Campanellaの共感を求めない姿勢。自分の日常をラップに変える

彼が「いや、普通なんですよ」と言いながら、自身の思いをぽつぽつと語れば語るほど、そこには新たな発見があった。愛知の郊外、桃花台から全国区の存在となったラッパー、Campanella、4年ぶりのフルアルバム『AMULUE』を挟んでのインタビュー。坂本龍一らの楽曲がサンプリングされたトラックに、中納良恵(EGO-WRAPPIN')や鎮座DOPENESS、JJJらの客演――話題性豊かな新作は、コンビニ前で夜空を見上げる彼の日常から生まれている。

ヒップホップは、進化していかないといけない。愛ゆえに、変化を望む

―Twitterで新譜を「傑作!」と呟いていましたね。ご自身でおっしゃる方もなかなか少ない気がしますが。

Campanella:いやあ、いいものになったなあというのと、それぐらいハードルを上げて聴いてもらってもいいんじゃないかなと思えるほど納得できるものになったんで。完成した瞬間に、協力してもらったいろんな人の顔も浮かんだんですよ。……というか、なかなかそこを突っ込まれると思わずに呟きましたけど(笑)。

Campanella(カンパネルラ)
1987年生まれ、愛知県小牧市出身のラッパー。名前は宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』の登場人物に由来。愛称は「CAMPY」。2011年、RCSLUM RECORDINGSのV.A.『the method』に参加。その後、C.O.S.A.とのユニットである「コサパネルラ」名義の作品、フリーミックステープ、CAMPANELLA & TOSHI MAMUSHI名義の作品などを立て続けにリリース。1stアルバム『vivid』(2014年)、2ndアルバム『PEASTA』(2016年)。2020年12月に3rdアルバム『AMULUE』がリリースされた。

―すみません……(笑)。制作中の段階から、自信はあったんですか。

Campanella:曲を作っている最中は、正直に言うと、本当になんにも見えないんですよ。曲を並べていった瞬間に、なんとなく見えてくる。アルバムのよさって、そういうところだと思うんですよ。実は、「今やりたいことをすべて詰め込みました」っていうことじゃない、というか。

―どういうことでしょう? 1曲ごとに配信できますから、アルバムという存在自体の意義も問われる状況ですが。

Campanella:けっこう長い時間をかけて作っていったんですけど、自分の感覚も1曲1曲、その都度変わっていくから、アルバムとしてパッケージしたときには「今」じゃない曲もある。アルバムでやった曲だけが自分のやりたいことでもない。でも、それがよさじゃないですか。無理やり全曲くっつけると見えるものがあるのが、アルバムの面白さ。自分自身、アルバム単位で音楽を聴くことが多いです。

―アブストラクトなかっこよさもある新作『AMULUE』ですが、Campanellaさんがラップし始めた頃に好きだったのは、ハードコアなスタイルを貫いたTOKONA-Xですよね。以前に好きな曲として挙げていたトラック群にLL COOL Jが含まれていたのも意外で。

Campanella:入れてましたっけ……(笑)。

―その両輪というか、ヒップホップは大好きだけどヒップホップ至上主義じゃない、そんな音を鳴らしている気がするんですが。

Campanella:うーん、それ、難しい話ですねえ。1990年代から現在までのヒップホップを聴いている人だったら、このアルバムを「いい」と言ってくれるんじゃないかと思っていて。自分もそうだったんですけど、1990年代、もしくはその前からずっと今まで(進化し続ける)ヒップホップを聴いているので。「1990年代のヒップホップだけが好き」、というような人だと理解できないかもしれない。このアルバムは一見、ヒップホップのイメージから少し離れているかもしれないけど、音楽としてヒップホップを捉えたときには、絶対に進化していないといけないと思いますし、その結果がこの作品に表れていると思います。

Campanella“Douglas fir”MV

―「進化していないといけない」というのは、1つの思想のようなものですか?

