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柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

『フィリップス・コレクション展』
テキスト
宮田文久
撮影:高木亜麗 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

美大で絵画に目覚めた柴田が考える、「アート」の本来の役割

そもそも「フィリップス・コレクション」とは、米国ペンシルベニア州の鉄鋼王を祖父にもつダンカン・フィリップスが、画家でもあった妻のマージョリー・アッカーとともに、自宅に増築した美術館に集めた作品群。そこで目指されていたのはなによりも、「くつろいだ雰囲気の中で鑑賞できる場」でした。

ソファーに座ってゆったりと絵画鑑賞する夫婦の姿が写真に残されているように、絵画は2人にとって安らぎを与えてくれるもの。コレクションというと「絢爛豪華」なイメージがありますが、確かな見識と絵画への愛情によって集められた絵画たちからは、まったく異なる印象を受けます。

柴田:絵に対する愛着が、よく伝わってきますよね。ほかの展覧会を見ていると、どうしてもつまらない瞬間や空間が混じってしまっていることもあるんですが、このコレクション展は全部の部屋が面白い! それでいて全体の雰囲気が高貴な感じではなくて、親近感の持てる素敵な空気が流れていて……見ているだけで充実感を覚えて、なんだか元気になってきました(笑)。見る人に元気を与える、芸術の本当の役目を果たしてくれている感じがします。

『フィリップス・コレクション展』冊子に載る、ダンカン・フィリップスの写真
『フィリップス・コレクション展』冊子に載る、ダンカン・フィリップスの写真

笑顔が止まらない柴田さん。そもそも、彼女と美術とは、どんなつながりがあるのでしょうか? 美術大学の映像学科出身である柴田さん。映像学科に入った理由は、「キラキラしたPVとかを作って、映像でひと儲けしたかったという、すごくチャラい理由なんです……」と照れ笑い。しかしその入学後から、美術作品に対して真剣なまなざしを注ぐようになった模様。

柴田:北海道から出てきた田舎者だったので、「全部吸収しよう!」と思って。授業もまじめに受けたし、大学の図書館にも通って、美術史の本をよく読むようになったんです。それでだんだんチャラい気持ちが薄れていきました(笑)。

そう話す柴田さんの前に現れたのは、19世紀フランスで精緻な風景画を描いた、カミーユ・コローの『ローマのファルネーゼ庭園からの眺め』(1826年)。22.4×40.0cmという小さな作品ながら、フィリップスが自然主義と古典主義の申し子として絶賛した世界が、そこに広がっていました。

柴田:コローは特に好きな画家なんです。ミレーやクールベが、同時期の画家として一緒くたにまとめられるようなところがあるかもしれませんが、その人たちと比べて、彼は「野望のありどころ」が違う気がするんです。モチーフも地味に見えるかもしれないけど、「絵を極めたい、もっと極めたい」という気持ちが伝わってきて……この絵は小ささもあって、愛らしさを感じますね。

楽観的じゃないんですよね。周りは「めっちゃいいじゃん!」って褒めてくれていても、自分は「いや、どうだろう」と悩んじゃって、また頑張ろうとする人。そこが愛おしい(笑)。すごく素直に、「ああ、いい絵だなあ」と思わせてくれるのがコローなんです。

『フィリップス・・コレクション展』ポスター
『フィリップス・・コレクション展』ポスター(サイトを見る

憧れのアートは彫刻だった柴田が、ロダン彫刻に触れる

一言で「アーティスト」と言っても、その志向や欲望のあり方は、人それぞれ。理想と現実の間で揺れ動いて、キャンバスや譜面とにらめっこしながら、追い求める表現へ歩みを進める……。それがアーティストの姿の一面なのでしょう。

いつしか、各々の生き方の対話の時間となっていたところに現れたのが、オーギュスト・ロダンの『姉と弟』(1890年)でした。実は彫刻を手掛ける人との間にこそ、「違い」を感じていたと柴田さんは言います。

柴田:美大にいた頃にいちばん羨ましいなと思っていたのが、彫刻科の人たちだったんです。なんせ、みんな元気そうなんですよ(笑)。ツナギを着ている人もいて、体も強そうだし、顔色もよくて、明るくて楽しい人が多かった。

アトリエに行くと、自分の体の何倍もあるような作品と取っ組み合っていることもあって、かっこよかったですね。なんなんでしょうね、素材という「自然」を相手にしていると、おおらかになっていくのかもしれません。

オーギュスト・ロダンの『姉と弟』(1890年)
オーギュスト・ロダンの『姉と弟』(1890年)

さて、ロダンはどうでしょう。40cm弱の小さめな『姉と弟』は、2人の間に漂う、おだやかで親密な関係性を形作っているようです。「展示されているロダン作品では『身体をねじって跪く裸婦』(制作年不詳)にも魅かれたんですが、身体表現がすごく壮絶で……こちらのほうが可愛いかなと思って」と言う柴田さん。

ところが、展示の案内役を務めていた安井裕雄さん(三菱一号館美術館学芸グループ副グループ長)が、姉のポーズに秘められた過激さについて教えてくれました。よく見ると腰からグッとねじれた凄まじい角度になっており、安井さん曰く「ヨガの行者でも難しいかもしれません(笑)」。食い扶持を稼ぐために売るサイズの彫刻作品でありながら、「羊の皮を被った狼のようですね」と安井さんは言います。

安井裕雄さん(三菱一号館美術館学芸グループ副グループ長)
安井裕雄さん(三菱一号館美術館学芸グループ副グループ長)

柴田:全然気づかなかった! 可愛らしい作品にも、隠しきれないロダンらしさがあるんですね(笑)。気づいた瞬間から、ちょっと怖ささえ感じます。これを買ったフィリップスさんは、気づいていたのかなあ……?

会場には高さ1m近いアルベルト・ジャコメッティの『モニュメンタルな頭部』(1960年)を含め、目の当たりにするからこそ質感が伝わってくる彫刻作品も。フィリップスは晩年まで、自らの感性を信じて、熱心に作品を買い続けていました。展示の終盤、柴田さんが「わあ、かっこいい……!」と小さな歓声を上げたのも、そんなフィリップス晩年の購入作品でした。

アルベルト・ジャコメッティ『モニュメンタルな頭部』(1960年)
アルベルト・ジャコメッティ『モニュメンタルな頭部』(1960年)
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イベント情報

『フィリップス・コレクション展』
『フィリップス・コレクション展』

2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
会場:東京都 東京 三菱一号館美術館
時間:10:00~18:00
休館日:月曜
料金:一般1700円 高校・大学生1000円 小・中学生500円

プロフィール

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。大学時代の恩師の一言をきっかけに、2010年より都内を中心に活動を始める。ギターの弾き語りでライブを行う傍ら、岸田繁、山本精一など豪華ミュージシャンを迎えた最新作『愛の休日』まで、4枚のアルバムをリリースしている。2016年に上梓した初の詩集『さばーく』が第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。現在、雑誌『文學界』でコラムを連載しており、文芸誌への寄稿も多数。歌詞だけにとどまらず、独特な言葉の力にも注目を集めている。2018年3月、アナログ・マスタリング / カッティングまで本人が完全監修した4thアルバム『愛の休日』のLPレコードを発売。精力的に展開しているライブでは新曲が次々に発表されており、新たな作品への期待が高まっている中、ライブではキラーチューンの座を確立している『ワンコロメーター』の7inchEPを11月にリリースした。同月、バンド形態「柴田聡子inFIRE」名義でのワンマンライブを開催、満員御礼。

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