インタビュー

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

インタビュー・テキスト
木村奈緒
撮影:大畑陽子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

自分1人では完全にコントロールできない。それが映像表現の面白さ

「(陸前)高田のことしかやらないラジオにしよう」という阿部さんの思いのもと、陸前高田に暮らす人たちの声を伝えつづけたラジオは、全国にファンを生んだ。阿部さんがパーソナリティーを卒業する日の放送には、陸前高田だけでなく、宮崎県、千葉県、愛知県など各地から便りが届いた。放送当時、人びとが親しんだ番組を、収録現場の映像を通して追体験できるのも、本作の見どころのひとつだ。

小森:中国から嫁がれた女性たちが中国語でおしゃべりしている番組とか、障害のある方たちがパーソナリティを務める番組とか、とにかくどれを聞いても笑いながらお話しをしていて、本当に全部素敵な番組なんです。小さな地域の中でも、より声が聞こえてこない人たちが楽しく自由にしゃべる場として、あのラジオがあった。震災があったからこそできたことだと思うんですけど、震災とは関係なく、本当にすごい取り組みだったと思います。

『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA
『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA

幼少期の思い出、長年連れ添った妻への思慕、生まれ育った土地に根差す草木への眼差し……阿部さんが陸前高田に暮らす人たちの声に耳を傾ける横で、小森もまた、目には見えないそれらを映像に刻んでゆく。

小森:なんでもかんでも撮るわけではなくて、カメラを回している時点で見たいものが割とはっきりしている気がしています。撮りたくないものに対して興味がなさすぎるだけかもしれないですけど(笑)、撮らねばならない、撮る以外やれることがない場面のほうが多くて。そのときにちゃんと撮れるか、自分の体が反応できるか、それを編集の中で生かせるかどうか、ということをやっています。

編集は、撮ったものがまず中心にあって、この映像が自立して人に届くためにはどういう構成にしたらいいか、どういう映画の始まり方をしたらいいか、そういう順番で考えていきます。頭で考えても分からないから、手で触りながら何通りもやってみて、やっと見つかるみたいな……。整理したり構築するのが苦手なので、お団子は作れるけどそれをまとめる串がないみたいな感じなんですよ(笑)。だから、最近は他の人に見てもらうことで串を見つけていっています。自分以外の脳みそを頼っていいのが映像のいいところというか、1人で作らないのが向いている表現でもあると思うんです。撮影も自分でコントロールしきれない世界と向き合っているし、別なものに動かされていくというか、自分だけの表現にならないところが好きで映像をやっているんだと思います。

小森はるか
小森はるか

小森監督の映画としての基準は、「自分から手放せるかどうか」

そうして完成した作品を、映画として映画館で観てもらうことも、小森にとっては大きな意味がある。本作は劇場公開に先駆けて、『あいちトリエンナーレ』『山形国際ドキュメンタリー映画祭』『恵比寿映像祭』で上映され、観客の声が早くも各地から聞こえてきている。

小森:『息の跡』や『空に聞く』は、観る環境として映画館が一番しっくりくると思っているので、やっぱり映画を作っているんだと思います。『息の跡』のときに、作品を自分の手から離すことで、やっと「映画ってこういうものなんだな」って思ったんです。学生のときは観てくれる人が限られていて、自分が居合わせて説明ができる環境でしか発表していなかったけど、全然知らない人に作品だけを観てなにかを感じてもらうにはどうしたらいいか、『息の跡』で編集の秦岳志さんに教えてもらいました。「作品を手放せるかどうか」は、映画として完成させるうえで強く意識します。

『空に聞く』は、『息の跡』よりもさらに説明が少ないので、そこにつき合ってくれるお客さんがどれくらいいるだろうかという不安は結構ありました。でも、『息の跡』の佐藤さんと、『空に聞く』の阿部さんは人柄も関係性も全然違うので、描く手法は絶対変えるべきだと撮影中から思っていました。阿部さん自身に降りかかったことを物語的に描くのではなく、阿部さんでないと気づかなかったこと──亡くなられた人たちに対して人びとがどういう思いでいたかとか──その語りを残したかったんです。上映してみて、思っていた以上に、阿部さんの声というか、映っているものをストレートに受け止めてくれた方が多かった印象を受けて、ちゃんと伝わるんだなって安心感を覚えました。

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作品情報

『空に聞く』
『空に聞く』

2020年11月21日(土)より、東京 ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開

監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
特別協力:瀬尾夏美
企画:愛知芸術文化センター 制作:愛知県美術館
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
配給:東風

プロフィール

小森はるか(こもり はるか)

1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年、仙台に拠点を移し、東北で活動する仲間とともに記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人NOOK」を設立。2015年、長編映画第一作となる『息の跡』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映され、2017年に劇場公開される。最新作は、2020年11月公開の『空に聞く』。

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