Campanella:単純に、自分が20歳のときと、今の20歳の子たちが聴いている音楽って、そもそも違うじゃないですか。深く考えなくても、やっぱり変わっていくものだから。かっこよく言えば進化だけど、そこに対して食らいつくぐらいのことはしないと、ずっとフレッシュではいられない気がしますね。俺も若くないですから。現場で若い人とコミュニケーションとると、聴いている音楽も当然違うし。

―トラップでさえ、もう古いような感じですか。

Campanella:もちろん、トラップでさえ古いっていう人もいるし……そうそう、リバイバル的なものというか、『池袋ウエストゲートパーク』(2000年放送 / TBS系のドラマ)の雰囲気が、今の10代や20代の人には新しいっぽいんですよ。その感覚とか、もうまったくわからない(笑)。本当にわかんないと思っちゃう自分は、確実に年をとっているわけです。

―その中で、新しい作品を作るわけですね。

Campanella:若い人に合わせたいっていうよりは、若い人もブチ上げたい。もちろん、先輩や年上の人たちにも「いい」と言ってほしいし、自分の同世代にも、全員に「ヤバい」って言われたいなとずっと思ってます。

―上も下もみんなに「いい」と言ってもらいたいとすると、そもそもご自身の懐の深さとか、音楽以外も含めた感性の豊かさが問われませんか。Sigur Rósが好きだとか、今作も参加された幼馴染のトラックメイカーであるRamza、Free Babyroniaの2人とFlying Lotusを研究したこともある、といったエピソードもありますが。

Campanella:ああ……そこはもしかしたら、自分個人で今まで聴いてきた音楽の嗜好とかは、実は関係ないかもしれないですね。幼馴染の友だちが、そういう音を作っているんです。幼馴染の音は「近い」から、よく聴くわけじゃないですか。すると、自然とそういう耳になるというか。

もしどこかでリスナーとつながればうれしい。ラップしているのは、個人の日常

―そもそも友人が鳴らしている音楽やトラックが、とても豊かということですよね。

Campanella:そうそう。RamzaやFree Babyroniaが最初から、本当に近いところでトラックを作り始めて、その上でラップするのが自分だったから――。もちろん、そのときそのときに自分が好きだった音楽も活かされているとは思うんですけど、なにが一番大きいかと言ったら、その「近さ」だったかもなあ、って。

―今回、アートワークデザインを担当されたのも伊藤潤さんという、地元の美術作家の方ですね。

Campanella:もともと仲がいい先輩で、よく飲む機会もあって。こういう絵を描いてくださいとかは、細かく言ってないです。ジャケットって、アルバムのビジュアルイメージになるじゃないですか。いろんな絵描きの人がいますけど、そこは自分の心をわかってくれている人に描いてもらいたいなと思って、これも「近い」人に頼んだんですよ。

周りに絵を描く人も多いし、ヒップホップのことは全然詳しくない、バンドとか違う音楽をやっている友だちとかも多いんです。名古屋はそれが普通なんですよ、いろんな人が集まりやすいというか、なにやってるとか関係なく出会って友だちになって。今回のジャケットもそういうことなんです。

―距離ということで言うと、リリックは日常感とコズミックな感触が気持ちよく融け合っているようなところがあると思うのですが。

Campanella:うーん、それも基本的には自分に近い環境というか、身の回りのことを歌っているつもりなんですよ。

―「近さ」に基づいたトラックに「近い」リリックを乗せる。

Campanella:うん、そうですね。ただ、リリックは大事にするんですけど、それに共感してほしいとは、まったく思わないんですよ、正直。だからこそ、自分の身の回りのことを歌っているんだと思うんですけど。

―どういうことでしょう?

Campanella:だって俺の身の回りのことなんて別に、誰も聞かなくてもいいっちゃいいじゃないですか(笑)。相当なファンの人だったら知りたいかもしれないですけど、音楽の歌詞の1つのトピックとして、自分の身の回りのことって、他人からしたらどうでもいいっちゃいい。でもそれがふとした瞬間に、聴いている人にフィットしたり、かっこいいなと感じてもらえたりしたら幸いだな、って。引っかかりは大事にしているんです、いきなり突拍子もない言葉がポンとやってくると「なんだ!?」と思うじゃないですか。そこが忘れられないフレーズになればとか、そういうことはいろいろ考えますけどね。

―なるほど、日常の視野からフッと遠くなる瞬間は、そこなのかもしれないです。それにしても、淡々と話されている内容が新鮮です。身の回りやフッド(地元)のことをラップするって思われがちですけど、それを一度客観視しているというか。

Campanella:いや、正直な話、共感は基本的に無理じゃないですか? だって、誰も自分と同じ生活してないから……(笑)。俺は朝早く起きなくていい職業ですけど、毎朝絶対に早く起きなきゃいけない人もいるでしょうし、俺は夜遊びが楽しくてよくしてるけど、そんな生活できない人もいるし。ただ、曲を聴いて、ふとした瞬間にアガってくれるのは本当に嬉しいですけどね。

