レポート

澤部渡、TWEEDEESらが体現 音楽は生きる力とロマンを描き出す

テキスト
天野史彬
撮影:小田部伶 編集:山元翔一
澤部渡、TWEEDEESらが体現 音楽は生きる力とロマンを描き出す

日々の生き辛さや孤独感を歌に変換するCLOWの鋭利な感性

音楽アプリ「Eggs」とCINRAが共同主催する無料音楽イベント『exPoP!!!!! volume87』がTSUTAYA O-nestで行われた。

この日、最初にステージに現れたのは、北海道出身の女性シンガーソングライター、CLOW。顔を隠したミステリアスなアーティスト写真とは裏腹に、ギターを抱えて歌い始めた彼女の歌声は、何にも包み隠されることのない真っすぐで生々しいものだった。透き通った闇を孕んだ彼女の歌は、同じようなラブソングばかり歌う同業者たちへの苛立ちや、あらゆる出来事が単純なスクロールで消化されてしまう現代社会に対する違和など、日々の生活の中から生まれる生き辛さや孤独感を出発点にしたものだ。

だが、そこに刻まれた実直なエモーションは、単純な「絶望」などではなく、むしろ、決して折り合いがつかなくても、この世界をなんとかサバイブしようとする「覚悟」のようなものを感じさせた。その「冷めながら醒めている」感覚が、今を生きる若者としての鋭利な感性のように感じた。

生の多様性こそが人生を彩ることを体現するパーティーバンド・SATORI

続いて登場したのは、京都出身の5人組バンド、SATORI。この日がアルバム『よろこびのおんがく』リリース後初の都内ライブだったようで、セットリストも“愛しのゾンビ~ナ。”や“ときめき地蔵盆”など新作収録曲が中心。ファンクやヒップホップを昇華したグルーヴィーで軽快な、まさに「喜びの音楽」でフロアを多幸感あふれる空間へと染めあげていく。

SATORI
SATORI

SATORI

ただ、SATORIが凡百のパーティーバンドと決定的に違うのは、彼らの表現する「喜び」に、イコールで結びつく「歪さ」があるからだろう。個々の楽器がぶつかり合うようにして生み出されるポップなサウンドと、ハノトモとYKOによる夫婦漫才のような男女ツインボーカルが表現するのは、単なる「調和」ではなく、あくまで「衝突」と「調和」の二重構造だ。日常の中に「非日常」が差し込まれる瞬間、目の前にいる他者のことを絶対に「理解できない」と理解した瞬間――そうした「違和」こそが、人生における色彩なのだと証明するような、喜びの歪さをぶつけるパフォーマンスを披露した。

アイコニックなMINの存在感に見る、杏窪彌の可能性

3番手は台湾出身の女性ボーカリスト、MINを擁する杏窪彌(あんあみん)。本来は4人組バンドなのだが、この日はMINとギターの玲生の2ピース編成で登場。玲生がギターとMacBookを操り、そのうえをMINの日本語と中国語が織り交ざったキュートな歌声が響く。編成的にも「バンド」というよりは「ユニット」的な側面が強かった分、MINのアイコンとしての強烈な存在感を強く感じることができるステージだった。

杏窪彌
杏窪彌

“歴史 de DANCE”に始まり、“はじめてのチュウ”の替え歌“はじめての中華”なども披露。新しいのに、どこか懐かしさを感じさせる楽曲、そしてマイクの前で派手に動くことなく、しかしどこか人懐っこい仕草と歌声で場の空気を掌握していくMINの姿には、そのビジュアルの可愛らしさも相まって、抜群のスター性があった。

杏窪彌

6月にリリースされた新作『ジャイアントパンダにのってみたい』は「未来のアジアを想像して作った作品」だというが、国と国、思想と思想のボーダーがより強固になっているこの時代だからこそ、想像力と創造力で時間軸や国境を越えるMINのアイコン性には、あらゆる人々を「つなぐ」ことのできる可能性や希望があるのではないかと感じさせた。

過去の美しさを抱きしめて生きる悲しみ、そして喜びを歌う澤部渡

続いては弾き語りで登場したスカートの澤部渡。冒頭から名曲“ストーリー”で、その美しい旋律の中にオーディエンスを引き込む。ギターが刻む端正なコード進行はまるで淡々と続く日常のようで、澤部の歌声は、そんな日常の中で、記憶や夢に閉じ込められて、雁字搦めになってしまう男のロマンティシズムを滲ませる。

澤部渡(スカート)
澤部渡(スカート)

澤部の歌の世界には常に「過去」が大きな主題として存在するが、しかし過去を振り返ることは、決して悲しいことばかりではない。忘れられないほどの美しい記憶を持っていることは、その人がどれだけ豊かな人生を歩んできたかを証明するものでもある。記憶に閉じ込められて、でも記憶に生かされて――そんな悲しみと喜びがない混ぜになった場所で、澤部の歌は優しさに満ちて響く。

澤部渡(スカート)

新作に収録された名曲“CALL”や新曲も披露。今年はスピッツが『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演した際にタンバリンと口笛を披露し、さらにアルバムに参加したことでも話題になったが、この先、彼の音楽はより多くの人々の人生を豊かなものにするだろう。最後、まるで醒めない夢を描くように“シリウス”のアウトロを奏でる彼の姿を見ながら、そんなことを強く思った。

