特集 PR

会田誠は今の日本を体現している? 曖昧で不明瞭な日本を描く

会田誠展『GROUND NO PLAN』
テキスト
島貫泰介
撮影:八田政玄 編集:宮原朋之
会田誠は今の日本を体現している? 曖昧で不明瞭な日本を描く

日本を徹底的に描いてきた会田誠。その存在自体が、日本を体現している?

「リサーチにかけた時間はゼロ」と会田はうそぶくが、それでもアイデア源になっているものはある。第三次世界大戦後、2020年のオリンピック開催を控えた東京を破壊しまくった大友克洋の『AKIRA』や、前述したマンガ作品、そして何よりも庵野秀明の実写特撮映画『シン・ゴジラ』だ。2012年に すでに制作されていた山口晃『新東都名所 東海道中「日本橋 改」』(会田自身はこの作品の存在を最近知った)とシンクロする新作『シン日本橋』のタイトルにその片鱗ははっきり見ることができる。

『シン日本橋』(制作中)
『シン日本橋』(制作中)

山口晃『新東都名所 東海道中「日本橋 改」』
山口晃『新東都名所 東海道中「日本橋 改」』

会田:たしか庵野さんと僕は1歳しか年齢が違わないんですけど(会田誠は1965年生まれ、庵野秀明は1960年生まれなので、実際はわりと違う)、見てきたものや廃墟幻想は共通してる気がしますね。

会田誠

焼け野原からの新生から始まった戦後日本のポップカルチャーは、『ゴジラ』『ウルトラマン』『日本沈没』などさまざまな東京の大破壊を強迫的に幻視してきたが、2016年公開の『シン・ゴジラ』は破壊描写のアップデートと復興の希望を主題としている。官僚やテクノクラート(技術官僚)、自衛隊、日本全土の化学プラント、土木業者、鉄道会社が一丸となって実行するクライマックスの「ヤシオリ作戦」は、日本人が大大大大大好きな汗と涙と努力と根性の映像化である。

一方、Chim↑Pomをはじめとする教え子たちや、山口晃の全面協力のもと実現した本展は、『シン・ゴジラ』に内在する臥薪嘗胆、挙国一致のドラマをアートの側でやってみた陰画として見ることができよう。そして、その中心にいる会田は「現代美術に関してなるべく単純に考えたいんですよね」とコメントしてみせたりして、昭和世代に顕著なノンポリ左翼的政治意識を垣間見せながらも、のらりくらりとはぐらかし、決定的な断言や決断を先延ばししてみせる。

会田誠『東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図』の下絵を元に、山口晃は会場で『都庁本案圖』を制作していた
会田誠『東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図』の下絵を元に、山口晃は会場で『都庁本案圖』を制作していた

スペシャルゲストとして、Chim↑Pomの「都市は人なり 「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」全記録」も展示されている
スペシャルゲストとして、Chim↑Pomの「都市は人なり 「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」全記録」も展示されている

しかし、中心が空虚であればあるほど、彼を取り巻くアーティストやキュレーター、あるいはプレス内覧に殺到したメディア関係者らは熱狂し、正体のよくわからない見えない渦を醸成するのだ。空虚を中心として渦巻く人の群れ。それは、敗戦後の占領政策によって、国政にかかわる権能を失ってもなお「象徴」として延命する天皇制と、それを曖昧に共有することで市民社会らしきものを運営してきた戦後日本の縮図にも見えてくる。

現代社会において、アーティストはしばしば才能溢れた、特異な個性を持った強烈な「私」性を持った人として把握され、その役割を期待される。会田が「現代美術の三大神」として言及するヨゼフ・ボイスも、マルセル・デュシャンも、アンディ・ウォーホルも例外ではないし、人によっては積極的にその期待に乗ってみせる(かくして、アートのムラ社会は完成する)。

『油絵科出身の猿』
『油絵科出身の猿』

『雑草栽培』
『雑草栽培』

だが会田は、のらりくらりと韜晦(自分の才能や地位を隠し、行方をくらますこと)することで、そこに疑問を投げかける。「私たち」が期待する「アーティストとしての私」像を戦略的に用いながらも、「私たち」と「私」のあいだで自分自身のアイデンティティーのありかを先延ばしするアクションそのものが彼の作品の核心だ。そしてそれは、曖昧な微笑みや察し、思いやりと「お・も・て・な・し」の精神で自己決定を避け続けてきた日本の、批評的な再演でもある。