―先ほどのアルバムの話を含めて、ご自身の意図せぬところでつながっちゃう瞬間を求めていらっしゃるような気がします。

Campanella:そうそうそう! 偶然とかいろいろあると思うんですけど、どこかでつながってくれたらうれしいなって気持ちはむちゃくちゃあります。

―自分の足元から、そうした偶然のつながりを求める、と。たとえば、東京で活動する、しないという選択肢って、どう考えますか。

Campanella:東京は華やかですし、住みたいと思ったことが一度もないかと言ったら、そんなことはないです。ただ、本当に決意したとか、実際に想像したことはあまりないですね。かと言って、名古屋がいいから地元でやっているというわけでもなくて。活動を始めてからそんなに時間も経たないうちから、東京も含めていろいろな場所に呼んでもらえたので、名古屋でやっていても、なにも問題はなかった。自分は恵まれていたと思います。

―ちなみに前作のタイトル『PEASTA』(2016年)は、チェーン店とかが入ってる地元・小牧市の小さなモールの名前ということですが、ひょっとして今回の『AMULUE』も店の名前ですか? インターネットで検索しても、春日井市にあった店の閉店情報しか出てこないんですが……。

Campanella:そうそう、その店ですよ。おしゃれ雑貨屋兼本屋さんみたいな、高校生の頃からちょっと背伸びしていくような店で。名古屋まで行かなくても春日井にそういう場所があった。地元の人はけっこう知ってるから、このタイトルを見るとアガるはずなんですよ。逆に地元じゃない人にこの店のニュアンスを伝えるのは難しいんですけど(笑)。照れくささもあるというか……。

Campanella『PEASTA』を聴く(Apple Musicはこちら

―「照れくささ」と言うと?

Campanella:なんというかその……言葉を選ばずにいうと、「本当におしゃれ」な店じゃないんですよ。「イケすかねえなあ」みたいなことをみんな口にするんだけど、後で自分が店に入ると、そんなこと言い合ってた友人が女の子連れて来てるみたいな。あれだけ文句言ってたのに(笑)。

ラッパーはただただ自己を肯定する。だから、他人からの共感は必ずしも必要がない

―店で出くわして「スカしてたのに来てんじゃん!」みたいな(笑)。

Campanella:しかも自分もいるっていう(笑)。身近な人は、タイトルからその絶妙な感じをわかってくれると思うんですよ。

―それを「外」に向けたアルバムタイトルにしたのはなぜなんでしょう。

Campanella:ピエスタは俺の地元で、アムルはその地元から名古屋に向かう途中にあるんですよ。次のアルバムのタイトルを名古屋のどこかにするかどうかはわからないんですけど、今はちょっとずつ名古屋に近づいている状態(笑)。

―近づいた先になにがあるかは……?

Campanella:そこはまだちょっとわかんないですけどね(笑)。でも、アムルはそういう絶妙な場所なんですよ。

―コロナ禍でも積極的に各地でパフォーマンスをされていますが、どんなことを感じていますか。

Campanella:改めてクラブという場所と「向き合った」というか。当たり前にあったところがなくなってしまう可能性を、自粛期間中はちょっと想像してしまったんですよね。いつもなら、そこにいったらずっと音が鳴っていたり、好きな友だちと会えたりするような……そういう場所って当たり前に捉えすぎてしまっていたな、って。久しぶりにクラブにいったとき、あの大きな音を聴いて、「ああ、この爆音のおかげで健康でいられたんだな」という気がしました。

―アルバム制作にあたって、現在の状況のことは考えましたか?