「ポップミュージック」の歴史と使命を背負うTWEEDEESの説得力

トリはTWEEDEES。中心人物であるベースの沖井礼二は1990年代後半にCymbalsで活動していた長いキャリアの持ち主だが、サウンドチェックの段階からオーディエンスと写真を撮って即Twitterで呟くなど、その佇まいは少年のように無邪気。むしろ今年26歳のボーカル、清浦夏実のほうが落ち着いて大人に見えるほどで、この関係性もまた、TWEEDEESの「ポップ」のひとつの要素になっているのかもしれない。

TWEEDEES
TWEEDEES

TWEEDEES

1曲目“速度と力”から“STRIKERS”“Boop Boop Bee Doop”と、ロック、ファンク、ソウル、ジャズへと、ポップミュージックの「正史」を辿りながら、全てを結びつけるような懐の大きなポップソングを立て続けに披露していく。アンコールのラストにジミ・ヘンドリックスの“Crosstown Traffic”が演奏されたことにも象徴的だったが、TWEEDEESの奏でるポップソングには、最後にブルースに帰結していく歴史性への真摯な目配せがある。始まりにはブルースという名の悲しみがあり、だからこそ、ポップミュージックは時代を経るごとに喜びを求めて進化してきたアートフォームなのだ。TWEEDEESはそんなポップミュージックの根源に立ち返るからこそ、今、強い説得力を持って若い世代にも響いているのだろう。

そして、悲しみを出発点にして、音楽の力で生きる喜びと強さを、そして理想や夢想をも描こうとする姿勢は、この日集まった全てのアーティストに共通してたことなのかもしれない。たしかに現実には酷いこともたくさんある。でも、どんな時代にあっても、音楽を通して過去や未来を、そして異国の誰かを想うことは、いつだって生きる力やロマンになりえる――不変で普遍なその真実を強く感じさせられる一夜だった。

イベント情報

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume87』

2016年7月27日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
杏窪彌
TWEEDEES
SATORI
澤部渡(スカート)
CLOW(オープニングアクト)

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume88』

2016年8月25日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
MARQUEE BEACH CLUB
あいみょん
mol-74
Kidori Kidori
YUMEGIWA GIRL FRIEND
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール

CLOW
CLOW(くろう)

北海道出身。2013年4月、上京。ギターを独学で始める。2014年8月、都内を中心に活動を始める。2015年、ヤマハ主催ミュージックレボリューション東日本ファイナル出場。モナレコード主催『モナレコ女子!』ファイナリスト。2016年、『MASH A&R』2月度優秀アーティストに選出。『Shimokitazawa Sound Cruising 2016』に出演。

SATORI
SATORI(さとり)

ファンク、ソウル、R&Bからの影響を受けた京都式シティポップ。キュートなアイドル風の歌声を聴かせるYKOと、セクシーだがちょっと変態チックなハノトモによるツインボーカル!ファンキーで、よりグル―ヴィーなポップダンスナンバーを奏でる5人組。7月6日に1stフルアルバム『よろこびのおんがく』をリリース。

杏窪彌
杏窪彌(あんあみん)

2011年結成。台湾からやってきた謎の少女VoのMINを擁する、台北生まれ、東京育ちのエキゾチックポップバンド。観光気分で懐かしい未来を唄う、東洋一のネオ歌謡。MIN(Vo. 台北出身)、玲生(Gt. まんが)、翔(ベース)、幹(肉まんどらまー)。通販とライブ会場のみで販売している『てづくりCD』2000枚以上売り上げ。Vo,MINによる本物キスマークの上に、手書きの顔を描いた特製ジャケット。

澤部渡
澤部渡(さわべ わたる)

1987年生まれ。東京都板橋区出身のシンガーソングライター。どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業・性別・年齢を問わず評判を集める不健康ポップバンド「スカート」を主宰。音楽と漫画をこよなく愛する好男子。スカートでの活動の他にもパーティ・バンドのトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴率いるゴロニャンずでもドラムを担当。金剛地武志率いるyes, mama ok?ではサポートベーシスト/ドラマーとして参加。ツボをつくソングライティングに定評があり、様々なアーティストに楽曲提供も行っている。スカートの最新作は『CALL』(カクバリズム/2016年)。

TWEEDEES
TWEEDEES(とぅいーでぃーず)

清浦夏実と沖井礼二によるポップ・グループ。2015年結成。2015年3月18日、日本コロムビアより1stアルバム『The Sound Sounds.』リリース。ミュージックマガジン誌レビューでは10点満点、2015年年間ベストアルバム歌謡・J-POP部門では8位にランクインと高評価を得る。11月3日1stシングル『Winter's Day』リリース。タワーレコードよりアナログ盤7インチ、日本コロムビアより配信でリリース。高い音楽性とファッション性を持ちつつ等身大のフレンドリーなキャラクターで臨むステージングのライブにも定評がある。様々な面でポップス / ロックの「王道」を貫くTWEEDEESは世代を超えて時代の潮目となりつつある。2016年7月20日に2ndアルバム『The Second Time Around』リリース。

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