです。啓蒙家にはなりたくないというか。音楽以外で啓蒙するようなメッセージを発することはあるかもしれないけど、少なくとも今音楽で表現したいのは、もっとパーソナルなことなので。ただ、今後は「社会を通して自分を描く」とか「社会のことを歌う」ってことも、エッセンスとして入れたいとは思っています。

―『Golden Hour』という作品に関しては、自分のパーソナル、これまでの足跡を形にしておくことが大事だったと。

尾崎:それと音楽性の幅を示すことですね。まずはこれまで作ってきたものが陽の目を見ること、丁寧に音楽をやっている姿勢を示すことが大事で、3枚目くらいにはもっと広がっているんじゃないかなって思っています。

裏を返すと……「社会を変えたい」って言う人は、社会に対する期待度が高いと思うんですよね。「社会がこうしてくれるべき、こうあるべき」って理想があるから、「変えたい」って言うんだと思うんです。でも、俺は社会に対する期待も、他人に対する期待もあんまりなくて、「こうしてほしい」がないから、その違いかもしれない。「変えたい」って熱意のある人のほうが結果的に人を巻き込んで、大きなことをやってるとも思うから、それはそれで全然よくて、そこはスタイルの違いというか。

―「社会にも人にも期待しない」というのは、言葉だけ取ると一見ネガティブに聞こえますけど、そういうわけではないですよね。

尾崎:「期待してない」っていうのは、「人に流されない」ってことですね。「こうしてくれるんでしょ?」みたいには思わない。やってくれたらやってくれたで、それをベースに積み上げていけばいいけど、やってくれることを期待せず自分でなんとかする前提で物事を積み上げていく。自分はそういう考え方。そっちのほうが面白いというか……ミスが少ない。でも、人への期待値が高い人って多いですよね。

尾崎裕哉“Road”を聴く(Apple Musicはこちら

―もしかしたら、尾崎さんも昔はもっと周りに期待をしていたのかもしれないけど、いろんな出会いや別れを経て、プラスの意味で周りに期待をするのではなく、まずは自分自身であることを獲得していったというか。今回のアルバムはその過程を描いた作品だということもできるかもしれないですね。

尾崎:間違いなくそれはあります。昔より今のほうが、自分のこと好きですからね。自信も持てたし、自分がどういう人間なのかをちゃんと言葉にできる。“Golden Hour”で詩の朗読をしていますけど、パッと聴いて、「尾崎豊っぽく語ってる」って感じる人もいると思うんですよ。でもそんなことはどうでもいいし、俺は俺のベースというか、Crouching Boysとか、ラジオで詩の朗読をしてきた経緯があって、その流れのなかで、自分がこれをやっているのを理解してる。

詩の朗読自体もある種ダサいと思うんですけど、「ダサいよね、わかるよ」って言えるんです。それができるかどうかって、自分が自分であることをちゃんと認めてあげられているか次第で。それができている人は結構少ないと思うから、その意味でも、あえてこの曲を1曲目にしたんです。かっこつける必要はないんだよって。

―なるほど。

尾崎:自分が自分であることを認めてあげられればいい。「自分が自分の邪魔をするな」ってことが俺は言いたいんです。今回の作品では、そういうスタンスを見せている気がしますね。それを全部受け取ってもらえるかはわからないけど、少なくとも、自分のなかではそういう意味合いを持った作品なんです。

リリース情報
尾崎裕哉
『Golden Hour』(CD+DVD)初回生産限定盤

2020年10月21日(水)発売
価格:4,000円(税込)
SECL-2627/2628

[CD]
1. Golden Hour
2. Awaken
3. Road
4. つかめるまで feat. 大比良瑞希
5. LONELY
6. 想像の向こう
7. Glory Days
8. 蜃気楼
9. 音楽が終わる頃 feat. 大比良瑞希
10. 143
11. Rock 'n Roll Star feat. 布袋寅泰
12. ハリアッ!!(Smooth Drive Ver.)

[DVD]
『HIROYA OZAKI ”Golden Hour” MOVIES』
1. LONELY [Video Clip]
2. Making of "LONELY"
3. 音楽が終わる頃 feat. 大比良瑞希 [Video Clip]
『HIROYA OZAKI LIVE '20/05/29【MUSIC/SLASH】』
4. 143
5. 君と見た通り雨
6. OH MY LITTLE GIRL

尾崎裕哉
『Golden Hour』(CD)通常盤

2020年10月21日(水)発売
価格:3,100円(税込)
SECL-2629

1. Golden Hour 
2. Awaken
3. Road
4. つかめるまで feat. 大比良瑞希
5. LONELY
6. 想像の向こう
7. Glory Days
8. 蜃気楼
9. 音楽が終わる頃 feat. 大比良瑞希
10. 143
11. Rock 'n Roll Star feat. 布袋寅泰 
12. ハリアッ!!(Smooth Drive Ver.)

イベント情報
『ONE MAN STAND 2020』

2020年10月23日(金)
会場:福岡県 福岡ROOMS

2020年10月28日(水)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3

2020年10月31日(土)
会場:和歌山県 和歌山CLUB GATE

2020年11月1日(日)
会場:兵庫県 神戸VARIT.

2020年11月3日(火・祝)
会場:愛知県 名古屋 SPADE BOX

2020年11月7日(土)
会場:石川県 金沢GOLD CREEK

2020年11月8日(日)
会場:新潟県 新潟ジョイアミーア

2020年11月13日(金)
会場:北海道 ふきのとうホール

2020年11月15日(日)
会場:栃木県 HEAVEN'S ROCK 宇都宮 2/3 VJ-4

2020年11月19日(木)
会場:神奈川県 F.A.D yokohama

2020年11月21日(土)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-1

『ONE MAN STAND 2020』

2020年12月9日(水)
会場:神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA

2020年12月14日(月)
会場:東京都 Billboard Live TOKYO

2020年12月17日(木)
会場:大阪府 Billboard Live OSAKA

『ONE MAN STAND 2020 CHRISTMAS SPECIAL』

2020年12月24日(木)
会場:大阪府 大阪市中央公会堂

プロフィール
尾崎裕哉
尾崎裕哉 (おざき ひろや)

1989年、東京生まれ。2歳の時、父・尾崎豊が死去。母と共にアメリカに渡り、15歳までの10年間を米国ボストンで過ごす。慶應義塾大学大学院卒。2016年に自伝『二世』(新潮社)を出版しアーティスト「尾崎裕哉」としては初の音源となるデジタル1stシングル『始まりの街』をリリース。2017年春、初のフィジカルCD作品『LET FREEDOM RING』をリリース。以降はフルオーケストラとの競演「ビルボードクラシックス」、弾き語りツアー「ONE MAN STAND」、バンドライブ「INTO THE NIGHT」と様々なスタイルでのライブを開催。2020年10月、初のフルアルバム『Golden Hour』をリリース。



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