Campanella:曲自体はコロナの前に作ったものも多いんですけど、曲を並べていくときに、最近の空気感をストーリーとして考えはしました。だんだんよくなっていくといいな、って。

―“SUMIYOI feat. 鎮座DOPENESS, JJJ”や“Think Free feat. 中納良恵”といった明るいテイストの曲が、アルバムの後半に並んでいるのは印象的です。

Campanella:自分によくしてくれている先輩がアルバムを聴いて、アウトロが終わった余韻まで、まるで1本の映画みたいだったと言ってくれたんです。自分も、起承転結とまでは言わないですけど、「よくなっていく」ストーリーは考えていましたね。

Campanella“Think Free feat. 中納良恵”MV

―アルバムのラストソング“PEARE”で、<ラッパー独特の話し方 これもlyricsあれもlyrics>という1節があります。さまざまな表現手段がある中で、ここまで触れてきたような世界観を形にする「ラッパー独特の話し方」ってどういうものなんでしょう。

Campanella:さっきのフッド愛や、共感しなくていいという話につながるんですけど、聴いている人がどう思うかにかかわらず、自信を持って「俺たちの地元はヤバいんだぜ」って歌う、あれもひとつの「ラッパーの話し方」という気がするんですよね。

「金稼いでるんだぜ」というのもそう。自分は作らないタイプの歌詞だけど、でもラッパーがそれを声を大にして歌っているのって、すっごい好きなんです。基本的に自己を肯定するんですよね、ラッパーは。

―自己肯定している人たちがたくさん、並列に、一緒にいる音楽なんですね。

Campanella:そうそう。だから、このスタイルがヤバいとか、俺はあれが好きでこれが嫌いということを歌って、それをみんなに共感しろというのも、ちょっと違うじゃないですか。その気持ちが強くなりすぎると、ラッパーがステージの上から説教しているみたいになるし、聴いているこっちも「知らねえよ」「うるせえよ」ってなってくる(笑)。でも、どこかの言葉に引っかかってくれて共感してくれたら、それはすごく嬉しいんです。だから俺も、「ついてこい」とまでは言わないんですけど、「アゲてこう」ぐらいまでは言うんですよ。

―そこのラインまでは歌う、と。ドライでいながらウェットなCampanellaさんの感覚がわかってきました(笑)。

Campanella:ハハハハハ、伝わりました? 「アゲていこう」とは思うし、このアルバムを聴いて頑張ろうと思ってくれたら、嬉しいですよね。

Campanella『AMULUE』を聴く(Apple Musicはこちら

―今回は4年ぶりのフルアルバムでしたけど、次作もこれぐらいのペースで作るんですか?

Campanella:いや、もっと早く……と思っております。4年はさすがに長かったッス(笑)。ライブもできるだけやって、制作して……なんとなくやりたいなと思っていることは自分の中にあるので、それを形にできたらな、って。

―少しだけ、その「なんとなく」のところを伺えますか。

Campanella:いろんなところでライブをやらせてもらっていると、楽器を演奏する人と出会うことが多くて。何回かセッションもやらせてもらってきたんですよ。ああいうのを、もっと自分の中で形にできたらいいですね。修行でもないけど、そういう人たちと一緒にやって、勉強したいなって。

―それって、どういう「勉強」なんでしょうか。

Campanella:稽古をしてライブをして、ということからもっと「自由」になるというか。たとえばジャズマンとかだと、1曲やって、次の曲をやって、ということではない自由度の高さがあるじゃないですか。周りにいるそういう人たちと一緒に、もっと深くやってみたい。そうしたら、また全然違う景色が見えるかもしれないから。いっぱいセッションをして、いっぱいラップをして……誰かがドラムを叩いたら、誰かがギターやベースを入れてきたら、その感覚と一緒に楽器としてラップができるような、そんな自由なラップを勉強してみたいんです。

リリース情報
Campanella
『AMULUE』初回生産限定盤(CD)

2020年12月23日(水)発売
価格:3,850円(税込)
DDCB-12115

1. AMULUE
2. Bell Bottom
3. Douglas Fir
4. Next Phase
5. Hana Dyson
6. Freeze
7. Minstrel feat. ERA
8. SUMIYOI feat. 鎮座DOPENESS, JJJ
9. Think Free feat. 中納良恵
10. Palo Santo
11. PEARE

プロフィール
Campanella
Campanella (カンパネルラ)

1987年生まれ、愛知県小牧市出身のラッパー。名前は宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』の登場人物に由来。愛称は「CAMPY」。2011年、RCSLUM RECORDINGSのV.A.『the method』に参加。その後、C.O.S.A.とのユニットである「コサパネルラ」名義の作品、フリーミックステープ、CAMPANELLA & TOSHI MAMUSHI名義の作品などを立て続けにリリース。1stアルバム『vivid』(2014年)、2ndアルバム『PEASTA』(2016年)。2020年12月に3rdアルバム『AMULUE』がリリースされた。



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