彼が卓越した技術で作り出すのは、けっしてグロテスクな絵画やファニーな立体ではない。2012年に森美術館で開催された個展のタイトルは「天才でごめんなさい」だった。今回は建築における基本計画「グラウンドプラン」にノー(無)を挿入するタイトルが選ばれている。会田誠は、アーティストとして世に登場して以来、曖昧さと謙譲を美徳とし、決定と責任を負うことが不得意な日本と日本人を徹底的に描いてきた。その一貫した姿勢は、今回も健在なのである。

会田誠

Page 2
前へ

イベント情報

会田誠展
『GROUND NO PLAN』

2018年2月10日(土)~2月24日(土)
会場:東京都 表参道 青山クリスタルビル 地下1階、地下2階
時間:10:30~18:30(金曜は19:30まで、入場は閉館の30分前まで)
料金:無料

プロフィール

会田誠(あいだ まこと)

1965年、新潟県生まれ。91年東京芸術大学大学院美術研究科修了。93年『フォーチューンズ』(レントゲン藝術研究所)で芸術家としてデビュー。ミヅマアートギャラリーでの個展を中心に、『横浜トリエンナーレ2001』『シンガポール・ビエンナーレ2006』『アートで候。会田誠・山口晃』展などがある。DVD『≒会田誠~無気力大陸~』、作品集『孤独な惑星』『三十路』『会田誠 MONUMENT FOR NOTHING』、著作『青春と変態』『ミュータント花子』。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』予告編

映画『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』予告編。高畑勲の実験精神に敬意を表する監督が「暗号描画」なる手法を使い、全ての作画をたったひとりで手がけたという。透けてしまいそうなキスシーンや、迫り来る波の一瞬一瞬に確かに手をひかれているようで、全貌が気になって仕方ない。オフィシャルサイトには片渕須直、今日マチ子らのコメントも。(井戸沼)

  1. 土屋太鳳と芳根京子がキス寸前 『累-かさね-』場面写真に浅野忠信らの姿も 1

    土屋太鳳と芳根京子がキス寸前 『累-かさね-』場面写真に浅野忠信らの姿も

  2. 「ほぼ日手帳2019」ラインナップに横尾忠則や荒井良二ら、『ドラえもん』も 2

    「ほぼ日手帳2019」ラインナップに横尾忠則や荒井良二ら、『ドラえもん』も

  3. 二階堂ふみ&GACKT『翔んで埼玉』特報&ビジュアル公開 加藤諒の姿も 3

    二階堂ふみ&GACKT『翔んで埼玉』特報&ビジュアル公開 加藤諒の姿も

  4. 石塚運昇が逝去、67歳 『ポケモン』オーキド博士や『ビバップ』ジェット役 4

    石塚運昇が逝去、67歳 『ポケモン』オーキド博士や『ビバップ』ジェット役

  5. 三浦大知が標高2800mの山頂で即興ダンス サントリーPEAKERの新CM公開 5

    三浦大知が標高2800mの山頂で即興ダンス サントリーPEAKERの新CM公開

  6. 木村拓哉&長澤まさみのホテルマン姿 『マスカレード・ホテル』特報公開 6

    木村拓哉&長澤まさみのホテルマン姿 『マスカレード・ホテル』特報公開

  7. サマソニで初来日 チャンズ・ザ・ラッパーのニューチャプターを目撃せよ 7

    サマソニで初来日 チャンズ・ザ・ラッパーのニューチャプターを目撃せよ

  8. 『モンパチフェス』第5弾発表でエゴ、BRAHMAN、LITTLE TEMPO、山嵐ら追加 8

    『モンパチフェス』第5弾発表でエゴ、BRAHMAN、LITTLE TEMPO、山嵐ら追加

  9. 銀座ソニーパークの粋なコンセプトとは?TOKYO FM森田太に取材 9

    銀座ソニーパークの粋なコンセプトとは?TOKYO FM森田太に取材

  10. 岩田剛典と元カノ・大政絢が再会 『パーフェクトワールド』新場面写真 10

    岩田剛典と元カノ・大政絢が再会 『パーフェクトワールド』新場面写真