インタビュー

デヴィッド・バーンが歌い、踊り、語る 『アメリカン・ユートピア』

デヴィッド・バーンが歌い、踊り、語る 『アメリカン・ユートピア』

インタビュー・テキスト
村尾泰郎
リード文・編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

政治的メッセージをどう表現するか? バーンは自分の経験を観客に語りかける

『アメリカン・ユートピア』の重要な点は、そんな風に様々な社会問題をショウに織り込んでいることだ。これまでバーンはひねりを効かせた歌詞で、アメリカ社会の抱える歪みや違和感を音楽にしてきた。しかし、『アメリカン・ユートピア』のメッセージは明快だ。

バーンはバンドが南米やヨーロッパ出身の多国籍なメンバーで構成されていて、自分もスコットランド出身だということを伝えて移民問題に触れたり、選挙の投票率の少なさを紹介したりもする(ショウが行われたのはアメリカ大統領選挙の前年)。さらにダンサーが女性とクイアの2人なのは性の多様性を伝えているのだろう。これほどストレートにバーンが社会問題について語る姿に驚かされるが、そこには「何か行動を起こさなくてはいけない」というバーンの切実な思いが伝わってくる。ただ、そこで声だかにメッセージを訴えるのではなく、親しみやすく、ユーモアを交えた語り口で観客に語りかけることで、説教臭くなることを回避している。

日本では政治的発言をするミュージシャンが非難されたりするような状況もあるが、表現と社会的メッセージの関わりについてバーンはどんな風に考えていたのだろう。

バーン:アーティストがステージの上から「こうしろ」と言うのは違うと思う。誰かにそんな風にとやかく言われるのはいい気がしないからね。だから僕は自分の経験を語ろうと思った。携帯のこととか、バンドのことなんかをね。それを聞いて観客がどう思うかは自由。観客自身が決めてくれたらいい。

でも、確かにトリッキーな状況だね。政治的なことを喋りながら、上から目線にならない立ち位置を見つけなければいけないのは難しいことだった。

『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

観客に語りかけること。それはこのショウにおいて、演奏やダンスと同じくらい重要なパフォーマンスだ。知的で芸術家肌、というイメージが持たれがちなバーンだが、ここでは親しみやすい一面を見せて観客とリラックスした関係を結び、上から目線にならない場所を作り出している。

バーン:コンサートでも観客に語りかけることはあるけど、このショウでは話す量がかなり多かった。僕が喋っているだけではなく、僕の発言に観客がリアクションをすることもある。ときには意外なところでウケたりしてね。それに対して僕が反応する。そうすることで、僕が観客のことを大事に思っていることが伝わる。ただ、脚本を読んでるだけじゃないってことがね。そんな風に観客が思ってくれることが、このショウでは重要だったんだ。

『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

世界と対峙し、自問する若きバーンがバンドに加わり、社会や文化に関わっていく「旅」の物語

バーンのMCで「つながる」という言葉が何度か登場するが、バンドという結びつきや、アーティストと観客との結びつきを、バーンは音楽や言葉で観客に伝えていく。そして、さらにショウに物語性を取り入れることで、観客自身がショウに秘められたテーマを発見していくような演出になっている。ショウではアルバム『アメリカン・ユートピア』の収録曲を中心に、“I Zimbra”“Once In A Lifetime”“Burning Down The House”などTalking Heads時代の代表曲も演奏しているが、ショウの一環として、ひとつの物語のなかで曲を聴くことで、新しい読み取り方ができる。そんな選曲も見事だ。

バーン:(2018年の)コンサートの時から、「何か物語のようなものを感じる」と観客に言われていたんだ。それは一体何かを考えたうえで、その内容を観客がキャッチできるように選曲を考えた。

冒頭で一人の男が歌っているけど、それは若い頃の僕なんだ。「自分は誰なんだ? 世界はどんな風に動いていて、自分は世界とどんな風にフィットしたらいいんだろう?」って自問している。ショウの中盤になると、男はバンドに参加して家族ができたような状態になる。そして、最後に男は社会に参加して、文化や政治に関わるようになる。そういう流れに沿って、その時々の男のエモーションに近い曲を選んでいったんだ。

『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
映画の原案であるデヴィッド・バーンの2018年発表のソロアルバム『American Utopia』(Apple Musicで聴く

そして、バーンはそうした男の変化を「旅」と例えた。過去のヒット曲から新作までをちりばめたブロードウェイ版『アメリカン・ユートピア』は、自伝的な旅の記録なのかもしれない。そういう、キャリアを総括するような作品はバーンくらいのベテランになると珍しくはないが、そこに現代的な問題意識を反映させて、アートとしてもエンターテイメントとしても成立させているのがバーンのすごいところ。

Talking Headsを結成する前、美大生の頃からバーンは演劇と音楽を融合させる試みをしていた。そのようなクリエイティブな試みを作品を通じてバージョンアップさせていき、その最新形として映画版『アメリカン・ユートピア』を完成させた。破壊と創造を同時に行うニューウェイブ精神を失わず、68歳の今も衰えない艶やかな歌声やダンスといった身体的な表現を通じて、血の通ったアートを生み出したのだ。

『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

この映画が収録された後、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい始めるが、そんな厳しい状況のなかでも、バーンは創造することを諦めていない。

バーン:今、いろんな人たちが演劇や音楽をスムースにやろうと試みているんだけど、なかなかうまくいかないみたいだ。僕も以前のようにはショウができなくなってしまった。でも最近、友人たちと進めているプロジェクトがあって、それは『ソーシャル・ディスタンス・ダンスクラブ』というんだ(笑)。みんなで一緒に踊るんだけど、それぞれが自分の円みたいなものを持っていて、他の人たちと距離を置きながら、その円のなかで踊る。これが僕にとってひとつの始まりになるんじゃないかな。

映画版『アメリカン・ユートピア』のラストナンバー“Road To Nowhere”でバーンはバンドを引き連れて高らかに歌う。「あてのない旅の途中さ」「一緒に来て歌うのを手伝ってくれないか?」。映画の開放感溢れるエンディングが象徴するように、バーンの旅はまだ終わらない。脳の「ほとんど使っていない部分」を探検して、新しい地図を描き続けること。それがバーンにとっての旅なのかもしれない。

『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『アメリカン・ユートピア』 ©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
映画『アメリカン・ユートピア』予告編

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作品情報

『アメリカン・ユートピア』

2021年5月28日(金)から全国公開

監督:スパイク・リー
出演:
デヴィッド・バーン
ジャクリーン・アセヴェド
グスタヴォ・ディ・ダルヴァ
ダニエル・フリードマン
クリス・ジャルモ
ティム・ケイパー
テンダイ・クンバ
カール・マンスフィールド
マウロ・レフォスコ
ステファン・サンフアン
アンジー・スワン
ボビー・ウーテン3世
上映時間:107分
配給:パルコ ユニバーサル映画

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